その45「ピキーン!宿命の対決」

 滝で修行を続けるゴウは、ついに天地転変打を会得。その拳で理央を倒すことを誓う。

 一方、ダンの心を取り戻したスウグは、自分に止めを刺すようジャンに指示する。ジャンは父を倒すという行為に激しく躊躇するが、スウグの涙を見て遂に決心。スウグに止めを刺す。ダンの激気魂はダンの姿を成すという奇跡を見せ、ジャンに進むべき道を示した。ジャンが進むべき道。それは「もう誰も二度とメソメソにさせない為に、理央を倒すこと」だ。

 理央は自分を呼ぶただならぬ気を感じ、臨獣殿より出陣した。理央を待っていたのは、「俺達の友情の為に来たのさ」と言うゴウであった。しかし彼の前にゴウユが出現し、理央との対決を邪魔する。理央に3つ数えるだけ待てばそれで良いと言うゴウは、天地転変打を放ってゴウユを瞬時に倒した。かつてゴウと理央は親友だった。ゴウは理央を倒すことで友情を果たすつもりだと言う。理央はそれを受けて立った。理央に促されたゴウは天地転変打を放って一気に勝負をつけようとするが、一度ゴウユに放ったその技を見ていた理央は、既に天地転変打を見切っており、翻してゴウに大きなダメージを与えた。

 そこへジャンが現れる。ジャンがスウグを倒したと聞くに及び、理央は自分の宿命の相手の完成に喜びを隠さない。理央はダンの予言に示された者がジャンであることを、ジャンが初めて理央の前に現れた時から感じていたという。遂に果たされる宿命の対決に嬉々とし、全力で襲い掛かる理央。ジャンもスーパーゲキレッドとなり、拳がぶつかる度に周囲に衝撃が及ぶ凄まじい戦いが開始された。そして、一進一退の攻防が続いた後、ジャンはダンから血を受け継いだ証としての「ズシズシの拳」を放って理央に炸裂させる。崩れ落ちてジャンにすがりつく理央は「敗北」の二文字を確かに感じ取り、憑き物が落ちたように笑った。

 刹那、爆発の中に消えたかに思えた理央は、苦しみにもがきつつ巨大化を果たす。ジャンは「理央じゃない。ギャワギャワだ!」と言う。理央は敗北によってゲキレッドへの執着から開放され、真の幻獣王「破壊神」となった…ロンはメレにそう説明した。ケンはサイダイオーで理央を止めようとするが、暴走する理央に成すすべもなく敗れる。なおも暴走する理央をみかねたメレが、理央の名を叫ぶと、理央は我に返り元に戻った。ロンは幻獣王が理央に戻ることに驚きを隠せない。

 メレはロンを蹴り飛ばし、理央をその場から連れ去った。ロンは急ぎ後を追う。一体、理央に何が起こったのか? ロンの真の目的とは?

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
横手美智子
解説

 ジャンと理央、宿命の対決に遂に決着がつくクライマックス編。テンションの高さ、画面構成の完成度の高さ、いずれも高水準であり、この後の展開に蛇足感がつきまとわないか心配になるほどの素晴らしさであった。

 冒頭は、ゴウによる伝説のゲキワザ完成が描かれる。ドリル状に高速回転するという荒唐無稽なゲキワザは、ド派手なビジュアル効果が説得力を生み、さらには逆流後の滝を丁寧に描き出すことで爽やかな達成感を感じさせる。その後の凄絶な理央への挑戦とのコントラストが印象的だ。

 その究極のゲキワザは、双幻士であるゴウユを瞬殺する威力を誇った。「三秒殺し」をここまで鮮やかに特撮ヒーロードラマで描いたのは、これが初めてではないだろうか。ただ、ゴウユをここまで生き残らせた理由がこれだったとは、いささか気の毒ではある。双幻士はやはり通常の「怪人」キャラであったということだろう。

 ところで、そのゴウユに一度使っているところを見せたことが、理央に技を見切られる要因になったというところが実にウマい。ゴウにはゴウなりの背負うべきドラマがあり、それはここでは理央と親友だったという過去なのだが、そのドラマの重さと理央をも倒すことが可能な必殺のゲキワザが揃うことで、ジャンのドラマを崩すことのできるパワーが生じてしまう。つまり、ジャンに理央との宿命という要素がなければ、ゴウが理央を倒してしまうことに何ら違和感のない状態になっているということだ(勿論そう単純ではないが、今回のゴウの放つパワーから抱く印象としての話だ)。そこを、理央に見切られたことで技をかわされるという流れに持ち込むことで、ドラマの流れを崩さず、さらにはゴウの空虚な想いまでが描写されている。ここに、ゴウのドラマは一つのクライマックスを見た。濡髪でいつものオールバックと異なる表情を見せたところもポイントの一つに挙げておこう。

 ここで挿入されている過去の理央は、少し高いトーンの声質で演じられており、まだ力に対する欲求に飲み込まれていない頃の純粋な少年としての理央を見ることが出来る。ゴウをあくまで友達としての存在にとどめておくというのは、ここでは決してゴウの実力を見下しているわけではなく、純粋にゴウと争うことを嫌っているかのように見える。美希が二人の間を裂く何かについて思いを巡らせていたが、それは残り少ないエピソードで示されるのかもしれない。

 一方、ジャンは遂にその拳でスウグに止めを刺す。ジャンがスウグを討つ際の決断力の早さは少々性急な感も否めないが、ここまで成長してきたジャンの「心」の完成を物語っているとしても何ら問題は生じないであろう。

 結果として分かったのは、激気魂とはやはり本人の意思が存在となったものであり、ダンの激気魂はロンの強力な幻気の血盟によって、意思を封じられたものだったということだ。それ故に、スウグという「依代」が滅したときに激気魂は開放され、息子・ジャンを思う強大な愛の意思が目に見える「形」となって現れる奇跡をも起こした。激気魂が意思を表すことの証として、これ以上ないシーンである。希望どおり、大葉健二氏の声で、そして姿で示されたジャンの進むべき道。それはオールドファンにとっても「ズシズシ」な素晴らしいシーンとして描かれていた。前回については手厳しいことを書き連ねたが、この場面の為に用意されてきたものだとすれば、30分番組の組み立て方としては難があるものの、概ね高評価を与えて良い。

 そして、最大の見所そしてクライマックスは、勿論ジャンと理央の宿命の対決だ。

 両者とも異様なほどにテンションが高く、特に理央の抑えた演技から弾けた演技への推移が、戦いに対する喜びの高まりを如実に示していて秀逸。そのテンションの高さは、そのまま生身での対決に持ち込まれる。両者とも「変身」するのを忘れたかのようにぶつかっていくといった雰囲気が、素面での対決シーンにこの上ない説得力を与えている。「変身できない」というより「変身すら忘れて」の方が燃えるではないか。この対決シーンは、本人らによって演じられており、両者のアクションポテンシャルの高さを示す名アクションに仕上がっている。ジャン役・鈴木氏のバック転も危険な岩場を舞台に披露され、組み付いた際の表情は本気の対決を思わせるものだった。理央役・荒木氏の流麗かつキレのあるアクションは、ジャンの野生的な動きと対象的かつ調和したもので、拳士としての貫禄すら感じさせるものになっていた。

 スーパーゲキレッドになり、幻気凱装を果たしてからは、拳がぶつかる度に小爆破を起こし、その衝撃が周囲を爆発させるというド派手な演出に転じる。効果音もその都度大袈裟な爆破音が使用され、見る者を興奮させた。これは極めて格闘アニメ的な処理であり、使い方を誤ると失笑モノのシーンに仕上がるか、あるいはパロディ精神に溢れた画面作りと誤解されかねないものになってしまう。しかし、ここではテンションの高さやスローモーションを多用したシーン作りによって、迫力倍加の方向にウマく機能しており、計算されたシーンの心地良さに浸ることができる。

 スーパーゲキレッドの「面割れ」は、戦隊ではかなりお約束なパターン。このシーンが登場すると、今シーズンの戦隊もあと少しだという実感が沸々と沸いて来る。少々パターン破りだったのは、この「面割れ」登場のシチュエーションだ。「面割れ」が登場するのは圧倒的に危機的状況に追い込まれた場合が多いのだが、今回の場合、互角な者の激闘の凄まじさを示すものとして挿入された。ゲキレンジャー的に極めて正しいものであるし、無傷の理央が次の瞬間にダンの拳を受け継いだジャンの一撃によって敗北する鮮烈さが、まさに「アクションで語るドラマ」を成立させているのだ。

 話は、この対決では終わらなかった。

 ロンの企みは理央を破壊神に仕立て上げ、利用することであった。「敗北」の2文字に爽やかな開放感を得る理央(この心情描写は、ゲキレンジャーをこれまで見てきた者にしか分からない見事なもの!)に、力の暴走が襲い掛かるという悲劇。ある程度予想できた展開であったが、その暴走をメレの叫びが制止するところに意外性があった(この瞬間に対する驚きも、ゲキレンジャーを見続けた者こそが味わえるもの!)。メレの一方的とも言える愛が、ここで結実したのだろうか。ロンの思惑をも超えた、ヒールサイドの「愛」が視聴者の思惑をも超えることを期待したい。

 今回で最後となるキャラソン七番勝負。トリを飾るのは理央の「黒き鼓動~揺ぎない想い~」であった。本編の内容ともリンクしており、荒木氏の落ち着きつつも広い音域を有した歌唱によってエンディングを盛り上げた。