その7「シュバシュバ踊ろう!」

 理央は魔毒を隠し持つ者が一体誰か、気になって仕方がない。一方その頃、マガはソリサに共闘を提案していたが、鈍重なマガをソリサは嫌悪していた。

 スクラッチに、美希の娘・なつめがダンスのレッスンをサボって現れた。なつめは自分以外のメンバーの実力を卑下し、ダンスのレッスンがつまらなくなったと言う。その時、ジャンは臨獣殿の気配を感じた。

 街ではソリサに率いられたリンシーズがリズムに乗って暴れていた。迎撃するゲキレンジャーだったが、リズムに乗った攻撃に翻弄されてしまう。ソリサがレツを捕らえて首を掴むが、物陰からそれを見ていたマガは、抱き合っているものと勘違い。嫉妬のあまり巨大化して暴れ始めた。ソリサは白けて退却してしまう。ゲキレンジャーはゲキトージャとなってマガに対抗。「よくも俺のソリサを!」というマガの言葉を聴いたメレは、一計を案じる。ゲキトージャは大頑頑拳を放つが、単にマガを正気に戻しただけであった。

 マスター・シャーフーは、なつめを含めた4人に、なつめのダンス教室に行くことを提案する。教室にやってきたジャン達3人は、なつめ達のダンスのレベルの高さに唖然とする。美希は、なつめがテクニック以外の問題を抱えていると見抜いていた。

 その頃ブラコは理央に呼び出され、魔毒の誘導尋問を受けるが、「真実はいずれ分かります」と話をはぐらかす。一方メレは、恋沙汰を持ち出し、「女は絶対的な力を見せ付けてくれたものに惚れる」と言ってマガを鼓舞した。

 ダンスのレッスンを続けるうち、ジャンはダンスの楽しさに気付く。それはランとレツにも波及し、ダンスが完成してきた。一方のなつめは、一人だけ実力を見せるような違うダンスをしていた。ジャンはなつめを無思慮に批判、なつめは飛び出してしまう。美希は慌てて後を追うが、居合わせたソリサ達と交戦状態となってしまう。

 そこへジャン達が登場し、ソリサとの再戦に突入。ダンスとリズムの極意を会得した3人は、逆にソリサのリンシーズを華麗に撃退。なつめはその闘いを見て、息を合わせることの素晴らしさを理解した。残るはソリサのみ。ところが突如マガが出現、「今のお前には、俺が必要だ」と言ってソリサをかばう。その隙にゲキレンジャーを攻撃するソリサ。最強の矛と最強の盾が、遂にコンビを組んだのだ。

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
荒川稔久
解説

 美希の娘(!)なつめが登場、五毒拳の恋愛関係や、臨獣殿に渦巻く利害関係も描かれ、いよいよキャラクターの掘り下げが始まった。

 ダンスを駆使して戦うというコミカルなビジュアルにより、見た目自体は華やかだが、根底に流れるテーマは意外とヘヴィ。なつめのように、自らのプライドに固執して和を乱す者と、ブラコのように、魔毒の存在を秘匿(ブラコが魔毒の持ち主というワケではないが)して絶対者の権威を脅かす者。ゲキレンジャー達のように、その結束が揺るぎ無い者と、ソリサとマガのように、互いの力を貸与しあって協力する者。正義と悪にイデオロギーが分かれていても、他者との関わりは意外なほどに近似している。「獣拳戦隊ゲキレンジャー」は相対する流派の対立。相反する思想を抱えていても、構成しているのはやはり「個」だということを認識させてくれる。

 さて、今回はダンスで戦う趣向だが、これは古く「バトルフィーバーJ」初期に見られた趣向と同一。最高の舞踏は最高の武術になるという思想は、30年近く前、既にスーパー戦隊シリーズに登場していた。これは中国武術の演舞にも通ずる考え方であり、違和感どころか実に納得の設定だ。マイケル・ジャクソンのスリラーのような振り付けで、ソリサ達の踊る姿がコミカルである故か、そういった思想は透けて見えないが、そのアクションは充分説得力を持っていると言えるだろう。

 怪人同士の恋愛模様が珍しい。マガの純真振りが何とも可笑しく、ソリサの女傑振り(反面、繊細な部分もあって奥深い)も際立つ。文字通り「身体を張って」ソリサを守るマガの姿には、敵ながら拍手を送りたくなるほど。ふと我に返れば、それもまた可笑しい。とにかく五毒拳達のキャラクターはよく立っている。負けじと、ジャン、ラン、レツの3人もその個性を際立たせるべく「修行中」なのが伝わってくる為、戦隊シリーズのファンにとっても見ごたえがあると思う。

 ソリサとの決着自体はつかないストーリーなので、構成も変則的。ゲキトージャは中盤で登場、その後はソリサとマガの恋愛模様に突入、なつめがダンスの本来の意義に気付くまで一気に見せる。こういったパターン崩しを、シリーズ初盤でやってしまうところに、制作側の自信を感じる。

 気になる面白シーンを挙げておく。まず、冒頭の理央&メレのかみ合っていない会話のシーン。理央は殆ど独り言、メレはお構いなしに話しかける。互いの意志は、所詮己の興味優先というところが実に面白い。続いて昼食に、ランは中華、レツは出張ランチ(フレンチのケータリング?)、ジャンはカレーを主張し紛糾するシーン。それぞれの個性が出ていて愉快なシーンだ。美希が「中華」と一言で片付けてしまうところも、また笑いを誘う。

 そして、絶対見逃せないのは、美希のアクション。1話よりも長尺で、華麗な殺陣を堪能できる。素早く動いている時は勿論だが、伊藤かずえ氏は、静止している時のポージングが本当にカッコいい。再度見ることの出来る環境があれば、是非その目で確かめていただきたい。