第33話 青い火の女

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ストーリー

 テッペイの先輩・タカムラが、テッペイに力を貸してくれと言う。タカムラは、妹が悪魔にとり憑かれたと主張。タカムラの話によると、一週間前の夜にタカムラたちが海に出かけた際、空から飛来する青い火の玉に遭遇。その後、ミサがパニックに陥ると必ず周囲に炎が上がるようになったという。タカムラの妹・ミサに、実際に助けを請われ尻込みしてしまうテッペイ。そこへ霊媒師を名乗る男が現れ、ミサにムジナが取り憑いていると吐いた。高額な除霊グッズを売ろうとした霊媒師に反発し、テッペイは思わずミサを治すと言ってしまう。ミサが強引に近付く霊媒師を恐れ、悲鳴を上げた途端、霊媒師の持つ除霊グッズの袋が燃え上がった。

 炎を発生させたのは、ミサの体に寄生した何かだと睨んだテッペイは、その解明に勤しむ。テッペイが足しげくミサの病室に通う様子を覗くミライ、リュウ、ジョージ。見つかって慌てる彼らを見て、ミサは初めて笑う。テッペイはミサに惹かれていた。

 その夜、工業地帯にフェミゴンが出現。直ちにCREW GUYSが出動しフェミゴンを攻撃したが、フェミゴンはすぐに消えてしまった。フェミゴンは本来不定形な人魂のような存在で、人間に憑依することで初めて実体化する宇宙怪獣だということを思い出したテッペイは、すぐにミサの病室へ向かう。ミサは、青い炎に包まれて記憶を失ったと言い、フェミゴンが攻撃を受けた箇所-右肩に傷を負っていた。ミサはテッペイにすがり付き「本当に助けてくれますか?」と懇願する。

 テッペイが調査したところによると、フェミゴンの同種属は、かつて防衛チームMATの女性隊員に憑依したことがあるという。ウルトラマンがフェミゴンを倒した際、その女性隊員は無傷で分離して助かったようだが、今回はフェミゴンのダメージがそのままミサに及ぶ可能性が高い。テッペイは解決策を見つけ出そうと焦る。しかし、ミサは再び病室から消え、フェミゴンが第一コンビナートに出現した。サコミズ隊長は、このまま放っておく訳にはいかないとし、CREW GUYSを出動させる。破壊の限りを尽くすフェミゴンに手出しできないCREW GUYSを案じ、ウルトラマンメビウスに変身するミライ。メビウスはフェミゴンの破壊活動を抑止しようとするが、災害著しいコンビナートの悲鳴を聞き、メビュームシュートを放とうとする。テッペイは必死に叫んでそれを制止した。

 テッペイは光線を放とうとしたミライを責める。「ミライ君は正義を守るウルトラマンだからね。でも僕は彼女を守る。僕は人間として彼女を見捨てることは出来ない」そう言ってテッペイはミサの病室に向かった。自らの無力を嘆くテッペイの元に現れたサコミズ隊長は、テッペイを外に連れ出すと、「医者も悲しい結果を受け止めなければならないこともある」と言って諭す。「どんな結果が待っていようと、諦めず精一杯頑張る。人の命を守るということは、そういうことじゃないのかな」サコミズ隊長のその言葉を聞いて、テッペイはミライに謝罪し協力を請うた。

 ミライの協力によってテッペイが完成させた「スピリット・セパレーター」は、メビュームシュートと融合させることでフェミゴンとミサを分離させることが可能なメテオールだ。完成を喜んだのもつかの間、ミサは再びフェミゴンへと姿を変えた。コンビナートを襲撃するフェミゴンの元に向かうメビウス。テッペイも現場に向かった。

 フェミゴンの巨体に圧倒されるメビウスだが、何とかフェミゴンを押さえつける。テッペイは、「最後の最後まで僕は諦めない」という決意の元、スピリット・セパレーターをインストールしたメテオールショットを構える。見事命中させたテッペイが合図を送り、メビウスがメビュームシュートを放つ。フェミゴンは爆発と共に光を放って消失した。

 ミサの退院の日、テッペイは正装してミサを出迎えた。駆け寄るミサに喜色満面のテッペイだったが、ミサが飛び込んだ先は、別の青年の胸だった…。その後、ミサはフェミゴンが憑依している間の記憶を一切失っており、テッペイのことは全く覚えていないということが分かった。テッペイは、ベストを尽くして彼女を救ったことで十分だとミライに告げる。「たとえ何の代償がなくても、最後まで頑張る。医者もGUYSも。それに、ウルトラマンもね。」

解説

 インペライザー編に続き、円盤生物、怪獣使いと高いテンションを保ってきたのを受け、正直どうかと思っていたが、なかなかの傑作エピソード。

 純粋にテッペイ編であるが故に、テッペイの視点ならではのウルトラマン観・怪獣観を描き出しており、完成度の高い一編として成立している。

 まずは主役であるテッペイの見所から。

 冒頭はいきなり医学部のシーンだ。普段あまり描かれることのなかったテッペイの大学生活を垣間見ることが出来る。GUYSに所属しつつ、ちゃんと勉強していることがはっきりと示されており、テッペイの凄さを目の当たりに。続いて、パイロキネシス(念力発火能力)を現象として目撃したことで、すぐさまその解明に興味を示す。このあたりは「怪奇大作戦」に登場する牧史郎のキャラクター設定に非常に似ている(そういえば、今回のタイトルも怪奇大作戦・第7話「青い血の女」によく似ている)。ただし、ミサに実害が及ぶことで、医者のタマゴとしての使命感を燃やし、彼女の為に一生懸命になるところは、牧とは異なる部分だ。テッペイとミサが絡む一連のシーンは、それがテッペイの魅力であることを伺わせる。

 そして、テッペイは今回、最も戦慄すべきセリフを吐く。それは「ミライ君は正義を守るウルトラマンだから」というセリフだ。まず字面だけ読み取れば、特に何の問題もないセリフである。ところが、テッペイは明らかにミライを非難している状況下でこのセリフを発している。すなわち、これは皮肉を込めて発せられたセリフなのだ。「正義」という言葉が皮肉の意味合いを含み、しかもテッペイの言う「人の命」とは対極の意味を持たされている。

 映画「ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟」でハヤタがミライに言った「ウルトラマンは神ではない。守れる命もあれば、そうでない命もある」というセリフを考えたとき、テッペイは「守れない命」に執着しているとも考えられる。が、ハヤタの言葉も真実である故に、テッペイは個人的な視座でウルトラマンに対して過剰な期待と依存心を抱いていたとも言えるだろう。

 あの状況下での、「ミライ君は正義を守るウルトラマンだから」というセリフは、ある意味ウルトラマンのイデオロギーに対する挑戦だ。だが、このエピソードはそのセリフを拍手喝采で迎えられるシチュエーションを用意しない。メビウスは、フェミゴンを倒そうとする直前に、被害にあって苦しむコンビナートの人々を目撃している。この時点では、メビウス=ミライの視座はこの作業員たちにあった。テッペイの視座はミサにあった。ただそれだけの違いなのだ。そして、このギャップを解消したのは、またもやサコミズ隊長であった。

 ここでサコミズ隊長は、ハヤタのセリフに非常に近似した論旨で、ウルトラマンを医者に置き換えてテッペイを諭している。少々飛躍した見方かも知れないが、このサコミズ隊長の言葉により、テッペイは自らの視座をウルトラマンの方へと近づけたのではないだろうか。これまで重火器のイメージが皆無だったテッペイが、片手でメテオールショットを放つ勇姿は、それを象徴しているように思える。

 エピローグでの、お決まりのオチはちょっと救いがないように思えるものの、テッペイのキャラクターを考えれば、まあ相応しいものだろうか。ここではジョージのヘアスタイルを真似ていて、なかなか面白いシーンに仕上がっている。

 さて、テッペイ以外のトピックとして、まず挙げられるのはフェミゴンだろう。フェミゴンとは、またマイナーな怪獣を登場させたものだが、ナイトシーンの多用やコンビナート襲撃以外には、これといったオマージュ的引用が感じられない。ミサが石油臭いとか、GUYSの計器類を故意に触るとか、そういったあからさまな引用がなかったのは、ある意味英断であり、ミサを演じる斉藤氏の演技と魅力を生かす方向で結実したと言える。スピリット・セパレーターとメビュームシュートの共同作戦により、フェミゴンが散った後、場面転換をいきなりミサの退院シーンにするのもいい演出だ。ただ、細かいところを指摘するならば、オリジナルのフェミゴンはウルトラブレスレットによって倒されており、「光線に含まれる素粒子」云々というスピリット・セパレーターの説明は少々考証不足の感がある。

 また、これもフェミゴン絡みになるが、コンビナート襲撃シーンを初めとする特撮シーンでは、炎が多用され、印象的な破壊シーンを生んだ。特に、コンビナートを炎が包んでいくシーンは圧巻で、コンビナートのタンクの蓋が飛ぶカットは往年のウルトラにおける破壊シーンを彷彿とさせて嬉しい。やはりナイトシーンで炎が上がるのは美しい。

 もう一つ、霊媒師として登場した赤星昇一郎氏を挙げておこう。ウルトラマンティガでオビコとして登場以来、一度見たら忘れられない風貌でファンに人気の高い俳優である。近作ではウルトラマンマックス・第20話「怪獣漂流」で仰天の七変化を見せてくれたが、今回もいかがわしさ抜群の霊媒師を好演。姿を見る度に嬉しくなる貴重な常連さんだ。

 冒頭から中盤までは、ウルトラシリーズにおける怪奇路線を明るいタッチで展開し、後半から一気にウルトラマンの正体を知っているからこその、メビウスならではの展開に突入する構成は、圧巻の一言。伝統と新味を高次元で融合させた点で傑出したエピソードだったと言えるだろう。

データ


監督

小原直樹

特技監督

菊地雄一

脚本

長谷川圭一