Space.19「森の惑星キールの精霊」

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 一週休みを挟んで、リュウコツキュータマに纏わる争奪戦を描く一編。

 基本的に明瞭快活なストーリーテリングに終始していますが、まさかのスティンガー参戦によって状況が一変するあたり、一筋縄ではいかない感じがニクいところ。リュウコツキュータマ一つをめぐって、並行している流れを交差させる手法は見事でしたね。

 森の精霊エリスのカリカチュアライズされた「あざとさ」も面白く、いわゆる「守人」や「精霊」の典型的なイメージを崩すことに成功していました。

オメーガ

 これまでのダイカーンの中でも、群を抜いてモチーフが明確なダイカーン! どう見ても「オルメカの巨顔」ですね。今回はキールと呼ばれる惑星が舞台ですが、オルメカ遺跡の一般的なイメージを巧く取り入れていて、景色とほどよくマッチするダイカーンとなっています。長老が出て来たり、精霊の森があったりと、ファンタジー寄りの世界観が効果的です。

 例に漏れず圧政を敷いているわけですが、このオメーガに関してはストーリー上、哀れにも完全にスコルピオの「駒」でしかないため、「自らの石像を造らせる」という極めてシンプルな強制労働が紹介されるのみとなりました。あっという間にキュウレンジャーによって解放されてしまうあたり、地方漫遊譚の域を出ないスケールではあります(笑)。

 チョウコクグキュータマで顔を作り替えられたり(「イケメーン」とウケるハミィがコミカルですが、その「イケメン」というタームが後の展開におけるテーマの一つとなるのが巧み)、スコルピオに暴走させられたりと、扱いの軽さは目に余りますが、巨大戦ではちゃんとキュウレンオーを苦戦させていました。その一度見たら忘れられないデザインと相俟って、愛すべき怪人ではありましたね。

エリス

 森の精霊であり、リュウコツキュータマを長い間守ってきた守人でもあるキャラクター。本作ではチキュウ以外の惑星は割とファンタジー寄りに描写されることが多いのですが、このエリスが居る惑星キールも例外ではありません。いわゆる異世界ファンタジーの典型を引用していることが分かりますね。チキュウが辺境の惑星とされつつも、他の惑星はもっと辺境っぽいあたりはツッコミどころですかね(笑)。

 さて、このエリス、清廉なイメージを投影されていながら、いわゆる「イケメン」に目がないという設定で、楽しいキャラクターになっていました。精霊と言えば、ファンタジー戦隊の嚆矢である「ジュウレンジャー」にクロトという重要なキャラクターが登場しますが、そのクロトのような不可思議かつ厳格な律の守り手といった雰囲気とは、かなり離れたキャラクターとなっており、同様の「守人」でありながら、その方向性はより「キュウレンジャー」に相応しいものとなっていました。

 演者である彩川ひなのさんは、現役アイドルグループのメンバーだそうですが、リュウコツキュータマの守人たる厳格な言動と、イケメンを前にしてのデレた言動の二面性を実に巧く演じておられましたね。こういうステレオタイプなキャラクターは、照れがあっては演じられませんが、さすがアイドルといったところでしょう。

 今回は、このエリスの妙な言動に振り回されて重要なタームを見逃しそうになりますが、実は彼女が守っているリュウコツキュータマは、キュウレンジャーの先人と言える救世主・オライオンに託されたものだといいます。ラッキーたちの前にも救世主が居たというインパクトもさることながら、オライオンという、いかにも英雄然としたネーミングも非常に気になるところです。「オライオン」は「Orion」であり、いわゆるオリオン座のモデル。サソリ座とは浅からぬ因縁があるとされており、今回のスティンガーとスコルピオの一件を考えると、とても興味深い配置であると言えます。このオライオンの件は、今後何かありそうですよね。

 エリスのイケメン感度は、当初スパーダに向いていました。「見る目があるなー」と素直に思いました(笑)。が、スパーダはとりあえずキャラクター設定的にそのベクトルに向いていないので、ちゃんとギャグとして作用しているあたりは巧いところです。ナーガは相変わらずとして、バランスが見事にヘコんでいるのはさらに可笑しかったですね。良い反応でした。

 スコルピオとの一戦において、リュウコツキュータマよりもエリスの命を優先させたラッキーに、エリスが心を奪われるという展開はコメディの王道ながら爽やかな読後感を伴って腑に落ちます。ラッキーのポリシーを明確に語らせるという点でも、エリスはお手柄でしたね。

スコルピオ

 アルゴ船を手に入れて宇宙の支配者たろうとするスコルピオ。リベリオン内部にスパイでも居るんじゃないかと思わせるほど察知と行動が早い(笑)。早速リュウコツキュータマを奪いにやって来ます。

 スティンガーを騙してチャンプを倒し、マーダッコを自在に利用して手駒とし、そして今回、エリスを人質に取ってリュウコツキュータマとの交換を要求し(しかも「交換」する気はさらさらない)、まんまとリュウコツキュータマを入手してみせたスコルピオ。「卑怯も兵法の内」と言わんばかりの徹底した悪役振りが素晴らしく、悩める正義漢・スティンガーとのコントラストが際立ちます。次回は直接対決が描かれそうですが、どこまで悪逆非道の限りを尽くしてくれるか楽しみですね。

 ちなみにマーダッコは、また復活を果たして今度は宝塚風のキャラクターになりましたが、あまりフィーチュアされず。まあ前回活躍しましたから、今回はいいでしょう...。

スティンガー

 ガルとラプターを一時的にその毒で行動不能にし、トモキュータマとホキュータマを奪ってスコルピオの元へ赴いたスティンガー。スコルピオの毒に対抗するために毒を用いるということでしょうか、かなり無茶な行動と言えるもので、チャンプの一件で反省するどころか、自らが招いた一件を自らの手で何とかしようという焦りが伺えます。

 ただ、そこにはかつての兄の陽炎に踊らされているスティンガーの心理も働いているわけで、そこには彼の弱さとは単純に断定できない複雑な葛藤が見て取れるわけです。このあたりは、今回のエリス周りのライトな作風とは180度異なるシリアスさを伴っており、今回が有する二面性が視聴者の心理を揺さぶります。

 次回の兄弟対決がどのような結末になるか、本当に楽しみですよね。

ラッキー

 「イケメン」であるかどうかなど全く気にしない根っからの救世主...なのかも知れません。エリスがラッキーにかつてのオライオンの面影を見たということは。

 今回は、ラッキーのポリシーが明確に彼の口から語られることになりました。恐らくショウ・ロンポーならば、エリスを人質に取られた際に、エリスがこれまで何のために存在し続けて来たかという意義を考え合わせて、エリスの犠牲を視野に入れつつリュウコツキュータマの奪取に動いたのではないかと思います。しかしラッキーは、生けとし生けるものすべてを救うのが救世主だと言ってはばからず、迷わずにエリスの命を優先します。それはキュウレンジャーが究極の救世主であるために、ラッキーを筆頭とせねばならなかったと換言できる言動でした。

 昨今のヒーローで、ここまで「駆け引き」を伴わないポリシーを持ったキャラクターは珍しいと言え、どちらかと言えば古典的とさえ言えるでしょう。「ジュウオウジャー」における大和は、同様のポリシーを有しつつも迷いを伴った巻き込まれ型のヒーローでしたが、ラッキーは迷いもなく、自ら渦中に飛び込んでいくタイプ。対照的な二人にとっての「命」の見え方の違いもまた興味深いところですね。

 そして今回も、ヒカリキュータマを使用。先の使用が割とコミカルだったために、スコルピオとの一戦で使用されることに意外な感じもしましたが、逆転劇の見せ方は一級で、その秘めたる力の強さを垣間見ることができました。巨大戦でも使用し、バランスのみならずナーガまでパワーアップ。どうやらメタリックカラーならばパワーアップさせることが可能らしい(笑)。キュウレンオーの両足による超絶キックは迫力満点でしたね!

次回

 何度も言及しましたが、スティンガーとスコルピオの兄弟対決になりそう。これが二人の最終決戦なのか、それとも...? 人々に本格的な活躍を見せるであろう小太郎にも注目です。