その48「サバサバ!いざ拳断」

 ロンとサンヨを下したかに見えたゲキレンジャーと理央、メレ。だが、サンヨは生きていた。サンヨは咳き込みつつ「最後の務め」だと不気味に呟く。

 スクラッチにやって来た理央とメレ。理央と美希は同士として久方振りの再会を喜んだ。かつての修行仲間で盛り上がる中、ランとレツはこのまま理央とメレを許してしまって良いのかと疑問を投げかける。臨獣殿は悲鳴や絶望を集める為に人々を苦しめてきたのだ。だが、理央やメレと分かり合えたと考えるジャンは、ランとレツの考えに乗ずることが出来ない。そこで理央は「拳断」を進言する。獣拳の言い伝えにある、命を懸けた拳による裁きの方法だ。理央は3日後に会おうと言ってスクラッチを出て行った。ランとレツは拳断に向けて特訓を始める。事態を受け入れられないジャンに、ゴウは2人の決めた道に口出しをしてはいけないと告げた。

 理央とメレは臨獣殿に戻ってきた。そしてそこに、ジャンもやって来た。理央とメレは何らかの覚悟を秘めていた。臨獣拳がこの世から消える為の儀式だと言う理央。メレはそれを「サバサバした気分」だと表現する。そして、理央は臨獣殿に火を放った。

 いざ、拳断。レツ対理央、ラン対メレの激しい手合わせが始まる。生身で闘い、さらに変身を経て戦う両者。シャーフーは「そうか、理央」と意味ありげに呟いた。次の瞬間、秘伝ゲキワザによる渾身の一撃を放つランとレツに、理央とメレはノーガードの姿勢となった。驚く一同。

 しかし、そこにサンヨが乱入し、拳断は中断されてしまった。サンヨは不死身だと嘯く。そして傍らに姿を現すロン。何とサンヨはロンの「不死」を司る、ロンの一部だったのだ。ロンは今こそ真の姿を見せる時だと言い、サンヨを喰らうと巨大な怪物の姿となった。「無間龍」と名乗るその怪物は、古今東西の竜あるいはドラゴンの伝承の元となったもの。そして、理央の家族を亡き者とし、ジャンの故郷を滅ぼした、あの怪物であった。

 拳断の場を破壊されたゲキレンジャーと理央、メレ。ロンは、かつてないほど面白い日々を過ごしたが、ジャンだけが自分の意図から外れた存在だったとし、ジャンに対して激しく怒り罵る。ジャン達に襲いかかる竜の頭。何とか避けるものの、背後から静かに忍び寄る別の頭に気づかない。その時、メレが動いた。ジャン達を蹴り飛ばすと、竜の頭に食いつかれてしまう。無間龍はメレを噛み砕き、地上に叩き落した。怒りに燃えるゴウとケンはゲキトージャウルフとサイダイオーで無間龍に立ち向かう。だが、不死を自負するロンにはいかなる攻撃も効果がない。

 ジャン達を助けて死に瀕したメレは「しっかりしなさいよ...」と告げる。「私もあんたたちに倒されたかった」というメレの言葉を聞き、レツは拳断に対する彼女の覚悟をはっきりと知った。「あと少しだけ待っていろ」と言う理央の腕の中で、メレは白い砂となって消えた。

 理央は超無限烈破の経絡を突き、拳の中に残るメレの砂に口付ける。理央が決めた道、それは全臨気を無間龍にぶつけることだった。理央はジャン、ラン、レツに全てのリンギを託す。正義の心でリンギが使われることがあれば、臨獣殿の存在意義もわずかなりともあるだろうと言う理央。納得できないジャンは、自分が強くなってもいいのかと強がるが、理央は再度の勝負を約束して無間龍へと向かっていった。

 「これが最後の、臨獣拳だ!」黒獅子となった理央が無間龍の前に立つ。

 「俺はようやく、本当の強さを身に付けたぞ。仲間が、俺に戦う意志と力をくれた」理央は全ての臨気を開放し、無間龍へと突進していった。理央は無間龍の体内で自ら爆弾と化し、無間龍を体内から大爆発させた。その刹那、理央は常に苛まれてきた土砂降りの雨が、晴れ上がっていくのを見た。そしてそこには、理央を待つメレの姿があった。笑顔で手を取り合う二人は、光の中に消えていった。

 跡には、三拳魔の腕輪が残された。「理央よ、お主は真の獣拳使いとして一生を全うした。見事じゃ...」マスター・シャーフーが呟く。

 ところが、まだロンは滅びていなかった。理央とメレの死を嘲笑するロン。ジャンは三拳魔の腕輪を付け、理央とメレの気持ちを胸中に秘め、怒りをたぎらせていた。ジャンはロンの絶対の打倒を宣言する!

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
横手美智子
解説

 クライマックスは「最終回」にあたるエピソード3連発ということらしい(東映公式では5連発のつもりとのこと)。前回、今回ときて、そして次回が本当の最終回である。

 前回、今回、次回の3本を最終3部作と呼ぶには、違和感がある。それよりも、このまま終わらせることが出来そうなエピソードが3本もあるという雰囲気が強い。前回は、敵対する獣拳の流派が手を取り合う大団円。ここでは、サンヨさえ生きていなければ、またランとレツが疑問を持たなければ、そのまま終わってもさして問題ない展開をとっている。理央とメレが「光戦隊マスクマン」のラストの地底王子イガムよろしく、出家して罪をあがなうという展開もありだった(もしそうなったら、実につまらないけど)。今回も、理央がロンを亡き者とすることに成功すれば、それはそれで終了とすることもできた。勿論、主人公側が涙を流して終わるという展開は戦隊シリーズには不似合なのだが。

 そんなわけで、次回予告では彼らの登場を示唆しているものの、今回が理央&メレの最終回ということになる。

 冒頭では、理央とメレがスクラッチにやって来るくだりが描かれる。ジャンに無理やり連れて来られた形ではあるが、ランとレツ以外は彼らに対して寛容である為、かなりの歓迎ムードになっている。ここでの注目は、美希と理央、そしてゴウの思い出話。理央の爽やかな「懐かしいなぁ」というセリフが聞ける。かつては修行の時を共にした3人である。感慨はひとしおだったに違いない。歓談という言葉が相応しい理央と美希の様子を見て、嫉妬に燃えるメレの可愛さも要チェックだ。その後の2人を知った上で見れば、実に切ないシーンではあるが。

 そんな中、ランとレツは終始うつむき加減。前回ラストで、理央とメレをスクラッチへ招いたジャンの行動に納得いかない様子が描かれていたのは、ここに至る布石である。以前にも書いたが、個人的にダン周辺のエピソードに関わっていないランとレツにとっては、あくまで仇敵はロンではなく理央とメレであり、倒すべき相手も本来はロンではない。物語の構造上、全ての元凶がロンであることは疑う余地もなく、さらにはロンを倒したことでカタルシスが得られることも確かなことだが、キャラクターの目線に立ってみれば、やはりランとレツが直接倒すべき相手として睨んできたのは、理央とメレその人なのである。

 終盤、理央とメレは「拳断」によってランとレツに倒されるつもりだったことが明かされる。ランとレツの放つ正義の拳によって、自らの死を以って浄化しようとしたのだ。画面上から推測するに、理央はスクラッチに招かれた時から、「拳断」ではないにしろ、既に何らかの手段を模索していたのではないだろうか。言い方は少々悪いが、ランとレツの存在は、理央とメレにとって好都合だったということだ。一方、ランとレツにとっても、理央の「拳断」の申し出は好都合だった。ランとレツは、理央やメレに対するくすぶったやり場のない怒りを抱えており、それをぶつける場として、これほど適した場はないからだ。

 「拳断」の前、理央とメレが臨獣殿に火を放つシーンが見られる。このシーン、メレの「サバサバしてます」というセリフが目を引くが、実は「敵側幹部が自ら敵基地を破壊する」という稀有なパターンであることも重要だ。東映特撮ドラマでは恒例の「敵ボス消滅と共に敵基地崩壊」というシーンが、ここでは変則的に展開されていることになる。敵基地のスペクタクルな破壊振りは、戦隊シリーズに限っても黎明期の「バトルフィーバーJ」より際立っているが、臨獣殿を灰燼と化す今回のシーンでも、ミニチュアを大胆に燃やすなどの徹底振りを見せる。

 さて、「拳断」は、儀式や意義としては格式高いものとして演出されているが、前述のように実はかなり世俗的な贖罪あるいは解消な側面を持っていることが分かる。だが、ダン周辺と直接関わりを持たない故に、終盤にて薄い存在感に甘んじてきたランとレツにとっては、大きな見せ場となる。相当な時間を要したであろうアクションシーンは、見事な完成度で成立。変身後のアクションの完成度は言わずもがなだが、前半の素面で演じられるアクションは特に驚きがあり、詳細に確認すると、吹き替えなしであることが分かる。

 ランには、トランポリンによる高空ジャンプから突きを繰り出すシーンが用意された。一見簡単なアクションに見えるが、このトランポリンというものは意外に厄介で、今回のように素顔がはっきり映るようなシーンでは、ジャンプしつつ表情を作るという難しい演技が要求される。その要求に、福井氏は見事に答えていた。

 レツは、体の柔軟性を要求される回避演技に加え、ワイヤーアクションによるバック宙も披露。優美さを信条とするレツならではの軌道線の美しさが見事で、ワイヤーアクションとはいえども難度の高い伸身宙返りに、高木氏の努力の成果を垣間見ることが出来た。

 勿論、理央とメレにもアクションへの挑戦が与えられている。

 理央は、攻撃主体の激しい殺陣に加え、トランポリンによる前方宙返りという難度の高い演技を披露。この前方宙返りというものも実に難しいもので、特に空中で膝を抱える動作はかなりの訓練を要する。荒木氏のアクションに対するアビリティの高さには目を見張る者があった。

 メレにも、レツと同様のワイヤーアクションによる後方伸身宙返りのシーンが登場。高さのあるレツとは異なり、よりコンパクトな円形を描いて回るという、これまた高い柔軟性を要求される演技だった。回転中にランを見据える「眼力」がゾクッとさせる魅力を放つ。平田氏のこのあたりの雰囲気作りはさすがだ。

 この「拳断」、残念ながらロンとサンヨの乱入によって中断されてしまう。土壇場で覚悟を決めた2人の立ち姿が美しかっただけに本当に残念だが、この「拳断」で終わってしまうような構成は、ターゲットの異なるアニメ等ではともかく、戦隊シリーズでは受け入れられないものであろう。サンヨがロンの不死の部分だというエクスキューズは、「宇宙刑事シャリバン」の魔王サイコと戦士サイコラーの関係を思わせるが、今回のロンとサンヨの関係はもっと曖昧なものである。ただ、曖昧なだけにサンヨによるロンの復活シーンや、サンヨを食らうことによる無間龍への変化シーンがより不気味さを帯びていることには注目すべきだろう。曖昧さと言えば、既にこの時点では、幻獣拳というもの自体が何なのかは一切顧みられることなく(そもそもクライマックスエピソードでは獣拳扱いされていない)、サンヨが元々無間龍と呼ばれる怪物の一部であろうことから、幻獣拳とは無間龍=ロンの余興を演出する為の虚像であったものと思われる。そうした曖昧な存在でありつつも、古くはブルーサ・イーの死亡事件から、この虚像に獣拳は踊らされてきた(さらに古より人間は、幻獣ドラゴンあるいは竜を恐れ、敬い、崇めてきた)わけで、単なる愉快犯にとどまらないスケールが、このロンには付与されているのである。また、無間龍形態時の、川野氏の声の演技には鬼気迫るものがあり、一層不気味さを掻き立てていた。

 そして今回最大の見せ場、理央とメレの壮絶な散り様が描かれる。

 メレは、無間龍に恨まれ付け狙われるジャンを守り、無残に噛み砕かれるというトラウマモノの最期を遂げる。この噛まれた時の音が実に気持ち悪く、その後のメレとの別れの美しさと絶妙なコントラストを生み、その感動をより強くしている。「あんた達に倒されたかった」という涙モノのセリフをはじめ、メレの今際の際に思わず涙するランが切ない。ランにとってメレが敵ではなく、同じ獣拳を志す者としてのライバルとなった瞬間だ。理央がメレを抱きかかえ「あと少しだけ待っていろ」と言った時、理央の死への道が色濃くなり、愕然とさせられるも束の間、メレは白い砂と化して崩れ落ちる。彼女がリンリンシーであることをふと思い出させるシーンだ。その砂の一部を握り、口付けする理央。あからさまなキスシーンを見せず、愛の深さを見せる為にこのような処理を持ってきたところが実に巧い。

 理央の最期は、壮絶で華麗。「もう一人の主役」に相応しいものだった。「超無限烈破」という、メレのリンギの発展技を使うところもニクい。臨獣拳アクガタのリンギ全てをジャン、ラン、レツの3人(3人であるところがミソ)に託し、理央は臨気の弾丸となって無間龍の体内に入り、凄まじい臨気の爆発を起こして散る。

 理央を臨獣拳へと走らせた悪夢の土砂降りが晴れ渡り、清清しい林道をメレと共に手を取り合って消えていくという、象徴的なシーンが後に挿入されるが、一年間シリーズを通して描かれてきた理央とメレの物語を締めくくるに、これ以上に相応しいシーンは考えられないというくらい、素晴らしく感動的なものだった。BGMには悠久の獣拳を表現する胡弓が使用され、「死」というネガティヴなイメージを、これからの二人の門出を祝福するという雰囲気にまで転じている。特撮ドラマでなければ味わえない感動だ。まさに「最終回」のテンションである。

 だがしかし、やはりこれは「獣拳戦隊ゲキレンジャー」なのだ。

 ロンは未だ健在で、さらに悪辣な表情を見せてくれる。そしてジャンは、絶対の打倒を力強く宣言する。前回、今回と最終回に匹敵するテンションと完成度を見せただけに、真の最終回には期待と不安が入り混じるが、ここはひとまず、そのテンションの高さに期待しておきたい。