ブレイブ1「でたァーッ!まっかなキング」

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 始まりました。「獣電戦隊キョウリュウジャー」!

 「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をひっくり返したようなタイトル。

 三作目の恐竜モチーフ。

 スマホのバッテリー消費にあえぐユーザーのトレンドをガッチリキャッチする「獣電」(笑)。

 いやぁ、凄いですね。何が凄いって、揺り戻しが凄い。

 シリーズものには、エキセントリックな作風を持つ作品と、それに対する揺り戻しが散見されますが、今回も正にそれだと感じられます。

 例えば、同じ戦隊であれば「ジェットマン」の後の「ジュウレンジャー」、「タイムレンジャー」の後の「ガオレンジャー」といった作品。ウルトラであれば、SFと怨念を擁した「A」の後の「タロウ」。ガンダムであれば「Z」の後の「ZZ」、「V」の後の「G」。そもそも、「ファーストガンダム」の後の「トライダーG7」なんかも該当します。

 この中でも、「ジェットマン」の後の「ジュウレンジャー」は同じ恐竜モチーフとあって、印象深いものがあります。しかしながら、「ジュウレンジャー」は、分かり易いモチーフや愉快な敵キャラ、RPGの展開を導入した「レベルアップ展開」といった、幼年層にアピール度の高い要素を数々導入しつつも、どこか突き抜けない印象があり、ドロドロとした人間関係を扱った「ジェットマン」の持つ、妙なリアリティをどこかで引きずっていた感がありました。特に初回、突き抜けていたのは曽我町子女王陛下のバンドーラだけで、古代人である主人公達には、その特異な設定にも関わらずトレンディドラマの残り香があったように思われ、初のファンタジー戦隊という事で、まだ試行錯誤の段階だった事が窺えます。「ジュウレンジャー」の天井がスパッと抜けるのは、ブライが味方になった辺りからで、それに伴ってバンドーラの「悲劇的な親子関係」が展開するに従い、一気にその物語に引きずり込まれる事になるのです。

 そして「キョウリュウジャー」です!

 前作「ゴーバスターズ」がリアル志向を全面にフィーチュアしており、そのリアリティ構築への腐心には一定の評価がありましたが、どことなく矮小化された世界観と、冷たさを感じるガジェットやキャラクター群には、メインターゲットである幼児層の反応が今ひとつだったのではないかと思います。だからこそと言うことなのか、今作「キョウリュウジャー」は、正に幼児層の為の企画とも言うべき要素に満ちていますね。

 まず、恐竜というモチーフ。しかも三作目とあって見せ方・聞かせ方の熟練度も大幅アップしており、「ジュウレンジャー」時代とは隔世の感があります。また、「アバレンジャー」のように、人語を話すキャラクターにしなかった辺りも特徴的。勿論、ヒーローと獣電竜の意思疎通は描かれているものの、やはり人語を発さない事で、キャラクターが整理され、話がより分かり易くなります。この辺りは歓迎すべき設定でしょう。「アバレンジャー」は、ドラマがレッド偏重傾向でありながら、あまりのキャラクターの多さ故に散漫な印象を抱いてしまい、私は途中でドロップアウトした経験があります(笑)。

 主題歌は実に明るく愉快で、こちらも分かりやすい。しかも、漢字表記を廃した歌詞テロップが、あまりにも衝撃的でした。主題歌に歌詞テロップが表示されるのは、実に「タイムレンジャー」以来となる筈です。ちなみに、漢字表記を廃した歌詞テロップですが、特撮史上最も衝撃的なのは、「かめんらいだーすーぱーわん」でしょう。今作はそこまで徹底されてなくて、ホッと安堵しました(笑)。

 メンバーが当初よりはっきりと5人構成である事も、オーソドックスで分かり易いです。ただし、カラー構成は、グリーンとブラックが共存する上でイエローがいないという異例のもの。これはなかなか思い切った事をしたのではないかと思います。

 冒頭の、デーボス復活シーンでは、「ゴーグルファイブ」のEDを思わせる世界規模の災厄が描かれ、これらのシーンが稲川素子事務所を使っての風光明媚な近郊ロケ(笑)である事が分かっていても、世界観の拡大には大いに役立っており、久々に広い風呂敷でスケール感の大きいシリーズになる事を予感させてくれました。近作は武家屋敷近郊であったり、天文台の周辺であったり、常に東京上空を飛んでいたり、基地からすぐ近くが常に狙われていたりと、平成ライダーシリーズに匹敵する世界の狭さでしたから、この拡がりの大きさには、単純なワクワク感をかき立てられます。

 ナレーションは「トランスフォーマー・ビーストウォーズ」でティラノサウルス型のメガトロンを演じた縁で(嘘)、千葉繁さんが担当。愉快な口調で講釈師を務めたかと思えば、劇中ガジェットのボイスまで千葉さんの担当とあって、全体的に非常に楽しい雰囲気に彩られています。千葉さんには、「北斗の拳」の予告ナレーションでのテンションがどんどん上がり、あまりに疲れるので一旦リセットしたら、視聴者からクレームが来たという逸話がありますが、この「キョウリュウジャー」では、最初からテンションMAXで、ホント千葉さん大丈夫なんかいな...と逆に心配してしまいました。この千葉さんのハマリ具合を考えると、前作の水木一郎さんの起用は中途半端で、使い処を誤ったなぁ...としみじみ思ってしまうのでした。

 戦隊に欠かせない後見人・トリンは、「デカレンジャー」のドギーを思わせる、渋いベテラン俳優+マスコットキャラの造形で登場。アステカ神話のケツァルを思わせ、昨今「世界の終わり」で盛り上がったマヤ文明辺りの神秘的な感覚が導入されているようです。戦隊の魅力の半分は、この後見人が担っていると言っても過言ではなく、初回で十分に魅力的だったトリンには、今後大いに期待出来そうです。

 敵組織は、全キャラがスーツキャラとなり、顔出しキャラは皆無という構成に。この辺りの処置は、素面悪役が大好きな私はあまり好みではありませんが、スーツキャラには感情移入を拒む処があり、「勧善懲悪」を体現しやすいメリットがある事は確かで、ここにも分かり易い作風への回帰が見られます。

 キョウリュウジャー揃い踏みでは、本格的な名乗りポーズが復活。前作は言わずもがな、前々作の「ゴーカイジャー」でも、かなり簡略化されたものだったので、充実した名乗りポーズには素直に拍手を送りたい処です。

 アクションは、それぞれが得意とするアクションを前面に押し出す、まるで「ゴレンジャー」の頃を思わせる、コミカルかつダイナミック、かつ格好良いものを展開。前作ほど洗練されすぎず、それでいて実戦的でも舞踏的でもあるアクションは、戦隊アクションの真骨頂を思わせるものでした。

 一方で、前作「ゴーバスターズ」の経験値を活かした作りも散見されます。

 一つは、主人公サイドのネーミング。5人並ばせると、セカンドネームが「き・ヨ・う・り・ゆう」、ファーストネームが「ダ・イ・ノ・ソ・ア」となり、戦隊ならではのネーミングである事が窺えますが、実はファーストネームは全てカタカナ表記になっており、これは「ゴーバスターズ」と同じなのです。

 二つ目は、オープンセットによる巨大戦の描写。巨大戦の変革を上段に構えていた「ゴーバスターズ」では、オープンセットの多用でリアリティに溢れた画面作りを披露し、特撮ファンを満足させてくれましたが、本作でも縦横無尽にその経験値を活かしています。特に、限られたスペースを活かす為に適宜セットを組み替えてカット割りによって繋いでいく手法には、感嘆しっぱなしといった処。充分な舞台の広さを感じさせてくれるばかりか、ガブティラの躍動感、生命感をも感じさせる「名演」だったと思います。

 三つ目は、変身シーン。「ゴーバスターズ」では、変身バンクを極力使用しない、インタラクティヴな変身シーンを構築して戦隊の伝統から一歩抜け出しましたが、本作でもそれを踏襲。エフェクトはより派手でファンタスティックなものになりましたが、実際の本編シーンに対してCG合成が施されており、実在感のある変身シーンを構築していました。逆に、変身時のサンバのステップが、浮き世離れしていて愉快な効果を上げており、愉快さと実在感の良いコントラストが盛り上がりを演出しています。

 四つ目は、ダイゴとガブティラの勝負に関する一連のシーン。一定の時間の経過が語られる処もリアルな感覚であるし、巨大なキャラクターと生身のキャラクターがシームレスに絡むシーン作りの素晴らしさは、前作の挑戦的な画面作りの延長線上にあると言っても過言ではありません。

 五つ目は、ダイゴの素面アクション。いきなり生身で華麗な大立ち回りを繰り広げるダイゴのアクションは、訓練を積んだ戦闘のプロを描写した前作を踏襲した難易度の高いもの。今シーズンもキャスト陣への要求度はかなり高いものと思われます。

 また、六つ目とまでは行きませんが、ラストでの、「素顔を明かさずにおこう」という、衝撃的な幕引きは、「ゴーバスターズ」での「人間の描き方」を踏襲しているようにも見えました。浮き世離れしたファンタジー戦隊において、このような「プライバシーへの立ち入り拒否」といったクールな感覚は珍しく、ヒーロー達もあくまで市井の人間であるという、少々ハイブロウな感覚が斬新でしたね。勿論、この状況がずっと続くわけもないので、これから先、どのようにクールな面を見せてくれるかは分かりませんが...。

 というわけで、気付けばストーリーに関しては全く触れてませんが、それだけ分かり易い作風だったという事で(笑)。見たまま楽しむのがセオリーのシリーズになりそうですね。これから一年、楽しみです!!