第36話 ミライの妹

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ストーリー

 郊外に怪獣アングロスが出現。CREW GUYSが攻撃を加えるものの、アングロスは地面を掘り、地中に逃げてしまう。帰還の途中、ミライは道端に倒れる少女を発見。フェニックスネストへと連れて帰った。少女は自分を、CREW GUYSのメンバーの前で、ミライの「妹」と称した。

 妹というのは勿論事実ではなく、サイコキノ星人が非常に悪戯好きな種族である故にそんなことを言ったのだろうと、ミライは推測した。サイコキノ星人は星々を渡り歩き、超能力で悪戯を繰り返してきたという。それを聞いたテッペイは、アングロスが泥人形のような組成で生体反応がなく、何者かによってコントロールされている可能性を指摘。その疑いはサイコキノ星人の少女に向けられた。「もしそうだとしても、僕がもう二度としないように言い聞かせます」と言うミライ。そこへトリヤマ補佐官とマルが現れ、少女の名前を尋ねた。咄嗟にリュウは「カコ」と名付ける。トリヤマ補佐官は、相次ぐ雑誌の取材に浮かれ気味で「宇宙人などいなくなってしまえばいいのだ」などと発言。その直後、トリヤマ補佐官はサイコキネシスに晒された。ミライはカコを連れ出し、超能力の使用を諌めた。「この星には、この星のルールがある。ここで過ごす以上、僕ら宇宙人はそのルールを守らなければならない」と諭すミライだったが…。

 テッペイは、カコがトリヤマ補佐官に対して使ったPK波が、アングロス出現前後に検出されていたものと同種であることを確認する。一方、ミライはサコミズ隊長に、カコのことで相談していた。ミライは、過去に地球に来た先輩が、地球の少年と兄弟になる約束を交わしたという話をし始めた。その出来事が、後に光の国で「兄弟」という言葉を特別視させるに至ったという。それ故、ミライは自らを妹と称したカコを信じたいのだった。サコミズ隊長はカコが宿泊できるよう、手配すると約束した。

 早速、CREW GUYSによるカコのの歓迎会が開かれることになった。カコは親切なメンバーたちに囲まれて微笑む。その様子をトリヤマ補佐官とマルが伺っていた。トリヤマ補佐官は強固な疑惑の念をカコに対して抱いているのだ。

 次の日の朝、トリヤマ補佐官とマルはカコを確保せんと企むが、カコのサイコキネシスがそれを阻む。トリヤマ補佐官は一時的に南極に飛ばされ、茫然自失。カコは「どうせ私たちは、どこへ行っても厄介者扱いしかされないんだ!」と吐き捨て、姿を消してしまう。

 カコが姿を現した場所には、別のサイコキノ星人達が待っていた。宇宙警備隊員に「兄弟」という言葉を使えば、無条件に心を開く。それを利用して、変身前のウルトラマンを倒してみせるというのが、カコの狙いだった。そこへ現れたミライは「生まれて初めてのことだったから、凄く嬉しかったのに」と告げる。対するカコは一人でミライを倒すと息巻き、さらにはウルトラマンになれと要求した。アングロスを出現させたカコに向かって、ミライは、GUYSの皆が親身になって心配してくれたこと、宇宙人であるか否かに関わらず接してくれたことを思い出すよう説得した。しかし、カコにアングロスを止める気はない。ミライはメビウスに変身する。

 カコはアングロスをより凶暴化し、サイコキネシスでメビウスを金縛り状態にした。成すすべなくアングロスによって首まで土に埋められてしまうメビウス。コノミはミクラスを実体化させ、援護する。「その力を、どうして違うことに使わないんだ」というメビウスの呼びかけに、カコは逡巡した後、そのサイコキネシスを解いた。動けるようになったメビウスは、メビュームシュートでアングロスを粉砕。それはやはり、テッペイが言うところの単なる「泥人形」であった。

 カコ達は、時空波に呼ばれて地球に来た、とメビウスに告げる。円盤生物や宇宙人は、その時空波に呼ばれ、メビウスを倒すために地球を訪れているというのだ。

 「優しさを失わないでくれ。弱いものをいたわり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする、その気持ちを失わないで欲しい。例えその気持ちが何百回裏切られようと」事件が終わり、サコミズ隊長はミライに向かってこう言った。その言葉はドキュメントTACに記録の残る、ウルトラマンの一員が地球を去る際に告げたものだという。

 地球を去ろうとしているサイコキノ星人たちは、次の悪戯の相談をしていた。「私たちの力、もっと違うことに使えるんじゃないかな」カコはそう仲間に告げ、ジョージにもらった一輪の花を見るなり「ありがとう、か」と呟いた。

解説

 「兄弟」という言葉が光の国では特別な意味を持つ…。その一節が心に残るエピソードである。しかしながら、ここのところ連発されてきた傑作エピソードの中にあっては、(一週ほど放送休止があって期待を煽られたこともあってか)やや印象の薄いエピソードとなった。

 本エピソードの縦軸には、サイコキノ星人の改心といったものがあると思われるが、まず、サイコキノ星人達が中学生くらいの少年少女の姿で行動しているところに、直截な描写の陳腐さが見え隠れする。例えば、ウルトラマン80の傑作エピソードである第12話「美しい転校生」には、同じく中学生の少女の姿をしたビブロス星人・ミリーが登場するが、この「美しい転校生」という話は中学生の少女でなければ成立しない。つまり、思春期の揺れ動く心理を巧みに描写することで、ストーリーを展開させていくエピソードであった。しかし今回は、単に未成熟な心理故に暴走する過激派という域を出ることはないわけで、カコはともかく、他のサイコキノ星人を中学生の姿にしてしまったことは、現代の中学生をあのような視点で捉えがちな穿った大人の視点を活写してしまっており、実に後味が悪い。

 また、カコの改心にしても少々強引で、CREW GUYSの歓待とトリヤマ補佐官が施した仕打を比較しても、明らかにトリヤマ補佐官の仕打が強烈なのは明らかである。さらには、そのトリヤマ補佐官に対する逆襲の念は、後から明かされる「兄弟という言葉を使ってウルトラマンを倒しに来た」という動機によって、まるで無意味と化してしまい、結局はカコの心情が何によって動いているのか、いま一つ不明確となってしまっている。カコ役の高宗歩未氏の演技が良いだけに、このあたりは少々残念だ。

 一方で、旧来のウルトラファン向けに散りばめられたネタは、オンパレード状態。ただし、それらが本エピソードのストーリーに、有機的な結びつきを果たしているかどうかについては、諸手を挙げて万歳を唱えるわけにはいかないところだ。以下は、それらを検証してみることにする。

 まずは、ミライがカコを諌めた際のセリフである。「この星には、この星のルールがある。ここで過ごす以上、僕ら宇宙人はそのルールを守らなければならない」というものだが、これは、ウルトラマン80の終盤(いわゆるユリアン編)で、エイティこと矢的猛がユリアンこと星涼子に対して何度か言い聞かせたことと同じテーマだ。テーマは同じだが、状況はまるで異なる。ユリアンはエイティの傍に居ることを目的として地球に来ている。一方、カコは悪戯をしに来ている(しかも、そのことはミライに知れている)。前提が異なるため、今回のセリフは上滑り感が高く、残念だ。

 次に、ミライの大先輩が地球人の少年と兄弟になる約束を交わしたというくだりである。これは、ウルトラマンAの後半で、「ウルトラの星」を見ることの出来る少年・梅津ダンが「ウルトラ6番目の弟」を自称するのに対し、ウルトラマンエースこと北斗星司がそれを認めるという図式が展開されたことを指す。ダン少年というキャラクターは、途中で自然消滅してしまうなど些か不遇な存在であるが、それをわざわざ「発掘」して見せるとは、なかなか手が込んでいて嬉しい。ただし、邪なツッコミであると認めた上で書くが、ウルトラマンAでは、その出来事以前にゴルゴダ星の事件やヒッポリト星人の事件において、「兄弟」の絆の深さを描いており、ダン少年の一件がそれを強固なものにしたとのエクスキューズには、かなりの違和感を抱かざるを得ない。

 続いて、エピローグでサコミズ隊長が言った「優しさを失わないでくれ」の一節だ。ウルトラマンA・第52話「明日のエースは君だ!」で、見事にヤプールの罠にはまり、正体を少年たちに明かさざるを得なくなってしまったエースが、地球を去る際、少年たちに告げた有名なセリフである。このセリフは脚本を手がけた市川森一氏のキリスト教観に根ざした、名セリフ中の名セリフとしてファンに認知されている。今回、このセリフをサコミズ隊長に言わせたのは実に的確な措置だったと思う。しかしながら「たとえ何百回裏切られようと」という部分が引っかかる。カコはミライを裏切っただろうか。確かに「兄弟」という言葉によって騙されたことは「裏切り」と言えるだろう。しかし、最終的にカコはミライの主張を理解したではないか。金縛りからの解脱は、その象徴として映ったではないか。エースは少年達の心にトラウマを作ってしまったが、カコはミライにトラウマを残していないように見受けられるのである。それゆえ、名セリフの浪費感がどこか喉元に引っかかるのだ。

 後は、ストーリーに直接関係ない小ネタである。トリヤマ補佐官が手にしていた雑誌の表紙には「ヒッポリト星人」(次回の「ウルトラの父登場」に対するサービスか)。テッペイがカコに差し出すドリンク類(商標関係で全て既存製品のラベルを差し替えてある)の中に、「ケプルスウォーター」の文字。サイコキノ星人の悪戯計画に「ミステラー星とアテリア星の戦争をもっと悪化させる」「バルダック星に雪崩を」。一応解説しておくと、ヒッポリト星人はウルトラマンA・第26話「全滅!ウルトラ5兄弟」と第27話「奇跡!ウルトラの父」に登場した、名高い宿敵。ケプルスは、ウルトラマンマックス・第37話「星座泥棒」に登場した怪獣の名前。「ミステラー星とアテリア星の戦争」というのは、帰ってきたウルトラマン・第49話「宇宙戦士その名はMAT」に登場した、当時既に30年間続いていた星間戦争のこと。まだ続いていたのか、と思わず笑ってしまう。「バルダック星の雪崩」は、帰ってきたウルトラマン・第39話「20世紀の雪男」に登場したバルダック星人に由来するものだ。

 ストーリーそのもの、テーマそのもの、また演出の完成度は及第点以上であると認められるが、ウルトラシリーズの印象的なタームを盛り込むことによって、大事な部分を引き裂かれてしまったような、そんな印象を残してしまったエピソードである。

データ


監督

村石宏實

特技監督

村石宏實

脚本

赤星政尚