第23話 時の海鳴り

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ストーリー

 思い出話に花を咲かせながら新興住宅街を歩く人々に、突如「海鳴り」が聞こえた。その場に居た人々は、思い出の時代へと運ばれてしまう。

 警察からマリナに、郊外で発生している謎の集団失踪事件の捜査協力の依頼が入った。事件発生時に奇妙な音が聞こえたという証言があり、マリナの聴覚を頼ってきたのだ。待っていた刑事は桐李(トーリ)と名乗った。マリナは何故かトーリに懐かしさを覚えた。

 トーリとマリナが捜査の途中、休憩を取っていると、うまく紙飛行機を飛ばせない少年たちがやって来た。マリナは飛行機を上手く飛ばして見せる。子供の頃、飛ばし方を祖父に教えてもらったというマリナ。マリナにとって、祖父はその夏に亡くなるまで一番の友達だったと言う。その時、マリナは海鳴りの音をとらえた。次の瞬間、周囲の景色が変わり、7年前のポスターが目に入った。ここは過去の時間なのだ。時を操る怪獣・クロノームの仕業だとトーリは言う。

 その頃、マリナの弟が荷物を届けにフェニックスネストへとやって来ていた。応対したミライがマリナの幼少時代を尋ねると、「最強。泣いたの見たことない」という答えが。しかし、マリナの祖父が亡くなった夏、一度マリナの布団が空っぽになっていた夜があったという。朝起きて夜中の居場所を尋ねると、マリナはずっと寝ていたと答え、白い孔雀の夢を見ていたというのだ。不思議な話に聞き入るミライの元に、テッペイから連絡が入った。トーリは刑事ではなかったのだ。

 トーリは地球に移住してきたアンヘル星人であった。クロノームに母星を滅ぼされた彼は、クロノームの恐ろしさをマリナに伝える。一方ミライは超感覚によって時の継ぎ目を発見。マリナの存在する時間へと飛び込んだ。トーリはマリナの危機をミライに伝える。クロノームは、聴覚によって自らの居場所を探すことのできるマリナを邪魔とし、消去する為に過去に引きずり込んだのである。

 マリナは「あの夏」の風景を懐かしんでいたが、ふと少女時代のマリナに遭遇する。少女時代のマリナが、クロノームに狙われている。トーリからそれを聞いたミライは、マリナにその夜どこへ行ったかを思い出すよう促した。その夜、少女時代のマリナは泣くのを我慢し茫然自失していた。トーリはそんな少女時代のマリナに優しい言葉をかけて励ましたのだった。マリナは遂にその夜の出来事を思い出した。クロノームの攻撃を受けるトーリの前に立ちはだかり、トライガーショットで迎撃するマリナ。怪我をして気を失った少女時代のマリナは、トーリの持つスカーフで手当てを受けた。

 そこへウルトラマンメビウスが登場し、クロノームを迎え撃つ。メビウスを援護する為に戦地に走り寄るマリナは、トーリが落としたボタンを見つけ、思わず立ち止まってしまう。そこをクロノームは攻撃しようと迫るが、トーリは「白い孔雀」のような姿となって、マリナを庇った。「海鳴りの音を消すんだ!」トーリの叫びに答え、見事クロノームの触角を打ち抜くマリナ。少女時代のマリナにトーリは「これは夢なんだ。君は夢の外へ帰らなければならない」と告げ、みんな忘れるように言う。メビウスはメビュームシュートでクロノームを打ち破った。しかし、トーリは光の粒子と化して消滅してしまう。現代に戻ったマリナは、涙を拭って任務に戻った。

 次の日、弟から荷物を受け取ったマリナは、あの時、トーリが怪我の手当てに使ったスカーフを見つける。「会えなくても、大切な人は側に居てくれる」マリナはそう心の中で呟いた。

解説

 前回で怪獣の出現ファクター(つまりボガール)は一掃されたという設定になり、次なるファクターを求める前の挿話として制作されたマリナ編。これまでのマリナ編はどれも評価が高かったのだが、今回は「ウルトラマンメビウス」というシリーズにおける異色作でありつつも、やはり高い評価を与えられて然るべきエピソードであろう。

 展開されるストーリーは、「思い出」「タイムパラドクス」「ファンタジー」という要素が強く主張する、典型的な太田脚本であるが、マリナの聴覚が生かされたり、マリナの家族にスポットが当たったり、ミライの宇宙人らしい能力が描かれたりと、シリーズの一編として完成度の高い筋運びを誇る。

 今回気付くのは、マリナとミライ以外のレギュラーメンバーの出番が、極端に少ないことだ。勿論、マリナとトーリの交流に絞ることで、エピソード内の重要な要素を語りつくす意図があってのことである。クロノームに対する攻撃にも当然参加しておらず、いかに今回がメビウスにおいて異色であるかが分かる。しかし、極端に少ないことを逆手に取ってか、冒頭の全員集合シーンは強烈な演出がなされている。特に目立つのは、リュウがジョージにプロレス技をかけている一幕。当初は水と油だった二人が、ここまで打ち解けているということを表現した貴重な(?)シーンだ。

 さて、本エピソードは割と難解な構造を有している。上手く紐解く為に、マリナを取り巻く要素を一つずつピックアップしてみたい。まずはトーリ。善良宇宙人の典型とも言うべきキャラクター造形である。演ずる大浦氏の誠実な印象も相まって、実に印象的なキャラクターである。マリナが思い出せない、祖父が亡くなった夏の記憶。マリナの強さ。これら二つの要素の源は、このトーリである。前者はトーリの暗示によって思い出し難くなっている為であり、後者はこの時のトーリの励ましの言葉が生きている為だ。前者と後者は一見矛盾しているように見える。きっかけとなった出来事を忘れさせられたのに、何故強さを備えることができたのか、という点でだ。だが、よく本編を見てみると、少女時代のマリナは祖父が亡くなる以前から、強い人であろうと努力してきたのであり、祖父という存在の喪失がそれを打ち砕こうとしたことが分かる。つまり、トーリは「そっと」それを食い止めたのだ。マリナは元来強い人物ということなのだ。

 続いてクロノーム。この怪獣は、エピソードの構造を担う存在故に難解だ。その存在理由や星を滅ぼす意図・目的といったものは一切分からない。このような「何だか分からない存在」にしては、造形が派手で珍妙な感が強い為、少々アンバランスな印象は否めないものの、時間移動に関するエクスキューズをある種のファンタジーとして描いている節がある為、違和感はない。ただ、冒頭でトリヤマ補佐官がわざわざ「怪獣はもう現れない」という宣言をしているため、何故地球に現れたかぐらいは説明が欲しかったところだ。トーリを追って来たというありきたりな説明があっても、それほど違和感はなかったように思える。

 最後にミライをピックアップしてみる。前々回、前回を経て、ミライのオリジンが描かれたことによってかよらずか、ミライの宇宙人としての符丁がより強く描かれているようだ。特に印象的なのは「時の継ぎ目(この言い回しは非常にファンタジー寄りだ)」を発見する際の眼光だ。目をピカッと光らせて透視能力等を発揮する様の、ウルトラシリーズでの初出は、勿論「ウルトラセブン」のモロボシ・ダン。その後「ウルトラマンレオ」のおゝとりゲン、「ウルトラマン80」の矢的猛と続く。もうお分かりであろうが、このテの演出が登場するのは、ウルトラマンが人間に憑依せず、直接人間に変身しているパターンのみであり、非常に宇宙人的な演出ということになるだろう。一見大した要素ではないように見えるが、過去の時間においてメビウスが出現するための、スムーズなギミックとして効果的に使用されており、スキのない演出として評価に値しよう。ウルトラマンメビウスとしての、ライティングの妙が生きた幻想的な夜景でのバトルシーンにも注目したい。

 では、マリナ本人はどうだろうか。今回感心したのは、マリナの聴覚についての言及が、現在・過去共に重視されている点だ。現在では、その聴覚を頼りに警察が捜査協力を依頼してくる。既にカザマ・マリナ隊員の優れた聴覚は市民の知るところとなっているようだ。過去においては、祖父より紙飛行機を教わるというくだりで、祖父の聴覚も優れていたことが示され、マリナの聴覚に関する設定はかなり深い部分まで確立されたと言っていいだろう。そして、終幕でのトーリの死に対する涙を拭い、助かった人々に声をかけていくシーンが白眉。「絶対泣かない」というマリナの弟のセリフとがコントラストとなり、実に印象的ですがすがしいシーンとなっていた。マリナは一度ベムスター戦で涙を見せたことがあり、それがほんの少しだけ説得力をスポイルしているのが、少々残念。だが、それは些細なことだろう。

 予告では、ヤプール復活が告げられた。ボガールによる怪獣編と、ヤプールによる超獣編の間にそっと差し入れられた、静かな感動に浸っておきたい。

データ


監督

アベユーイチ

特技監督

アベユーイチ

脚本

太田愛