GP-48「正義カイサン」

 軍平と範人を失い、呆然とするゴーオンジャーに、ヨゴシマクリタインは更なる攻撃を加える。走輔は怒りにまかせて突進しようとするが、大翔と美羽がそれを止める。ヨゴシマクリタインは「腹が減った」と退却して行った。

 ヘルガイユ宮殿に戻ってきたヨゴシマクリタインを賛美するケガレシアとキタネイダス。「ヨゴシュタインも草葉の陰で喜んでいる」という2人に、ヨゴシマクリタインはその名を聞きたくもないと吐き捨てる。ヨゴシマクリタインの恐怖体制に屈した2人は「最強の蛮機獣」を作り始めた。

 連とボンパーは範人と軍平の行方を調査するも、反応をとらえることも、別次元へ飛ばされた形跡をとらえることもできなかった。荒れた心で連をなじる走輔に、大翔は冷静になれと言うが、走輔は怒りにまかせて暴れまわる。大翔と美羽はギンジロー号をひとまず出て、今は自分達に出来るやり方で走輔達を支えなければならないと考えるのだった。

 大翔と美羽が家に戻ってくると、何故か引っ越し作業が着々と進んでいた。須塔家の執事によれば、大翔と美羽の父が、すぐにでもスイスに来て仕事を手伝えと言っているらしい。2人の母は美羽が戦いに明け暮れていることに胸を痛めているという。いずれは須塔財閥の総帥となるべき立場にある大翔と美羽。すぐにでも現在の危険な状況から脱却して欲しいとの要請なのだ。だが、大翔と美羽は「ここには支えを必要としている者が居る。それが出来るのは俺たちだけなんだ」と言って固辞した。2人はガイアークの気配を感じて出て行く。

 一方で、荒れに荒れる走輔、完全に諦めムードの連、軍平と範人の消滅に心を痛めている早輝...。

 街ではケッテイバンキが暴れていた。迎え撃つ大翔と美羽だが、ケッテイバンキの繰り出す歴代蛮機獣の技に翻弄される。走輔達も合流。走輔は怒りに燃えたままケッテイバンキに立ち向かう。連と早輝は戦いに恐怖を感じ、ゴーオンジャーのチームワークは完全に失われてしまっていた。一方、ケガレシアとキタネイダスは戦果を報告するものの、ヨゴシマクリタインはその程度で喜ぶなと釘を刺す。ケガレシアとキタネイダスは、徐々にヨゴシマクリタインへの恐れを増大させていく。2人は何とか手柄を上げるためにケッテイバンキを巨大化させた。

 連と早輝、美羽は走輔と大翔からはぐれていた。美羽は連と早輝を戦いへと誘おうとするが、連と早輝は完全に恐怖にとり憑かれており、戦える状態ではない。美羽は早輝に「スマイル、スマイル」と呼びかけて励ます。早輝のスマイルに何度も勇気をもらい、連の卵料理を世界一だと感じるようになったという美羽。彼女はゴーオンジャーを世界一頼もしい仲間だと思っていると告げるのだった。

 一方、走輔と大翔は同じ場所に居た。走輔は「軍平や範人がいなくなっても平気な顔をしている」と大翔を非難するが、大翔は、努めて平静を装っているのだ。走輔に「馬鹿野郎」と答えると、大翔は、自分たちにしかできないと考えていた「世界を守る」という行為を、目前で為していた走輔に驚き、いつしか走輔達を共に戦う仲間だと確信するようになったと告げるのだった。

 戦意を取り戻したゴーオンジャー3人と、大翔と美羽のゴーオンウイングスは共にケッテイバンキ打倒の為に立ちあがり、キョウレツオー、エンジンオー、セイクウオーを完成させ、ケッテイバンキを迎え撃つ。キョウレツオーとエンジンオーがケッテイバンキの攻撃に翻弄されている間、セイクウオーは天空よりケッテイバンキを奇襲。勝機をものにしたキョウレツオー、エンジンオー、セイクウオーは必殺技を連続で繰り出し、ケッテイバンキに勝利した。

 ところが、勝利の喜びに浸る間もなく、ヨゴシマクリタインの出現によって事態は暗転する。飛びかかった走輔は簡単に振りはらわれ、走輔の目の前でキシャモス、ティライン、ケラインが正義解散の餌食となる。そして、次のターゲットはエンジンオー。だが、エンジンオーに正義解散が放たれた時、セイクウオーが楯となった! 消滅していくトリプター、ジェットラス、ジャン・ボエール。ヨゴシマクリタインは「腹が減った」と言って帰っていく。大翔は消えゆく中、ボンパーに消滅現象のデータを収集するよう指示。大翔と美羽が自ら犠牲となった理由はこれだったのだ。大翔と美羽は「走輔達ならこの世界を救える」と信じつつ、消滅していった。絶望感に打ちひしがれる走輔、連、早輝。だが3人は、最終決戦への決意を胸中に秘めていた。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
古怒田健志
解説

 大翔と美羽が消滅するという、前回に続く一大危機編。ほぼ予想通り走輔、連、早輝の3人が残って最終決戦へと走る展開になったわけだが、今回は中途参加というゴーオンウイングスの特徴を生かした、重厚なドラマを魅せる。

 ゴーオンウイングスに関して、常につきまとう問題が一つある。それは、ゴーオンウイングスは果たしてゴーオンジャーなのか、それともあくまでゴーオンウイングスという別チームなのかということである。これについては、シリーズ内での統一された扱いが緩かったこともあり、時期によって解釈が随分と異なっている。当初は当然の如く別チーム扱い。ゴーオンジャーよりも経験、技能、精神的にも数段上のチームとして描かれた。物語が進むうち、須塔兄妹が態度を軟化させていくにつれ、別チームであることを強調しなくなり、あるエピソードでは7人まとめてゴーオンジャーと名乗っている。しかし、終盤に向けてまた別チームとしての側面を強調するようになり、7人揃ってゴーオンジャーだったことを「なかったこと」として処理するようになる。この時点では、妙な違和感があったのだが、本エピソードを見るにつけ、「7人揃ってゴーオンジャー」だった1エピソードの方が、本来の流れから逸脱していたという結論に達せざるを得ない。

 要するに、今回の感動はゴーオンウイングスが別チームであるからこそ生まれるものであり、別チームとして消えていく、それも兄妹が寄り添って消滅していくからこそ、趣があるのだ。そしてゴーオンジャーとゴーオンウイングスが包括的な仲間でありつつも別働隊であるという関係は、主に、走輔と大翔、早輝と美羽というペアで確認されることとなる(逆に、連というキャラクターの特殊性も浮き彫りになるのだが)。ここでは、それぞれの関係性にスポットを当ててみたい。

 まず早輝と美羽。この2人の関係は、それこそしつこいくらいに言及してきたが、今回また新たな面を見せたのだから、終盤まで予断を許さなかったということか。しつこいながら振り返ってみると、早輝と美羽は当初、少女と大人の女性といったポジションで描かれた。そのポジションは話数を重ねていくごとに揺らいで行き、逆に早輝の完成されたヒロイン像と美羽の少女性が垣間見られるようになる。終盤では、美羽が早輝の前向きな姿勢に感化されることも散見されるようになり、今回へと繋がってくる。そして今回はと言うと、範人と軍平を失って絶望感に苛まれ、その上ケッテイバンキの前に敗れ去って、遂には戦いを恐れるようになってしまった早輝(実はこのシーンは連の怖気づく様子の方がより鮮烈)に、美羽は「スマイル、スマイル」を説いて元気を与えるのである。これまでの流れからすれば、この期に及んで早輝や連が簡単に諦めてしまうのは少し妙である。ところが、美羽が常に早輝から元気をもらっていたと吐露する頃には、この妙な感触も払拭されてしまう。それは何故か。それはこの時点で早輝と美羽、どちらが精神的に優位に立っているかという議論が無駄になるほど、互いのステージの同一性を感じさせるからである。同じステージに立っているからこそ、片方が落ち込んだ時はもう片方が手を差し伸べられる。そういうことだ。後の走輔と大翔の関係にも現れてくるが、美羽は当初早輝を「上から目線」で見ていた節がある。戦いと共に、早輝が自分とは異なる強さや輝きを持っていることを理解するにつれ、早輝は美羽の立つステージへと駆け上がり、美羽はそこに至る道を塞いでいた壁を取り払った。そして、スーパーヒロインとして同等の強さを身に付けた、「ゴーオンジャー」のダブルヒロインとなったのだ。

 走輔と大翔の関係も、先に挙げた早輝と美羽の関係に近いが、走輔の場合は元々大翔より自分が劣っているという自覚はなく、大翔が一方的に見下していたというのが当初の構図だ。走輔がレッドであることも手伝い、殊更走輔のダメっぷりが強調されなかったことも(勿論、論理的判断力はすこぶるダメだが)、大翔の自信とプライドの高さを否が応にも強調していた。物語が進むにつれ、この2人がどうやって対等のポジションに立ったかと問われれば、答えは1つ。それは、大翔がゴーオンジャー、特に走輔に感化されたということだ。当初の大翔の、頑なでクールでいけ好かないというキャラクターは、演ずる徳山氏の元々の資質もあってか、どんどん崩されていき、遂には「大翔さん」と呼んでいた早輝にまで「大翔」と呼ばれることに。大翔自身がプライドを捨てたわけではないが、少なくともゴーオンジャー達に対する目線は確実に水平になったのだ。そして今回、「範人と軍平を失ったショックは、別チームであるゴーオンウイングスには分からない」といった走輔の主張に対し、大翔が「バカヤロウ」と返すことで、両者の本音が明らかになる。大翔の本音とは、走輔達を実はリスペクトしていたというもの。「世界を守る」という行いを為すのは、自分たちが唯一無二の存在だと思っていたところに、自分たちでは為し得ないやり方でそれをやり遂げていく走輔達が現れ、その驚きは実は計り知れないものだった。反発や共闘を経て、いつしか走輔達と須塔兄妹は一つの目的に向かってひた走る存在だと、大翔は思い始めていたに違いない。ところがショッキングなことに、走輔の本音は、大翔達をあくまで別チームだと見做すというものだった。ことあるごとに「仲間」という言葉を口に出しつつも、走輔の中では、実は大翔に少しばかりの遠慮があったようなのだ。これは実に興味深い事項であった。走輔はその天然振りから、そういった些細なことは一切気にしておらず、大翔とは気の知れた仲間だと無思慮に信じているという印象を持っていたからだ。深読みになってしまうのを覚悟で述べれば、走輔には、大翔に対してある程度の負い目があったことになる。走輔は、近年の太平楽なレッドの中でも、突き抜けて徹底した太平楽としてキャラクター作りがされているが、ここに来ていきなり暗部をさらけ出し、急激に深みを増した。走輔のキャラクター造形を立体的に完成させたこと、それは、走輔達3人で繰り広げられる最終決戦に向けての準備なのかもしれない。なお、走輔と大翔の会話シーンでは、大翔の「合体好き」を美羽から聞いたと走輔が言うくだりがあるのだが、これは以前美羽が勘違いしたギャグである。今回の特殊性はこのくだりで特に現れており、この「合体好き」ギャグが登場してもまるで笑えない。むしろ走輔の虚無感を際立たせている感が強く、隠れた名シーンであると言えよう。

 さて、ガイアーク側にはこれで最後と思わせるに十分な蛮機獣・ケッテイバンキが登場。あらゆる蛮機獣のモチーフが散りばめられた、いわゆる典型的な「合体怪獣」ではあるが、単なる合体怪獣にならない独特の雰囲気がある。それは、正義側が異様なまでにシリアスな雰囲気を湛えていることに起因している。「ゴーオンジャー」というシリーズの感触を崩壊させない為に、ガイアーク側でバランスをとっているのだ。これにより、ケッテイバンキは超強力な蛮機獣として描写されつつも実にユーモラスである。郷里大輔氏のキャラクターボイスが非常にマッチし、悪辣な中にどことなく純朴な雰囲気を漂わせる。歴代蛮機獣の技を使う際に、それぞれの口癖を真似るのも芸が細かい。ケッテイバンキ自体のスタイルも何となく可愛らしくて憎めない。強さ的にも申し分のないところなのだが、当然ながら、最終的に美味しい部分はヨゴシマクリタインに持って行かれてしまった為、印象はやや薄くなってしまった。もっと活躍しても良かったのだが...。

 ケガレシアとキタネイダスは前回以上に惨めに描かれている。ゴーオンジャー相手に失敗続きでも、コメディの担い手としての役回りでありながらも、それなりに堂々とした姿勢を保ち続けていた2人だが、ヨゴシマクリタイン登場後は実に低姿勢で卑屈なキャラクターへと変貌した。前回はアクションシーンが設けられていてそれなりの見せ場はあったが、今回はすぐに逃げ出したりと良いところがない。勿論、それは前述のようにコメディ要素を確保する為のしわ寄せだ。ケガレシアとキタネイダスは完全に割りを食ったのである。ただ、及川氏と真殿氏(そして担当スーツアクター氏)が実に楽しげに演ずる為、それはそれで魅力的なのが面白いところ。この道化振りは、きっとラストへと繋がっていくに違いない。楽しみだ。

 最後に、大翔と美羽の消滅シーンについて言及しておきたい。

 このシーンの前に巨大戦があり、キョウレツオーとエンジンオー、そしてセイクウオーの揃い踏みとなるわけだが、エンジンオーを残して他の炎神達が消えていくという流れがドラマチックだ。徹底的に初期3人と、その相棒を残すということだろう。古代炎神それぞれが悲しげな咆哮を上げつつ消えていく様子は涙を誘う。また、ゴーオンウイングスの炎神達はそれぞれがやや弱気な呟きを残して消滅しており、その無念さが強調されている。

 そして、大翔と美羽である。大翔は消滅する過程において、ボンパーにその現象のデータをとるように指示する。これが最終局面への仕掛けであることは容易に分かるのだが、それだけに大翔の洞察力と行動力が際立ち、異様なまでの迫力あるカッコ良さが描き出される。最後に兄妹で消えていくシーンは実に美しく、 2人の間には恋愛感情ではなく、あくまで兄妹の絆といっものが感じられる秀逸なものとなっている。惜しむらくは、美羽と走輔の関係に一切触れられなかったことで、美羽が一瞬でも走輔に視線を向けるとか、そういった細かい描写があれば、マニアックなファン心理を満たせたかもしれない。しかし、ここは須塔兄妹 2人の美しい散り様を見せる方が、得策であるのは間違いないところなので、これで良かったのだろう。それに、今回走輔とペアで描写されたのは、大翔の方だった。大翔が散り際に向けた言葉は、走輔に対してのものだけではなかった筈だが、画面上では走輔に向けられたものとして映る。それだけに余計にドラマチックだ。

 次回はいよいよ初期3人によるラストバトル。1年を通して成長した彼等の姿を楽しみにしたい。