第13話 風のマリナ

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ストーリー

 八幡が岳の山中で、夜中にキャンプ中の男が怪獣に食われた。

 翌日、オフのマリナはカドクラとツーリングに出かけた。グランプリ予選で惨敗したカドクラを励ますために、マリナが誘ったのだ。マリナとカドクラはツーリングを存分に楽しんでいる。カドクラはふと「GUYSで無理をしてないか」と尋ねる。その意図が分からないマリナは、人が崖から飛び降りるのを目撃。カドクラと共にその行方を追った。

 崖の下には昨晩襲われた男のリュックが落ちており、カドクラが中を改めようとした途端、女に投げ飛ばされた。カドクラを「泥棒かと思った」と言う女に対し、マリナは「訂正しなさいよ」と詰め寄る。それを見て、女はマリナを知っているかのように振舞う。彼女の名はサワキ リンコといい、GUYSの適正試験会場でマリナと出逢っていたのだ。

 マリナはリンコにGUYSでの近況を語る。リンコは今度チョモランマに挑戦すると言う。崖から飛び降りたように見えたのは、ロープで降りただけだったのだ。リンコは崖の途中で引っかかっているリュックを不審に思い、それを改める為に崖から降りたのだった。その不審感は的中した。今度は猟師が怪獣に食われてしまったのだ。マリナ達が遺された猟銃を見つけた時、怪獣は出現した。マリナがGUYSに連絡を取るものの、通信は不能だった。

 その頃、GUYSスペーシーは八幡が岳一帯にピエゾ効果による電界異常が発生しているのを確認していた。コノミはマリナとの連絡が不通になっていることを確認する。一方、洞穴に逃げ込んだマリナは、怪獣の画像をメモリーディスプレイのアーカイブに照会。怪獣がムカデンダーであることを確認した。洞穴を行く最中、マリナがリンコに、CREW GUYSの仲間について嬉しそうに語るのを見て、カドクラは複雑な思いを抱く。洞穴のもう一方の出口から出たとき、地中よりまたもやムカデンダーが出現。マリナがポーチを探ると、コノミによって配布されたミクラスのカプセルがあった。マリナはメテオールの特例を適用してミクラスを実体化させる。

 ミクラスはマリナの声援を受けて善戦し始めるが、制限時間経過で消滅。怒ったムカデンダーは火炎弾を吐いて攻撃、リンコが負傷してしまった。危機的状況を打破する為、マリナがその優れた聴覚で川のせせらぎを聞き取り、元の場所に戻ることに成功した。しかし、またもムカデンダーは追って来た。マリナはバイクを疾走させ囮となる。容赦なくムカデンダーの火球が襲うが、マリナはその軌道を聞き分けて回避していく。カドクラがマリナに対して懸念していた、聴覚故に土壇場で尻込みしてしまう弱点も、CREW GUYSのメンバーの声援を風の中に感じたマリナは見事克服し、ムカデンダーの火球を全て回避しきった。

 ミクラスの反応を感知して、戦地に到達したミライは、ウルトラマンメビウスに変身。同じく到達したリュウの乗るガンウインガーの援護を受けて、ムカデンダーに立ち向かう。ムカデンダーの分離能力に翻弄されるも、マリナの声援を受け、メビュームシュートを決めて勝利。しかし、メビウスの背後からムカデンダーの首が襲撃を図っていた。そこへウルトラマンヒカリが現れ、首をナイトシュートで粉砕。「まぁた、おいしいとこ持って行きやがった」とリュウは呟いた。

 一件落着後、カドクラは、マリナをチームに戻るよう説得するつもりだったと告白。しかし、カドクラはGUYSの仕事を好きでやっているマリナの姿を見て、既に諦めていた。「頑張れよ」とマリナに告げるカドクラに、もう未練はないようだ。

解説

 ツルギの物語にひとまず決着が付き、前回のトリヤマ補佐官を起用してのコメディ編で一息ついたところで、再度CREW GUYSのメンバーにスポットを当て、別の面からキャラクターを掘り下げていこうという意図が垣間見られる一編。

 まずは、マリナ編が登場だ。

 CREW GUYSのメンバーは、それぞれが特技を持ち、個性が強いため、話の組み立て方が一辺倒になってしまう危険性をはらんでいる。今回は、マリナにスポットを当てつつも、既に何度も語られた聴覚への言及は、ストーリーの流れを作るためのツールとして機能し、しかもマリナの個性を際立たせるファクターとしても機能。特技に関するシーンがしつこさを伴わず、キャラクターを立てるドラマが成立している。エピソード全体が自然な流れを形成しており、秀逸な構成だと言えるだろう。

 今回は、CREW GUYSのメンバーが、既に「分かり合える大切な仲間」として成立した上での話だというのも大きい。1クール弱の期間をかけ、団結の過程での苦悩を常に描いてきたメビウスだが、ここで大きく飛躍したようにも思える。それは、CREW GUYSのメンバーがマリナ以外殆ど登場せず、カドクラやリンコといった、マリナのプライベートに関するキャラクターによって尺の大部分が占められていることに顕著だ。清水あすか氏のゲスト出演というイベント性を度外視すると、リンコのポジションは曖昧だが、CREW GUYSの面々を楽しそうに紹介して聞かせる機会を、マリナに与えただけでも有意義だ。

 今回のマリナにはレーサーへの未練が微塵もなく、むしろマリナへの未練を抱くのはカドクラだ。これまでの流れからすれば、ドラマ的にマリナのレーサーへの未練を題材にするのが大方の予想範囲だが、良い意味で裏切られた。既に、マリナの精神的な面でのCREW GUYSに対する適応は完成している。しかも驚いたことに、CREW GUYSの使命感や仲間との共感が、レーサーとしてのマリナを上位のステージへと上らしめる。以前は、レーサーとしての経験やプライドが、CREW GUYSとしてのマリナに投影されていたのに対し、今回は、CREW GUYSにおけるアイデンティティが、レーサーとしてのマリナの資質に好影響を及ぼしたのである。

 つまり、これはネガティヴな感情をポジティヴに向ける作業を繰り返してきたCREW GUYSの、次なるステージへの第一歩を示していると言える。チームがある程度完成した今(実際に、以前ディノゾールをいとも簡単に撃破している)、個人の更なる成長物語を紡ぐことにより、その個人的成長がチーム全体の成長を促すという、大きな流れを作り出そうという意図が垣間見られる。

 さて、登場怪獣はツウな匂いのするムカデンダーだ。数ある妖怪的なタロウ怪獣の中でも、その特異なシルエットは抜群の存在感。人間を捕食する様子が、(その場面自体はボカされているものの)かなりストレートに描写され、ウルトラマンタロウで見られた類の恐怖感が、見事に再現されている。特に洞穴に逃げ込んだマリナ達から見える、長い首のシーンは秀逸だ。分離攻撃もしっかり再現され、カドクラのセリフではないが「常識を超えた」タロウ怪獣の魅力を、改めて認識できる最良の素材と言えるだろう。

 分離攻撃が登場した時点で、怪獣2体分換算を相手にすることとなるメビウス。ここでヒカリが登場し、2体換算分のハンディを解消するかと思いきや、メビウスが単独で倒してしまう。ところが、いかにもこれで一件落着的なムードにしておいて、ムカデンダーの首の奇襲を描き、ヒカリが突如登場してこれを粉砕する。このような二度にわたる仕掛けにより、前回のようなヒカリ登場の蛇足感を打破しているのが非常に面白く、感心した。ムカデンダーという題材も相まって、「お見事」と喝采を贈りたくなるシーンであった。ヒカリの登場シーンの工夫は、これからもささやかな楽しみとして期待しておきたい。

データ


監督

村石宏實

特技監督

村石宏實

脚本

長谷川圭一