その38「ビバビバ!もう一人のレツ」

 スクラッチはランチの真っ最中。レツはチャーシューメンのチャーシューを大事そうに器の一角に集める。ゴウはそれを見て、レツはチャーシューが要らないものと誤解し、食べてしまう。レツは怒ってゴウに突っかかる。対するゴウはレツを「お子ちゃま」呼ばわり。兄弟ゲンカが勃発してしまった。

 臨獣殿では、ロンが理央に血盟を迫る。しかし理央はロンを信用しておらず血盟を断る。悲鳴と絶望をもたらすよう命じた理央に応え、サンヨは双幻士のシユウを派遣した。ロンはシユウの戦いぶりを見せ、理央に幻獣拳の力を認めさせようと目論む。

 シユウが街に現れると、すぐにゲキレンジャーが迎え討った。ところがそこへメレが乱入。幻獣フェニックス拳の強大な力をまざまざと見せ付ける。メレの戦い振りを感心しつつ傍観するシユウは、隙を見てレツに襲い掛かった。「転身反」なるゲンギを放ったシユウだが、レツにはまるでダメージがない。シユウは「貴様の敵は貴様でごじゃる」と言い残して姿を消した。戦いを中断されたメレは、止めを刺すことなく去っていってしまう。

 シャワーを浴びるレツに、シユウの攻撃による影響がないかを尋ねるゴウ。しかしレツは、そんな兄の心配をお節介だと感じ、つい突っかかってしまう。憤慨するレツは、シャワーを浴び終わってシャワールームの鏡を覗き込む。ふと違和感を感じたレツが見たのは、自分と異なる動きをする、鏡の中の自分だった。レツは鏡に触れた途端、鏡の中に引きずり込まれてしまう。鏡の中で、もう一人の自分と対峙するレツ。力は互角だ。レツは隙を突かれ、偽レツが鏡の世界から脱するのを許してしまった。鏡の世界に閉じ込められ、鏡を通じて外の世界の様子を伺うレツは、驚愕の光景を見る。喋ることの出来ない偽レツが、愛嬌を振りまいて周囲に疑念を抱く隙を与えない様子だ。鏡の中にいる本物のレツの期待をよそに、偽レツは周囲を完全に騙してしまった。しかし、ゴウは「下らない」と言い、マスター・ゴリーに借りた本を返しに行くとジャンに告げて出かけて行ってしまった。

 油断してシャワールームの鏡の前に現れた偽レツを、鏡の中に引きずり込むレツ。ところが、偽レツは既に喋れるようになっており、本物のレツの声が失われていく。声を失って戦意を落としたレツは、再び偽レツの脱出を許してしまう。

 シユウがいきなり巨大化して街を襲い始めた。ゴウを除くゲキレンジャーがすぐさま迎撃体制に入る。偽レツが率先して戦いに挑む姿を見て、戦意を高揚させるゲキレンジャー。偽レツは「これからはワイルドに行くぜ」とほくそ笑む。ゲキレンジャーはゲキファイアーとサイダイオーでシユウを一蹴する。ところが、敗色濃い筈のシユウは余裕の構えだ。途端、ゲキファイアーの動きが止まる。ゲキファイアーの内部では、偽レツがジャンとランを襲っていた。偽レツに制御を奪われたゲキファイアーがサイダイオーを襲う。偽レツはシユウの分身の正体を現した。勝ち誇ったシユウの分身は、レツが鏡の中に閉じ込められていること、最初に鏡の中に入った場所に出来た扉が、あと1分で閉じてしまうことを告げる。

 だが、ゴリーの元へ行ったかと思われていたゴウが、その言葉を聴いていた。ゴウは既にシャワールームの鏡の前に立っていた。鏡の中に突入し、シユウの分身と戦うゴウ。一撃でシユウの分身を破り、レツを救い出す。ゴウは兄弟ならではの勘でレツの異変に気付いていたのだ。怒ったシユウはサイダイオーに猛攻を加える。

 そこへ、ゲキバットージャウルフが登場。レツとゴウの兄弟パワーがシユウに炸裂する。戦意を喪失したシユウに、サイダイオーが止めを刺した。

 その夜、レツはゴウのチャーシューを奪し、昼間の逆襲を果たす。ジャンは「俺も兄弟欲しい~」と叫んだ。

 ロンは理央を納得させるため、「切り札」の四幻将、幻獣キメラ拳のスウグを棺より復活させた。スウグの発する気に驚く理央…。

監督・脚本
監督
加藤弘之
脚本
荒川稔久
解説

 幻獣拳登場から、レツ編、ラン編と続き、またもレツ編が登場。しかも、レツ役・高木万平氏の双子の弟である高木心平氏が出演するという、一大イベント編となった。

 当サイトでも当初より予想していたことであるが、高木万平氏に心平氏という双子の弟がおり、しかも心平氏が俳優であり、さらには万平氏と同じ事務所に所属しているとあって、必ず「偽者話」が登場すると踏んでいた。4クールを目前に、それがようやく実現したことになる。

 「幻気があれば何でも出来る」とはサンヨの言であるが(元ネタは勿論、アントニオ猪木氏の「元気があれば何でも出来る」だ。読みが一緒であるが故に成立する絶妙なギャグ)、幻獣拳の登場によって、超常現象と言うべき戦術を展開することとなり、敵の作戦の幅が一気に広がった。しかも、そのことによって、戦隊シリーズの常套句を導入していく試みが明瞭に見られるようになった。即ち、幻獣拳は戦隊シリーズのオーソドックスな側面を強調する連中だということになろうか。酔拳のレツ編では戦闘員の悲哀をコミカルに描き、ラン編では単純に強い敵を迎えて正義側の血縁の絆を確認し、今回のレツ編では偽者話を展開する。これら「常套句」は長い歴史を誇る戦隊シリーズに、全てオリジンを求める事が出来る。

 前回でも触れたことだが、常套句の安定感を利用すると、色々と遊びの要素を散りばめることが出来、エピソードの完成度がグッと上がってくる。今回もその効果は存分に発揮されており、娯楽編として一級の完成度を誇る。

 ストーリーとしては、鏡像を作り出す事の出来る敵が現れ、メンバーの一人がその罠に落ちるというもので、特筆すべき点はない。一つ異色な点を挙げるとすれば、本物のレツが鏡の中に幽閉されてしまうことだろうか。偽者話のパターンとして「どっちがホンモノだ?」と周囲が翻弄されるシーンが描かれるのだが、今回はすり替わっている為に周囲がなかなか気付かないという展開になっている。

 今回の真に凄いところは、レツの偽者(「鏡の中のレツ」とクレジットされているが、微妙に逆の立場になってしまっているところが面白い)を演じた高木心平氏の独壇場になっているところだ。本当は鏡じゃないのに鏡に見せる、ドリフのコントばりのシーンをはじめとした二人の共演シーンは勿論のこと、本物のレツとすり替わった後の偽レツも、よく注意して見ると全て心平氏が演じている。出番は明らかにゲストである心平氏の方が多く、これはレツ(ホンモノ)の主役編でありながら、ゲストがメインのエピソードなのだ! これは「高木兄弟の奇跡」として記憶にとどめておいて良い。大げさだが、このような機会は滅多にないことだ(戦隊シリーズで過去に一度だけ同様の機会に恵まれた。「鏡の中のレツ」を参照のこと)。そして、リアルに血縁関係なゲストを登場させておいて、劇中世界の中の兄弟の絆を描くという、アクロバティックでエスプリな発想にも脱帽だ。

 鏡の中に幽閉されてしまうレツは災難だが、鏡の外の世界は実にコミカルに描かれる。それは実際には幻獣拳側にまで飛び火している。

 まずは、偽レツの愛嬌にまんまと騙されてしまうスクラッチの面々に触れなければならないだろう。喋れない理由を「辛いものを食べた」とジェスチャーで表す偽レツ。そのジェスチャーがあまりにもコミカルなので、ついつい納得させられてしまうという展開は意外に自然。少し影を感じさせる万平氏の風貌に対し、ほんの少しだけ明るい印象を持つ心平氏の風貌(勿論、演出意図を含めてのことだが)が、この効果を上げている。そして、左手を使っていることをあっさり「修行」と言う一言で片付けてしまうシャーフー。調子に乗って左手のみでパソコンを操作する偽レツに、またも周囲は拍手喝采…。本物のレツにとっては悪夢のようなシーンだが、空恐ろしさといったものはまるで感じられず、ひたすらコミカルに描かれる。このぶっ飛んだ感覚は戦隊ならではだろう。

 片や、幻獣拳側も理央を除いてコミカル。理央が血盟を拒否するくだりは実にシリアスだが、その直後よりコミカルドライヴがかかり始める。それは前述のサンヨのセリフ「幻気があれば何でも出来る」を口火とし、シユウがあまり戦う気になっていないこと、メレが血盟を結んでしまった事で理央との差異を作り、それを気にしていること、シユウが去ってしまってメレがそそくさと退散してしまうことまで、コミカルな味付けと共に一気に見せている。それは「強敵に見逃してもらう」というゲキレンジャーの暗黙のルールを自然に見せる効果まで発揮しており、妙に完成度が高い。

 しかもこの一連の流れでは、幻獣フェニックス拳の使い手となったメレが、初めてその実力を見せる場も用意された。メレの人間態がバージョンアップしていないのは些か残念であったが、臨獣カメレオン拳の獣人態に変身した後に、幻獣フェニックス拳へと変化していく様子が描かれ、パワーアップがメレの連続するキャリアの一環として捉えられていることに感心した。フェニックスという、カメレオンとはまるで異なるモチーフとなったメレの活躍は、ド派手な火炎のエフェクトに彩られ、非常に鮮烈なイメージ。炎を自在に操るというビジュアルも、情念の炎といったキーワードに合致していてウマい。カメレオン拳の時代に比べて、技の名前は少々ギャグっぽいが(「火将危願」。「必勝祈願」って一体…)。

 シユウとの巨大戦に至っては、メレの口から「別に、特にありません」という、(沢尻エリカ嬢発の)今期流行のセリフが飛び出す。撮影時期にズレがあるため、少々時期を逸しているのはご愛嬌だが、流行語候補に選出されただけのことはあり、インパクトは絶大だ。このセリフによって、コミカルでシュールな当エピソードは止めを刺されたと言えるだろう。バエが折角声真似までして「幻気ですか~?」と言ってみたりした(石田彰氏による物真似がまた実に可笑しい)にも係らず、霞んでしまった。さすがはメレである。シリアスとコミカルの両面性が鮮やかだ。

 ラストは、理央と因縁のある白虎を思わせる幻獣キメラ拳のスウグが復活。美しい装飾が特徴の幻獣拳使いからは少し外れたグロテスクかつ戦闘的な外観が衝撃をもたらす。ラストの引きもお約束になってきた感もあり、安定した作劇を以って4クールに突入することとなる(正確には、3クールは後1話残っているが)。ラストクールが実に楽しみだ。