Space.16「スティンガー、兄との再会」

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 弩級のシリアス回。まさかのチャンプ大破という衝撃のラストを迎える超鬱展開に、唖然とすること必至。

 スティンガーとチャンプのコンビでしばらく引っ張ると思っていたので、こんなに早く「区切り」が付けられるとは思いも寄らず。しかもその「区切り」が最悪の形で示されるインパクトは、筆舌に尽くしがたいものがありました。

 全体を俯瞰しても、ギャグはバランスの言動とベラ帰りではしゃぐ面々のショットのみ(あとはウシカイキュータマ)となっており、その裏切り中心のドラマは戦隊らしからぬ(あるいは90年代の戦隊らしい)雰囲気となっていました。

様々な裏切り

 今回は、セクションを区切らずにだらだらと書いてみます。

 ドラマのメインは、勿論スコルピオの裏切りとなっているわけですが、実はスティンガーに関してもチャンプに関しても、「裏切り」のキーワードがちらつくよう仕掛けられているんですね。

 まずは、スティンガーの「裏切り」にスポットを当ててみましょう。スティンガーが意図して仲間や肉親を裏切ったという話ではなく、要はスコルピオに執着するあまり冷静さを失い、結果的に仲間を裏切る結果を招いてしまったという話です。

 肉親に執着して危機に陥るというパターンは、定番として様々な話に見られるものですが、中でも特殊だったのは「宇宙刑事シャイダー」でしょう。主人公コンビであるシャイダーとアニーが、両方とも引っ掛かってしまうからです。しかも、アニーが罠に落ちた時はシャイダーが、シャイダーが危機に陥った時はアニーが冷静に状況を把握しているという、鮮やかな対比がなされていました。前者は、喪失したアニーの故郷の生存者が居るかも知れないというシチュエーションになっており、状況を客観的に分析し得るシャイダーがそれを否定することになります。後者はその逆で、アニーはかつての経験が活きたのか、とうの昔に亡くなった父の幻を追跡するシャイダー(当の本人は自分が冷静だと思い込んでいる辺りがニクい)に辛辣な忠告を投げることになります。ここにバディものの面白さがあるわけです。

 今回も、スティンガーがスコルピオの言動に惹かれ、チャンプがそれを非難し苛立ちつつも、大切な相棒の気持ちを尊重して振り回されるというシチュエーションが見られます。ここに、バディものの基本構造を見出すのは容易でしょう。結果的に、それは悲劇へと繋がってしまい、「シャイダー」で見られたような「危機を乗り越えて強くなる」という希望すら見えなくなってしまいますが、そういった克服譚はもう少し後の話ですね。

 さらに今回は、もっと明確にスティンガーによる「結果論としての裏切り」が描かれました。アルゴ船の秘密を喋ってしまうという、意図しないとはいえ仲間への大きな裏切りがあり、そして自死を選ぶという自分への(同時に仲間への)裏切りがあり、その結果チャンプを裏切ることに繋がってしまうわけです。事切れる前のチャンプは、それでもスティンガーを赦し、自分の仇討ちを託すにまで至ります。そこまで信頼していたのかと感動させられる仕掛け。泣かせますね。

 常に感情を押し殺して行動していたスティンガーが、スコルピオの嘘に惑わされて弟の貌に戻り、そしてスコルピオの真意を目の当たりにした絶望に絶叫する様は、渾身の芝居で観る者の心を大いに揺さぶりました。すでに部族を裏切っていたことが明白なスコルピオですが、どこかで兄を信じたいという欲求がスティンガーを惑わせ、裏切り者に裏切るように仕向けられ、結果絶望の底に叩き込まれるという壮絶な展開を前に、演者の岸さんも相当に力が入ると共に、かなりの重圧だったのではないかと推察されます。素晴らしいですね。

 ちなみに、スティンガーの美声と歌唱力を堪能する機会にも恵まれ、この暗澹たるエピソードの清涼剤として機能していました。今後の歌方面での活躍にも注目です。

 さて、続いてはチャンプに関係する「裏切り」ですが、これはチャンプ自身が裏切りの状況に陥るわけではなく、チャンプの周囲にちらつく「裏切り」のキーワードに関してです。

 この件は、現時点ではスコルピオの言及のみとなっているため確証は持てませんが、チャンプの製造者であるアントン博士が、ジャークマターを裏切った脱走者であるという設定が示されました。故に、スコルピオは粛正のためにアントン博士を殺害したことになっており、これはこれで巧く筋が通っています。アントン博士が脱走者であったことにより、チャンプに語ったポリシーにも俄然説得力が増してきますね。正に「戦い(力)に心を奪われた」スコルピオへのアンチテーゼ! 多層的に様々なキャラクターが対比される構造は、目眩を覚えるくらい見事ですね。

 そして、メインたるスコルピオの裏切り。

 第一に、部族を裏切ったスコルピオ。スティンガーを騙すための回想では、ジャークマターの信頼を勝ち得る必要があり、そのために部族を皆殺しにしたという話をしていましたが、それは「仕方なく」という部分を除けば事実でした。ショーグンに接近するために地位を獲得しなければならないスコルピオは、手始めに迷うことなく故郷の人々を抹殺したわけで、この悪辣さ加減に痺れますね。例えば「仕方なく」だったことを想像してみると、スティンガーが最後に目撃した不敵な笑みの説明にはならないので、真に抹殺のみが目的だったと知れるのです。

 第二に、ジャークマターの裏切り者。ドン・アルマゲを倒して宇宙の支配者に成り代わろうとしている彼は、自らが身を置く組織を裏切ろうとしているわけです。正に力、支配欲に取り憑かれた男なわけです。そのためにまずはカローに上り詰め、怪人態に変貌して力を手に入れ、ジャークマターの手の者を簡単に殺して目的を達成していく。野心家というにはあまりにも強烈な悪役振りが凄いですね。今回も、マーダッコを何の迷いもなく刺殺していました。まあ、生き返ることを知っていて利用していたわけではありますが。

 第三に、弟への裏切り行為。まずは、前述のマーダッコ刺殺を見せてスティンガーの迷いにつけ込みます。わずかな信頼の芽生えを見逃さなかったスコルピオは、続いて何故自分がカローにまでなったかを切々と語り、さらに、「誇れる弟」というキラーワードを吐いて完全にスコルピオを取り込むことに成功します。散々、小太郎を介してこのキラーワードを示してきたので、実に効果的でした。こうしてスティンガーの弱さをまざまざと見せつけられる格好になり、我々は非常に苦しい心情を共有することになるわけですが、それだけにスコルピオの奸智に空恐ろしさを覚えるわけです。

 唯一の肉親である弟・スティンガーを完全に騙して利用し、最後には彼を躊躇なく亡き者にしようとしたスコルピオ。チャンプが庇ってスティンガーは助かりましたが、キュウレンジャーが失ったものはあまりにも大きく、スティンガーは自分の弱さを目の当たりにして冷静さを欠き、結局ショウ・ロンポーによって戦列からの一時離脱を言い渡されることになります。間違いなく、スコルピオはその華麗なる裏切りの連続を以てして、キュウレンジャーを危機に陥れ、さらにジャークマターの中心へと確実に接近して行くことになるわけです。

 しかし、これでスコルピオの裏切りは本当にすべて開示されたのでしょうか。実は、第四の裏切り、即ち視聴者に対する裏切りがあるのではないか...という感覚が、何となく拭えないんですよね。かつてスティンガーが生き残り、今回もまた生き残った。これがスコルピオの意図したものだったとしたら...? 勿論、これについては弟の利用価値を認めたが故という理屈も成立しますから、どうとでも取れます。さてさて、一体どうなりますか!?

次回

 今回のシリアスムードはまたまた払拭される!? シシレッドの珍妙なシルエットに一抹の不安が...(笑)。スティンガーとチャンプの今後を心配しつつ、笑わせて頂くことにしましょう。