Space.4「夢みるアンドロイド」

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 ラプターがメインの、コメディ色溢れつつ、ちょっといい話でありつつ、ちょっと引っかかりもありつつ...の多要素が光る好編。

 ワシピンク誕生を主眼に置きつつ、メンバー内部で主義が対立する様を描いたりしていて、なかなかの見応えです。しかも、今回より「チキュウ」に降り立つという展開になり、より身近な視点での活躍を描くことになりました。さて、チキュウ編は世界観の拡がりにどう影響するのでしょうか。

チキュウ

 テロップに「惑星チキュウ」と表記された星。今回キュウレンジャーはそこに降り立ちます。宇宙モノでよく出てくる「辺境の惑星」という表現(田舎の惑星)は、今回も踏襲されていましたね。このあたりが古典にリスペクトする文芸の巧さです。

 ここが果たして「地球」なのかどうかは、この際どうでも良い感じです(笑)。多くのモライマーズが取り付き、多くのダイカーンが支配する特殊な惑星という設定で、既に住人たちは蹂躙されているという、実にハードな設定。ハードではありますが、とりあえずラプターが桃の缶詰を買い求められたように、圧政に苦しみつつも生活自体が滞っているわけではないという匙加減が絶妙。「解放」がテーマになりつつも、従来の戦隊のようなパターンも展開できる、良い感じの緩さが巧いですね。

 4話目にして宇宙のヒーローが地球にやって来るとあって、同様の展開を見せた「ジャスピオン」との類似点を指摘する声が多く出ているようです。私は「ジャスピオン」をリアルタイムで視聴しましたが、確かに地球に来てからスケールダウンした感は否めませんでした。予算の問題だろうか...とか、嫌な詮索をする子供でしたね(笑)。今見返すとそんなことはなくて、確かに風景の面白さは失われましたが、アクションの比重が高まり、多彩なキャラクターが登場しては激闘を繰り広げるという、別種の贅が感じられるんですよね。

 さて、「キュウレンジャー」はどうなるでしょうか...?

 ところで、チキュウに降り立って初めての食事シーンが挿入されましたが、なんと「サファリ」でした。「ゴーカイジャー」にも登場したカレーが名物の喫茶店ですが、勿論、オリジナルは「サンバルカン」のスナックサファリです。これからもこういった小ネタが登場するのか、ちょっと楽しみですね。

ユメパックン

 今回の怪人は、子供の夢を喰らって無気力にしてしまうという、実に強い既視感を抱かせるオーソドックスな属性のユメパックンです。ダイカーンはいわゆる支配層ですから、ここまでオーソドックスな属性を持つ怪人であること自体が、ちょっとした衝撃でした。

 巧いのは、従来ならば「悪の組織の作戦」とされる事象(つまり夢を奪うこと)を、圧政の一貫としているところでしょう。これで従来のパターンと「キュウレンジャー」におけるパターンに折り合いを付けているわけですね。

 巨大戦ではモライマーズロボに搭乗するというパターン破りを披露。これにより、今回は退場を免れるというのも意外な展開でした。なんとなくダイカーンの存在感の薄さを感じてしまうところですが、もしかすると、今シーズンはダイカーン自体の登場数を抑えてくるかも知れませんね。

ラッキーとスパーダ

 イデオロギーの対立は、戦隊における定番の一つでもありますが、あまり悩まない人物像を揃えてきた印象のある「キュウレンジャー」において、今回の対立構造はインパクトのあるものでした。

 元々戦闘には向かないラプターを、安全圏に留めておくべきだと主張するスパーダと、ラプターの夢(≒妄想)を知って前線に出るべきだと主張するラッキー(「自分が守ってやる」という男気が良い感じ)。テーマ的には、勿論ラッキーの主張が「正しい」のですが、実務的にはスパーダの言い分も充分説得力があると思います。シーンによっては、人の心にズカズカと入ってくるラッキーの無頓着な感じにヒヤヒヤさせられるので、よりスパーダ側の主張の「正しさ」が強調されることになります。

 しかし、ラプターの夢は妄想に留まらず、本気度が高かった模様(「活躍したい」というより「皆と一緒に戦いたい」という、いかにも戦隊らしい主張がまた燃えます)で、実はラッキーの直球こそがラプターの背中を押すのに必要だったという流れが見事。スパーダの主張が「夢を捨てろ」と言っているに等しい...というのは、さすがに言い過ぎな気もしましたが、分かり易さという面ではこれほど適切なセリフもないですね。ユメパックンと対比させるあたりの語り口は見事という他ありません。

市民の反応

 既に宇宙から飛来した侵略者に蹂躙されている世界なので、異星人混成部隊のキュウレンジャーを目の前にしても、そこではほぼ驚かない。これはなかなかリアルで巧いところです。

 一方で、戦隊にしては珍しいやり取りがありました。ユメパックンに子供の夢を奪われた大人たちが、ラッキーたちを非難するというシーン。曰く、「ラッキーたちが抵抗したから、余計に酷い目に遭っている」、「夢を奪われても生きていさえすればそれでいい」という主張でした。善悪の相対化は、簡潔明快な勧善懲悪にその価値を求める戦隊ではほぼ見られないものですが、このように時折挿入されると絶大なインパクトを放ちます。

 「ウルトラマンレオ」においては、「レオが居るから円盤生物が襲ってくる」という理屈がレギュラーの人物によって語られ、その衝撃によってレオが生命を失っていく(ように見える)という凄まじいエピソードがあります。今回はそれと構造自体はよく似ていますが、そこまで深刻な事態までには至らず、ラッキーがその大人たちを一喝してしまうという、別の意味で衝撃度の高い展開を見せました。ラッキーは他人の個々の事情よりも、その場で最も大事なものが何かを自分の尺度で判断し、それを守るために突き進むというキャラクターであることが如実に示されました。そもそもチキュウ人に対するシンパシーがないので、より厳しい言葉を投げかけられるあたりも巧いところです。

ワシピンク誕生!

 皆と一緒に戦いたいというラプターの妄想は、ラッキーによって夢だと断定されることになり、危険を一切顧みることないラッキーによって戦場へと連れ出されます。

 ここからはまあ、予定調和と言えば予定調和なのですが、ラプターの中に秘められた強さを感じさせる作劇が巧みなので、彼女の前にキュータマが出現するくだりは納得できるものになりました。ラプターがワシピンクであることは、今シーズンの放映前から分かっていることなのですが、作劇が巧いので、「戦闘とは無縁の執務アンドロイドが、まさかの8人目に」という印象が強く前面に出ていて、引き込まれましたね。しかも、スピードスターの異名よろしく、変身すると高速自在に空中を舞い、実際にメチャクチャ強いというのが楽しいです。M・A・Oさんのアテレコがまた素晴らしく、ゴーカイイエローとは別種の可愛い勇ましさを存分に発揮していました。同一人物とは思えないです...(ルカが可愛くないという意味ではない)。

 ちなみにサブタイトルは、「ブレードランナー」の原作である「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が元ネタでしょうか。ラプターは夢を見るほどに高性能なアンドロイドだという証であり、故にレプリカントよろしく素面キャラクターとは完全に等価であるとも言えます。

メンバー選抜!?

 今回の驚きは他にもありましたね。チキュウに降りる人員を選抜すべく「キューレット」なるくじ引きが活用されました。ちょっと懐かしめな雰囲気のディスコサウンドに乗ってショウ・ロンポーが踊るという、珍妙でなんとなく格好良いシーン! 良いアクセントとして効いていました。

 5人に限定したのは、やはり初登場のワシピンクが埋没しないための措置でしょう。人数の加減といったものは制作側としても把握されているようですね。9人を同時に動かすことの難しさを、今後どう料理してくれるのかが楽しみになってきます。

次回

 次回はスティンガーに関するお話。いよいよ9人が揃うのか!? 楽しみですね。