GP-04「炎神トラブル」

 範人のパートナーとなる炎神バルカと、軍平のパートナーとなる炎神ガンパードがヒューマンワールドに向かっている。その報を聞いたゴーオンジャーは、早速バルカとガンパードの捜索に出かけた。

 一方、ガイアークでもバルカとガンパードの来訪をキャッチしており、ケガレシアはスプレーバンキを作り出して、炎神達を倒すべく派遣する。

 ガンパード捜索には軍平と走輔が就いた。軍平は逸早くガンパードの炎神キャストを発見したが、炎神キャストが見当たらない。「自分のステアリングを誰に握らせるかは自分が決める」というポリシーのガンパードは、身体が見つかるまで軍平にしばらく付き合うと言う。軍平は近くに残された子供の靴跡を発見し、捜索を開始した。

 バルカの捜索には範人と連、早輝が就いた。すっかり遠足気分の早輝と範人に、連は呆れ顔だ。すると、突如目前に巨大なバルカが登場。巨大な姿を保てなくなったバルカは炎神キャストと炎神ソウルに分離。その衝撃で炎神キャストはどこかへ飛んで行ってしまう。範人は何とかバルカの炎神ソウルをキャッチするが、そこにバルカの炎神キャストを持ったスプレーバンキが現れる。早速3人はゴーオンジャーに変身してスプレーバンキに立ち向かう。順調にスプレーバンキを追い詰める3人だったが、そこにケガレシアも出現、バルカの炎神キャストを奪い取ってしまった。範人はケガレシアに戦いを挑むものの、さすがはガイアークの幹部だけあって苦戦を強いられる。

 その頃、軍平は子供の靴跡から推理して一人の少年の元に辿り着いた。その少年・大地は軍平の読みどおりガンパードの炎神キャストを手にしていた。だが軍平は「子供は苦手だ」と言って行動を起こせない。走輔は自信たっぷりに大地に近づき、ちょっと驚かしてみたが、効果がありすぎて逃げられてしまった。逡巡する軍平はガンパードの「仮にヤツがギャングでお前がGメンだとする。重要な情報を得る時はどうする?」という妙なアドバイスを受け、黒ずくめの格好で「交換条件」を手に大地に近づいた。軍平の手にしたものは大量のお菓子だったのだが、周囲に怪しまれて逃走する羽目に。その様子を笑う走輔に、連からピンチの連絡が入る。

 走輔の合流により、スプレーバンキはマッハで片付くが、すぐに巨大化。走輔達はエンジンオーに乗り込んで戦う。だが、蛮ドーマ軍の合流により、危機に陥ってしまった。

 一方、一部の蛮ドーマ軍は大地の持つガンパードの炎神キャストも狙っていた。軍平は必死で大地を守る。ガンパードは炎神ソウルを使うよう軍平に指示。軍平の射撃の腕が冴え、蛮ドーマ軍を退けた。自分の相棒に身体を返して欲しいという軍平の言葉を聞き、大地はガンパードの炎神キャストを軍平に手渡す。「命の恩人の頼みだもん」大地はそう言って微笑んだ。

 絶体絶命の危機にある範人に、バルカは自分の炎神ソウルを使えと言う。範人を相棒と認めたのだ。逆転の契機をものにした範人はバルカの炎神キャストを取り戻した。そこに軍平が合流、ケガレシアを退却させる。

 範人と軍平はエンジンオーの危機に際し、バルカとガンパードの炎神キャストを元の姿に戻し、ステアリングを握る。バルカとガンパードは蛮ドーマ軍を瞬く間に全滅させた。好機を得たエンジンオーは、スプレーバンキをゴーオンソードの露とするのだった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
武上純希
解説

 炎神バルカ&炎神ガンパード登場編。炎神キャストを巡り、敵との争奪戦と子供との交流がダブルプロット的に描かれ、それぞれが相互作用し合うという秀逸な構成が光る一編だ。バルカもガンパードも炎神ソウルと炎神キャストが分離し、炎神ソウルは運良くそれぞれのパートナーとなるべき人物の手に収まるものの、炎神キャストは別の人物の手に渡るというのが基本プロットだ。

 「敵との争奪戦」担当は範人。範人と早輝が同年代ということなのか、早くも仲良く行動する様子が描写される。連の「遠足の引率」発言により、連が少し大人の目線を持つことも示された。だが、この範人とバルカの出会いで重要なのは、何と言ってもケガレシアの前線登場であろう。ガイアーク三大臣の中で前線には初出陣となるケガレシア。ミヤビな言い回しや高貴な態度と冷酷さのギャップなど、素で演じることの出来ないこのキャラクターは、演じるにあたって実に難しいことと想像できる。及川氏は様々なドラマ等に出演してきたが、さすがにこのケガレシアに関してはまだ苦戦中といったところだろうか。しかしながら、あの奇抜なコスチュームでアクションを繰り広げる様子は実に楽しげで、範人を余裕で翻弄するという、最近の戦隊にはあまりみられなくなった「強力な幹部」の存在感を見せ付けている。途中、「おばさん」呼ばわり(「百獣戦隊ガオレンジャー」のツエツエを想起させる)されて烈火の如く怒り、特殊効果によって顔を真っ赤にしたり、隙を突かれて炎神キャストを奪われて慌てるなどといったコミカルな面も披露。一方、範人が土下座し、隙を突くというヒーローにあるまじき驚愕の戦術も見られ、通り一遍の「原点回帰」に堕さない態度には好感が持てる。この一連の争奪戦は緊張感に彩られながらも非常に楽しい。

 「子供との交流」担当は軍平。軍平は初登場時よりその特異なキャラクターが注目されているが、今回も期待を裏切ることなく、「刑事ドラマ(?)バカ」とも言うべき凄まじいボケっぷりを披露してくれた。ガンパードを巡って一喜一憂する表情の多彩さは、この時点で他のメンバーを遥かに凌駕しており、そのキャラクター性がシーンごとに変わりつつも、それが軍平という同一のアイデンティティを保っているという驚くべき現象を目の当たりにすること出来る。子供の靴跡からすぐに炎神キャストの在り処を推察するあたりは元刑事というキャラクターが存分に生かされたが、その直後、ガンパードの怪しげなアドバイスを受けて「取引」を持ちかけるに至って、完全に「勘違い」の面を露呈。この、一つに秀でた者が他方で見せるヘンな面というパターンは、物語中盤のカンフル剤として真面目なキャラクターに導入される場合が多いのだが、こと軍平に関しては当初よりキャラクター性に織り込まれており、かなり大きな賭けをしていると感じられる。コミカルな味を当初より意図的に強調していこうという方向性なのだろう。一方で、子供の苦手な軍平が、大地を蛮ドーマから守り、結果として優しく向き合うことで、ガンパードの炎神キャストを手に入れるというくだりは、軍平にあまり感じられなかったオーソドックスなヒーロー性を表現したものとして、名シーンに仕上がった。

 さて、範人と軍平がバルカとガンパードというパートナーを獲得していく傍らでは、走輔、連、早輝の3人がそれぞれ絶妙なポジションの立ち位置を獲得している。

 走輔は古式ゆかしきヒーローらしく、子供好きという設定だが、今回はわざと声を荒げてみせるという珍妙な行動を披露。すでに設定崩しに入っているのが凄い。最も反りが合わない軍平に付き合うという行動をとり、しかも軍平の言動一つ一つに感心したり笑ったりと、およそレッドらしくない(典型的リーダーでも熱血切り込み隊長でもない)面を連発している。しかしながら、スプレーバンキと戦う連と早輝の前に現れる際はしっかりとレッドらしいヒーロー性を披露しており、走輔が新タイプのレッドであることが分かる。

 連は前述のように少し大人の目線を持つ。恒例になると思われたメモやトリビアの披露が一切なかったのは寂しい限りだが、戦闘中にいきなりメモ帳を取り出すという突拍子もない行動が、連のキャラクター性に合致しなくなってきた可能性もある。早くも連は突飛な他のメンバーの影のまとめ役を任され始めているのかも知れない。

 早輝はケガレシアを「おばさん」と呼ぶところが高インパクト。これはティーンエイジャーのキャラクターならではと言える。また、バルカに最初に話しかける際の可愛らしさも特筆モノだ。ただ、今回はそれ以外の見所がなく、少々寂しい。バルカがもっと早輝に拘ったりすると面白かったのだが、そうなると範人の影が薄くなる。これはこれで良い匙加減だったと言えよう。

 そして、今回のもう一人の主役は、スプレーバンキだろう。

 アントキの猪木氏を声に迎えたスプレーバンキ。キャスティングは恐らく顎に特徴のあるデザインから着想されたものだということは想像に難くない。全編アントニオ猪木氏のモノマネで演じ切るという離れ業を披露し、4話目にして屈指のギャグ怪人を誕生せしめた。アントキの猪木氏の芸の特性から、これは恐らく大人向けのサービスであろう。それにしても良く似ていて笑いが出てしまう。随所に有名な言い回しが織り込まれ、それでいてちゃんとドラマ的破綻がないところも素晴らしい。コミカルに過ぎる味を嫌うファンも存在するが、スーパー戦隊シリーズはこのくらいのギャグテイストは完全に許容してしまう懐の深さがある。そもそも原点である「秘密戦隊ゴレンジャー」には、唐突な(しかしそれが事件解決に繋がったりする)ナゾナゾ問答や、時事ネタを笑うかのような仮面怪人が跋扈していたことを忘れてはならない。仮面ライダーシリーズのシリアスな味から脱皮したのが、このスーパー戦隊シリーズなのだ。

 今回はバルカとガンパード登場編とあって、特撮が豪華。しかも本編と密接に結びついており、非常に完成度が高い。蛮ドーマ軍が登場すると、一気に特撮のテンションが上がるとさえ感じられる。炎神達の特撮は完成度の高いミニチュアとCGの巧みなコラボレーションによって完成をみているのだが、これまでの戦隊と比べて適材適所の判断に磨きがかかっているように見受けられる。情景のミニチュアも精度が高く、荒唐無稽な炎神達の存在にリアリティを与える努力が非常に強く感じられるのだ。今回は軍平が大地を守って戦うシーンが特に秀逸で、襲来する蛮ドーマ~攻撃を受ける大地~看板の破壊~ガンパードの力を得て軍平の射撃が冴えるという流れが一分の隙もなく構成されている。カットとしてはミニチュアありCGあり本編ありのてんこ盛りなのだが、それぞれのカットのつながりは完璧で、非常に高い臨場感を得ている。この、特撮=巨大戦という図式に頼らない姿勢は素晴らしいの一言で、スーパー戦隊シリーズの新たなポテンシャルを見せたものとして高く評価されるべきである。