第44話 エースの願い

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ストーリー

 フェニックスネストは航行不能となって月面に墜落。リュウの呼ぶ声が届いたのか、気がついたミライが目を開けると、何処かも分からぬ世界に居た。謎の世界を探索するも、先の戦闘でダメージ濃いミライは思うように動けない。その世界は、地球が滅亡した後の世界のようにも見えた…。ヒルカワは絶望の叫び声を上げ、GUYSを批判しつつミライをなじり、暴行する。ミライはそれでも、ヒルカワに手を上げるようなことはしない。

 そこへヤプールが現れ、ヒルカワを槍玉に挙げて「お前はこんな下等な人間共を守ってきたのだ」と囁く。ヒルカワをたぶらかし、ミライを殺させようとするヤプール。ヒルカワは見事その囁きに乗り、ミライを撃ち始める。ミライはバリアを張って銃弾を防ぐが、ヒルカワにバケモノ呼ばわりされてしまった。ヤプールは「それが人間の本性だ」と告げ、「人間に失望したと素直に言え」と迫る。ヤプールの囁きを断固拒否するミライ。見限ったヤプールは巨大ヤプールに、対しミライはウルトラマンメビウスに変身した。「GUYSと分断されたお前は、いつも通りには戦えない」そう言って勝利を確信する巨大ヤプールの前に、敗色濃いメビウスは手も足も出ない。

 一方、フェニックスネストでは、マリナが何者かの声を聞いていた。フェニックスネストを航行不能にした石柱を破壊するには、干渉フィールドの放射ポイントにギリギリまで接近すること。そうすればそのフィールドを無効化できるという。手段を告げてきた謎の声の主、その指にはウルトラリングが光っていた。フェニックスネストよりガンスピーダーを発進させるCREW GUYS。ところが、石柱の前にルナチクスが立ちはだかった。ルナチクスの猛攻を交わしつつ、石柱に接近するガンスピーダー。「皆、最後まで諦めるな」地球から、月面の戦いを応援する北斗星司の姿があった。

 孤独をあおり、猛攻を加えてメビウスを倒してしまうヤプール。アヤは「ウルトラマンは、絶対に負けない、白馬の騎士なんだから!」と叫んでメビウスを鼓舞するが、ヤプールの光線の爆風に晒されてしまう。そして、己の無力さをヤプールになじられ、メビウスはその眼から光を失ってしまった。

 「お前は一人ではない」北斗星司の声がミライの脳裏に響く。離れていても勝利を信じて戦っている仲間の存在を感じられるはず、と告げる北斗=ウルトラマンエースは、かつて共に戦った仲間との別れの経験をミライに語る。その仲間たる女性は月の人間であり、エースの戦いの半ばで、使命を終えて同胞の元へと帰って行かねばならなかったのだ。しかし別れてもなお、その女性の意志が北斗の中にあり、一緒に戦っていると実感出来たのだという。それがエースの戦う力となっていたのだ。「立て、メビウス。仲間達の思いと共に、ヤプールを倒せ!」北斗の言葉に奮起するミライ。

 メビウスは復活した。驚くヤプール。「心はいつも、仲間達と繋がっているんだ!」バーニングブレイブとなったメビウスは、ヤプールに猛反撃を加える。その頃、マリナは北斗とテレパシーで会話し、石柱の攻撃ポイントを詳細にヒアリングした。ジョージの一撃によって石柱の機能を無効化することに成功し、フェニックスネストは航行能力を回復、直ちに飛び立った。北斗は、「夕子、行くぞ!」と月面での戦いを決意。ウルトラマンエースへと変身した。

 瞬く間に月面に到達したエースは、ルナチクスと激闘を繰り広げる。CREW GUYSの援護を受け、必殺のメタリウム光線を打ち込むエース。同時に、フェニックスネストはフェニックス・フェノメノンを放ち、石柱を破壊した。さらに時を同じくして、メビウスがメビュームバーストをヤプールに炸裂させていた。「偉大なる皇帝に使えた四天王は、まだ3人残っている」という言葉を残し、巨大ヤプールは爆発四散。既に四天王の一人、デスレムが行動を起こしていた…。

 元の世界に帰ったミライとアヤは安堵する。ヒルカワも同様に帰還を喜ぶが、ミライがメビウスであることを、黙っているつもりはないと吐き捨て、ミライを睨みつけつつその場を去った。

 「ミライ、優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと。それが、私の変わらぬ願いだ」ミライにテレパシーで語りかけてくるエース。そんなエース=北斗の背後から、「星司さん」と呼ぶ声がする。その声は紛れも無く、かつて離れ離れになった南夕子の声であった。二人は再会を懐かしむ。二人の合わせた掌から、まばゆい光がほとばしった。

 一方その頃、「僕は、あなたのナイトですから」と言うミライの頬に、アヤがキスをした。慌てるミライの元へ、リュウから帰還の連絡が入った。

解説

 ヤプールの企みに立ち向かうGUYSとメビウス。そして遂に、メビウスはヤプールを粉砕する…では到底片付けられないエピソード。メビウスの物語を誠実に紡ぎつつ、ウルトラマンエース35年後の物語をきっちりと見せる。ダブルスタンダードの極致にして、最高の両立だ。

 まずはヤプールとミライ、アヤ、ヒルカワが1セットである。ヒルカワは、メビウスにおいては貴重な「ヒール」だ。ウルトラマンネクサスで最終的に最大の悪役となった加藤氏が演じているところに、面白い縁を感じてしまう。ヤプールの卑怯な精神攻撃は、このヒルカワを利用することによって行われるが、この描写はかなり辛辣だ。ヒルカワ自体が非常に下衆な人間として描かれている上、ヤプールにたぶらかされて銃をぶっ放し、挙句の果てにはミライを「バケモノ」呼ばわりする。この一連の流れは、帰ってきたウルトラマンやウルトラマンAで見られた、毒のある人間描写を思い起こさせるものと言えよう。さらには、ウルトラマンによって助けられたことで改心するというパターンすら打ち破り、ミライの正体というネタにのみ目を奪われるという結末を迎える。勿論それは、エースの有名な言葉(今回「最後の願い」が「変わらぬ願い」へ変更されているところに、また涙を誘われる)を生かす為だが、次回以降のストーリーにも関わらせようという意図が垣間見られる。このような、「1要素を丁寧に扱う姿勢」が素晴らしいシリーズ作品作りには欠かせない。

 ミライとアヤの関係は、非常にドライなものだが、それ故2人の急接近に違和感はない。今回のアヤは、むしろ仲間不在のミライを支える重要な役回りとなっていて、月面と異世界両面での展開をスムーズに運ぶための重要なポジションを保持していた。「白馬の騎士」というセリフは気恥ずかしくもあるが、あのような極限の状況で出る言葉として考えたとき、アヤの度胸の凄まじさを実感することが出来よう。

 一方ヤプールは、今回やっと巨大ヤプールとして本格的にメビウスと戦闘を繰り広げるわけだが、ウルトラマンAに登場した時とは、狙ったのか、大きく様相が異なる。ウルトラマンA登場時は、まさに異次元と呼ぶに相応しい「何が何だか分からない異空間」での戦闘であり、その戦闘は主に光線技の応酬であった。ところが今回は、異世界でありながら建造物立ち並ぶ「地に足の着いた空間」にて、主に格闘戦が繰り広げられたのである。この鮮やかな対比によって、新旧ウルトラの見比べという面白さを享受することが出来る。エースの戦い、メビウスの戦いそれぞれに魅力があることは言うまでもない。

 さて、ヤプールのやり口はウルトラマンAの「続編」たるに相応しいものであったが、「続編」であることをもっとはっきり示す要素がある。言うまでも無く、北斗星司そしてウルトラマンエースの登場である。

 残念ながら、おおとりゲンや矢的猛が登場したとき程の驚きと新鮮味はない。それは既に映画版で勇姿を見ることができたからに他ならない。しかしながら、それを補って余りあるインパクトが本エピソードにはある。その要因を探っていこう。

 まずは、北斗=エース単独出演という要素が挙げられるだろう。映画版ではウルトラ兄弟の中の一人として登場しているため、その個性が不足なく発揮されたとは言い難い。続いて、「分断作戦」というウマいステージに乗り、エースとメビウスが共闘しなかったことも重要だ。ルナチクスはエースが単独で倒している。メビウスの強さをスポイルすることなく、エースも存分に活躍する場が与えられたのだ。さらに、エース変身シーンに懐かしいバンク映像が使用されていること(映画版は新撮)、オリジナル主題歌のイントロが流れたこと(これまでの兄弟出演時は、権利問題によるものか、全て新録バージョンであった)、エースの掛け声に当時納谷悟朗氏がアテたものを使用していること(映画版では何故かオミット)が挙げられる。エースがエースたる為に必要な要素を、これでもかとふんだんに盛り込んでいるところに、ファンとしては感涙を禁じえない。

 そして勿論、極め付きは南夕子との再会だ。夕子との再会は、北斗だけのものではない。我々視聴者にとっても「再会」なのだ。35年を経た、ウルトラタッチの再来でもある。

 長らく、南夕子の存在は(ウルトラマンTの一部エピソードを除けば)「なかったこと」に近い状態であった。書物で言及されることはあっても、エースはやはり北斗であり、「北斗と南」ではないのだ。エースファン、特に夕子ファンは、長らく辛酸を嘗めてきた。しかし今回、北斗自身の口から、そして夕子自身の口から、離れ離れになっていても二人はいつも一緒だったという言葉を聞くことが出来る。これには、口先だけでない感覚とでも言えば良いのだろうか、齢を重ねた二人だからこその深い実感を伴う言葉として、心に響いてくる。35年の歳月を擁するキャラクターだからこその深みである。なお、夕子のセリフに「もし私が月の人間じゃなくて、ずっと地球に居られたら…」というくだりがあるが、夕子自身はウルトラマンと同様に年齢を超越しており、北斗の姿に合わせて齢を重ねた姿をとったと解釈できそうだ。

 北斗と南の関係は、ミライとアヤ、ミライと仲間達といった関係に対比して描かれ、象徴的に扱われているのも興味深い。メビウスとエースの物語は乖離してしかりであるが、この対比によって非常に密接に繋がっているような感覚に見舞われる。

 ちなみに北斗と南の会話のシーンには、天の川が背景として合成されており、二人が7月7日生まれという設定に即したものとなっていて感慨深い。それでは、二人の会話を載録しておこう。

「星司さん…」

「夕子?」

「本当にお久し振り…」

「ああ」

「もし私が月の人間じゃなくて、ずっと地球に居られたら、星司さんと一緒にこんな風に年を重ねていたのかも知れない」

「そうだな…」

「でも、後悔はしていません。さっき星司さんが言ってくれたように、私も、星司さんをずっと近くに、感じていたから」

「夕子…」

 短いシーンだが、二人の想いが凝縮された、名シーン中の名シーンだ。

データ


監督

小原直樹

特技監督

菊地雄一

脚本

長谷川圭一