第3話「双頭の火炎獣」

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 健太にスポットを当てた話。

 ストーリー自体は、美鈴を意識しつつも一歩引いたポジションに居る健太の、微妙な心の動きを追ったもので、その心理の脆さに関する描写が今回の狙いを良く現していました。

 しかしながら、完成作品自体はあまり良い出来とは言えなかったのでは...。

 まず、健太が美鈴を意識しているという描写ですが、これは様々なカットを積み上げる事で印象付ける手法が採用され、一方でヒカルと美鈴の無頓着な様子が軽く浮かび上がるという、計算された面白い演出が光りました。これが後に、警告するヒカルと美鈴に対する、健太の反抗心という構図を自然に生み出し、単にユウカなる先輩の虜になったという安直さがない分、健太の言動に深みがあったと思います。

 実際、今回の健太に関する動きは総じて良い印象があります。

 美鈴を意識するあまり、カメラマンの夢をとっくに諦めたと強がってみたり、逆にカメラマンの夢を諦められないが故にユウカの誘いに躊躇無くのぼせてしまったりと、心情描写が巧い。面白いのは、健太の心情というか情念といったものが「テンション」という言葉を用いて表現されている事で、彼の写真に対する情熱は「熱した冷めた」ではなく、あくまで「ノるかノらないか」という尺度である事。これは、ユウカの持つ「炎」の属性と対比されているようで、土壇場で健太がユウカのダークサイドに同調しなかった事の根拠の一つとなっているように見えます。

 一方で、ユウカの描写が抽象的で、エピローグで泣き崩れるシーンにしかアイデンティティが現れず、非常に分かり難いキャラクターになっている為、健太がスベっているように見えてしまうのも否めない処。

 実は、今回の「良くない部分」の殆どは、このユウカの存在に関わります。

 レギュラー陣以外の人物が現れるという事は、それがダークライブする者であるという事になりますが、前二話の該当者と比べるとその異質さが唐突な印象。しかも、事前に健太を観察するバルキー星人のシーンが存在する為、健太にダークダミースパークが与えられるのかという誘導が表出してしまい、余計にキャラクターのポジションが混乱しています。よく観ると、ユウカの正体を「分からせる」為の色々なカットが織り交ぜられてはいるのですが、途中まではユウカがバルキー星人の変身で、健太がキングパンドンになってしまう展開かと勘違いしそうになる感もあり、今ひとつ整理されてない雰囲気です。

 ユウカの異質さは、彼女の心の闇が前二話の単純化された「悪」とはかなりベクトルを異にする事から来ているわけですが、今回は、タロウの顔を赤くするギャグシーンまでユウカの正体を判然とさせない意図があり、バルキー星人にダークダミースパークを与えられる「理由」が全く見えてこないのです。勿論、ラストでの号泣や、戦闘シーンでの(長くて辟易する)やり取りから、彼女の「夢破れ」や「放火魔」という側面は見えてくるものの、殆どがセリフで説明されてしまうので(しかも適切でないシーンで...)、ドラマの流れはスムーズでない上にテンションも下げられるという、悪い効果のダブルパンチに見舞われてしまったようです。

 高校生という、まだ夢の実現性を疑わない年頃と、既に夢破れて自暴自棄になる体験を経た年頃とのギャップというテーマは、不足なく描かれているとは思います。しかし、ユウカの狂気を表現する為のアバンギャルドなカット(これ自体は良い感じ)と、ギャグシーンとがあまりにも交差し過ぎていて、ドラマのテンションが乱高下し流れの理解を妨げている節があるのです。ユウカの狂気に取り憑かれる前にあったであろう元々の心情に関しては、私のような年代にとってはグッと響いてくるものがあり、ヒカルよりも共感してしまう部分があるのは否めないので、見終わった後にやるせなさとして残る余韻も素直に良いと感じるのですが、正直「ウルトラマンギンガ」全体の狙いとして正しかったかどうかは疑問です。

 そして、今回最も眉をひそめたのは、白眉でなければならない筈のクライマックス。

 ケムール人へのライドは、素早さを求めたという事なのでしょうが、ヒカルの身体能力自体も高そうなので、印象は今ひとつ。「誘拐液」が引火性というのは面白いギャグでしたが、その「誘拐液」自体の使い処がタイミング、絵的な分かり易さ共々微妙。この「放火」シーンについては、色々と言いたい事は山程ありますが、最後の最後、キングパンドンにライドした時、学校の建造物はどうなったのかを、ボカすどころか完全に「無視」しているのが実にいただけない。光の粒子になって別の場所で実体化するとかならば分かるのですが...。しかも、ユウカは「放火」という破壊衝動の具現者なのだから、学校を破壊する勢いを持っていてこそ納得出来るキャラクターなのに、そこがまるでスルーされています。ヒカルがその破壊を阻止する為に、身体を張って学校から連れ出すとか、そういった「肉薄」が非常に気迫です。

 「肉薄」の希薄さは、巨大戦に突入してからもずっと続きます。

 ケムール人はいつ巨大化したのか不明瞭で、スケール感の切替が物凄く下手だし、キングパンドンは長ったらしい「炎をバックにした咆哮」が続き、イメージシーンなのか現実描写なのか全く分からない。しかも、炎バックの後は例のグレーのホリゾント(これ、ホントに何とかして欲しい...)で素っ気ないので、もはや何を描いているのかも分からないと来ています。スタジオの制約で火器を使えないのか、キングパンドンが火を吐くシーンは合成で、その後に炎が合成されていない画で弾着とか、前後のカットの繋がりも希薄。挙げ句の果てに、怪獣、怪人の姿で互いの「夢」に関する論議を始めてしまうので、アイタタタ...となってしまいました。

 あと、ミニチュアの精度や、見上げるアングルは相変わらずとても良いのですが、俯瞰ショットになるとスタジオの境界が思いっきり露呈していて、ちょっと首を傾げたくなるような画に。何故、今回はあのような俯瞰ショットを入れてきたのか、疑問です。

 ギンガへの変身のきっかけが、健太の夢を踏みにじる者に対する怒りだったのは、「美鈴を守る」という前回までのきっかけとは差別化されていて良かったと思います。ただ、やはり前述の「議論」が間延びしまくっていたので、スムーズに繋がってこないのは残念でした。ギンガ変身後は、色々なアクションを期待したものの、結構あっさり。更に、新しい必殺技は剣なのに切断に結びつかない、地割れの「特撮」はなかなかの完成度だったものの、カットの繋ぎがギクシャクしていて何が起こっているのかよく分からない等、前回の手際の良さはどこへ行ったのかという感じでした。うーむ...。

 逆に最後、友也のタロウ誘拐、衛星軌道上のジャンキラーという衝撃は、ドラマパート、特撮パート共に及第点以上の出来。こうした合成を前提としたシーン作りは巧いのですが、どうも「特撮」がねぇ...。今、制作サイドが抱えている問題を如実に見せつけられた気がします。若年のキャストを使いつつもドラマパートは無難にまとめてきているので、もっと「特撮」が有機的に完成度に貢献するようになれば...と期待します。