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神秘の軌跡 1

 いきなり私的なことで恐縮だが、偶然某所の棚に陳列してあった、このアンソロジー盤。全ての紙ジャケを揃えるまで、それほどマーク・ボランを掘り下げるつもりの無かった私だが、オリジナル・アルバムを自由に聴くことが出来る環境に置かれ、徐々にオリジナル・アルバム以外の音源に興味が沸くこととなった。そんなとき、目に飛び込んできたのが、この3枚である。実に発売より6年経過してからの入手。

 このアンソロジー、いくら好きでも未発表音源で埋め尽くされて辟易するようなものが横行する中、実に編集のセンスが良く、適度に発表済みの音源を混ぜることによって、マーク・ボランがどのようにして楽曲を組み立てていったかという臨場感を生み出している。当然、スタジオ・ワークをそのまま編集したわけではないのだが、雰囲気という意味で素晴らしい。

 確かに、未発表のものを多く求める意味では、かなり不足の感はある。紙ジャケ盤等にボーナス・トラックとして収録されたものとの重複もあって、全体に「未発表」っぽいものが少ないのは確かだ。しかし、殆どのアウトテイクや企画モノで聴かれる強烈なクォリティには圧倒されるし、ラフなデモやライヴ音源には、更なる未発表音源への興味を掻き立てられワクワクしてしまう。

 マーク・ボランは、音の中に永遠に生きている。

地下世界のダンディ(紙ジャケット仕様)

 私的には最高傑作に推したいアルバム。ボランが、自らを自分から最も遠い処へ置いて見せた前作から一転、ボラン・ブギーの集大成とも言えるべき作品に仕上がっている。

 黄金期のリズムやメロディの組み立てに忠実であり、なおかつ数々の挑戦によって得てきた財産を投入したニュー・ボラン・ブギーとも言える内容は、その充実度からボランの意欲を感じさせるに十分。ボランが自らをよりダイレクトに歌ったと思われるタイトル・チューンの素晴らしさ、ブギー色に溢れた「深紅色の月」、近作の作風が結実した「宇宙の舞踏会」...。あぁ挙げればキリがないのでこの辺りで打ち止めということに。

 しかし、結末を知ってしまった者にとっては複雑な心情を掻き立てられるアルバム。1977年9月16日、30歳のバースデイまであと2週間という時、妻グロリア・ジョーンズ(「ズィンク・アロイと~」からメンバーとして参加している)が運転する車が事故、助手席のボランは帰らぬ人となった。生前「30まで生きられないだろう」と語っていたのは有名な話だ。

 これだけ意欲に溢れた(ボランはショービジネスの世界で再起を賭けている時期で、その試みはかなり成功していた)アルバムが、天に旅立つ前の地上への置き土産に見えてしまう。歴史を前提に聴くと、華やかなブギーが一層寂しさを喚起する。

 「地下世界のダンディ」は銀河の彼方へと飛び去ってしまった。

銀河系よりの使者(紙ジャケット仕様)

 「ブギーのアイドル」でボラン・ブギーの再検証を行ったボランは、またもやそこに安住する事を好しとしなかった。放ったアルバムはよりソリッドでグルーヴィになったボラン流ファンク・ロック。ソリッド、グルーヴィと書くと、「ズィンク・アロイ~」に回帰したように捉えられがちだが、一聴すれば、すぐに全く異なる作風であることに気付くだろう。

 ノリの良さ、リズムの重厚さ、ストリングスの華麗さ、シンセ音の煌びやかさ、どれをとっても上級の旨み。正に「いいとこどり」なアルバムなのだが、意外に印象が薄い作品でもある。前作で失われつつあった「ある種の毒」が、この作品ではほぼ消滅、カッコ良さが前面に押し出されているのが原因だろう。上級ばかりを取り揃えすぎたことにより、突出した個性というものがスポイルされているのだ。

 ただ、「ズィンク・アロイと~」で試行された刺々しいリズムの導入や「ブギーのアイドル」で顕示されたポップスの手法を元に、この作品を作ったのだと考えれば、この作風に納得がいく。ともすれば両極端になりそうな2つの要素がうまく重ねられており、昇華した結果だ。

 余談だが、ボーナス・トラックに収められた「人生はエレベーターの如く」は、人生は空気(のように掴みどころがない)と歌われた「ライフ・イズ・ア・ガス」、人生は不思議なものだと歌われた「ライフ・イズ・ストレンジ」を思うと、ボランの人生を象徴しているようで切ない。

ブギーのアイドル

 ソリッドな前作から一転、可愛らしいコーラスで幕開ける本作は、ボラン・ブギーの原点を省みるような、そんなシンプルかつドライな感覚に溢れた作品だ。

 全体に明るい曲が多く、「電気の武者」や「ザ・スライダー」の頃に見られたある種の毒々しさはほぼ失われていて、そこが本作の評価が低めである原因だろう。ただし、その毒々しさが受け入れられない人には絶対的にオススメできる作品。ボラン・ブギーの良いところが抽出されているし、プロダクションも「ズィンク・アロイと~」ほどではないが、かなり緻密。ボラン流正真正銘のポップ・ミュージックになった曲群が、楽しさを喚起するだろう。

 「売れていないが傑作」的ナンバーが多いのも特徴。オープニングを飾るどことなくほのぼのした「ライト・オブ・ラヴ」、ズンチャカ・リズムが正にボラン・ブギーの「シンク・ズィンク」、正統派ボラン流ハード・ロックでありながら、何となくグルーヴィな「ジップ・ガン・ブギー」など、聴いているだけでワクワクする曲が並んでいる。そのオリジンを黄金期に求めることはできるが、よりシェイプアップされたそれらは、確実に変化を遂げている。

 蛇足だが、邦題「ブギーのアイドル」は秀逸だ。「ボランズ・ジップ・ガン」とするより遥かにインパクトがある。こういう奮ったネーミングが、是非とも日本の洋楽界に復活して欲しいものだ。

スイング・アロイと朝焼けの仮面ライダー(紙ジャケット仕様)

 激しくリズミックなギター・リフが高らかに幕開けを告げる。1曲目のこの興奮度、これまでのボラン・ブギーとはかなり印象が違う。これぞ異色作中の異色作と評されるアルバムである。

 何やら長ったらしいタイトルからは、コンセプト・アルバムっぽい印象を受けるが、楽曲の流れからそういった意図を汲み取ることは難しい。「仮面ライダー」をたまたまテレビで見たボランが、それをヒントに作り上げたアルバムとされているが、特に「仮面ライダー」にインスパイアされた部分というのは存在しないし、かなり文言と音楽が乖離した作品である。

 しかし、それはコンセプト・アルバムを期待するからであって、音に耳を傾けてみれば、それらはこれまでのT・レックスひいてはボランのブギーにない意欲的なリズムの導入が確認される。冒頭に書いたような「ヴィーナスの美少年」のソリッドなギター・リフに始まり、グロリア・ジョーンズが参加して、過去の作品とは趣の異なるソリッドなコーラスを響かせる「悪魔のしもべはのろまが嫌い」、「星空のソウル」。新しい風を吹かせようとした意気込みは十分で、ふとした拍子に聴きたくなる隠れた名盤。1度じゃその良さは分からない!

 ちなみに、ボーナストラックの「トラック・オン」はボラン本来のチープなゴージャス感が溢れに溢れた傑作。グロリア・ジョーンズのコーラスは正に狂乱の一言!

グレイト・ヒッツ(紙ジャケット仕様)

 ベスト盤である。だが、アルバム未収録曲が多く収録されているので、オリジナル・アルバムと見做しても十分説得力のあるアルバムだ。その一曲一曲が、ヒット連発中のT・レックスを雄弁に物語る。

 これほど素晴らしいベスト盤は、他にクィーンの「グレイテスト・ヒッツ」ぐらいしか思いつかない。シングル・ヒットの嵐がしっかりと収録され、とにかく全編心躍りっぱなし。「ジルバの恋」や「サンダーウィング」といったB面曲や、過去のアルバム既収録曲もフォローされているが、A面曲に劣らない曲ばかりで、この構成力に参ってしまう。このベスト盤は何度聴いても凄いの一言である。

 改めて説明するまでもないだろうが、「イージー・アクション」、「20センチュリー・ボーイ」などは、ボラン・ブギーの超傑作だし、「ザ・スライダー」とはダブってしまうが、「テレグラム・サム」や「メタル・グルー」、「ザ・スライダー」など名曲中の名曲もズラリ。「ザ・グルーヴァー」は売り上げが落ち始めた頃のものだが、「T! R! E! X!」とシャウトするコーラスや倦怠感を伴って歌うボランが本当に魅力的な隠れた名曲だ。

 あぁ、常に盛り上がりっぱなしという感じだ。魅力あるクールなオモチャが窮屈そうに詰め込まれたトイ・ボックス、それがこのアルバムである。T・レックス初心者は、まずこのアルバムから聴いてみても良いのでは?

Tanx (タンクス)

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タンクス(紙ジャケット仕様)

 タンクス、つまりThanksの変音語を冠したこのアルバム、さながら「大ヒット御礼」といった趣である。ジャケットに戦車(タンク)が散りばめられており、Tanksという意味もあるようだ。とにかく沢山の短い曲が畳み掛けられるように連なり、その各曲が個性を放つという贅沢極まりないアルバムである。

 では、このアルバムは前々作、前作と比してどうなのか。答えは「リズミック・ボラン・ブギー」とでもしておこうか。シンプルなブギー・サウンドに意欲的なリズムを導入し、いわゆる「横ノリ」を感じさせるアレンジメントが光る。代表曲を挙げれば、二種類のリズムを聞かせる「テマネント・レディ」、印象的なギターのカッティングが光る「カントリー・ハニー」あたりだろう。これは「グレイト・ヒッツ」を除いて次作となる「ズィンク・アロイと~」へと繋がる重要な要素でもあるのだが、ここではまだ華やかなスパイスとして実に効いている。

 勿論、人工物っぽいヤバさは全開。「エレクトリック・スリム」や「マッド・ダーナ」あたりは、むしろ最高潮であろう。そんな中、人工物系と、従来のアコースティック系の音とが静かに融合を果たすのが、「ライフ・イズ・ストレンジ」だ。

 ボーナス・トラックを除いた最後の曲「レフト・ハンド・ルーク」はこのアルバムでは異色の一曲。スロー・テンポに乗って淡々と歌うボラン、中盤からゴスペル風に盛り上がり、コーラスがうるさいぐらいに鳴り響く。あたかもグラム終焉に対するはなむけのように聴こえるのは私だけか。

ザ・スライダー(紙ジャケット仕様)

 「ジープスター」、「テレグラム・サム」等ヒット曲連発中のT・レックスが放ったのが、この「ザ・スライダー」。ここには、ボラン・ブギーの完成形が真空パックされている。「真空パック」と書いたのは、T・レックスの音楽がヤバそうな人口甘味料にまみれたような、そんな強烈さや危うさを備えているからだ。

 「ロック・オン」に代表されるように、より強力になった大げさなバック・コーラスや、「メタル・グルー」に聴かれるような、さらにボラン・ワールドの拡大を促すヴィスコンティのストリング・セクション、「チャリオット・チューグル」などで炸裂するボランのハード・ロック感覚。どれをとっても前作の暗部を払拭するかのようなパワーに溢れている。聴いていて「キモチイイ」アルバム、それがこの「ザ・スライダー」だ。

 のっけから「メタル・グルー」つまりメタルの導師と名乗る内容も凄いが、「テレグラム・サム」等、このあたりのシングル・ヒット曲は一度聴くと二度と忘れられない。完成度もすこぶる高く、ボランの余裕すら感じられる。

 中には「ミスティック・レディ」や「スペースボール・リコシェット」のように、前作までのアコースティック色を踏襲したものもあるが、儚世感といったものはなく、むしろハードな曲の間を埋める清涼剤の役割を果たしているのが素晴らしい。本作はグラム・ロック・ムーヴメントの立役者としての自信が伝わってくる、正に傑作である。

電気の武者+8 30thアニヴァーサリー・エディション

 マーク・ボランが、ティラノサウルス・レックスをT・レックスへと再編(改名)し、アルバム「T・レックス」を経て発表したのが、このアルバム。前作がまだマーク・ボランとパーカッショニストのミッキー・フィン二人だけのユニットだったのに対し、ここでは、ドラムやベースを加えた編成になっており、いよいよグラム狂乱の時代は幕を開けるのである。

 ここでのボランのヴォーカルは、まだ抑え気味の部分も多く、後に展開される「チープなゴージャス感」を伴ったギラギラしたブギーとは一味違う。「エレクトリック・ウォリアー」というタイトルや、何やら電気の粒子をまとっているように見えるジャケットのボランからも連想されるように、ティラノサウルス時代のシンプルなブギーが、電気の力で増幅され、まさに拡散しようとしている様子を聴き取ることができる。

 「マンボ・サン」の抑制不能な衝動を小出しにしているような感覚や、「モノリス」のような今にも泣き出しそうな雰囲気、そして「ゲット・イット・オン」の素晴らしいノリとシンプルなギター・リフのカッコ良さ。グラム・ロックという一言では表せないロックの感覚が満ち満ちており、それがこのアルバムの魅力でもあるだろう。

 「コズミック・ダンサー」や「ジープスター」で聴かれるような、プロデューサー=トニー・ヴィスコンティのストリングス・アレンジも、不自然なような自然なような不思議な存在感を醸し出している。それは極めて美しく、極めて脆く、極めて切ない。ちなみにヴィスコンティのストリングス・アレンジは、かなり有名で、他にデイヴィッド・ボウイなど多くのアーティストと「共演」している。

T・レックス+9

 ドラッグ・カルチャーとの迎合によってファンを獲得してきたティラノサウルス・レックス。しかし時代は変化する。その変化を敏感にキャッチしたマーク・ボランが、ティラノサウルス・レックスをT・レックスへと改名して発表したのが、ヒット・シングル「ライド・ア・ホワイト・スワン」であった。

 そのおよそ2カ月後に発表された、所謂「T・レックス」のデビューアルバムが本作。ティラノサウルス・レックス名義の前作「ベアード・オブ・スターズ」で取り入れられたエレクトリック・ギター・サウンドを、本作でも積極的に採用しているが、まだマークとミッキー・フィンのユニットという性格からか、雰囲気としてはティラノサウルス時代と大差ない。

 だが、ジャケットの写真はグラム・ロックの到来を予言し、サウンドメイキングには後のT・レックス・サウンドに欠かせないトニー・ヴィスコンティやフロ&エディが参加。大ヒットした次作「電気の武者」のエッセンスは既に散りばめられている。

 冒頭と締めに配された「チルドレン・オブ・ラーン」は少しコンセプトアルバム風味。「ジュウェル」から始まる曲群は小品揃いだが、後のスーパー・ポップのリズムとアイディアが凝縮されており、まさに発掘を待つT・レックスの化石といった趣である。8曲目の「ベルテーン・ウォーク」はドラムとベースが加われば、「ザ・スライダー」あたりに入っていてもおかしくない。なお、10曲目の「ワン・インチ・ロック」と14曲目の「ウィザード」はティラノサウルス時代のシングルタイトルのエレクトリック・ヴァージョンで、よりエキセントリックに仕上げられている。

 紙ジャケット盤には9曲のボーナス・トラックが追加されており、「ライド・ア・ホワイト・スワン」が収録されているのが嬉しい。出来れば「ホット・ラブ」も欲しかったところだが...。

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