第23話「人の命は地球の未来」

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 マツリさん美しすぎる...という一編です。


 とにかく、先輩ゲスト編をヒロインでやってしまうという発想が光ります。ルカの過去、そしてアイムの本音を絡めてくるあたりも素晴らしい。ルカとアイムを姉妹になぞらえる、あらゆる細かいネタもよく作られており、ストーリー全体よりも、どちらかと言えばディテールに気が利いているという印象があります。


 先輩ゲスト編のセオリーどおり、ナビィのお宝ナビゲートから始まり、とりあえずナビゲートを実践してみて色々と失敗し、やがて一部のメンバーが先輩ゲストと出会う事で、話が転がり始めるという展開を見せますが、テーマの面では、かなり異質な感じがします。


 その辺りを明らかにする事で、今回の魅力を探ってみようと思います。続きの方にて。

 いきなりですが、テーマ的に異質だと述べた点についてです。

 セオリーどおりの(と言っていいかどうかは、既に微妙ですが)先輩ゲスト編では、「大いなる力」を受け継ぐ為の試練といった面が強調される傾向にあります。それぞれの戦隊の特徴的なテーマを、ゴーカイジャーのメンバーが意識する事で、「大いなる力」を得るというのが大筋です。

 ところが、今回はかなり趣が異なります。

 まず、ゴーピンクこと巽マツリその人が直接狙われた事。これについては、バスコの存在が大きく関与しています。バスコは「大いなる力」を無理矢理奪い取る能力を持っている為、レジェンド戦隊の当事者そのものを狙うという展開も用意出来ます。今回は正にその展開を導入したわけですね。ちなみに、これは秀逸なショートカット手法でもあります。

 続いて、マツリ自体が、大いなる力の継承の為の教示といったものを、一切感じさせない事。ここでのマツリは完全に一人の救急救命士であり、元ゴーピンクであるという点で、若干名を知られた存在である以外、戦隊としての意識はほぼ皆無です。元々、「ゴーゴーファイブ」という作品自体が、人の命を救うというポリシーを念頭に置いて制作されていたので、このマツリの言動は非常に納得の行くものとなっています。

 そして、前項とやや重なりますが、「ゴーゴーファイブ」の人の命を守るというポリシーよりも、「姉妹」が強調されたのが特徴的。つまり、今回の「大いなる力」は人の命を守るというポリシーの継承よりも、むしろ兄弟姉妹の絆といった面を前提としているように見えるのです。勿論、怪我をして緊急を要する容態の少年をメインに持ってきているので、マツリの「レスキューソルジャー」たる雰囲気も感じられなくはないですが、今回のテーマは別の処にあるでしょう。

 「ゴーゴーファイブ」を振り返ってみると、マツリは末っ子でしたが、兄弟一のしっかり者という設定でした。今回、ルカがアイムに妹を重ねていたという、ある意味衝撃的な設定が明かされましたが、「妹」とされていたアイムは、ルカが思う以上にしっかり者だったわけで、その点でマツリと重なる処があります。要するに、今回の大いなる力の代表継承者は、メインを張ったルカより、むしろアイムだったと。

 逆にルカは、妹の幻影をアイムに求めていた自分の暗部が暴かれ、そしてそこからの脱却を迫られた事になり、メンタルの上で弱点を抱えていた事が暴露され、実はアイムよりも弱い自我を持っていた事が判明しました。本来、この部分はもっと多くの時間を割いて語られるべき部分ではあると思いますが、今回のように「駒が進んだ」感覚を感じさせる為には、程良い解決だったのではないでしょうか。ただ、ルカの為そうとしている事は未だ判明していないので、この件に関しては、まだ解決済みだとは言えず、新たな展開が用意されていると考えていいでしょう。

 やや話が逸れましたが、今回のマツリの役割は、ルカの暗部からの脱却を促し、アイムのポジションを意識させたという事になるでしょうか。それはつまり、少なからず戦隊ヒロインとしてのポジションを意識させたという事でもあり、裏テーマでは、しっかり「ヒロインの資格」をやってたわけですね。見事。ちなみに、「人の命は地球の未来」という決め台詞が盛り込まれたマツリの台詞には、彼女がゴーゴーファイブの一員であった事を強く感じさせました。それから、マツリと一緒に救急車に乗っていた隊員は、当時ゴーピンクのスーツアクターを務めた中川素州さんだったそうで。サービス精神旺盛ですね。

 ところで、今回の全体を支配している「兄弟」ですが、まず、近いうちに「姉」になる少女が登場し、ルカの「妹」の記憶が描写され、後述の豪快チェンジでファイブマン、マジレンジャーといった「兄弟戦隊」に変身、そして、「ゴーゴーファイブ」も兄弟戦隊...と、正に目白押し状態で畳み掛けてきます。豪快チェンジについては、元ネタを知らないとテーマの反芻になっている事に全く気付きませんけれども(笑)。

 この「兄弟戦隊」、私はどちらかというと暑苦しさを感じてしまう設定なんですよね...。「ファイブマン」は、私が最も戦隊から離れていた時期の作品の一つ。当時中学生〜高校生くらいでしたから、「ファイブマン」の五教科モチーフや兄弟といった要素がくすぐったくて、敬遠していました。特に、兄弟という設定は個人的に印象が悪く、兄だから、弟だからといったストーリーテリングの手法は、安易だという思いすらありました。もっとも、これは誤った見方であり、今では、最も見たいシリーズの一つですけど(笑)。

 なので、「ゴーゴーファイブ」が兄弟戦隊として登場した時、まず食わず嫌い感を覚えてしまったわけです。本編自体も、長兄が暑苦しいキャラクターに設定されていたので、兄弟関係自体が割と暑苦しく感じられ、これまた印象があまり良くありませんでした。親父であり司令官でもある巽モンドに関しては、マイク眞木さんという意表をついた大物起用でしたが、私自身がマイク眞木さんを、フォークソングの大家としか認識しておらず(笑)、戦隊司令官としてどうなのかという疑問が拭えないままでした。

 後に登場した「マジレンジャー」も、兄弟戦隊としてデビューしましたが、これに関してはレッドを末弟とする事で暑苦しさからの脱却を図り、それが巧く作用したのではないかと思います。「マジレンジャー」のテーマが、暑苦しい兄弟関係より、むしろ温かい家族関係を重視していたという点も良かったのではないでしょうか。

 話の流れに乗って、ついでに「ゴーゴーファイブ」の思い出をここで。

 第一印象がやや悪かった「ゴーゴーファイブ」。しかし、本編を見てみると、ビクトリーロボがエラくリアリティ重視の演出となっていて、まずメカ描写から良い印象を受けた覚えがあります。そして、普段の五人が無個性のレスキュージャケットを着用していて、五人の差別化を基本的に顔だけで行っていた処も、挑戦的で好きでしたね。

 そんな私が挫折したのは、グランドライナーの登場から。ビクトリーロボのリアルな感触が好きだった私にとって、グランドライナーは青天の霹靂でした。空飛ぶ列車が豪快に空中で合体してしまったので、ビクトリーロボとの関連性が完全に立ち切られてしまったように感じられたのです。テンションダウンとは恐ろしいもので、その直後から殆ど視聴していません。後にガオレンジャーのVシネマにダイモンが登場した際も、キャラの前提が分からずに相当戸惑いました。

 それでも、マツリ役の柴田かよこさんには注目してましたよ。かなり好みでしたからね(笑)。というわけで、今回のゲスト出演は、相当に嬉しかったです。「ゴーゴーファイブ」当時から、既に10数年の時が経過しましたが、当時よりお美しい事に驚嘆しきりでしたね〜。

 さて、今回は先にネタの方をまとめます。今回のネタは、非常にコミカルでありながら、ヒロインだけを自由にする為に用意された、実に周到なものでした。

 マーベラスと鎧は、人助けというキーワードを実践すべく、お年寄りを背負って階段を上るのですが、どんどん列が出来てその場を離れられなくなるという展開。あれだけの人数を運んだようなので、マーベラスと鎧の脚力の凄さには感心しますな(笑)。

 ジョーとハカセは、落し物を拾うという行為で人助けを実践しますが、相手が悪かった...という展開。オネエキャラ全開の人物にメイクまで施されるという、誇張されているが故の笑いがいい感じに機能してましたね。

 一方で、シリアスなネタとしては、ルカとアイム、そしてマツリが議論を交わしている間、バスコがちゃんと待っている処を描写する等、なかなか気の利いた演出がありました。救急の場にしては、やや冗長だったのですが、バスコのシビレが切れる事と、少年の容態に関わる切迫感によって、逆に非常にスリリングだったような気がします。

 バスコが繰り出したレンジャーキーの実体化は、大剣人ズバーン、黒獅子リオ、メレ獣人態。三人とも「レンジャー」と呼ぶにはかなり違和感のあるキャラクターですが、一応追加戦士的な扱いだったので。危険なプレシャスだったズバーン含めて、敵キャラとしては十分な迫力がある為、アクションはかなり充実してましたね。そうそう、バスコ繋がりでは、柴田かよこさんの素面アクションが、まさか見られようとは! 「ゴーゴーファイブ」以来、あまりアクション関係のお仕事はされていない印象がありますけど、現在でもかなりお上手なので、ビックリしました。

 最後に、今回の豪快チェンジについて。

 前述のとおり、ルカとアイムがファイブイエロー、ファイブピンクに、そしてマジイエロー、マジピンクにチェンジします。ファイブマンはそれぞれの個人武器が登場し、アクションに花を添えていました。マジレンジャーは、豪快チェンジ的にかなり頻出の戦隊なので、既に目新しさという点では不利なのですが、今回はアイムがマジピンクの変身能力を駆使して事態を解決するという、久々に理にかなった利用法を実践していたのが嬉しい処です。実はファイブピンクもマジピンクも、両方「お姉ちゃん」である処がミソ。ラストシーンでの、アイムの方が姉のようだという感想にさりげなく繋がっています。

 そして、真打とばかりにゴーゴーファイブが登場。ゴーカイジャーが「着装」するという、ある意味シュールでありながら、変身プロセスを完全再現して見せる辺り、充実度はMAX。しかも、着装後はゴーグルからマーベラス達の素面が透過されて見えるというサービス付き。BGMも主題歌インストでしたし、満足度の高さは折り紙つきでしょう。ブラザーシップスマッシュが披露されたのもいいですね。

 さてさて、次回はまさかのジェラシット再登場。どうやら問題作カーレンジャー編に続いて浦沢脚本になるようで...。これは楽しみです。