Space.21「さらばスコルピオ!アルゴ船、復活の時!」

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 前半はスコルピオ絡みのシリアス調、後半は新戦士・ホウオウソルジャー絡みのアクションコメディ調と、普通なら二話分の尺を費やして描くような内容をギュッと凝縮して魅せる一編。

 遂にスティンガーとスコルピオの、因縁と呼ぶにはあまりにも近くて遠い関係性に決着がもたらされることになります。ストレートに描かれた結末は、オーソドックスであるが故に「伝えたいこと」の盛り込み方も巧みに行われ、素直に感動を呼ぶものとなりました。

 そして、リュウコマンダーに続いてイレギュラーなネーミングを冠した、本当の意味での追加戦士・ホウオウソルジャーが鮮烈な登場を遂げます。スコルピオ退場の余韻を吹き飛ばし、新章への露払いを完璧に演じて見せたホウオウソルジャー。劇場版に匹敵する物量で描かれるアクションには度肝を抜かれました。

打倒スコルピオ!

 当然ながら今回のメインテーマは、スコルピオとの決着です。前回に引き続き、スティンガー、ラッキー、小太郎のトリオ VS スコルピオで激闘が繰り広げられます。

 スコルピオは終始動きを最小限に抑え、的確な防御と攻撃を主体とするアクションであり、対するキュウレンジャーのトリオは縦横無尽に動き回るスタイル。動きの鮮やかな対比で対決の構図が強調されるのは、やはり巧いところですね。スティンガーにはもはや迷いがなく、確実に攻撃をヒットさせていくあたり、鬼気迫る雰囲気。その上で戦況の一進一退を丁寧に見せており、スコルピオの高い実力を描出すると共に、スティンガーたちが掲げた「仲間と共に強くなる」というテーマもちゃんとアクションで見せていて、正に戦隊の標榜する「アクションで語る」というポリシーが貫かれている素晴らしさです。

 そして、一旦スティンガーたちを優勢に見せておいて、やはりスコルピオは巨敵であると示す逆転シーン! 「こうでなくては」と思うシーンを矢継ぎ早に繰り出してくる構成には脱帽ですね。スーツ解除が危機感を煽り、生身で転がったり飛ばされたりといった「痛い」アクションが高い完成度を約束してくれます。小太郎もスタンドインなしでアクションを演じていて凄いですよね。いかにアクション演出が円熟しているか、分かるというものです。

帰ってきたチャンプ!

 前段の危機描写、その後の逆転劇への呼び水であることは容易に分かります。期待を煽るだけ煽っているので、次に来るシーンは非常に重要となるわけです。ここでスティンガーたちが気合を入れまくって奇跡を...という展開も戦隊シリーズの常套句ではありますが、もっと現実的で、もっと燃える展開が待っていました。

 スティンガーに振り下ろされる一撃を阻止したのは、チャンプの投げたキューアックス! 最高の復活劇を見せてくれるチャンプ!

 チャンプの復活を目の当たりにしたスティンガーは、残り少ない命を燃やして再びスコルピオに立ち向かい、次々と斬撃をヒットさせます。この怒濤の逆転劇には興奮すること必至。チャンプを初めて相棒と呼び、キューアックスを手にして戦うサソリオレンジの姿は、スコルピオへのアンチテーゼたる「仲間がいるから強くなれる」というポリシーを完璧にビジュアルで示す素晴らしいシーンでした。勿論、サソリオレンジ単独でなく、他のメンバーとの連携攻撃も効果的に描かれ、スティンガーへのサポートが彼をより強くしている...という構図が燃えますね。

サソリ座兄弟

 「決着」と言うに相応しい二人のピリオド。

 極論すれば、スコルピオが「兄」としての我を取り戻すか否か...が焦点だったと思います。そして、あらゆる特撮ドラマにおいて、そのテーマは達成されたり裏切られたり。

 「仮面ライダー」では、ショッカーの側に付いた人間は殆ど善に帰還することなく葬られてしまいますが、立花藤兵衛の友人が土壇場で過ちを悔いて逆転のきっかけを作ったりすることもあり、東映特撮ドラマのパイオニアで既に色々なパターンが繰り出されていたことになります。また、「仮面ライダースーパー1」のメガール将軍のように、一旦自我を取り戻すものの、強制的に服従させられて哀れな最期を遂げるというパターンも散見されます。私はこのメガール将軍の話がかなり好きで、何回も見てしまいます(笑)。

 一時期、裏切り者といえども生存したりといった話が割と多かった記憶がありますけど、それらは東映イズムとしては異端だと思うわけで。東映イズムには「禊」という考え方が色濃く存在し、悪に加担した者は死を以て償うか、あるいは大きな代償を払って罪を償う人生を歩み始めるか...といった展開が定番であり(往年の東映チャンバラ映画の流れでしょうね)、最も分かり易いのは「仮面ライダーV3」におけるライダーマンの死でしょう(「仮面ライダーX」で「どっこい生きてた」と復活しますが、この時点で結城丈二という人間は生身の部分を殆ど失ったものと解釈できます)。戦隊では「マスクマン」のイガム王子のように、二度と故郷に帰れない巡礼に旅立つ(謂わば社会的な死)という結末も見られます。

 話が逸れましたが、結果的にスコルピオは、東映イズムを見事に体現したキャラクターとなりましたね。

 見所は沢山ありますが、まずは迷いを捨てて立ち向かい、スコルピオを討ったスティンガーの熱さ。そして倒れたスコルピオを「兄貴」と呼び抱き留めるスティンガーの悲哀。この落差で涙腺を刺激された視聴者は多いことと推察します。強さに魅入られたスコルピオが、強くなった弟を身をもって感じ善に帰還する様子には、ロジカルな醍醐味とドラマに横溢する感情が絶妙にブレンドされており、非常に完成度が高いシーンとなっていました。こうした流れの代表として挙げられる「スター・ウォーズ」では、ダース・ベイダーがライトサイドに帰還するきっかけは、助けを請う息子の悲痛な叫びでしたが、今回は弟が自分より強くなったことを見届けて、ようやく「力の呪縛」から解放されるという構図になっており、ある意味対照的と言えるでしょう。この「解ける」という感覚は非常に日本的なものだと感じますね。

 最終的に、スティンガーの命を奪いつつある毒をスコルピオが自らの身体に移すことで、スティンガーへの償いを果たすことになります。これには、自己犠牲というこれまた日本的な「禊」が垣間見られるわけです。そんなスコルピオはドン・アルマゲの駒に過ぎないとされ、真の巨悪がドン・アルマゲであることを印象付けて、静かにスティンガーたちを護り散っていくことになります。久保田悠来さんの抑えの効いた熱演が、素晴らしい幕引きを実現させてくれましたね。

アルゴ船復活

 後半、スコルピオの死を悲しむ暇もなく、ドン・アルマゲによって無数のモライマーズが起動し、チキュウのプラネジュームを一気に吸い取り始めるという、急展開を迎えます。ここでスコルピオが託した(本当は「返した」のですが、場面設計としては「託した」ように見えるのが巧い)二つのアルゴ船のキュータマが、いよいよラッキーの持つ三つ目のキュータマと一つになるという、急展開の中でのスタティックな雰囲気が素晴らしい。果たして、復活を遂げたアルゴ船は、いかなる「最終兵器」としてこの危機を救うのか...?

 といったところで、二段階の「裏切り」が展開されます。

 まず、アルゴ船自体には何の武装もなく、チキュウに密かに眠る単なる「船」だったということ。そして、その中でコールドスリープを施されていた人物こそが、大逆転の鍵であったということ。

 「伝説の最終兵器」を(特に劇中人物に)期待させておいて、実は違っていたという展開は、私にとって「宇宙刑事シャイダー」の最終話が真っ先に思い出されるわけですが、「シャイダー」では悪の大軍団を一気に攻略できる最終兵器と謳われたものが、実は伝説の戦士が乗っていたバイクに過ぎず、しかもとっくにエネルギーが枯渇していて使えない代物だったという展開でした。シャイダーはあらゆる通信・生命維持の手段を絶たれた石室の中で、相棒アニーの心の叫びを聴き遂げ、いかなる困難にも立ち向かう不屈の闘志で次元を突破するバイクを起動させて大逆転に至りますが、これは成長譚である本作が個人の資質にすべてを帰結させる見事な最終回でした。

 またまた話が逸れましたが、今回はアルゴ船自体に何の戦力もないという肩透かしがよく効いていて、覚醒した戦士・鳳ツルギが鮮烈デビューを果たすのに充分過ぎるほどのお膳立てになっていたわけです。

 ここからは、あまり人の話を聞かない性質っぽいツルギが、ラッキーたちとコミュニケーションの齟齬を来すことでコミカルな雰囲気を生み出しており、前段のサソリ座兄弟の悲哀を払拭してしまいました。「刮目せよ」といった大袈裟な口上が特徴のツルギは、そのもはや不可解な域に達する強さがコミカルですらあり、ホウオウソルジャーのちょっとレスキューポリスが入った挑戦的なデザインも手伝って、キュウレンジャーっぽくありながら「異端」であるという、追加戦士の条件を遺憾なく備えたキャラクターとして、早くも強い印象を与えましたね。

 てっきり、アルゴ船を操ってモライマーズ大軍団を撃破するのかと思いきや、自らが飛翔して巨大なモライマーズをぶった切りまくるという、とんでもないシーンが用意されており、彼の復活がスコルピオ戦の最中でなくて良かったと心から思ったわけです(笑)。

 追加戦士の常として、初登場時の圧倒的な強さが徐々にスポイルされていくという、ちょっと悲しい定石があるわけですが、このホウオウソルジャー、あまりに圧倒的過ぎるので、これから先どう扱われるのか、不安と楽しみがない交ぜになって押し寄せてきます。ツルギがチキュウの人間であるという点は、小太郎あたりと関わったりしそうでもありますが、果たして...!?

スティンガー......

 スコルピオの墓標を建て、その哀しみを拭い去るスティンガー。一方で、オリオン号ではチャンプの帰還を祝うパーティーが催されています。ここでは、これまでのスティンガーの少々孤独なポジションを担保・強調していましたが...。

 小太郎が持ち帰ったメンバーの人形、実はスティンガーがチャンプのために作ったということが暴露され、一気にスティンガーのイメージが変転! ちょうどオリオン号に帰還したスティンガーが発した、「針仕事はサソリ座系の嗜みだ」というエクスキューズに納得させられはするものの、人形のデフォルメセンスがスティンガーの中にある趣味性を暴露していて実に可笑しいです。

 そして、これまでの無茶で迷惑をかけた仲間たちに、丁寧に詫びを入れる様子まで描かれ、スティンガーを一気にギャグ要員へと接近させました。2クール半ばということもあってキャラクターも安定したので、ここで意外性を導入して新章への勢いを付けようという意図かと思います。そして、それはかなり成功しているかと(笑)。

次回

 鳳ツルギは一体何者なのか...というテーマで展開されるようですが、予告はかなりコミカルに見えます。さて、どう楽しませて頂けるのか、ワクワクしますね。また一週ほどお預けになるので、首を長くして待機しましょう。