その13「シンシン!精霊の舞い」

 カタは、更なる臨獣拳の強さを得る為に、憎しみが必要だと諭す。理央の心の痛みを活性化させようとするカタだったが、メレが邪魔をする。そこへ飛翔拳のルーツとラスカが現れた。

 ジャン達はバレエを鑑賞していた。獣拳のセンスを磨くために、芸術の鑑賞も大事だという美希だったが、ジャンとランは退屈していた。

 カタはルーツとラスカに偵察と襲撃を命じ、街へと送り出す。ジャンはその気配を感知、ゲキレンジャー3人は迎撃を開始した。しかし、ルーツとラスカの技に圧倒された上、巨大戦もゲキエレファントージャが空を飛べない故に、全く歯が立たない。戦いに満足したルーツとラスカはゲキレンジャーを放って何処かに去ってしまった。

 空を飛ぶ技をマスター・シャーフーにたずねるレツ。「あやつに頼むしか…」マスター・シャーフーが取り出したのは1枚の地図。芸術鑑賞会に行って来いと言う。

 カタは覚悟した理央にリンギを放ち、心の痛みを活性化、己の弱さを憎むよう告げる。苦しみ声を上げる理央を、メレは見ていられない。

 レツたち3人は、湖のほとりへとやってきた。そこには、扇を持って舞う「精霊」が居た。その舞の美しさに見とれる3人。「精霊」は舞いながら湖の上を滑るように移動した。水面からわずかに浮いている。そして舞を終えた「精霊」は、空を飛んだ。「精霊」は拳聖バット・リー。すっかり心を奪われたレツは、バット・リーへの弟子入りを志願する。

 ところが、バット・リーは修行をつけるつもりはないと言う。レツはゲキブルーとなって、バット・リーを攻撃し始めた。自らの技を見せるつもりなのだ。ところが、ルーツとラスカの襲撃を察知したため、それは中断されてしまう。バット・リーは、レツに「待て。お前に修行をつけてやってもいい」と告げた。ジャンとランは街へと戻り、飛翔拳の2人と対峙する。

 そして、レツに、ただ一つ「技を捨てよ」と教えるバット・リーだったが…。

監督・脚本
監督
辻野正人
脚本
吉村元希
解説

 第3の拳聖「バット・リー」登場編。理央の修行は継続、それとはほぼ無関係に、カタの親衛隊である飛翔拳が街を襲撃する。それに対抗する為、ランに続いて今度はレツが拳聖の修行に挑む。ストーリーの構造自体は、理央とゲキレンジャーがほぼ乖離した状態のまま進行する形式だが、それでもシーン運びの巧みさとバランスの良さで、無理のない展開に成功している。

 バット・リーについて語る前に、まずは臨獣拳側にスポットを当ててみよう。

 臨獣拳側の新たな動きは、カタがさらなる修行を理央に課すというもの。前回はカタの熾烈な修行に対し、理央がカタの予想を超える成果で答えて見せたのだが、今回はメレの邪魔が入ったり、メインが激獣拳側であることから、ややスピード感には欠ける。ただし、この一連の修行シーンには、重要なポイントもしっかり盛り込まれている。メレの思いが完全に空回りしていたり、理央の克服したかに思えたトラウマが、また蒸し返されたりと、今後のドラマ展開を動かして行くファクターになりそうなものが、静かに見え隠れしているのだ。

 「カタの親衛隊」を名乗る「飛翔拳」が登場。「五毒拳」に続く臨獣拳のサブカテゴリーであり、臨獣拳側のスケールを感じさせるのに一役買っている。鳥をモチーフとした(カンフー映画における)拳法は、「鷹拳」や「鶴拳」といったものが有名であるが、まさにカタとルーツはこれに従っている。ラスカはいわゆる「烏拳」ということになるだろうが、これは「鶴」の白に対する「烏」の黒というイメージを先行させたものだろう。この飛翔拳コンビ、デザインから性格設定に至るまで対象を成し、それ故のコンビネーションの良さが前面に出ていて面白い。見方を変えれば、臨獣拳側にもこのようなチームワークや仁義といったものが存在するということである。

 さて、対するは激獣拳。ゲキレンジャーでは定番化しつつある「新たな力の前に苦戦。ただし、敵の気まぐれでとりあえず無事。修行して勝つ!」が今回も登場。このパターンにはマンネリという意見もあるが、逆にこの基本パターンをいかに料理し、バラエティ豊かに見せてくれるかを楽しむのが流儀だろう。実際、こういうパターン化したものは、視聴者にバリエーションを楽しむ余裕を与え、逆に燃える(時には笑える)展開を約束するものではないだろうか。

 まさに「手を変え品を変え」。今回エレハンはあえて登場させず、新たな拳聖にしっかりスポットを当てる。バット・リーはエレハン同様、ターゲット視聴者を実によく分析したキャラクターだ。モチーフとなる動物を、まさにそれと分かるデザインに落とし込み、年少者に対しての親近感を考慮、そこに往年のカンフー映画のスターの面影(それはネーミングやスターの日本語吹き替え常連俳優の起用によって「再現」される)を加えることで、年長者のマニア心をくすぐるという趣向である。

 今回、バット・リーは京劇を元にした舞を披露するのだが、このシーンは実際の京劇役者を起用しているということで、非常に充実していた。バット・リーの声は池田秀一氏。池田氏と言えば、真っ先に「シャア・アズナブル」ということになろうが、やはりバット・リーにもシャアのイメージをダブらせてしまうファンは多いだろう。しかし、それがバット・リーというキャラクターにとってプラスに働いていることを、見逃してはならない。

 一方で、レツの性格設定もかなりわかり易くなっていることに注目したい。とにかく「美しさ」に没入してしまう面、一度決めたらそれに向かって猪突してしまう面…。当初、ペシミスティックな言動が散見されたが、それはほぼ捨てられ、批判者としての立場こそ残るものの、あくまでポジティヴなキャラクターに転化しているのだ。激獣拳側が徹底的に明るい描写を目指していることが分かる。それを深みに欠けると受け取るか否かは、それぞれだろう。ただし、番組全体のバランスを考えれば、その処理は至極当然ではないだろうか。