第十三幕「重泣声」

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 今回より雰囲気はバラエティ編ですが、メインライターである小林靖子さんが、文字通りメインライターらしい仕事をしてくれた快作になりました。

 全編にギャグが散りばめられて、華やかかつ楽しい雰囲気なのですが、しっかり茉子の新しい面も引き出し、ことはとの絆の深さも描写。男性陣を行動不能にしておくことで、ダブルヒロイン大活躍編としても仕上がっています。正に快作。


 結局、小林さんはメインライターとして、1クール丸々執筆されたわけですが、第十二幕までで各キャラクターの機微を丁寧に描きながら、シンケンジャー全体の結束を含めていく様子を描き出してきました。

 今回は、これまでとはちょっと趣が異なり、結束といった重いテーマは扱っていません。しかしながら、茉子の凛とした佇まいからふとこぼれ出す「弱気」を描き、逆に気丈なことはを描くことで、支える-支えられる関係を双方向とし、重層化しています。


 振り替えれば、1クールの肝は、「双方向」ということであり、それは、主従関係という一方的なものに対するアンチテーゼでありながら、その主従関係を補強するものでもありました。

 前回までで丈瑠と他のメンバーの双方向性が遺憾なく描かれたのはご周知の通り。今回は、擬似的な姉妹関係を構築している茉子とことはの双方向性を見せたエピソードとして、高く評価出来るかと思います。


 こんなことを書いてしまうと、何だか重そうな感じになってしまいますが、見所の大多数はユーモラスなシーンであり、特に丈瑠が意外な表情を見せるあたりは特筆すべき点でしょう。このエピソードの凄いところは、それらがユーモラスでも全体が緊張感を失わないことで、しかも、単なるおふざけではなくちゃんと物語上で機能していることです。このあたりにしっかり視線を向けることにより、メインライターが果たした秀逸な仕事を垣間見ることが出来ます。


 散りばめられたネタが、いわゆる「古典」からの引用で成り立っているのを見つけるのも一興。

 料理、子供とのお遊戯、怒るヒロイン...。それぞれが円熟した面白味を発揮しています。


 では、その「いい仕事」を見ていきたいと思います。

 冒頭、いきなり危機感たっぷりに彦馬が駆け込んできます。しかし、「一大事」という言葉に丈瑠は冷淡な反応。どうやら、彦馬は細かいことでも「一大事」だと言っては、騒いでいるというキャラメイキングになっているようです。もうこの時点で笑えます。

 丈瑠は明らかに「話半分以下」で聞いていますが、思わず湯呑を落として狼狽...。

彦馬と丈瑠

 丈瑠をここまで狼狽させる出来事とは!


 それは、茉子が夕飯を作るということ...。

茉子

 この包丁を構えた茉子の表情が素晴らしい。しかも、包丁がハレーションを起こすというカメラワークも冴えています。

 いきなりお約束の料理ギャグをぶちかまし、今回がユーモア溢れるエピソードになっていることを予感させます。


 この料理シーン、以前にも増して凄いことになっており、黒子の皆さんが大慌てでフォローしている様子がたまらなく可笑しいです。

 一応、シンケンマルで野菜を切るというような蛮行(笑)こそ鳴りを潜めていますが、玉ねぎを皮付のまま包丁でざくざく潰していく茉子の凶悪さは、逆に茉子を非常に可愛らしく魅せています。


 茉子の料理に対する各々の反応も様々。


ことは「楽しみやわぁ」

流ノ介「あの時の悪夢が...」

丈瑠「...最大の危機だ...!」


 ことはは純然たる茉子への憧れから、完全に味覚が麻痺しているらしい。エンディングのナレーションでは味のセンスが茉子と同じと解説されていましたが、ことはの場合は、味覚に影響する程の強い憧れがあると解釈した方が自然な気がします。

 丈瑠は、料理の現場を以前に目撃しているからこその発言。前回と前々回がある意味本当の「シンケンジャーの危機」だった為、この言葉がギャグとして最大限有効に機能しています。

 流ノ介は、身を以って茉子の料理を「体験」しているだけあって、その戦慄度は半端じゃありません...。


 このような各々の反応を見るのは楽しいですね。キャラクターの書き込みが深いからこその可笑しさというものを、実によく利かせています。


 さて一方、六門船にて。

 血祭ドウコクは、至極機嫌が悪く二日酔いです。


「俺が前みてぇに人間共の世界に出て行けりゃ、あんな若造、すぐにひねりつぶしてやるものを!」


と息巻く血祭ドウコク。

 これ、セリフでサラリと流される為、見過ごされがちですが、非常に重要なポイントです。血祭ドウコク自体は非常に強大な力を持った人物であり、人間界に出れば、今のシンケンジャーに勝ち目はないとされているわけです。満足に人間界へと出掛けられないという足枷がある為、シンケンジャーとの直接対決が出来ないという設定により、パワーインフレを封じています。


「落ち付け。奴はまだ、封印の文字を使えない。先に三途の川を溢れさせてしまえば、シンケンジャーもろとも終わりだ」


という薄皮太夫。薄皮太夫がこのように的を射た意見を言うのは珍しいので、余計にインパクトを持って届いてきます。

 血祭ドウコク、そして十臓。丈瑠の命を狙う強力な輩が揃いつつも、バラエティ編に向けて、初期の進行へとリセットしていく段取りの良さには感心します。

薄皮太夫、血祭ドウコク、骨のシタリ

 そして、アヤカシにやたらと封印の文字の事を漏らさない方がいいという骨のシタリ。

 外道衆連中が一枚岩でないことを匂わせ、


「志葉の当主のことは、じっくりやろうよ」


と発言。これ、進行を緩やかに構えて、様々なエピソードの展開を可能にしていく段取りなんですね。メインライターとしてこれ以上の「いい仕事」はないでしょう。小林靖子さんの手腕の高さに驚嘆します。


 その頃、流ノ介と千明はしっかり空腹になるよう、腹筋をやっていました。なかなか侍らしくていいレスポンスです。こういった基本的なトレーニングシーン(?)は誤魔化しが利きませんし、レスポンスが悪かったら興醒めしてしまいますからね。

 危機感(外道衆相手じゃないところが本当に可笑しい)を募らせる男性陣に対し、ことはは、


「茉子ちゃんやったら、うちがお嫁さんにしたいくらいやわ」


と言います。流ノ介が本当に無粋なツッコミを入れるのはさておき、ことはは、ある夜の出来事を語り始めます。


 ある夜、ことはは姉を思い出して眠れなくなり、ふと笛を吹いていたら涙が出そうになりました。

 そこに茉子がフラリと現れ、そんなことはを、


「内緒にしておくから、泣いても大丈夫」


と抱きしめたのです。

ことはと茉子

 このハグは、もはや茉子のアイデンティティとも言うべき所作なのですが、ことはは常連。これが強調されることによって、ことはにとって茉子が頼れるお姉さんという構図を押し出しています。

 そしてこの構図を印象付けることによって、後の展開の意外性(ホロリとさせるシーン)が強調されるわけです。巧いですね。


「茉子ちゃんにギュッてされると、元気になる。ホンマに」


とことは。それに対し丈瑠は、


「お前には、姉さんみたいなもんだな」


と優しく応えます。この、時折見せる丈瑠の優しい表情が、ホントに秀逸なのです。


「はい。優しいし強いし。憧れっていうか、尊敬してます」


と言うことはは、もしかするとスーパー戦隊シリーズ史上、最強の「妹キャラ」なのかも知れません。最年少ヒロインや、それこそ血縁的に「妹」なキャラクターも散見されますが、ここまでダブルヒロインに精神的な姉妹関係を与えているのは、茉子とことはだけだと思います。


 さて、料理の材料がなく、買出しに出かけた茉子は、白い人型と子供をすり替えられた母親と出会います。

茉子と、子供を白鬼子にすり替えられたお母さん

 母親は、完全に白い人型を自分の息子だと思い込んでおり、茉子が周囲を見渡すと、街には、そうして親に見捨てられた子供達が溢れていました。

 このすり替え手法は、「宇宙刑事シャイダー」あたりで非常に印象的なエピソードが見られたりする「古典」なのですが、JAEの方と思われる非常に体格のいい白タイツ姿があまりにも鮮烈で不気味な為、コミカルに見えつつも非常に恐ろしいシーンになっています。


 この白い人型、ナキナキテが放つ「白鬼子」でした。

ナキナキテ

 このナキナキテは、声を納谷六朗さんが担当。大物起用には嬉しいものがあります。今回はやや好々爺的なニュアンスで演じられており、これまた完成度が高い。「ムンクの叫び」的な意匠を全身に配しつつ、それが球体を覆う粘膜のような様子を示しているデザインは気持ち悪いことこの上ないものですが、納谷さんの声によってかなり緩和されている感じがします。キャスティングが秀逸ですね。

 しかも、ナキナキテは普通に強いときています。


 ナキナキテは白鬼子を子供とすり替え、親と引き離された子供の泣き声で、三途の川の増水に一役買おうとしています。


 まず茉子が変身して立ち向かい、そこに合流するシンケンジャー達。

 ところが、流ノ介と千明が「赤鬼子」を背負わされて身動き取れなくなってしまいます。「子泣き爺」がモチーフですね。

 赤鬼子は泣くとどんどん重くなり、しかも、赤鬼子を無理に引き離そうとして斬ると、背負っている者にもダメージが及ぶという厄介な代物です。


 さらに、茉子はナキナキテの一撃を喰らってしまい、形勢は一気に不利になっていきます。

シンケンピンク VS ナキナキテ

 そして遂に、丈瑠も赤鬼子の餌食に...。


 ここでナキナキテは水切れで退散。赤鬼子によるシンケンジャーの封じ込めに成功し、満足して去っていく様子を憎たらしく描いています。

 この水切れの設定は実に便利で合理的。この設定を考案した方には是非とも功労賞を差し上げたいですね。


 赤鬼子が泣いていなければあまり重量を感じなくなるということから、赤鬼子をあやすシンケンジャー達。

赤鬼子、彦馬、丈瑠

 それぞれが一生懸命あやす様子が非常に可笑しいのですが、特にこの彦馬と丈瑠が可笑しいのです。丈瑠の慣れない「バァ~」は最高!


 一応、重量軽減の道を作った茉子は、ことはと共に黒子の手伝いをしに出掛けます。黒子達は、親にはぐれた子供達を保護し、助けているといいます。こういった組織力の確かさも美点ですね。しかも、黒子達の何ともつたない子供のあやし方がちゃんとギャグになっています。


 ここで、茉子とことはがコスプレ披露!亀と猿の着ぐるみを着て歌います。

茉子とことは

 何で亀と猿なんだ?と思った方は、まだまだ「シンケンジャー」へのハマリっぷりが足りません(笑)。

 亀は茉子の亀折神、猿はことはの猿折神を元にしているのです。ピンクの亀とかにしないところが、逆に意外性を喚起していて面白いですね。


 こうして子供達が泣かなくなったことで、三途の川の水はまた減り始めています。

 外道衆の企みを阻止することが、何も戦いだけによって果たされるわけではないという転換がいい感じです。


 子供達と遊ぶうち、茉子は突如脇腹に痛みを感じて隠れてしまいます。ことはが異変に気付いて駆けつけますが、実は茉子は出血があるほどの傷を負っていたのでした。茉子は努めて「大丈夫」を繰り返します。ここで分かるのは、茉子も丈瑠のように苦難を隠そうとする傾向にあるということです。茉子が丈瑠の内面に逐一気が付いているのは、実は似た者同士だから、ということなのかも知れません。こういった細かいニュアンスにいちいち感心してしまいます。


 茉子は、子供達を見て、


「ああいうの、やりたかったな...」


と一言。


「小さい頃から侍の稽古ばっかりだったでしょ。女の子らしい遊び、出来なくて。お母さんごっことか、お嫁さんごっことか、凄く憧れてた」


とのことで、茉子がいかに侍として厳しくしつけられてきたかが分かります。その意味では流ノ介とあまり境遇は変わらないとも言え、流ノ介が一般的な風俗習慣に疎いという部分でバランス感覚の欠如を見せるのに対し、茉子がバランス感覚を欠いているのは「女の子らしさ」という部分だったわけです。

 茉子は「女の子らしさ」に憧れるだけあって、所作自体は多分に女性らしいのですが、テクニカルな部分において、圧倒的に経験不足が響いているということですね。


「もし、戦いに勝てなかったら...」


と続ける茉子は、普通のお嫁さんやお母さんになれないかも知れない、時々弱気になるとこぼします。


「そんなふうに思うこと、あるんや...」


と、ことはは思わず茉子を抱きしめます。


「たまには、茉子ちゃんのことギュッとしてもいいやんな。今まで、頼ってばっかりで、ごめんな」


 ことはのその言葉に、思わず涙ぐむ茉子。

ことはと茉子

 今回屈指の名場面です。タブルヒロインの関わりは、よくケンカというシチュエーションで描かれるのですが、このような互いの弱みを露呈した上での絆の深め合いという展開は、ダブルヒロインの新しい姿として歓迎すべきトピックです。

 何より、茉子が弱気を見せたという点が重要。前回は丈瑠が弱気を見せたので、残るは茉子だけになっていたのですが、ちゃんと描かれました。しかも、死と隣り合わせという壮絶な覚悟の上での弱気ですから、「普通に生活すること」がいかに彼女達にとって替え難いものであるかを分からせてくれるのです。


 感傷を打ち破るべく、そこにナキナキテが出現。この緩急の混ぜ具合がストーリーに旨みをもたらします。

 茉子とことはは、変身してただちに迎撃します。

シンケンピンクとシンケンイエロー

 ダブルヒロインの変身シーンが、新規撮影になっています。普通はコマ割り程度で描写されるので、力の入れ具合を感じ取ることが出来ますね。


 戦いは速いテンポで展開されますが、茉子は先のダメージによって苦闘を強いられます。

 そこに男性陣が合流。しかし、赤鬼子のあまりの重さに耐え兼ね、あえなく崩れ落ちます。

千明、丈瑠、流ノ介

 丈瑠の「火」の文字が一画目だけ書かれているのが芸コマ。非常にコミカルですが、危機感を維持している演出に凄さを感じます。


 ここでナキナキテは、


「これで好きなだけ子供達に泣いてもらえそうじゃ!」


と余裕を見せます。しかし、この一言が茉子とことはに火を点けるのです。


「そんなこと、させへん!」

「子供達は、私達が守る!」


 男性陣の加勢が得られないことから、一旦は弱気になる2人。しかし、ナキナキテの放った子供を蔑ろにする言葉を聞き、奮起するという展開。初めから勝利が見えている展開ではなく、ちゃんと感情の機微を描くことで、アクションも重層的になっています。子供がキーワードになるところも良い。


 茉子は、モヂカラを合わせようと提案。何も打ち合わせずとも、ことはは茉子に応じます。

 茉子の「風」とことはの「山」で、「嵐」のモヂカラが発動!

嵐

 部首組み合わせという離れ業で来るとは、思いもよりませんでした。この意外性が実に素敵です。ちゃんと、天属性と土属性になっているところも秀逸で、これから色々な組み合わせが登場して楽しませてくれることと思います。

 「嵐」のモヂカラにより、風が土煙を舞い上げるという描写も素晴らしく、それが竜巻として表現されるのも納得。竜巻はナキナキテを空中に巻き上げ、茉子とことはの「シンケンマル・天地之舞」が炸裂!

シンケンマル・天地之舞

 ここでもちゃんと天属性と土属性が効いています。凄い徹底振りに感心することしきりです。


 ナキナキテが倒れたことによって赤鬼子も消え、丈瑠達もようやく行動可能になります。


 一方、すぐさま二の目で巨大化するナキナキテ。

 シンケンジャーは勿論シンケンオーで立ち向かうも、赤鬼子を差し向けられてしまいます。身動きできなくなるシンケンオーを打ちのめすナキナキテ。

シンケンオー

 巨大戦がおざなりになることもなく、ちゃんとアヤカシの特性を生かして危機感を生んでいます。


 丈瑠がすぐさまダイテンクウで反撃を試みるのもいい段取り。しかし、そこに意外な展開が待っているのが凄いのです。


「目には目をというわけですね!」


と流ノ介はダイテンクウをナキナキテに侍武装してしまうのでした。

ダイテンクウとナキナキテ

「よしっ!やりましたよ殿ぉ!」

「流ノ介、何だこれは!」

「これでハンデは同じです!」

「意味ねぇよ。空から攻撃すりゃいいだろ!」

シンケングリーン、シンケンレッド、シンケンブルー

 前回、超侍合体を考案して「殿の感心」をものにした流ノ介でしたが、早くもそれがまぐれであると露呈してしまうのでした。いやぁ、面白いですね。

 呆れてしまう茉子でしたが、ことはは、これを好機と見ます。ことはの発想力もまた、強さの一つなのだと気付かされる一幕。それぞれに見せ場がきっちりと用意してあって気持ちいいですね。


 そして、ダブルヒロインのみによる、「ダイシンケン侍斬り」が炸裂!

 ナキナキテを遂に撃退します。ちゃんと今回の主役を立てているところに好感が持てます。


「ごめんなさぁ~い!」


と情けない声で謝る流ノ介。

一件落着

 こういった脱力系の描写を挟みつつも、しっかりバトルが充実しているのですから、演出の円熟味を強く感じます。


 エピローグは、いよいよ茉子の夕飯。


 メインの和風ハンバーグは美味しいと評されます。それ、実は黒子が手伝った一品でした。

 一方で、付け合わせは茉子のオリジナル。


 丈瑠はハンバーグの美味しさに油断し、一口でその付け合せを食べてしまいますが、何とあまりの不味さに卒倒!

卒倒する丈瑠

 この丈瑠がホントに可笑しい。

 一方、ことはは食べても平気。勿論作った本人の茉子も平気なのでした。

茉子とことは

 一体どういう味なんだろうと、疑問に思わざるを得ない一幕ですが、茉子とことはにしか「美味しい」と思えない味というのは、もしかしたらあるのかも知れません。それにしても、にんじんをどう味付けすると、卒倒するほどの味になるんだろうか(笑)。


 茉子の料理は「エスパー魔美」(古くてすみません...)を彷彿させるのですが、魔美の場合は自ら食べて気絶してましたから、茉子の方がいくらかマシだと言えるでしょう。


 何はともあれ、しっかりギャグで締め括ってくれた快作に拍手です。