タイトルは「マエカブ・ワダアキコ」と読む。歌手生活35周年記念盤。セルフ・カヴァー集である。個人的なことで告白すれば、このアルバムは「悩み無用!」目当てに買った。しかし、聴いてみると実に「和製R&B」していて面白いアルバムだった。
ベスト盤で分からなかった和田アキ子の魅力の構成要素が、このセルフ・カヴァーを聴いて分かったような気がする。それは、アレンジがどれだけファッショナブルになっていても、「日本の歌謡曲の歌唱法」を大事にしているということだ。勿論、和田アキ子が歌謡曲専門の歌手だという意味ではなく、歌謡曲の旗手たちが築いてきた歌唱法に、自身が愛するソウル・ミュージックの要素を取り入れてブラッシュ・アップさせているということだ。「オーソドックスかつダイナミック」というのは、実はここに起因している。
ソウル・シンガーの模倣であれば、他にも沢山のアーティストが輩出されているし、確かにうまいのだが、和田アキ子のうまさというのは、メロディの押さえ方やヴァイブレーションのダイナミックさという「機能的」なものだけではなく、日本人独特の「オモテ拍」を微妙にフェイクさせているところだと思う。実際「ウラ拍」を押さえることの出来る日本人は少ないというが、「オモテ拍」しか押さえないような実にくだらないソウルもどきが氾濫している中、和田アキ子のリズム感は天才的だ。「オモテ拍」はちゃんと押さえている。だが、感性的に微妙にフェイクしていて、実にグルーヴィな歌い方をする歌手だ。
ところで、このアルバムのアレンジメントだが、和田アキ子の魅力をよく分かっていると思う。「歌謡曲にソウルフルでジャジィなアレンジ」が主旨のようで、それはこの粋なセルフ・カヴァーにピッタリだ。ただし、「古い日記」と「コーラス・ガール」のアレンジメントはちょっと...。「あの鐘を~」と「だってしょうがないじゃない」、そして「抱擁」はシビれる出来。「あの鐘を~」ではサビを1小節ずらしてくるところなど「これぞセルフ・カヴァー」と言える内容。「だってしょうがないじゃない」は原曲の歌謡曲っぽさが抜けてメチャクチャにカッコいい出来!
このアルバムはデジパック仕様。しかも「代表取締役社長和田アキ子」の名刺付き! このCD、リサイタルっぽい雰囲気で構成されているのかと思いきや、何と株主総会だったというオチ付き! 粋な構成だ。
]]>(株)ワダアキコ
1枚ものとしては、和田アキ子最良のベスト盤。ヒット・シングルを時系列的に網羅し、根底にある魅力と時代による楽曲の変遷とが手に取るように分かる。
「和製R&B」が意味するところは、このベスト盤でほぼ理解できるだろう。まず、デビュー曲から検証してみると、割とオーソドックスなブルーズのリズムに乗って、実に生き生きと「日本の歌謡曲」が歌われている。それはかつてロカビリーを様々なシンガーがカヴァーしたのとは異なり、むしろ笠置シヅ子や美空ひばりが歌ったような和製ブギーの血を引くものとすれば理解しやすい。そこには、日本人好みのメロディーと、いわゆる「舶来モノ」のリズムが融合したときの何とも言えない快感がある。
「どしゃぶりの雨の中で」になると、さらにその傾向は強くなる。極めてブルージィなアレンジメントではあるが、メロディは日本の歌謡曲そのもの。「笑って許して」、「天使になれない」も同様の色が強い名曲である。「古い日記」に至っては、ジェイムズ・ブラウン顔負けのパワフルなソウルなのだが、やはり歌謡曲の要素がビシビシと響いて気持ちいいことこの上ない。
「あの鐘を鳴らすのはあなた」は、和田アキ子が最も大切にしていると公言している曲だが、このアルバム中の白眉であろう。しかし、意外にも歌謡曲っぽさが希薄で、メロディ的にはシャンソンのようで優雅である。
問題は「雨のサタデー」以降の曲。ここからは、従来とは逆の発想を元に作られた曲が殆ど。つまり、歌謡曲そのもののアレンジメントおよびメロディを、和田アキ子がソウルフルに歌い上げるというもの。この代表的な成功例が「だってしょうがないじゃない」、「愛、とどきますか」である。前半と後半、好みは分かれるところかもしれない。
]]>和田アキ子 ベスト・ヒット
日本人なら誰もが知っている、「芸能界のゴッドねぇちゃん」。タレントとしての側面を強く感じさせつつも、紅白歌合戦に必ず出場したり、精力的なツアーを行うなど、歌手としての知名度も高い稀有なエンタティナー。
そのダイナミックな歌唱力は聴く者を魅了し、ヒトが気持ち良く感じる音域をダイレクトに突いてくるキーを備えている。ともすれば、その歌唱力が嫌味になる危険性を孕んでいるのにもかかわらず、決してそうならないのは、意外と素朴でオーソドックスな歌唱法にあると言える。紅白でノーマイクの歌唱を披露したのがその好例だ。
実は、その「オーソドックスかつダイナミック」という点に和田アキ子の魅力を求めることが出来るのだが、それは、ここでご紹介するCDのレヴューにて述べたいと思う。
これからも、是非ともカッコいい「和製R&B」を聴かせて頂きたいものだ!
]]>当サイトでは、ベスト盤「和田アキ子 ベストヒット」と、35周年記念セルフカヴァー盤「(株)ワダアキコ」をピックアップ。
「歌手」和田アキ子の魅力を余すところ無く伝える2枚。他に全12枚組の超豪華コンピレーションも発売されている。パワフルでノスタルジック、しかしながら今聴くと斬新。「和製R&B」はダテじゃない!
8人イエスから再び離散が起こり、ラビン体制の90125イエスが残留した。「ロンリー・ハート」、「ビッグ・ジェネレイター」を制作したメンバーの手による本作は、それら2つのアルバムとはかなり赴きの異なる作風となった。
勿論、ラビンのヘヴィでハードなポップ・ミュージック趣向は全編に漂っているが、「ビッグ・ジェネレイター」程あからさまではなく、イエスとしてのアイデンティティ、つまりプログレッシヴ・ロック・グループという肩書きの雰囲気が存分に感じられるアルバムとなっている。これは、「結晶」で既に示された方向性であり、ABWHとの交流がこの音を作ったのだろう。現に「結晶」で聴かれた90125イエスの楽曲の雰囲気は、本作と大差ないように思われる。
「コーリング」や「ステイト・オブ・プレイ」といったキャッチー路線はもはや無敵の印象。ラビン無しにはありえない旋律の美しさとアレンジメントの重厚さが映える傑作である。一方で、「リアル・ラヴ」や「ホェア・ウィル・ユー・ビー」のようなABWHを想起させるような曲もあり、必ずしもラビンが一方的にプロデュース・ワークを行っていたわけではないことが感じられる。
そして、本アルバム最大の問題作は最終を飾る大作「エンドレス・ドリーム」である。スピード感と重厚感をこれでもかと感じさせる開幕パートの素晴らしさは鳥肌モノ。泣きギターが唸る重厚な中間パートはタイトル・チューンでもある。最後のパートは奥行きを感じさせるバラッドとなっており、プロダクションの良さが光る。当時は「危機」の続編だとはやし立てられたのだが、「危機」とは全く世界が異なるのは一聴瞭然であり、アルバム全体の中にこの形態で配されたことに意味がある。90125イエス最後の輝きを是非とも感じ取っていただきたい。
]]>Talk
トーク
Jon Anderson - Vocals
Trevor Rabin - Guitars, Keyboards, Vocals, Programming
Chris Squire - Bass Guitars, Vocals
Tony Kaye - Hammond Organ
Alan White - Drums
※ 8 はボーナストラックです。
アンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ(以下ABWH)が次作を制作中、アンダーソンはキャッチーな曲がないことに気付き、こともあろうにラビンに接近、これがきっかけとなって90125イエスとABWHが合体、8人イエスが誕生した。ABWHの次作となる曲群にスクワイアがコーラスで参加し、90125イエスにアンダーソンがヴォーカルで参加することにより、本作が誕生した。
ファンのみならず、メンバーの評判もあまり良くない本作だが、それはダブル・プロダクションの無理な融合にあるのは間違いない。ということで、トータルな完成度という点では、オムニバス盤の域だと言えるだろう。
そこで、あえてABWHと90125イエスの楽曲を分けて聴いてみると、なかなか興味深い。1、2、3、5、8、10、11、12、13、14、15がABWH、4、6、7、9が90125イエスによるものである。ABWHは「閃光」で見られた緻密で粒子の細かいアレンジメントに、トニー・レヴィンによる「スクワイアの物真似」ベースとスクワイア本人のコーラスを加えて(実際は1、5、11のみ)、より本来のイエス・ミュージックに接近した印象。「ウェイティッド・フォーエヴァー」、「ショック・トゥ・ザ・システム」、「サイレント・トーキング」、「デンジャラス」のような佳曲が並ぶ。ハウのソロ「マスカレード」も素晴らしい。対する90125イエス側は、「ビッグ・ジェネレーター」を超える完成度を持つ楽曲ばかりで、このあたりは次作「トーク」への伏線とみて間違いないだろう。
このように、一曲一曲の完成度は高いのだが、無理やり一つにまとめてしまった為に、散漫なアルバムになってしまった。ABWHが単独で、そして90125イエスの曲が「トーク」と一緒に収録されていたら、と思うと興味は尽きない。
]]>Union
結晶
Featuring:
Jon Anderson
Bill Bruford
Steve Howe
Tony Kaye
Trevor Rabin
Chris Squire
Rick Wakeman
Alan White
※ 担当パートについては省略しました。
※ 15 はボーナストラックです。
トレヴァー・ラビン体制に耐えかねたアンダーソンが、自身のソロ・プロジェクトとしてブラッフォード、ウェイクマン、ハウといった「こわれもの」「危機」を作り上げた仲間を集結させた。やがてそれはイエスそのものではないかという認識となり、ラビン体制のイエス(いわゆる90125イエス)とは異なるもう一つのイエスとして活動することになった。それが、このアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウというグループである。長いグループ名になったのは、無論本家90125イエスが存続していたからである。
さて、肝心の内容はというと、キラキラとした透明感を伴った粒子の細かい音が絡み合うようにして構成された、実に美しくダイナミックな曲群が並ぶ傑作である。それは、そのまま「危機」や「究極」といった傑作の特徴を継承したものだ。
イエスを名乗ったとした場合、このアルバムに欠けているのはスクワイアのベースとコーラスなのだろうが、決定的に欠けているのはアコースティック感である。この時期、ブラッフォードはエレクトリック・パーカッションに傾倒しており、ウェイクマンのキーボード・ワークも当然デジタル化されているわけで、所々では音の軽さが目立っている。ちなみに、ベースはトニー・レヴィンが担当している。レヴィンの起用は恐らくブラッフォード繋がり。
ただ、重量感という点をあえて軽視したとき、本作の美しさの突出振りがうかがえるのは間違いない。「テーマ」、「ブラザー・オブ・マイン」のようなこれぞ新世代イエス・ミュージックと唸らせるようなものや、「バースライト」や「クァルテット」のように各人の持ち味が存分に発揮されたもの、「TEAKBOIS」のようにアンダーソン趣味丸出しのものまで、実にバランスよく配された傑作アルバムである。
]]>Anderson, Bruford, Wakeman, Howe
閃光
Jon Anderson - Lead Vocals
Bill Bruford - Acoustic and Electric Drums
Rick Wakeman - Keyboards
Steve Howe - Guitar
「ロンリー・ハート」をよりラビン色に染めたアルバムと言って、ほぼ差し支えないだろう。「ロンリー・ハート」ではアンダーソン、ラビン、スクワイアの三位一体ヴォーカルが実にバランス良く配されていたのだが、本作ではアンダーソンのヴォーカルがかなり部品化している(わざとそうしているようにも聴こえる)。
実のところ、ラビンの強引なイニシアティヴがプラスに働いている面も多い。「ロンリー・ハート」よりもさらにパワーに溢れ、押しの強いサウンドになっており、パワー・ポップというジャンルに限って言えば最高峰とも言える出来。各曲も実に個性的でいてキャッチーなのは驚きだ。
しかしながら、この辺り、イエスファンとして受け入れられるかどうかは大きく意見が分かれるところ。実に売れ筋なカッコいいアルバムなのだが、イエス独特のガラス細工っぽい繊細さがかなり後退しているような感じもする。「ロンリー・ハート」に「ドラマ」の大仰な作風をプラスしたような味わい。
この後、激しくメンバー集合離散を繰り広げるイエスだが、展開される音楽には、本作にあるようなパワー・ポップの要素が少なからず踏襲されているのが面白いところだ。
]]>Big Generator
ビッグ・ジェネレイター
JON ANDERSON - LEAD VOCALS
TONY KAYE - KEYBOARDS
TREVOR RABIN - GUITARS, KEYBOARDS, BACKING VOCALS
CHRIS SQUIRE - BASS GUITAR, BACKING VOCALS
ALAN WHITE - DRUMS & PERCUSSION
邦題からは、いかにも「ロンリー・ハート」に伴うツアーの様子をバッチリ収めたライヴ盤のようだが、かなり様相が異なる。ほぼ「オマケ」程度であり、ミニ・ライヴ・アルバムという形容が正しい。
実のところ、映像作品である「9012 Live(LiveはFiveの韻を踏んでいる)」のボーナス・トラック扱いだったようで、「The Solos」の副題のとおり、各メンバーのソロ・プレイが中心になっている。
しかし、このソロ中心というのがたまらなく面白い(逆の意見も多いが...)。ライヴでは各メンバーのソロ・プレイは定番で、各々のテクニックを披露して盛り上がるパターン。ここで特筆しておきたいのはラビンとイエスに戻ってきたケイ。ギター・ソロによって、ラビンのスタイルが、ハウとは明らかに異なるソリッドな速弾きスタイルであることが良く分かる。一方のケイは、ウェイクマンがあまりに派手なプレイヤーの為、評価が不当に低いが、実際のテクニックに遜色はないし、タイトなプレイはリズム主体となったこの時期のイエスにマッチしている。
コアなイエス・ファンとしては、押さえておいて損はない珍品。
]]>9012 Live - The Solos
ライヴ
JON ANDERSON - LEAD VOCALS, KEYBOARD, GUITAR
CHRIS SQUIRE - BASS GUITAR, VOCALS
TREVOR RABIN - GUITARS, VOCALS
ALAN WHITE - DRUMS, VOCALS
TONY KAYE - KEYBOARDS, VOCALS
このアルバムを初めて聴いたときの驚きは、キング・クリムゾンの「ディシプリン」を聴いた時に匹敵するものだった。
確かに、本作と「ディシプリン」の2作には共通点がある。共に、それまでのグループにとって明らかに異質な、それでいて強力な個性を持ったメンバーが加入している点。そして別のグループ名義で活動しようとしていたものが、結局「元サヤ」になったというパターンを踏んでいる点である。
ただ、クリムゾンの「ディシプリン」に比べ、イエスとしての違和感があまり感じられないのが本作の特徴。それは、ラビンのハード・ポップ・コンポーザーとしての個性が、イエスが常に標榜していたと思われる「ポジティヴ」に見事にマッチしたからに他ならない。リズムとしては基本的に8ビートがベースで、以前のような変拍子の嵐や細かな音符の重なりといったものは感じられにくいが、そこはトレヴァー・ホーン(!)による緻密なプロデュース・ワークによって、イエスの構築美感覚が完璧に発揮されている。
本作は80年代ロックにありがちな、独特の古臭さがないところが本当に凄い。イエスのアルバムの中で一番売れており、現在でもCMソング等に採用されている「ロンリー・ハート」など、絶妙なノリを湛えたチューンは酔える事必至。
]]>90125
ロンリー・ハート
JON ANDERSON - VOCALS
CHRIS SQUIRE - BASS GUITAR AND VOCALS
TREVOR RABIN - GUITARS, KEYBOARDS, VOCALS
ALAN WHITE - DRUMS, PERCUSSION, VOCALS
TONY KAYE - KEYBOARDS
イエスのベスト盤(またはオムニバス盤)としては、第2集ということになろうか。前作「イエスタデイズ」もそうだが、この盤も相当偏っている。「究極」以降のアルバムからは「不思議なお話を」の1曲のみ、後は「サード・アルバム」、「こわれもの」、「危機」からとなっている。ボーナストラックのライヴ音源にしても、例外なくだ。
実際、現在の視点に立ってみると、選曲が黄金期に集中しているため「ベスト」ということになろうが、当時の状況を考えれば「ドラマ」でイエスとしての個性を見失ったような状態に置かれたスクワイアが、この黄金期を匂わせる本作を編纂した、と言えないだろうか。「イエスショウズ」と同様の意図が感じられるとも言えよう。
スクワイアが編纂しただけあって、ベース(低音)がオリジナルよりブーストされており、随分とヘヴィな印象を受ける。しかし、真に重要なのは、ライヴ音源によるボーナストラックの「ラウンドアバウト」と「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」である。「イエスソングス」時期よりもさらに疾走感を増して演奏され、その興奮度は最大。オリジナル・アナログ盤では付録のシングル盤に収録されていた。
]]>Classic Yes
クラシック・イエス
Jon Anderson - Vocals
Steve Howe - Guitar
Chris Squire - Bass
Rick Wakeman - Keyboards
Tony Kaye - Keyboards
Alan White - Drums
Bill Bruford - Drums
※ 各曲のクレジットより独自に構成しています。
「ドラマ」の後、イエスがほぼ解体されてしまった時期にリリースされたのが、この2枚組ライヴ盤。
先の傑作ライヴ盤「イエスソングス」の続編としての製作意図が、「イエスソングス」との重複曲がないことや、「イエスソングス」後のベスト的選曲になっていることからも読み取れる。イエスの実体が薄い「ドラマ」期に、黄金期メンバーによるイエスの姿を感じさせるライヴ盤をリリースするあたり、多分に戦略的ではある。
一見して「海洋地形学」~「トーマト」までのベスト選曲であることは疑いないが、パーソネル的に「ドラマ」収録曲がないのは当然だが残念。また、パトリック・モラーツとリック・ウェイクマンの参加音源が混在しており、全体のまとまりやライヴの疑似体験といった主旨で聴くのは少し辛い部分がある。
「海洋地形学」以降の曲は全体的にハードなものが多いのも特徴で、当然そのあたりから選曲された本作はハード一辺倒にならざるを得ず、「イエスソングス」で聴かれたようなうねりといったものは期待できない。しかしながら、やはり演奏は一流。各人のテクニックが存分に堪能でき、「究極」、「クジラに愛を」、「儀式」といった傑作ナンバーのライヴを聴く事が出来るのは、至福と言えるだろう。
]]>Yesshows
イエスショウズ
Jon Anderson - Vocals
Steve Howe - Guitar
Chris Squire - Bass
Rick Wakeman - Keyboards
Alan White - Drums
Patric Moraz - Keyboards
※ 各曲のクレジットより構成しています。
DISC 1
DISC 2
ウェイクマン、そしてイエスの「顔」とも言うべきアンダーソンが脱退。窮地に立たされたスクワイアの大胆な試みは、「ラジオスターの悲劇」で大ヒットを飛ばしたトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズからなるバグルスを吸収合併するというものだった。元々バグルスの2人がイエスのファンだったということも手伝って、スクワイアの思惑はすんなりと通用した。
プロダクションが緻密で、よく出来たプログレッシヴ・ロック・アルバムである。「マシーン・メシア」では、ホーンがアンダーソンを彷彿させるハイ・トーン・ヴォーカルを披露しているが、他のパートは過去のイエスと異なり、かなりヘヴィな音作りになっている。このあたりは、ダウンズの醸し出すキーボード・ワークの雰囲気に拠るところが大きい。「白い車」に至ってはダウンズの誇るシンセ・オーケストラの独壇場で、過去のイエス・ワールドとは全く異なっている。
一方、「夢の出来事」では、変拍子、明るいメロディといった部分が本来のイエス・ミュージックを感じさせる。「光を越えて」では、ホワイトの安定感溢れるドラムやメロディの組み立て方が、後の90125イエスへの展開を予感させる。「光陰矢の如し」は「イエス」という単語が連発される、疾走感溢れるナンバーで、往年のスピード感を強く感じさせる。
このように、イエスになろうとする要素と、後のエイジアで展開される、複数の楽器のユニゾンで厚みと奥行きを出す方法論や、アンダーソンほどの華がないホーンのヴォーカルなどとがズレを生じさせており、スクワイアの妙に元気なベースを除けば、後にダウンズとハウが参加するエイジアのアルバムに聞こえてしまう部分が多い。「レンズの中へ」などは傑作ナンバーながら、その感覚が最も強い曲に挙げられるだろう。
]]>Drama
ドラマ
Geoff Downes - Keyboards & vocoder
Trevor Horn - Vocals & bass
Steve Howe - Guitars & vocals
Chris Squire - Bass, vocals & piano
Alan White - Percussion & vocals
Steve Howe used the following guitars:
Track 1 - Gibson The Les Paul
Track 3 - Gibson Les Paul Gold Top
Track 4 - Fender Steel and Telecaster
Track 5 - Martin Mandolin, Gibson The Les Paul
Track 6 - Fender Telecaster
「究極」のテイストを受け継いだアルバムかと思いきや、よりコンパクトでハードな楽曲が並んだ傑作。「究極」で見られたような、キラキラしたものが奥行きを伴って迫り来るような感覚はなく、よりライヴ感を重視した音作りが成されている。
リバーブも控えめ(というより殆ど無いような印象)、いかにも「スタジオ録りです」といった感じは、ポストプロダクションにおける手間を省略したような印象を与えるが、その部分を減点するようでは、このアルバムの魅力を堪能することは出来ない。例えば、オープニングを飾る「輝く明日」~「歓喜」。ウェイクマンの派手なキーボード・ワークと骨太なリズム・セクションが目立つが、音像に奥行きを与えられなかった分、引き締まって聴こえる部分も多く、アンダーソンのヴォーカルまで含めて非常にタイトである。余計な装飾がないことで、イエスの骨格をビシビシと体感できる。
「輝く明日」~「歓喜」と同様の傾向は、他のナンバーにも見られる。ハウの泣きギター(?)で始まり、見事なコーラス・ワークと力強いヴォーカル、ウェイクマンの波打つようなシンセ・フレーズが印象的な「クジラに愛を」、複雑なコーラス・ワークで畳み掛ける「自由の解放」、シンセの電子音が特徴的な、楽しい題材をそのまま曲に仕上げた印象の「UFOの到来」、珍しく足元の軽いホワイトのドラミングと、インプロヴィゼイションのような各パートが意外性を喚起する「自由の翼」。
一方、叙情性と幻想性を追及した「マドリガル」、「天国のサーカス」、「オンワード」といったナンバーもあり、聴き手を飽きさせない構成は見事である。この作品の本質は、「メンバーが協力して楽しい作品を作った」ことにある。まとまったサウンドや寓意に満ちた詩、挙げられる魅力要素は数多く、それまでのイエス・ワールドに対する先入観を捨てて聴く事が出来れば、このアルバムの持つ緊張感と開放感の波を心地よく感じられるだろう。
]]>Tormato
トーマト
Jon Anderson - Vocals and Alvarez 10 string guitar
Steve Howe - Gibson Les Paul Custom, Gibson The Les Paul, Martin 00045,
Spanish guitar, Fender Broadcaster, Gibson Elec. & Ac. Mandolin, Gibson
175D and vocals
Chris Squire - Harmonised Rickenbacker bass, bass pedals, piano, Gibson
Thunderbird bass and vocals
Rick Wakeman - Birotron, Hammond Organ, Harpsichord, Piano, RMI and Polymoog
Alan White - Drums, Military Snare Drum, Glockenspiel, Cymbals, Bell Tree,
Drum Synthesiser, Gongs, Percussion and Crotales
※ 各トラックのクレジットを元に構成しました。
初めて聴いたときは衝撃的だった。オープニング・ナンバーはのっけからディストーションの効いたハウのスティール・ギター。ノリの良いロックンロール系リズムに度肝を抜かれる。アンダーソンのこれまで以上にハイ・トーンなヴォーカル、独創的なコーラス、ウェイクマンの超速弾きシンセ。素晴らしくハイ・テンションなタイトル・チューン「究極」はイエスに新しい側面を加えた印象的な1曲だ。
本作を聴くと、精緻なモザイクのような緻密に過ぎるイエス・ミュージックはない。むしろパワーに溢れた、各人の技量に依存したライヴ感溢れる音作りになっており、ダイナミックな量感に圧倒される傑作アルバムだということが分かる。
アンダーソンの持つ叙情性と、ハウのマイルドなアコースティック・ギターが見事なコラボレーションを成す「世紀の曲り角」、次なる「パラレルは宝」は、ウェイクマンのチャーチオルガンがシアトリカルな効果を存分に発揮する。「不思議なお話を」はスロー・テンポな曲ながら、アンダーソンの澄んだヴォーカルとハウの爽やかなギター、ウェイクマンのきらびやかなシンセ、スクワイアとホワイトによる足元のしっかりしたリズムセクションが冴える傑作。
そして、何と言っても真に「究極」なのは、シャープなプログレ・ナンバー「悟りの境地」。幽玄の彼方から迫るアンダーソンのヴォーカルに始まり、目くるめくハウのギターとウェイクマンのキーボード・ワークが展開されていく。スクワイアの骨太なベースとホワイトのズッシリとしたドラミングが支える中、自由に飛び回るヴォーカル、コーラス、ギター、キーボード。見事なアンサンブルで幻想に満ちた世界を描ききった超傑作ナンバーだ。
]]>Going for the One
究極
Jon Anderson - Vocals, Harp
Steve Howe - Steel guitar, Acoustic and electric guitar and vocals, Vachalia
Chris Squire - Bass guitar and vocals
Rick Wakeman - Piano and electric keyboards, Church organ, Polymoog
Alan White - Drums and percussion, tuned percussion
※ 各トラックのクレジットを元に構成しました。
イエス初のオムニバス盤である本作は謎に満ちている。その謎の主体は、その選曲にある。冒頭の「アメリカ」と最後の「ディア・ファーザー」はオリジナル・アルバム未収録曲とあって、未収録曲を収録するスタンスを採ることの多いオムニバス盤としての手法に基づいている為例外とするが、その他の曲がすべて「ファースト・アルバム」と「時間と言葉」の曲で占められているのだ。
発売時を考えると傑作アルバムが出揃っているので、「こわれもの」や「サード・アルバム」、「危機」「海洋地形学の物語」「リレイヤー」といったアルバムから壮大な組曲がエディットされてでも収録されそうなものだが、そういった作品はなぜか一切無視されている。もしかしたら、「サード・アルバム」で名声をものにしたイエスが、それ以前の歴史をファンに知ってもらおうと意図したのかも知れないし、単に本人達のノスタルジーであったのかも知れない。
実際、このオムニバス盤を聴いていると無性に初期2枚が聴きたくなる。本オムニバス盤発売時のイエスは、モラーツの脱退や音楽性の試行錯誤などもあって、結構疲弊していたのではないだろうか。初期へのノスタルジーという解釈は、強ち外れとは言いがたいのではないか。
以後、かなりのオムニバス盤が発売されるイエスだが、ここまで極端で妙な個性を放つものは現れようがない。
]]>Yesterdays
イエスタデイズ
Jon Anderson - vocals
Chris Squire - bass & vocals
Steve Howe - guitar & vocals
Rick Wakeman - keyboards
Bill Bruford - drums
Tony Kaye - organ
Peter Banks - guitar & vocals