その46「ギャワギャワの記憶」

 自著がベストセラーになったゴリーは、大量のバナナを手土産にスクラッチにやって来た。だが、ゴリーを待っていたのは深刻な顔をした面々だった。理央が暴走したのは何故か。シャーフーは背後に得体の知れない大きな力を感じるという。ジャンはふと「ギャワギャワだ」と言って周囲を嗅ぎ始めた。ジャンが見つけたのは、ダンの村からシャーフーが拾ってきた金色の鱗であった。この鱗をジャンは見たことがあるような気がすると言う。

 その頃、理央は自分の中に満ち溢れた力が、「あの時」の怪物と同じものだと呟く。そこに、ロンの命令で理央を連れ戻しに来たというサンヨが出現。だが、更にヒソが登場。メレに従う双幻士としてサンヨを迎撃し、理央とメレを逃がした。

 ゴリーは、ゲキワザ「眠眠拳」によってジャンを催眠状態にし、ジャンが金色の鱗を見た頃の記憶を呼び覚ました。それは、ジャンがまだ幼い時分。金色の巨大な怪物がジャンの住む村を全滅させたという。怪物は金髪の人の姿となった。それはすなわちロンであることを意味していた。母親・ナミとジャン、生き残った二人を手にかけんとするロン。だが、ナミはジャンの強さを信じて倒木と共にジャンを濁流の中に投げ込んで逃がし、ロンの目を欺きつつその命を散らしたのだった。催眠状態から目を覚ましたジャンは、全て思い出したと涙を流す。濁流に飲まれたショックで記憶をなくしていたのだ。ジャンはロンへの怒りを新たにした。シャーフーは、気になることがあると言い、突如とある森の中へ向かった。そこは、シャーフーと理央が出会った場所であった。理央も、少年時代に怪物に襲われていたのだという。

 その森に理央もやって来た。互いの事情を知り、驚く両者。突如、ヒソが笑い始める。ヒソはロンの変身だったのだ。

 ロンは理央の執着を探りに来たのだという。永遠の時を生きて退屈な無間地獄を味わうロンは、何らかの刺激を求めて理央を破壊神とし、この世の全てを破壊しつくすことにした。理央は何千年に一人という選ばれた逸材であり、それにうってつけの素材だったのだ。まず理央の家族を始末し、理央が強くならなければならないと思うに至る動機を作った。しかも、そこに至る遥か昔、マクを巧みに誘導して臨獣拳を創設させたのも、ロンの仕業だったのだ。マクがシャーフー達によって封印されて失敗したことで、理央に白羽の矢を立てたのである。ロンによって強さを求める人形にされてきたことを知った理央は、茫然自失となる。犠牲になった人々の死を「面白かったですよ」の一言で片付けるロンに、ジャンの怒りが爆発、ジャンはロンに飛び掛る。だが、それを阻止したのはヒソだった。ヒソはジャン達を何処かへ連れ去る。ロンは一人残された理央に執着の源を問い質すが…。

 ヒソはメレの双幻士である前に、ロンの忠実な下僕であった。メレはゲキレンジャーにヒソ打倒を託すと、ロンの元へ向かった。ゲキレンジャー対ヒソ、メレ対ロンの激しい闘いが開始された。

 ヒソは技を見切って猛攻に転じたゲキレンジャーによって敢え無く倒される。ヒソが巨大化したのも束の間、全ゲキビーストの大行進の前に敗れ去った。

 一方メレは、ロンの圧倒的な強さの前に苦戦を強いられる。駆けつけたゲキレンジャー共々一撃で吹き飛ばされたメレ。死を覚悟したメレの前に立ちはだかり、ロンの攻撃から庇ったのは、理央であった。理央の執着の源、それはメレだったのだ。

 ロンはメレを臨獣殿に連れ去った。今度こそ破壊神にするという言葉を残し…。

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
荒川稔久
解説

 謎を次々と明らかにしていく、いわば「解決編」の一編。アクション的な見せ場はそれほど多くないが、各キャラクターの「演技合戦」が非常に見ごたえあるものに仕上がっている。謎を解き明かしていく過程を見せるというドラマ運びは、セリフ中心の冗長なものとなる傾向が強いが、今回は高水準でまとまっており、イメージシーンやファンサービス等も含めて、極めて完成度の高いものとなっている。

 ただ、このエピソードは理央とメレのものだ。戦隊シリーズでこういった構成がメインターゲットである幼児に受け入れられるかどうかは、また別であろう。「大きなお友達」には、かなりアピールすることは間違いないのだが。

 思えば、クライマックスに敵側が中心となっていくシリーズというのは意外と多い。かの「仮面ライダーV3」も、見方を変えればライダーマン登場編は敵側に重心がシフトしているし、初期戦隊シリーズの「電子戦隊デンジマン」や「太陽戦隊サンバルカン」が傑作たる評価を与えられているのも、敵側の内紛劇に見ごたえがあったからだ。他に「超電子バイオマン」や「電撃戦隊チェンジマン」、「超獣戦隊ライブマン」、「鳥人戦隊ジェットマン」など、クライマックスにおいて敵側にスポットが当てられるシリーズは多い。究極は東映版の「スパイダーマン」で、最終回は敵の女幹部・アマゾネスの悲壮なドラマ以外の何物でもなかった。

 こうした傾向は、ゲキレンジャーにも当てはまる。まだ最終回を迎えていないが、あえてシリーズ全体を俯瞰すると、ドラマを牽引しているのは主に臨獣殿側であり、理央やメレが主役を張るエピソードに完成度の高いものが多い。ゲキレンジャーは「敵味方両者含めて全員が主役」というポリシーで制作されてきた節が伺える。しかしながら、敵味方が平均的に見せ場を与えられると、どうしてもヒールの方に魅力が生じてしまうのは否めない。クライマックスに魅力的すぎる敵が登場した「魔法戦隊マジレンジャー」のように、味方側にも異常な魅力を持ったキャラクター(例えば「変身する両親」や「曽我町子御大」など)が登場しない限り、こうしたバランスを得るのは難しいのだろう。

 さて、そういったバランス的な問題に対する視線を捨ててみれば、本エピソードは実に明快簡潔な謎解きを提供しつつも、それに翻弄されるキャラクターの表情をよくとらえた演出に見応えを感じられる。ロンの所業を時系列的に整理しつつ、それぞれの見所を列挙してみたい。

 まず、激臨の大乱の真の仕掛人はロンだったというもの。「頑固な」マクを誘導し、臨獣殿を創設させたのだという。ブルーサ・イーの殺害事件にも一枚かんでいたに違いない。以前、マクがロンのことを知っているようなシーンがあったが、知っていて当然だったということだ。ただ、幻獣拳は臨獣拳を礎とする云々の説明に関しては、今回の因果関係で瓦解してしまった。ロンは悠久の時を生きている怪人であり、幻獣拳とは、ロンが臨獣拳士を招き入れた時点で創出されたのかも知れない。この事実が明かされるシーンでは、シャーフー役・永井一郎氏の名演により、無念極まりない言い回しが光る。敵味方に分かれたとは言え、やはり友であったということなのだろう。

 時代は下り、次に目を付けられたのは理央。「何千年に一人の逸材」である理央は、少年時代にロンの手で家族を失い、天涯孤独の身となった。何しろ第一話から繰り返し登場するシーンである。ここまで引っ張ったなりの効果はあった。私などは不覚にも直前まで、この出来事を単なる事故、あるいは理央自らの過失などと予想していた為(当サイトの運営者として実に読みが浅いのはご容赦のほどを)、ロンの関わりが具体的に描写された時点で妙に納得してしまったのだ。このことを聞き出す際の、理央とジャンのセリフバトル(「待てっ!」「何だよっ!」)が凄い。理央がジャンの質問を制止、ジャンは唐突なそれに声を荒げるというものだが、こういう細かいシーンにこそ、演出や演技のパワー充実度を見ることができると言えよう。

 理央がシャーフーに拾われ、激獣拳を学ぶようになってからも、ロンの工作は続く。理央が他の者と絆を結んでしまっては、破壊神たる「孤独」が達成されない。故に、ロンは巧みに人間関係に亀裂を生じさせた。理央に度々悪夢を見せ、強さのみを求める「人形」に変えていくことで、周囲の者との軋轢を生んだのである。ゴウはその為に獣獣全身変を使って狼の姿のまま戻れなくなり(これは、理央に近寄らせない為のロンの工作である可能性が高い。ゴウ登場当初、度々「呪煙土」によってゴウを狼男に変えていたのを思い出していただきたい)。また、ダンに関しては事前に闇討ちし、理央に理不尽な勝利を味わわせることで臨獣拳士への確実な道を敷いた。ロンがこの事実を告げた際の理央の表情に注目。涙をためた表情(!)には、自分の人生が操り人形のような存在に等しいと判明した際の虚無感、悲壮感が見事に出ており、このシーンを以って今回のテンションは最高潮を迎える。気遣うメレの呼びかけにも注目しておきたい。

 そして、ダンが死した後、仕上げとしてロンが行ったのは、ダンの村を滅ぼすことであった。ダンにまつわる全てを消しておくことで、ダンの周囲から生まれる障害の芽を事前に摘んでおくのが目的だ。ここでは、ちびジャンを演じた深澤嵐氏が再登場。キャラクター性を大事にする姿勢が実に嬉しい。ジャンを守るため、母・ナミは逃げる手段を確保した上でジャンを濁流に突き落とす。ロンには、母自ら息子を殺めたと思わせるあたりが見事で、更にはこの時の記憶がない年齢的な矛盾を、濁流に飲まれたことによる記憶喪失と説明することで解決している。私が以前強引な論で事件の記憶がないことの説明を試みたが、理由は案外単純だったわけだ。この事実が判明するのはロンの口からではなく、ゴリーによる「眠眠拳」が探り出したジャンの深層記憶からである。今回のゴリーはこれまでと多少キャラクターの味が変わっており、いわゆる「ルー語」を織り交ぜて喋る、ギャグセンスに乏しいインテリゲンチァといったものになっている。久々のビーストアーツ・アカデミーでは、この傾向が遺憾なく発揮され、流暢な早口言葉(?)まで披露。ユーモラスな拳聖たちの姿は、このような殺伐としたエピソードに一種の息抜きを提供してくれる。

 そして現在、ロンは臨獣殿に少しずつ関わりつつ、理央を破壊神へと祭り上げて行ったのだ。

 だが、ロンの本当の誤算は、意外なところにあった。それは、メレの存在だ。ここでは、視聴者すら欺く周到な仕掛けを是非感じておきたい。

 理央はメレをリンリンシーとして蘇らせたが、それはあくまで「片腕」を欲してのこと。メレの一方的な愛を理央はさらりと受け流し、メレを利用できる折には利用し、一方でメレの強さに嫉妬を覚えたりもする。理央はメレを重要な存在と認めつつも、愛してはいない。それがこれまでの印象だった。前回、破壊神となった理央の暴走をメレの呼び掛けがとどめたあたりから、その説が揺らいできた。今回、身を挺してメレを庇ったことで、理央がメレを「失いたくない存在」と認めていることが判明。ロンが(野暮な)ダメ押しによって、それを視聴者に示した。ここで、物語は一気に理央とメレに引き寄せられる。ヒソはあっという間にゲキレンジャーによって倒されるが、メレのバトルシーンはかなりの尺を割いている。しかも、平田裕香氏の体当たり(まさに体当たり)のやられっぷりを堪能できるという素晴らしい趣向で、だ。

 演技が秀逸だったのは、ロンも同様だ。悠久の愉快犯。壮大な時間軸の中で、嬉々としつつ工作していくロン、そして嬉しそうに自らの所業を語るロンの表情は、無邪気な中にも満ち溢れる邪悪さを現出させた見事なものだった。「巨大な怪物」と化した姿はシルエットでのみ現されているが、それが最終バトルにて登場することを期待しつつ、最終章を堪能したい。