Space.14「おどる!宇宙竜宮城!」

  • 投稿日:
  • by
  • カテゴリ:

 シリアスとコメディ、硬軟取り混ぜたエピソード群を送り込んできた「キュウレンジャー」ですが、ここに来て箸休め的な一編を投入してきました。

 サブタイトルからして不思議コメディシリーズの一本っぽいので、コメディであろうという予想は容易でしたが、期待を裏切らない徹底したコメディでした。惜しむらくは、「おどる」という要素があまりフィーチュアされませんでしたが、そんなことは些細だと断言出来る快作(怪作)だったことは間違いありません。

ユーテルジャン

 今回のダイカーンは久々に個性的なヤツでした。贅沢禁止令を出して自らは贅沢三昧という、エスプリなリアリティのある圧政が良いですね。

 このユーテルジャンを見て気付くのは、こうした細々とした圧政の描写が時代劇的なスケールに近似しているので、違和感が少ないことです。宇宙を支配しているジャークマターですが、その末端が狭いエリアで圧政を敷いているのを描いており、中央の司令システムが宇宙征服のためのユルい計画を遂行しているわけではないところに絶妙な(作劇的)リアリズムを感じます。

 ところで、ユーテルジャンの圧政は、贅沢をしようとしている人間を投獄するという要素に収束し、ストーリー展開をシンプルにする助けとなっていました。よってキュウレンジャーは、囚われた人々を救出するという目的にのみ集中できます。このあたりの手法は、個人的に最近のBlu-rayリリースで振り返っている「ゴレンジャー」によく似ています。ただ、「ゴレンジャー」の場合は明らかに黒十字軍の方が優位な組織であるため、ギリギリの線で勝利をもぎ取っていく醍醐味があるのですが、「キュウレンジャー」はその点余裕がありますよね(笑)。話は逸れますが、「ゴレンジャー」のBlu-rayは本当に美麗画質で、これまでVHSやDVD等の古びた映像に騙されて本質を見ていませんでしたが、実際はビジュアル含めて何もかもが時代を超越した作品だと、遅ればせながら再認識している次第です。

 結局、ユーテルジャンはガルの女装(?)に惚れて、フラれて(「フってやったぜ」というガルの可笑しさよ!)、巨大化もなく爆発四散する憂き目に遭いましたが、その顛末が相応しいと思わせる不思議な魅力がありましたね。

宇宙竜宮城

 ユーテルジャンが大層気に入っている娯楽施設、それが宇宙竜宮城です。ジャークマター専用の施設ではなく、一般人も利用できるというところが面白く、ホシ★ミナトがCMをやっていたり、他の一般利用客(実はロケ地の支配人の特別出演!)が登場したりと、その描写の充実振りが楽しい見所となっています。

 今回は、この宇宙竜宮城にユーテルジャンが夢中になっている隙に、牢獄より人々を救出するという作戦。これ一点に絞り込まれています。この一点しかないのに、実に多様なコメディが盛り込まれていて素晴らしいの一言。

 まず、潜入班の「変装」が良いです。バランスとガルは顔に特徴がありすぎてバレバレな気がしますけど、宇宙竜宮城には様々な人種が働いている様子なので、あまり問題になってないんでしょう。ハミィのメイド衣装とナーガのスーツ姿は似合いすぎていましたね。さすがは高次元のビジュアルの持ち主です。ハミィの衣装は、「ゴーカイジャー」におけるルカのものと同一でしょうか。さすれば、奇しくも一緒に出演している先輩ヒロインが着た衣装を、後輩が着ることになったわけですが。しかし、ハミィはもっと前面に出てくるものと思っていたのに、早々に別室の接客を命ぜられてまさかの退場。最後の最後に利用客の避難誘導をするという素晴らしいアシストを披露すると共に、本格的な脱出アクションを演じていたので、その辺りは良かったですね。

 そして何と、この施設はモライマーズに盾にされ、最後はモライマーズごとキュウレンジャーによって破壊されるという憂き目に。宇宙竜宮城自体に悪意はないため、なかなかの衝撃でした。ジャークマターの支配下で補償とか考えにくいですが、普通に保険会社なんかは機能していそうな雰囲気がありますよね。圧制下でもそれなりの経済活動が行われている様子は、「スター・ウォーズ」における帝国支配下の市民生活からも連想できます。

救出班

 ラッキーとスパーダが、投獄された人々を救出する役割を担います。宇宙竜宮城への潜入班が、油断しているユーテルジャンの持つリモコンを作動させ、牢のロックを解除、その隙に救出するという手筈で、正にスパイアクションの王道ですね。

 スパイアクションの王道らしく、ギリギリの線でなかなか巧く行かない様子を描いているのですが、これがコメディの方向に振り切った作劇になっていて、凄いなと。スリルとサスペンスを容易に導入できる展開なのに、それを捨てています(笑)。

 原因は主にガルにあるのですが、彼は何度もユーテルジャンのスイッチを押す機会があったにも関わらず、ことごとくハズレのスイッチを押してしまいます。ハズレのスイッチは何故かラッキーとスパーダの位置を狙ったかのように落とし穴を出現させ、その度に「振り出し」に放り出されてしまいます。落とし穴の上空で固まる二人の表情、丸まったCGの二人がゴロゴロと転がり出て、ゴミ捨て場にクラッシュする様子は痛々しさが皆無で非常に可笑しく、最終的にはラッキーをして「楽しくなってきた」と言わしめます。素晴らしいのは、三度目はもう引っ掛からないとばかりに落とし穴の途中で踏ん張る二人が描かれたことでしょう。しかも、そこから逆転ではなく何故か金だらいが落ちてきて、やっぱり振り出しに戻ってしまうのです。コメディの王道までしっかり盛り込んで来たかと嬉しくなりましたね。

 ガルの押すスイッチが残り二つになったところで、ようやく牢に辿り着く二人。ここで素面アクションが盛り込まれるのもいいですね。このあたりは、「キイハンター」の頃から連綿と受け下がれる潜入アクションの王道です。非常に見応えがありました。

潜入班

 宇宙竜宮城の項で触れてない部分について補足。

 潜入班に関する最大のトピックは、ショウ・ロンポーの思いつきに振り回されるというシチュエーション。冒頭からして、初登場時のリュウコマンダーと比してかなりキャラが崩れてきている(素のショウ・ロンポーに接近している)彼ですが、今回はそのテキトー加減が最大限に発揮されました。

 ユーテルジャンの機嫌が悪くなると、ラプターの発言から連想したテキトーな思いつきを次々と指示し、ガルたちは終始振り回されっぱなし。しかも、振り回されている自覚はなく、忠実に遂行するのが益々可笑しいわけです。寿司だと言われればキュータマで魚を実体化させて大失敗、踊りだと言われれば男三人でエンディングダンス(BGMは新録!)を披露して大失敗、マジックだと言われればキュータマで鳩を出そうとしてこれまた大失敗。しかも、これらを真顔でアシストし続けるナーガが実に可笑しいと来ています。

 凄いのは、これらの失敗の中で、着実にガルがリモコンのスイッチを押していることですね。しかも、全部ハズレという...(笑)。コミカルスパイアクションの真髄を見ることができました。

 にしても、ショウ・ロンポーはハチャメチャな人ですわ...。

ガル

 今回のメインはガル。アンラッキーなラッキーを励ましたガルの前々回の言動は、シーズン初回でラッキーに進む道を示されたことに対する「返歌」でしたが、今回はさらにラッキーがそのレスポンスを投げる形となりました。

 しかし、前段二つがシリアスなドラマとして描かれたのに対し、今回はキューレットに全く当選しないガルが自暴自棄になるという、導入部からしてコメディの匂いプンプン。中井さんの広島弁(?)で愚痴を切々と繰り返し、狼男がオーバーアクションで頭を抱えている様子は、何というか、もう可愛らしいという域に達しています...。結局、最後の最後にキューレットによって選抜されているので、実はそれほどアンラッキーとは言えないのですが、既にツキがないと思い込んでいるガルは、色々と失敗に見舞われることになります(メチャクチャな指示を出し続けるショウ・ロンポーの存在がガルにとってアンラッキーだったのかも・笑)。

 ショウ・ロンポーが最後に思いついた策は、オトメキュータマで女性を出現させ、ユーテルジャンを接待するというもの。しかし、ガルが使ったために何とも形容しがたい「女装犬」が誕生...。このビジュアルは抱腹絶倒モノでしたね。しかし、これが最も奏功するというのもコメディの定石。ユーテルジャンはガルに一目惚れし、正体が露見した後、戦闘中でもまだその呪縛から逃れられていないという、「カーレンジャー」並みのシチュエーション・コメディを繰り広げました。

 白眉は残った赤と青のスイッチ、どちらを選ぶかというシーンですね。時限爆弾があって、赤と青どちらのコードを切るかというシチュエーションは、スパイアクションでは定番中の定番で、「ゴレンジャー」でもそのまんまのエピソードがあるほど。スリリングなシチュエーションの極みとしての価値があり、また敵との駆け引きを盛り込むことも可能とあって、古今東西の作品群で多用されてきました。

 今回は、そんなスリルや駆け引きとは無縁(笑)。しかしながら、ガルがパーソナルカラーの青を選ぶことで、自身の幸運を信じるというテーマがちゃんと描かれることになりました。ラッキーの幸運を信頼して赤を選ぶという選択肢も良い展開を生みそうですが、やはりここはシンプルに行ったのが良いですよね。

 ところで今回、アクションを見ていて気付いたのですが、ガルたちスーツメンバーも、いわゆる素面アクションと変身後アクションを区別しているということです。変身後はこれでもかとアクロバティックなアクションを決めるガルですが、変身前はアクロバット要素が幾分抑えられ、より格闘に寄ったアクションになっているんですよね。素面キャストとの均衡が考えられているあたり、凄いなと感心しました。

 何気にレッド、ブルー、イエローのサンバルカンカラーでユーテルジャン戦を展開していたのもポイント。やはり基本カラーが並び立つ様子には、安定感がありました。

玉手箱

 エピローグのオチとして、バランスが竜宮城ならではの「玉手箱」を持ち出していたというくだりがありました。勿論、開けると煙が出て、しかも老化するという効果まで付いてきます。原典では、地上で経過していた時間が瞬時に浦島太郎へのし掛かるというヘビィなお土産なのですが、さすがは「キュウレンジャー」、バランスが300歳から400歳になったというだけ!! 素晴らしいオチでした。

オープニングとエンディング

 今回はスティンガーと小太郎が不在でしたが、キャストクレジットを割愛したバージョンのテロップがちゃんと作られているのが凄い。一時離脱の小太郎がちゃんとエンディングダンスにも参加していたので、やはりゲスト扱いではないのだと安堵しました(笑)。

次回

 チキュウを飛び出しての展開となるようです。ハミィがメインなので、色々と期待してしまいますね(笑)。