その39「ウロウロ!帰らない子供たち」

 なつめが家出をし、ジャンの部屋にやって来た。好物のエッグタルトを美希が全部食べてしまい、怒って出て来たらしい。ジャンの部屋で早々に眠り込んだなつめの額からは、怪しげな角が生え始めた…。

 その頃臨獣殿では、メレの双幻士である幻獣ユニコーン拳のハクと幻獣ピクシー拳のヒソが登場。早速メレは、既に準備をしてきたというハクを引き連れて絶望と悲鳴の収集に出かける。

 明くる日の朝、ジャンはなつめの歯軋りで眠れなかったと言い、さらには学校にも行っていないと言う。歯軋りや不登校など普段のなつめからは想像もつかない美希は不審に思い、なつめを探しに出かける。ジャンもなつめ探しを手伝った。テレビのニュースが伝えるところによれば、額に角を生やした子供達が次々に失踪しているという。美希は臨獣殿の仕業だと睨む。そこに、うつろなまま歩いていく角の生えた子供達が。美希とジャンは子供達の後を追った。

 理央は、スウグの気に何かを感じていた。過去に自分と出会っていないかとスウグに問う理央だが、スウグは何も答えない。ロンによれば、スウグは心を持たない気だけの存在だという。理央はその「気」に尋ねると言い、スウグに襲い掛かった。だが、スウグは理央にも勝る動きを見せる。理央には、かつてこの気の持ち主と戦った記憶があった。

 美希とジャンが子供達を追ってやって来た場所には、メレが待っていた。美希は激獣レオパルド拳でメレを牽制するが、怒って幻獣フェニックス拳の獣人態となったメレの前に劣勢となる。そこにゲキレンジャーが勢ぞろい。その間にジャンと美希はなつめを助けに向かう。

 美希とジャンは子供達を発見するが、なつめをはじめとする子供達は、美希の呼びかけに全く応じない。そこにハクが登場。ハクの振りまいた幻気にいち早く反応した反応した子供達が、「ユニコーン城」に集合していると語りはじめる。ジャンはハクに戦いを挑むが、逆に子供達に襲われてしまう。一方、外でメレと戦うゲキレンジャーも苦戦を強いられていた。

 必死でなつめの目を覚まさせようとする美希は、ふと妙案を思いつく。ポケットからいくつものエッグタルトを取り出し、なつめの前で食べ始める美希。「最後の一個」と言って取り出し、食べ始めた美希を見て、なつめは突如我に返った。驚くハク。角は消滅し、なつめは美希の元へと帰ってきた。それを見た子供達は母親を思い出し、角を自ら消滅させた。ジャンはすかさず反撃を開始し、見事ハクに膝を付かせた。

 怒ったハクはメレの指示を無視して巨大化を果たす。子供達の怯える様子を見て怒りに燃えた美希は、ケンから操獣刀を奪い取ってサイダインを召喚、先にハクを迎撃していたゲキファイアーを跳ね除け、サイダイオーでハクを圧倒する。なつめの応援もあって闘争心高まる美希は、遂にハクを必殺技で切り捨てた。戦いが終わり、談笑する美希となつめを見て、ジャンは微笑む。

 スウグと拳を交え終わった理央は、スウグの気が激獣タイガー拳のダンのものであると確信した。ダンは理央、ゴウ、美希の兄弟子だった男であり、即ちマスター・シャーフーの弟子であった。

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
小林雄次
解説

 幻獣拳登場から続いたバラエティ編は、レツ編、ラン編、レツ・ゴウ編と展開した後、今回驚きの美希編が登場。ジャンを適度に絡ませ、ゲキレンジャー自身の魅力を損なわない配慮も見られる。

 3クール終盤のバラエティ編クライマックスは、いつにも増して、戦隊シリーズのオーソドックスなパターンの導入が顕著であった。一つ、子供が集団で事件に巻き込まれる。二つ、司令官キャラが主人公以上の活躍を見せる。一つ目は、東映ヒーローではお約束とも言うべき黄金律故に説明は不要だろう。二つ目は、ドラマにカンフル剤的に導入される異色エピソードのパターン。つまり、黄金パターンと異色パターンが同居しているのだ。

 戦隊シリーズにおける司令官キャラ大活躍編の祖は、「ジャッカー電撃隊」のビッグワンだが、彼はヒーローの一員なので除外するとして、やはり「バトルフィーバーJ」の倉間鉄山将軍であろう。東千代之介氏という東映チャンバラ映画の大スターをキャストに迎えた鉄山将軍は、東氏の素養である剣劇のテクニックと日本舞踊の流麗さ、そしてベテランならではの威厳で、今もなお戦隊シリーズ最高の司令官として名高いキャラクターだ。その鉄山将軍が、バトルフィーバー隊が必殺技を用いても倒せない敵を一刀両断するという驚愕のエピソード(第37話「電光剣対風車剣」)が存在する。これこそが、司令官大活躍編の祖だろう。この回のインパクトは強く、結局敵幹部との一騎打ち~勝利が描かれるまでにいたる。

 もう一つはずせないのが、「鳥人戦隊ジェットマン」の第43話「長官の体に潜入せよ」である。戦隊では非常に珍しい女性司令官である小田切長官(演:三輝みきこ)が、自分の体内に潜入された腹いせ(ホントに腹いせにしか見えない脚本がお見事)に、巨大ロボを単独で操縦して粉砕してしまうというエピソードだ。「ジェットマン」は戦隊のパターン破りに挑戦したシリーズだったが、このエピソードはそれを顕著に顕すものとして記憶される。

 今回のなつめは、前述の一つ目のパターンの被害者として登場、子役レギュラーが被害者の筆頭となるケースを踏襲する。美希は前述の二つ目のパターンの体現者だが、美希がなつめの実母であるため、両パターンが違和感なくつながりを持っている。さらには、エッグタルトのやり取りにより、ヒーローを介することなく子供を取り戻すという、パロディ精神に溢れた微笑ましいパターン破りも用意されており、これは美希となつめの絶妙な親子関係ならではの、優秀な「オチ」として記憶しておくべきだろう。

 美希の見せ場は後述するとして、なつめの見せ場にも驚く。ハクに操られて拳法を披露するのだ。これが実にさまになっており、登場当初に激しいダンスを披露した身体のキレはこのシーンでも発揮されている。ジャンの部屋に転がり込むしたたかさと、スイーツに目が眩むある種の幼さの同居が、なつめというキャラクターの魅力だが、操られている時の表情も良く、エッグタルトに目を輝かせるシーンとのギャップが大きな効果を生んでいる。

 さて、いよいよ美希の大活躍に目を向けよう。

 まずは、メレとの戦闘シーン。激気を伴った激獣レオパルド拳の披露は、実に初回以来。人間態のメレを押すほどの実力が描かれる。ここでの殺陣はワイアーアクションを伴った非常にスピーディなもので、伊藤かずえ氏と平田裕香氏の優秀なアクション性を感じさせ、満足度は高い。かつて「引退した」と美希本人は言っていたが、それにしても随分と高い実力の持ち主であり、ゴウや理央(そしてスウグの正体であるダン)と共にマスター・シャーフー選りすぐりの弟子であったに違いない。

 そして、美希はいつも何かを食べているという印象があるのだが、事件解決にそれが生かされた。中華まんなどのゲキレンジャー的にベタなものではなく、「エッグタルト」という絶妙なセレクトがニクい。豚の角煮、ケンのメンチカツといい、小道具としての食材には一定のセンスが感じられる。事件解決後に美希が次々とポケットから取り出し、「一体いくつ持ってんのよ?」となつめに問われるシーンがホロリとさせ、いわゆる子供の視点から見た「魔法のポケット」を表現して見せたところが秀逸だ。

 勿論クライマックスの白眉は、美希が操獣刀を振るって戦うシーンだ。これこそが、ジェットマンの小田切長官の正統後継と呼べるシーンである。惜しむらくは、ケンがサイダイオーに同乗していたことだが、美希のあまりの迫力を前に、オロオロする姿がたまらなく可笑しいので、むしろ歓迎すべき事項であったと言えよう。

 美希がサイダインを操るシーンの登場により、激気を操れる実力者であれば、操獣刀によってサイダインを操ることが出来るということが証明された。以前、操獣刀の持ち主として誰が相応しいかという痴話が劇中で繰り広げられたが、その根拠はきちんと存在していたということになる。ただし、「激気研鑽の出来るケンならでは」という要素は非常に弱まってしまった。逆に、マスター・ブルーサと同じ激獣ライノセラス拳の使い手だということで、宿命的な面がクローズアップされたと見ていいだろう。

 3クール終盤のバラエティ編では、初回のレツ編を除いて親兄弟の絆を描くシリーズとなっており、その都度ジャンが羨ましがったり感心したりという趣向が見られた。ここに何らかの意図が感じられるのは言うまでもない。即ち、野生児であるジャンの肉親に関する話が、クライマックスである4クールに登場する可能性が高いということだ。そこで真っ先に「疑われる」のが、幻獣キメラ拳のスウグである。

 幻獣キメラ拳の使い手・スウグには心が無く、気のみの存在とされる。その気の正体は激獣タイガー拳のダンと呼ばれる人物のもので、ダンは理央やゴウの兄弟子だという。理央が負けた唯一の拳士であり、白虎の激気を持つ男だ。バラエティ編といえども臨獣殿側は着々と動いており、4クールの為の準備は万全となっている。

 なお、ダン役には、オールドファン驚愕・狂喜のキャスティングが実現。「バトルフィーバーJ」のバトルケニア、「電子戦隊デンジマン」のデンジブルー、そして「宇宙刑事ギャバン」の主演を務め、今なおアクション俳優としての活躍も続く大ベテラン、大葉健二氏だ。戦隊には「忍風戦隊ハリケンジャー」でシュリケンジャーの人間態の一人(実は正体だという説も根強い)としてゲスト出演して以来となる。大葉氏のキレのあるアクションは回想シーンで既に惜しみなく披露されているが、今後更なる露出が期待できそうだ。また、大葉氏の年齢や激獣タイガー拳使いだということから考えて、ジャンの肉親である可能性も高い。古くからの戦隊あるいはメタルヒーローのファンにとっては、ヘタをすれば豪華な声優陣を擁する拳聖達をも蹴散らしてしまう「人事」であり、4クールに至っても話題作りを欠かさない制作陣に感謝したいところだ。

 メレについても触れておこう。

 四幻将であるメレにも当然双幻士が存在し、今回幻獣ユニコーン拳のハクと幻獣ピクシー拳のヒソが登場した。直属の部下が出来て嬉しそうなメレの表情にまずは注目。ユニコーンとピクシーという、ファンタジーの王道のようなモチーフがメレらしくもあり、またメレらしくなくもあり、興味深い。メレの専売特許である極端な二面性が、今回は特にコミカルに描かれており、後半ハクが暴走するに至って不機嫌になる様子が可笑しい。メレの二面性はシリーズを通して安定しているが、このようにちょっとした場面での効果的な使用には、素直に喝采を送りたいところだ。

 「もっとデキる子だと思ったのに」とはハクに対するメレ評。双幻士は少々捨て駒的な扱いになっているようで、ハクに関してはとうとうリンリンシーレベルにまで印象が堕ちている。4クールの怒涛の展開を鑑みるに、致し方ないところか。

 今回より、エンディングにて「キャラソン七番勝負」が開始。各キャラクターが自分のテーマ曲を披露するというもので、今回の担当はジャンの「進めのススメ」であった。