Space.12「11人の究極のオールスター」

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 正に壮観!

 1クール終盤で11人勢揃いという無謀とも思えるイベントが、無理なく展開される構成力には脱帽です。割と簡単に集まった9人に対し、リュウコマンダーとコグマスカイブルーについては話数を割いて「加入」を描いたことにより、11人というボリュームにもちゃんとした意義が生じているのが巧く、ここでの総勢11人体勢にも違和感がないですね。

 ヒーローの敗北からの逆転という最終編の典型のようなプロットで展開されますが、そこかしこにコミカルな要素を織り交ぜているため、「この先にこれ以上の展開が待っている」と思わせるあたりも良いと思います。

イカーゲン

 常にマーダッコとコンピで動いていたイカーゲンですが、新しいカローをマーダッコに迎えに行かせるというシチュエーションで、単独に仕立てました。

 迎えるカローが実はスティンガーの兄・スコルピオという「引き」になっていることもさることながら、キュウレンジャーに負けることはないという、イカーゲン自身の過信が匂わされるあたりは実に巧いところで、ある意味この状況こそがラッキーにとって幸運だったとも言えるでしょう。もしマーダッコが一緒だったならば、ラッキーの逆転劇も阻止されてしまった可能性がありますよね。

 そして、これまで予知能力を有していると思われていたイカーゲンでしたが、実は複数の目を持っていて、あらゆる角度からの攻撃を同時に認識する能力に長けていたことが明らかとなりました。この種明かしは秀逸です。というのも、予知能力の阻止法を発見するよりも、予知能力の正体を推測する方が、はるかに理知的な雰囲気になるからです。対処より根本を見出す、SF的な視点が嬉しいですね。司令たるショウ・ロンポーの聡明さが描出される心地良さも特筆モノです。

 さらに、その能力を分析するため「だけ」に出撃させ、目的を果たしたら即時撤退するという作戦行動が凄まじく格好良いです。これぞ組織系戦隊といった醍醐味を、寄せ集め部隊でやってしまう凄さ、そして問答無用にそれを成立させてしまう勢い。すべてが良い方向に回転している気すらして来ます。

 結局、イカーゲンはラッキーの「立ち直り」の糧となって散る運命でした。突然出て来た強敵ではなく、数話かけて(しかもショウ・ロンポーとの因縁をも織り交ぜて)丁寧に描かれたキャラクターだったので、ちゃんと11人で倒される価値のある巨敵になっていました。

 巨大戦もしっかり担当しましたが、こちらはリュウテイキュウレンオーの餌食に...。酸性雨を操るという能力によって、ちゃんと強敵になっていたのは救いでしたが、やはり消化試合っぽさは否めませんでしたね。

ガル

 今回、意外な存在感を見せていたのがガルです。ラッキーに「戦うこと」の意義を説かれて以来、心酔しているのは周知のとおりですが、それがこんなにも早く、良い形で活かされるとは思ってもいませんでした。驚きましたね。

 ラッキーに心酔しているということは、ラッキー自身が自分を見失いそうになったときに、代弁し主張できるということに他なりません。今回は正にそうなったわけで、ラッキーを殴ってまで自分を取り戻させられるのは、ガルしか居ないと納得できました。ラッキーの拳をいとも簡単に受け止めるガルの姿は、そのまま両者が出会った時の裏返し。かつてはガルに迷いがあった。そして今回はラッキーに迷いがあった。その違いを如実に表していました。

 戦いが始まってからは、ラッキーの独壇場に近い構成となったので、ガルの存在感は一方後ろに引いた形になりましたが、それでもラッキーの復活を最も喜んでいたのは彼であり、その「らしさ」を大いに発揮していました。

ラッキー

 まずは、幼少期の回想について。

 その背景にある装飾や衣装の雰囲気からして、割と高貴な家柄だったのかも知れません。ジャークマターの蹂躙によって肉親と離れ、単独で脱出したという凄絶な過去を持っていました。究極のポジティヴキャラとして登場したラッキーが、実は重く暗い過去の上に人格を成立させているとあって、その危うさが付加されることになり魅力を増したように思います。また、その危うさが前回から続くネガティヴシンキングの「根拠」になっているため、そのキャラクターの幅がストーリー展開においてメリットとなっていることが伺えます。この回想で語られた別離が、今後何らかの形でフォローされることを期待したいですね。

 さて、前述のとおり、ガルの熱い想いとショウ・ロンポーの説得によって、彼は立ち直ることになるわけですが、説得されたその場で復活するのではなく、イカーゲンによってもたらされる危機を救うべく颯爽と現れるあたりが非常にヒロイック。これはもう王道と言っても過言ではありませんが、やはりギリギリまで引っ張って放たれる格好良さは筆舌に尽くしがたいものがありますね。

 口上も秀逸です。「宇宙が蹂躙されている限り、ラッキーなヤツなんていない。だから自分はよっしゃラッキー! と叫び続ける」と。格好良いことこの上ない。この宣言は、自らが解放のアイコンになるという宣言でもあります。後の戦闘で、「宇宙すべての代表として戦っている」というテーゼを示しますが、正に「宇宙戦隊」を体現した宣言ですよね。特に平成ライダーで掘り下げられるようなミクロな正邪の概念とは、大きく異なるマクロな正義感が鮮烈です。ただ、イカーゲンの「1対11は卑怯だ」というコミカルなツッコミ(戦隊のタブー扱いされることもありますが、そもそも無数の戦闘員が襲いかかってくるのでナンセンスな議論)が前提にあるので、ここではその正義感が少し控え目に表現されているようでもあり、エッジが落とされているあたりは理性的かと思います。

 そして、これまで割と場当たり的な戦いで勝利をもぎ取ってきたラッキーが、初めて見せるトリッキーな逆転劇! それは、イカーゲンの目の数を超えるために、フタゴキュータマを連続使用し倍々ゲームの要領で自分の分身を増やすという戦法。後述しますが、11人でなければならないというロジックを覆したイカーゲンの自信を、さらに覆す逆転の連続が実に見事でした。

11人の究極の救世主

 ショウ・ロンポーの分析からは、イカーゲンの目は10におよび、同時に10人の攻撃だと読まれてしまうが、あと一人居れば攻撃はヒットするはず...という結論が導出されました。このロジックによって、11人総出撃の「理由」が担保されるのが巧いところ。しかも、ラッキーを欠いた状態(つまり10人)での出撃のために、状況が好転しないというシチュエーションを付け加え、打開策が分かっていながらもがくという、王道展開が繰り広げられます。

 そして、実はイカーゲンの目が10どころではない数だったという開示によって、11人総出撃の根拠が揺らいだところで、ラッキーがフタゴキュータマの妙技を披露。10の目を超える11人、11人を超える多数の目、多数の目を超えるラッキーの機転。数を数で圧倒するビジュアルの分かり易さで、勢揃いしたキュウレンジャーの素晴らしい強さを描くあたり、実に奮っています。

 名乗りも壮観。ちゃんとCGや合成を交えた11人という規模の連続名乗りは恐らく初だろうと思います。一方のアクションは、戦闘員との混戦を省略してイカーゲン攻略一手で押してきたので、多人数ながらシンプルなパワーファイトになり、それぞれの個性的なポージングを短時間の中で網羅する手法が採られていました。それでも画面は豪華に過ぎましたけどね。まだシーズンの4分の1を消化しないこの時期で、これをやってしまう凄さ。これからどうなるのでしょうか(笑)。

 ちなみに、エンディングのダンス映像もリニューアルされ、小太郎が正式に参加。ちゃんと11人だということを主張しているのが嬉しいですね!

次回は...いよいよスコルピオ参戦

 前回、スティンガーとチャンプの因縁についてあまり語られないと書きましたが、どうやら次回から言及されそうですね(笑)。

 スティンガーの兄・スコルピオがチキュウにカローとして赴任してくるという、実に重苦しいシチュエーション。ラッキーが影を抱えた光ならば、スティンガーは光を秘めた影。スコルピオの真意といったものにも興味が湧きますが、スティンガーがどう翻弄されるか、チャンプがどう関わるのかという点の方により興味をそそられますね。