epic10 「ハイドの相棒」

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 ハイド編ですよ。

 ハイド編ということで、冷静沈着、抜群の状況分析、堅物…といった要素を前面に出して展開するのかと思いきや、何とそのクールな表面に多い隠された激情を暴露するというストーリーに。

 シーイック族だけが二人体制じゃない理由を描くというのが、今回の目玉だったようですが、その部分に関する回想シーンはかなり少なく、残念ながら驚きはさほどでもありません。

 その、今は亡きハイドの相棒・マジスですが、いきなりゴセイグリーンを登場させる(この数秒のシーンの為だけにスーツを作ったのか!?)など、なかなか凝った演出を見せてくれて、印象は充分。しかも、キャスティングは伊藤陽佑さん。そう、「デカレンジャー」のセンちゃんですよ。センちゃんも緑の戦士・デカグリーンでしたから、サービスをかなり意識したキャスティングですね。

 もう一つのトピックは、さかなクンを登場させたこと。

 私は昔、このキャラがどうも受容出来ませんでしたが、今や充分アカデミックな地位を確立した立派な方ですから、現在はすっかりリスペクトしています。全く以て想像の域を出ませんが、同じテレ朝絡みで「ドラえもん のび太の人魚大海戦」のアピールを意識しているのではないでしょうか。

 続きでは、主に本編で不明瞭な点を補完してみようかと。



 今回のウォースターの刺客は、ルビーウ星人・5000℃のクラスニーゴ。元ネタは多分「クライシス2050」です。クラスニーゴという語感からは、他のタームの影響を感じませんが、もしかしたら何かかけてあるのかも知れません。

 そのクラスニーゴは、天の塔が破壊される前から地球沸騰作戦の準備を進めてきたという設定で、人知れずシーイック族のハイドとマジスが、それを迎撃していたことが明かされます。クラスニーゴは、「護星天使を一人倒している」という点で示される通り、非常に強力な星人であり、初戦ではハイドの単独行動もあって、ゴセイジャーを軽く退けています。

 クラスニーゴの展開する地球沸騰作戦は、当然ながら海がターゲット。海水温の上昇については、さかなクンの講義(?)にも関連してくるのですが、このあたりは後ほど。

 さて、ハイドにとってクラスニーゴは、マジスの仇。後の文脈からすると、マジスは地球の海を何としても守らんがために、自らを犠牲にしてクラスニーゴを(一時的に)倒したということが分かります。ハイドが激昂するのも無理はありませんが、マジスの本意は護星天使としての使命の全うであり、ハイドはマジスの死、即ちパートナーの喪失という事実のみに目が行ってしまって、マジスが死を以てハイドに託した使命感を忘却してしまっているわけです。

 ハイドはいつもロジカルでクールなスタンスですが、そこが崩壊する部分にダイナミズムがあります。この傾向は色々なヒーローに見られるもので、「宇宙刑事シャリバン」では、シャリバンが動物虐待の現場に遭遇すると我を忘れて怒り狂ったり、「宇宙刑事シャイダー」では、常にロジカルな思考を持つシャイダーが、父親の事となると自制しつつも判断を誤ったりしました。今回のハイドもその典型ですが、「ゴセイジャー」の特徴である三種族構成をうまく対比させて、ハイドの「機嫌の悪さ(←これ重要!)」を強調しているのは、なかなか巧いですね。今回は、この「ハイドの暴走」によって、ハイドのキャラクター性が揺らぐ処に、危機感を感じさせます。ハイドを欠いてゴセイジャー自身に危機が及ばないあたりは、やっぱり楽天的な作風ですな。

 このハイドの暴走をどう解決していくのか。そこには予想だにしない展開が待っていました。

 そう、さかなクンです。

 天知博士との噛み合わない会話。だけど二人は大の仲良しという雰囲気を見て、アラタは一計を案じます。ここでアラタを持ち出してくるあたり、レッドとしての存在感を独特の語法で描いていますね。

 そのアラタの案とは、ハイドをしばらく「さかなクン博士」に付き合わせること。

 アラタは、さかなクン博士に関して「何か感じない?」と呟きましたが、これについては殆ど説明されません。ハイドが天使だと知っている等、さかなクン絡みの色々なシーン等から解釈するに、さかなクンはメタな存在、つまり「ゴセイジャー」という番組の外から来た、「ゴセイジャー」という番組を客観的に視聴出来る存在であり、アラタ的にはマスターヘッドに通じる超越性を感じ取ったわけです。

 この傾向は、さかなクン博士による海水温の上昇の話からも伺えます。

 海水温の上昇は、「ゴセイジャー」という番組の中ではクラスニーゴの活動によるものであるのは明白ですが、「クラゲスパイラル」など、語られる内容は、番組外の世界である我々の住む世界で起こっていることを説明しているに過ぎません。つまり、さかなクンは、番組中でハイドに海を守ることの大切さを説くという役割を担っているように見えますが、基本的には海の現状に対する危機感を、視聴者に発信する立場なわけです。

 アラタは、ハイドに超越者を引き合わせることにより、ハイドの本来有している巨視的視点を、再度復活させようとしたと言えるでしょう。

 この後、ハイドは自分の使命を再び思い起こすことになります。初戦では全く歯が立たなかったクラスニーゴに対しても、タクティカルな戦闘指示を以て迎撃が可能になりました。

 ハイドは何故いきなり強くなったのでしょうか。

 ここで採用したい解釈は、唯一つ。それは、ハイドが使命感を取り戻したことで、本来の冷静な状況判断能力を回復しただけでなく、マジスがハイドに託した「地球の海を守る」という遺志を、ハイド自身の力としたこと。ハイドの相棒は、ハイドの心の中でいつでも力を貸してくれる。そして、アクチュアルな相棒は、たとえシーイック族でないにしろ、志を同じくする護星天使のアラタ達が居る。これが、ハイドのパワーアップの要因でしょう。

 少々クサい解釈ですが…(笑)。全体的にライトな作風なのはいつもどおりなので、こんな風にドラマティックに解釈するのも一興です。

 なお、巨大戦では珍しく水を張ったセットが登場。海岸での巨大戦という、非常に面白い画が完成しています。セットもなかなかに精緻。ミニチュア特撮の良い面が前面に出ていたような気がして、嬉しい気持ちでいっぱいでしたよ。

 この回は、スーパー戦隊シリーズ 天装戦隊ゴセイジャー VOL.3 [DVD]に収録。