その27「ベランベラン!燃えよ実況」

 臨獣アーチャーフィッシュ拳の使い手・ポウオーテを迎え撃つ、ゲキファイアーとゲキトージャウルフのタッグ。無類の巨大戦好きであるバエは、興奮しつつ実況を始める。それを面白くなさそうに見つめるメレの前に、またもロンが現れ、ゴウに邪悪な気を投げた。ゴウは突如狼男へと変身、ゲキトージャウルフはゲキファイアーを攻撃しはじめる。ロンは同士討ちを仕掛けたのだ。そして両者相撃ちの衝撃が、バエを吹き飛ばしてしまった。気がついたバエは狼男から人間の姿に戻るゴウを目撃する。バエは興味を持って後を追いかけた。

 理央が獣源郷に赴き不在の間、マクを中心とした拳魔たちだけで盛り上がる臨獣殿。理央が帰還した暁には、好き勝手にはさせない...。メレは密かにほくそ笑むのだった。

 スクラッチで傷の手当をするジャン達3人を見て、ゴウはゲキレンジャーの仲間であり続けることを迷う。そこへバエを捕まえたピョン・ピョウが登場。バエはかつて激臨の大乱の折、不完全な獣獣全身変を使って現在の姿になっており、同じ境遇のゴウを放っておけないと話す。そこにまたロンの気が漂い、ゴウは狼男へと姿を変えて暴れ始めた。

 同じ頃、ポウオーテが街で暴れ始めていた。気配に気づいたジャンはゴウの邪気を身体で受け止める決意をし、ランとレツをポウオーテの元へ送り出した。マスター・シャーフーはゴウに、激気でも紫激気でもない禍々しい邪気を感じるという。その邪気さえ祓えば、元の人間に戻るかもしれないというのだ。ジャンの頑張りの前に、ゴウは手を止めた。メレの臨気がないと生きて行けない身体になってしまったバエは、弱りながらも懸命にその様子を実況し始める。バエは気合の入った実況によって、ゴウの正義の心を呼び覚まそうとしているのだ。バエ渾身の実況はゴウの正義の心を奮い立たせ、ゴウは心の中で狼男と戦う。ゴウ気合の一撃は狼男を貫き、ロンの邪気を完全に祓った。ゴウは完全に人間へと戻ることが出来たのだ。フラフラになったバエは、巨大戦を見せてくれと言ってゴウとジャンを送り出す。

 ポウオーテに苦戦中のランとレツに合流するジャンとゴウ。バエの気持ちに応えるべく、ゴウは華麗な攻撃を矢継ぎ早に繰り出し、ポウオーテを追い詰めた。ポウオーテは怒って巨大化。ゴウはバエに捧げるゲキトージャウルフで迎え撃つ。バエはゲキトージャウルフの登場と共に巨大戦の実況を始めた。勢いに乗るゲキトージャウルフに対し、ポウオーテは怒臨気を燃やして反撃するが、そこにゲキファイアーも登場。見事な連携でポウオーテを打ち破った。渾身の実況を終えたバエは、地面に落ちていく。今まさに生命燃え尽きんという瞬間、メレが再度バエを捕まえる。メレの臨気を浴びて復活したバエは今まで以上の元気を発揮した。メレは、バエも理央に蘇らせてもらった身体であるが故、粗末には出来ないという。メレは今日は戦う意志のないことを告げ、早々に退散した。

 その頃港では、たった今、日本に帰ってきた男が「日本は湿っぽい」と呟き、何処かへ向かっていった。

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
中島かずき
解説

 ここにきて、突如バエにスポットを当てるという意外な展開で、ファンを喜ばせた好編。激臨の大乱における人間の姿のバエと、髪型の異なる艶かしいメレの姿も披露され、サービスも充分だ。

 今回はバエが主役とも言うべきエピソードなので、バエの経歴の殆どが判明することとなった。その辺りを少し整理してみよう。

 まず、バエは激臨の大乱に参加した古参であり、既に死亡していてもおかしくない年齢(?)であることがはっきりした。以前、エレハン・キンポーと旧知であるような描写はあったが、本人の口からはっきり語られたのは今回が最初である。同時に、メレと対戦したのが、激臨の大乱の渦中であることも勿論はっきりした。次に、何故小さいハエの姿になっているのかも、「獣獣全身変」によるものであることが明らかとなった。ゴウ登場以来「獣獣全身変」によって拳聖の謎も氷解してきたのだが、バエにまで及ぶとは見事と言うほかない。しかも、ゴウ同様に不完全な技であったが故に小さいハエの姿をしており、それがゴウの真の復活にまで繋がってくるのだから、なかなか練られた構成だと評価できよう。

 さらには、激獣フライ拳なるものが何たるか、そして実況が単なる趣味ではないことも語られる。激気を言霊として発するのが激獣フライ拳の真髄だという説明には衝撃を覚えると同時に、その説明だけでバエの性格から言動に至るまで語りつくすかのような感すら覚えた。非常に秀逸な設定だ。劇中に言及はないが、バエの実況がひどく激獣拳寄りなのは、バエが元々激獣拳の使い手であることだけが理由ではなく、言葉を通じてゲキレンジャーに激気を送っていたのだろうことは想像に難くない。

 もう一つ、何故メレの胃袋から自由に飛び出せるのに全く逃げようとしないのかも判明する。バエはメレの体内に存在したままメレと共に一旦は死者となっているらしく、メレの臨気がないと生きて行けない。つまりは、メレに寄生している存在なのだ。ラストシーンでメレが、理央に対する愛の一部としてバエの生命があると語るシーンは、メレの言い回しにバエへの愛着を匂わせ、両者の複雑な関係を感じさせて面白い。

 これだけの要素を詰め込んでいても、まるで説明臭くならないのが、本エピソードの美点だ。組み立てが実に巧みで、ゴウの葛藤を前面に出しつつ、さりげなくバエを絡ませていく。ゴウが狼男から戻る瞬間を見てスクラッチに赴き、不完全な獣獣全身変の話に及び、そして激獣フライ拳の真髄を見せてゴウを導く。その過程で、流暢な言い回しを用いて自らのことを語っていくバエ。石田彰氏の秀逸な演技がそれを完璧に作り上げていく。バエの造形物は可動部が少ないのだが、石田氏の演技はそれに生き生きとした生命力を吹き込んでいて実に楽しい限りだ。まさに言霊のパワーである。

 さて、今回は勿論ゴウの完全復活編でもある。狼男の呪縛がこれほど早々に解決するとは意外な気もするが、視聴者もこのような「足枷」を引っ張る展開には食傷気味であり、早々に解決して爽快感をドライブしていったほうがシリーズにとってプラスになると言えよう。ゴウの邪気との戦いは、内面に抱えた葛藤ではなく、外部からもたらされた邪気との戦いとして説明されているのにも注目したい。つまり本来のゴウは澱みなき善の心を持った人間であり、邪気をもたらしたのはロンその人だったということである。これにより、ゴウは正真正銘激獣拳の使い手であり、レツの兄という存在に対して疑う余地を無くしているのだ。これはランが「不良化」したエピソードのパターンに近いと言えるだろう。爽快感重視こそゲキレンジャーというシリーズの真骨頂だ。爽快感と言えば、バエの実況も高揚感を伴った爽快感に貢献しているのだと、今回感じられたところである。

 ゴウの精神内での戦いは、バエのゲキワザ実況により視覚化されるという展開と共に描写される。合成が実に美しく、ビジュアル的な説得力も抜群であり、印象的なシーンとなった。異空間内のようなセット撮影でも雰囲気は出るが、それだけではない念の入れ方が嬉しい。

 一方、ランやレツ、そしてポウオーテは裏方的な扱いとなり、少々影が薄い。新要素目白押しで仕方のないところだが、今は我慢時か。特にポウオーテは昔ながらの怪人を思わせるキャラクターで、実に惜しいところだ。リンリンシーは話数に比して意外と登場数が少ないのだが、それ故か個性は強い。扱いが薄いと少し寂しくなってしまう。今回は特にその傾向が強いようだ。だが、それらを犠牲にしてでもバエとゴウを引き立たせる必要があったのは間違いないところであり、その英断が本エピソードを傑作たらしめたのだと言って良いだろう。