第16話「ジューマンをさがせ」

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 寺島進さん演ずる真理夫さんをフィーチュアしたエピソード。

 動物の着ぐるみとジューマンの区別が付かないデスガリアン勢という、非常にコミカルな設定で動いていながらも、どことなくシリアスな筋運び。しかも追加戦士の誕生に関わる重要な事件だったというオチまで付いていて、油断ならない一編となりました。

 主役陣のメインは、必然的に真理夫と一番近しい大和となりましたが、普段は見せていない面を露呈するなど、彼の弱さのようなものをきちんと描いていましたね。

マントール

 今回の怪人であるマントール。ネーミングは、一聴してマタドールとマントをモチーフとしていることは明らかですが、デザインは何とも不思議な、高いオリジナリティを有するものとなっています。デスガリアン勢のデザインは、モチーフを簡単に類推出来ないものが多いという印象ですが、今回もその中の一つですね。何となく、ウルトラシリーズに出てくる宇宙人の系統を感じさせる部分もあります。

 マントールの能力は、マントを用いた瞬間移動能力。闘牛士がマントを翻す動きを取り入れていて、これが実に格好良い。表層的には動物の着ぐるみを着た人々を、この能力で次々とさらっているように見えますが、実は本物のジューマン達も三人ばかり略取していたことがラストシーンで明らかになっています。ナリアへのただならぬ感情や、その行動は徹頭徹尾コミカルに描かれましたが、ラストシーンにて吊されたジューマン達の姿がショッキングで、自身が倒れた後で、実は優れたハンターだったと判明する辺りが恐ろしいです。

 ナリアに惚れているという描写については、当のナリアがジニス以外に全く興味を示さないこともあって、常に空振り。ナリアにしてもその冷徹に過ぎる鈍感振りがギャグになっていて可笑しいですね。女幹部に惚れる怪人の話は、戦隊シリーズでは頻繁に見られるパターンの一つですが、今回については、それがメインにならず味付け程度に抑えられました。完全に蛇足ですが、「デンジマン」のでは逆パターンが登場しており、デスマスクラーにバンリキ魔王が言い寄ってスルーされるというギャグが展開されました。デスマスクラーの造形物は子供心に恐怖を抱く程の醜怪さだったので、現在見返してみると逆に可笑しいんですよね。人間態は彩瀬晶子さんという美人女優でしたから、バンリキ魔王にはそのように見えていたのかも...。

ナリア

 今回のナリアですが、前線にて作戦指揮(今回はゲームそのものではなくてあくまで「ゲームの準備」)にあたっており、その指揮能力を遺憾なく披露...したわけではありませんが、戦闘に参加しているのが高ポイント。特に、ジューマンかどうかをスキャンする謎の器具をヌンチャクのように操って立ち回る様は、素直に格好良いと思えるアクションでした。いわゆる巨大化要員なので、その戦力を披露することが少ないナリアですが、たまにこのようなシーンがあると、俄然キャラクターの魅力が増してきます。

 マントールが断末魔でナリアの名を叫んでいましたが、何故死に際に自分の名前を呼んだのかさっぱり理解できない辺り、コミカルではありますが空恐ろしい感もありますね。デスガリアンの中枢は基本的に人間的な感情など持ち合わせていないことを、さり気なく描いていたと思います。

真理夫

 今回のメインたる真理夫さん。とはいえ、実は登場の尺だけ見ると、多忙な寺島さんのスケジュール感が見えてくるんですよね。しかし、制約の中で真理夫の姿を集約して描く手腕は素晴らしく、大和が何故これほどまでに真理夫を慕うのかが理解できるようになっています。単なるコスプレおじさんではない、その精神性が存分に発揮されていたと思います。

 今回のポイントは二つ。

 一つは、回想シーン。大和の幼少期とどう関わっていたかが描かれます。回想といえども、何故か頑なに姿を見せない大和の父親。今回は回想にて「大和が父と喧嘩した」というシチュエーションを語らせることによって、親子の少々ギクシャクした関係を匂わせました。そんな大和のオアシスになるのが真理夫で、その全てを抱擁するような深い優しさが胸を打ちます。恐らくは、こういった状況は日常的に何度も繰り返されており、その度に真理夫の動物に関する話を聞き続けることによって、大和の人格が形成されたことは、想像に難くありません。

 二つ目は、真理夫のポリシーの開示です。「命に下等も上等もない」とする真理夫の主張は、惑星の生物をゲームの駒とするデスガリアンのポリシーとは真っ向から対立するものであり、あまねく生物に対する尊敬と愛情の念こそが、真理夫という人のすべてを言い表していると言っても過言ではないでしょう。ナリアやマントールの非道な行いを前にしても、毅然たる態度を崩さなかったのは、戦隊後見人として相応しい態度であり、チームの精神性を象徴するに充分な迫力でしたね。

 その毅然たる態度の極め付きとして、「この星を、なめるなよ!」と言い放つ場面が登場します。戦闘とは程遠い世界の人物なので、意外な活躍を見せるといった安易なシーンはありませんでしたが、この一言が今回の白眉であり、大和の闘志に火を点けました。ジュウオウイーグルの登場に目を輝かせる真理夫の姿には、深く感情移入させられましたね。

 エピローグでは、「真実の鷲」と称してジュウオウイーグルを讃えていましたが、これが真理夫さん一流のおとぼけ(要するに大和であることに気付いている)なのか、本当に何も知らないではしゃいでいるのかは判然としません。私としては、既に大和のみならず、セラ達の正体も知っているのではないかと思っているのですが...。

 ちなみに、今回はセラ達が真理夫の優しさと器の大きさを賞賛するシーンもありましたね。こういった細かい積み重ねが、真理夫とジューマンの関係描写を築いていくのだと思います。

大和

 真理夫さんの項では突っ込みませんでしたが、大和の父親があからさまに描写を避けられていて気になりますね。大和は家族というタームにも過剰反応しますし、何かあったとしか思えないようにリードされている節があります。この辺りは、中盤以降の仕掛けになっている可能性も高く、楽しみなところです。

 今回の大和は、真理夫が誘拐されたことで取り乱し、いつもの「人間代表」としての落ち着きが失われてしまいます。これについては意外だなと感じた次第ですが、それだけ真理夫の存在感は大和にとって重く深く大きいものだと印象付けられることになりました。裏を返せば、セラ達の家族譚での落ち着き払った態度を思い返すに、やはり他人事と自身のことは無意識に区別しており、彼も聖人君子ではないということまで明らかになったと言えます。大和の「だってオレのおじさんだよ!?」というセリフ、そして一瞬面食らってなだめ始めるセラ達。このシーンは大和の「厚み」を増す意味で、すこぶる好印象でした。

 真理夫を助けるために自ら囮となる作戦では、ニワトリのコスプレで奮闘。鳴き声も含めてこれが実にコミカルなシーンなのですが、大和の内面の切迫度が既に視聴者に伝わっているので、妙な緊張感が漲っており、可笑しいのに笑えない、見守るしかないといった心持ちにさせてくれます。硬軟の取り回しが実に巧みで、素晴らしいシーン設計ですよね。

追加戦士

 今回は、前回予告での真理夫さんのビジュアルが強烈だったので、バラエティ編に徹するのかと思っていましたが、まさか追加戦士(方々で雑誌バレ等しているので、こう表記します)の誕生譚になっていたとは...。こういったところが「ジュウオウジャー」の油断ならないところなんですよね。ジューマン三体分のパワーを注がれるシーンはなかなかショッキングでした。

 それにしても、ジニスはジューマンがどのような存在であるかを、既に把握していることになりますよね。実はジューランドに関しても狙っているのではないかと思える節もあったり。

 この追加戦士らしき人物、予告では最強の敵といったポジショニングになっているようなので、これまでシンプルな善悪対決構造で推移してきた今シーズンを、色々な意味で引っ掻き回してくれそうです。あんまりドロドロしないで欲しいところではありますけどね...。