第48話「宿命の対決」

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 素晴らしい!

 手放しで評価したい名編でした。やっぱり、戦隊という群像劇における「1対1の対決」は特別な雰囲気があって、大いに盛り上がれますね。


 評価すべき点は色々有り過ぎて、枚挙に暇がないのですが、とにかく「王道」を大切にしていた処が賞賛に値するのではないでしょうか。それは、怪我を押して出てくるマーベラスであったり、一進一退...もっと言えば同じ動きで拮抗したり、決まり手が周囲から目視出来なかったり、両者倒れた後、ライバルの方が先に立ち上がったり。


 こうした「対決の美意識」とも言うべき画面作りは、東映が良質なチャンバラ映画を沢山制作する過程で確立してきたものであり、他の追随を許さない「お家芸」であると断言出来ます。まぁ、あらゆる人材が流出と流入を繰り返してきた映像制作各社ですから、現在に至っては、何も東映だけの専売特許というわけではないのですが、戦隊黎明期は、明らかに「東映のカラー」を反映しており、それを継承してきたスーパー戦隊シリーズが、その色濃い影響下にある事は確かでしょう。


 やはり、言葉を尽くしても今回の素晴らしさを語れないのですが、私なりに気付いた点をまとめてみようと思います。


 今回は、豪快チェンジや大いなる力への言及こそあったものの、徹頭徹尾「ゴーカイジャー」の物語として成立していました。豪快チェンジは、バスコのレンジャーキー利用方法も含めて、盛り上げていく「道具」として使用されていましたし、大いなる力は、あくまでスーパー戦隊が云々といった要素よりも、宇宙最大のお宝にたどり着く為の通過点として言及されているわけです。

 なお、チェンジしたのはマーベラスを除く五人で、ジョーがデンジレッド、ルカがギンガレッド、ハカセがゴセイレッド、アイムがマジレッド、鎧がデカレッドに。それぞれ、得意技や特徴的なアクションを披露しており、存在感をアピールしていました。

 もう少し掘り下げると、今回の豪快チェンジは、前述のとおりオールレッドとなっており、マーベラス不在というシチュエーションに乗って、盛り上げまくる為の粋な演出になっています。また、バスコがゴーカイジャーのキーを使ってナビィを追い詰めるという底意地の悪さ。それは、バスコを悪役の極致に堕とす為に必要な要素であったのは勿論、この流れによって、スーツのゴーカイジャー対素面のゴーカイジャーという、ドリームマッチが実現。さらに、それがガレオン奪回の端緒へと繋がっていくカタルシス。様々な面で、設定面を使い倒していく姿勢が見事です。

 この時の素面アクションはかなり充実していて、更に安定感まで感じさせていましたね。さすがに成長のあとが如実に伺えます。

 更には、バスコの言によれば、「ナビィは永久機関で動いていて、宇宙最大のお宝を得る為の重要な存在」という事が判明。どういう秘密が隠されているのかは、次回以降への持ち越しとなるようですが、なかなか面白い仕掛けだと思います。

 もう一つ、大いなる力に関してですが、ここではあくまで「海賊が集めた宝」として認識されており(そもそも、そう認識していないのは鎧だけかも知れませんが)、更には、それを通じて辿り着くであろう「宇宙最大のお宝」自体の存在をバスコによって危うくされかかるのです。

 というのも、アカレッドは元々地球人であり、「宇宙最大のお宝」を餌に、マーベラスとバスコに大いなる力を集めさせ、集めた大いなる力を地球人に与える事で地球を守ろうとした...というのが、バスコの弁。これは、マーベラスの戦意喪失を狙ったバスコの狡猾な言という意味を含んでいる為、アカレッドの名誉を貶めるとまでは行かないのではありますが、それなりに衝撃的です。

 しかし、例えそれが真実であろうとも、「宇宙最大のお宝」はマーベラス自身の夢であり、アカレッドを敵に回してでも手にするつもりであるとマーベラスが表明した事により、アカレッドその人が、マーベラスの夢を阻む要素には成り得ないとされました。つまり、マーベラスはアカレッドを多かれ少なかれ尊敬する人物と位置付けていたものの、ある時点で自分を「赤き海賊団の生き残り」ではなく、「(現編成の)海賊戦隊ゴーカイジャーのキャプテン」という立場に昇華させたという言明になっているわけです。

 これにより、マーベラスはアカレッドの呪縛から遂に逃れたとも言え、バスコをアカレッドの仇として見るのではなく、夢を掴む為に倒さなければならない敵として見る事となり、両者の対決がアカレッドの眼下で繰り広げられる事を脱却出来たのではないでしょうか。この段取りの素晴らしさが、今回の対決をより盛り上げた事は間違いないでしょう。

 このように、大いなる力は、マーベラスの到達したポジションを明確化する為のキーワードとして使用されました。

 さて、マーベラスとバスコの対決のあまりの迫力により、他のメンバーがやや霞んでいますが、実際にはそんな事はなく(ザンギャックは完全除外・笑)、皆、マーベラスの為に力を尽くし、そして強大なバスコの前に敗れるのです。だからと言って、各メンバーがマーベラスより弱いというわけではなく、バスコの出方(あるいは性格)を熟知しているか否かで、勝敗のラインが決するという雰囲気が見事。要するに、ジョー達はあくまでも正攻法でしたが、マーベラスは「肉を切らせて骨を断つ」という、バスコの裏をかく戦法を展開したわけです。それに、今回は回想シーンが度々挿入されましたが、それはセンチメンタルな感情を喚起するのではなく、バスコの「人となり」を冷静に分析するかのごとくクールなものであり、その事が、前述の雰囲気の根拠となっています。

 また、バスコ自体が結果的に弱体化しなかったのも素晴らしい点で、あくまでも戦力的にマーベラスより上に居て、マーベラスの勝利は、前述の「肉を切らせて骨を断つ」=「自身も多大なダメージを負った上での戦法」と、「サリーとの束の間の絆」によるものであるという「解答」でした。

 特に、サリーとの束の間の絆については、完全にお涙頂戴な展開でありつつも、ここではジャストフィットで全く厭味もないし、むしろ殺伐とした戦いの合間に挿入された、ある種の清涼剤のような効果すらも。爆弾を体内にしまう事で、マーベラスのダメージを軽減する回想シーンは、マーベラスが何故あの爆発から生き残ったかという事を的確に説明すると共に、サリーも信頼出来る人物が見つかったのだという、何とも感動的なものになっていました。

 心を通わせた者の形見が胸にあり、それが銃弾を防ぐというシチュエーション自体は、それこそ何度も何度も使用されてきた定番中の定番ですが、定番だからこそ、使いようによっては素晴らしいシーンに仕上がるという見本でしたね。このシチュエーション、「ああ、やっぱり」と思うより先に、「そうあって欲しい」と思わせる事が重要だと思います。今回は見事にそれを達成していたのではないでしょうか。

 状況を単純化すると、サリーに与えた爆弾が、翻ってバスコに牙を剥くという展開であったわけですが、それを知った時のバスコの反応があまりにも素晴らしいんですよね。「ああ、自分は他人との関わり方を誤っていたのか」とでも言いたげな、諦念と悟りに満ちた穏やかな笑み。緑色の血液が禍々しさを湛えつつも、そこにあったのは、一人の人間としてのバスコでした。

 そして、果てる際に人間態であった事が、重要な示唆を与えてくれます。それは、作劇上、細貝さんの演技力に頼るといった面もあったかも知れませんが、それ以上に、「バスコが人間態で果てた」という事実が重要です。つまり、バスコのあの赤い怪人態は、バスコが「変身したもの」であり、あれは「正体」ではなく、何らかの能力による「変身」だという事。となると、赤き海賊団で楽しくやっていた当初は、バスコも人間的だったのではないかという推測も成立するのです。マーベラスとの回想シーンで頻繁に登場する、本当に楽しそうな二人のやり取りは、バスコの「芝居」ではなく、自然な姿だったのではないか...とも思えるわけで、生粋の悪役として散ったバスコの内面にある、少しばかりの悲劇性が露見した瞬間、二人の対決は清々しい結末にはならず、やや寂寥感を伴った重厚な雰囲気となりました。

 なお、定番と言えば、話は前後しますが、マーベラスとバスコの相打ちと、バスコが先に動き始めるというシチュエーションも定番中の定番でしたね。これに関しても、「ああ、やっぱり」と思うより先に、「そうあって欲しい」と思わせる事が出来ていました。色々な面で、この二人の対決は戦隊史上に残る名シーンとなり得ました。

 ちなみに、スーパー戦隊シリーズにおける他の「対決」を独断と偏見で挙げてみると、最近では「シンケンジャー」の丈瑠VS十臓、中期では「ダイレンジャー」の亮VSジン、初期では「チェンジマン」のチェンジドラゴンVSブーバの夕陽の対決、黎明期では「バトルフィーバー」の鉄山将軍VSヘッダー指揮官。最後の鉄山VSヘッダーは、敵味方の幹部同士が(ヒーローを差し置いて!)雌雄を決するべく対決を繰り広げるという、空前絶後の魅力があります。鉄山は東千代之介さん、ヘッダーは石橋雅史さんであり、東千代之介さんは東映時代劇映画の大スター、石橋雅史さんは東映空手映画の大御所(しかも本当に空手の達人!)。この「二人」の対決を描きたいと制作陣が欲したのも当然でしょう。

 そんなわけで、手放しで褒めまくったわけですが、それほど充実していました。しかし、哀しいかな年季の入った戦隊ファンは、レジェンド大挙出演の次回予告にノックアウトされてしまったわけで...(笑)。明らかに短い尺の出演だという事が分かるのですが、楽しみで仕方なくなってしまう哀しいサガ。はい。次回、大いに楽しみです!