GP-11「電波ジャック」

 範人は、ギンジロー号から離れずに済むバイトということで選んだ、造花の内職に精を出していた。軍平は範人を呑気者呼ばわりしつつ、自分もすっかり呑気に過ごしていた。そこへ、モナコで開催される世界GPに走輔が出場するというニュースが入る。さらに、早輝がスマイルコンテストのグランプリに選出されたというニュースが飛び込んだ。日本一クイズ王決定戦に「無敵のクイズ王」である連が出場するという番宣も入り、速報で範人が世界的大富豪の遺産相続人に選ばれたというニュースまで流れる。勿論、範人は世界的大富豪の金倉と知り合いである筈はない。だが、バイト生活とはおさらばだと言って範人はギンジロー号から飛び出して行ってしまった。軍平は突然の出来事に唖然とする。

 実はこれらの出来事は、エンジンオーG6に対抗する為にキタネイダスが考案し、アンテナバンキに実行させた作戦の結果によるものだった。しかも、キタネイダスは、ゴーオンジャーの楽しそうな様子にケガレシアとヨゴシュタインが不満を持つであろうことを先読みし、軍平だけ趣向を変えていた。

 軍平は、いきなり銀行強盗犯として警官に囲まれる。テレビからは軍平の指名手配を伝えるニュースが流れていた。軍平の逃走劇が始まる。軍平とガンパードは自分だけではなく、他の皆に起きていることも、何かがおかしいと直感する。

 早輝はアイドルライフを満喫。軍平は早輝イベントに潜入して早輝を説得しようと試みるが失敗。続いて軍平は、連の「クイズ! エンサイクロペディア [百識] 日本一クイズ王決定戦」の収録会場に潜入する。連はクイズ王としての実力を遺憾なく発揮して得意になっており、軍平の意図する会話が成立しない。警官から逃げるように軍平は放送局を出た。

 アンテナバンキに「セカンドステージ」を指示するキタネイダス。ニュースキャスターは「工場煤煙十倍法案の可決」を報じ、それに呼応して各工場は排煙量を10倍にし始めた。

 その頃、範人は金倉の元で超ゴージャスな生活を満喫していた。現れた軍平を、範人は「ゴーオンジャーよりお金持ちの方が、楽しいかも!」と言ってはねつける。唖然とする軍平を、またも警察が追って来た。軍平は思わずゴミの山の中に隠れる。そのゴミの山は、テレビが報じた「家庭のゴミはどこに捨ててもいい法律」によるものだった。ゴミを捨てにきた親子の話から、軍平は直感した。すべてはアンテナバンキがテレビを利用して仕組んだものだということを。ボンパーに電波の調査を依頼し、軍平は走輔の元に出向いた。「お前は騙されている」という軍平の言葉に、チャンスを掴みたい走輔は怒る。「俺にはお前が必要なんだ」と言う軍平だが、走輔は背を向けて去って行ってしまった。

 今度は「大気中の二酸化炭素を20倍にする法律」を報じるアンテナバンキ。軍平は電波を発するアンテナバンキを見つけ出し一人で立ち向かうが、戦いは圧倒的に不利だった。しかも、軍平の危機を知ったボンパーの連絡には誰も反応しない。ゴーオンジャー分断作戦は図に当たり、ガイアーク三大臣は祝杯をあげた。

 軍平はアンテナバンキの攻撃を受け、さらには警官隊に追いつめられる。警官隊による軍平の逮捕劇を中継しようと企てるアンテナバンキの放送は、早輝、連、範人、そして走輔の目に留まった。警官を蹴散らして逃げる軍平だったが、アンテナバンキの容赦ない攻撃にさらされる。だが、軍平は4人に対する熱い思いを吐露しつつ、アンテナバンキに立ち向かっていく。

 「俺が倒れても、走輔の熱いハートがお前たちを許さない!」

 「早輝の笑顔は、どんな時にも絶対にくじけない!」

 「連の知恵が、お前たちの悪だくみを暴きだす!」

 「範人の自由な心を、お前たちは絶対に縛れない!」

 「あいつらは、必ず目を覚まし、お前たちを倒す!」

 軍平の思いは確実に4人に届き、5人のゴーオンジャーは勢揃いを果たした。

 ゴーオンジャーの連続攻撃に反撃の隙すら見出せないアンテナバンキは、巨大化して逆転を狙う。しかし、ゴーオンジャーはすぐさまエンジンオーとガンバルオーで迎撃する。2大巨人の連携攻撃でアンテナバンキを追い詰めたゴーオンジャー。軍平は「俺が倒す」と宣言し、ガンバルオーでとどめを刺した。

 戦いの後、それぞれの儚い夢に対して感想を披露する4人は、軍平の例の心情吐露をからかう。軍平はそれを「鬱陶しい」と一蹴。そこにあるのは、いつもの5人の姿だった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
古怒田健志
解説

 ガイアークによるゴーオンジャー分断作戦が実に楽しい軍平編。随所にそれぞれのキャラクターが持つ「らしさ」を描き出し、ヒーローの離散と再集結が鮮やかかつ感動的に描かれる素晴らしい一編だ。

 戦隊ファンにとって、日下秀昭氏の登板が嬉しいアンテナバンキは、テレビ番組を捏造し催眠電波を含ませることで、視聴者に虚偽の物事を信じ込ませるという特殊能力を持つ。その捏造された「番組」は、全て日下氏がニュースキャスターを務めるニュース番組になっているのが可笑しい。ただしこのニュース番組、単なるコメディ描写ではなく、テロップなどかなりリアリティのある画面作りがなされており(連のクイズ番組の印象とはかなり趣を異にする・笑)、意外と深いテーマを内包している。ワイドショーでないニュース番組の高信頼性、速報ニュースの高注目性(ニュース速報のアラーム音に思わず画面を見てしまう諸氏も多いだろう)といった要素をエスプリにしている節があるのだ。

 アンテナバンキの捏造するニュース番組には、とりあえず催眠電波が含まれているというエクスキューズがある。要するに、この「催眠電波」の設定を取り除いてしまうと、全国ネットを擁する放送局の制作番組が、ニュース番組の正当性を疑問視するという、極めて企画的に都合の悪いエピソードになってしまう恐れがあるというわけだ。本当に主張したいのは、マスコミュニケーションの大衆に与える影響度の深さであろうが、アンテナバンキを極めてコミカルなキャラクターにし、踊らされるゴーオンジャー達を実に楽しげに描くことで、このあたりを微妙にぼかしている。気付いてもらえる人に気付いてもらえばいいという、子供向け番組として極めて成熟した制作姿勢であることを、高く評価しておきたい。

 アンテナバンキが、単にエンジンオーG6の合体阻止の為にゴーオンジャーを分断するだけでなく、煤煙 10倍化、ゴミ捨ての自由化、二酸化炭素排出20倍化といった、ガイアークらしい活動もしているのは、すこぶるバランスに優れた設定だろう。しかも、それらの「やり過ぎ加減」が軍平のバラけた思考を徐々にまとめて行き、最終的に軍平をアンテナバンキの存在に到達せしめるという流れが素晴らしく、非常に完成度が高い。「やり過ぎ加減」は軍平の逮捕劇をスクープとして中継するという行為にも現れるが、その行為が今度は走輔たちの催眠状態を揺さぶり、結果としてガイアークの思惑とは裏目に出てしまうというのも実に巧い。

 ここにも、報道の持つ一面が垣間見られる。軍平の逮捕劇は、ゴーオンジャーのメンバー以外には歓迎すべき事項として映ったのだが、走輔、連、早輝、範人にとっては何かが引っかかる。ここでは、報道の伝達ベクトルが、ポジションやプレイスが当事者に近い人間にとっては、異なる方向を向いているかも知れないという事象を巧く表現している。理想は万人の感情にとって順目となる情報の発信だが、現実にはそうはいかないということだ。現代の日本であまりお目にかかることはないが(それでも少なからず存在するとされる)、プロパガンダに対する善良な少数派市民の反応をそれとなく示したという点で、良心を感じることが出来る構成だ。

 さて、テーマとしては(深読みすれば)以上のような深刻さを内包するが、画面上は極めて楽しいのも今回の特徴だ。以下に、それぞれの「悪夢」を列挙してみよう。

 走輔は、モナコで開催される世界選手権に、日本のトップレーサーとして出場。報道では「奇跡の江角」のテロップもあり、キャラクターの積み重ねが良い方向を示している。「国内で一度も優勝したことがない」走輔は、騙されているとはいえ実は自らの実力を自覚しているようであり、かなり真摯な態度で練習に取り組んでいた。とにかく幸運任せでハイスピードが信条の走輔にも、意外に努力家の面があるのだ。「夢の後」でも刹那の幸せに思いを馳せることなく、一途にレーサーとしての夢を持ち続ける走輔は偉大である。アンテナバンキに夢を茶化されたと言ってもいい出来事だったが、走輔の夢に水をさすことは一切出来なかったのだと言える。

 連は、「クイズ! エンサイクロペディア [百識] 日本一クイズ王決定戦」に参加。このクイズ番組の収録風景はなかなかリアルだが、セットの仕立て自体はわざと狙っているのか、パロディ色かつ低予算っぽさに溢れたものとなっており、連のノリもカメラ目線で見得を切るといった滑稽なものになっている。早押しの技は差し詰めカルタ取り妙技といったところだ。問題の内容には、最近流行している雑学系クイズ番組や漢字検定などの影響が見られ、やたらハイレベルな問題に易々と回答する連の実力は、催眠状態と関係なく真の連の実力であることが分かっており、連の卓越した知識の泉を垣間見ることが出来る。

 早輝は、スマイルコンテストに優勝し、いきなりアイドル化したという設定。早輝の最も優先されているであろう夢は、恐らくケーキ屋を開くことなので、これは一般的な少女的願望の具現化ということになるだろう。ある意味、演ずる逢沢氏の等身大イメージに最も近いものとなった。アイドルイベントの内容や写真集などの描写は、スーパー戦隊シリーズで度々見られるヒロインのアイドル化エピソードを踏襲。ただし、早輝のルックスや雰囲気を考慮してか、何となくファン層にアキバ系な雰囲気も漂う。キャラクターソングはこの時点で完成していないのか、残念ながら歌を披露するシーンはなかったが、普段と違う服装や髪型など、早輝ファンには嬉しい内容となっていた。

 範人は、世界的大富豪の金倉金蔵の遺産相続人に突如選ばれたという設定。ニュースの内容や、範人と金倉のセリフから、範人が相続人に選ばれたというニュースが流される前に、金倉個人に向けた何らかの催眠操作があったものと推測される。4人の中では最も荒唐無稽な展開だったからか、少しばかり疑問を持ちつつも状況に流されたいと思っている範人が楽しい。実は軍平を最もこっぴどく追い返したのは、この範人であり、「夢の後」でも引きずっていたことから、範人の金への執着(というより興味か)はかなり深いものであると推察される。金倉の孫として振舞う際の「お坊ちゃま風」の出で立ちは、いかにも少年な感じが可笑しく、またハマっていた。萌えた奥様方も多かった?

 可愛そうな軍平は、キタネイダスが他の大臣の感情を考慮した策により、銀行強盗犯扱いされて警官に追い回されるという悲劇に。途中、警官が「死刑が決まったとテレビで言っていた」という噴飯モノのセリフがあって笑わせてくれるが、これは報道に警察が踊らされるのではないかという、一般市民が抱く恐怖感のカリカチュアライズであろう。この軍平の逃走劇に際しては、久々に黒ずくめスタイルを披露。逃走劇自体もかなり緊迫感のあるものになっている。警官との立ち回りも様式美にとらわれることなく、脱出に懸命になる泥臭さや、刑事としてのキャリアを感じさせる的確な急所への攻撃がリアルであった。

 ストーリーは軍平の逃走ルートや行動を中心に進んでいくが、軍平と他の4人の関係を再認識するという趣向が織り込まれており、軍平の感情表現としてはこれまでの中で最も完成度の高いものとなった。早輝、連、範人、走輔の順に会っていく過程において、実は後に会う人物ほど軍平の感情が高まっている。範人に対しては、同時期にゴーオンジャーの仲間入りをした仲だからか、強い語調で迫っている。走輔に至っては「俺にはお前が必要だ」と言っており、軍平にとって走輔という存在が特別であることが分かる。

 そしてクライマックス。普段は仲間に対してかなりクールな態度をとっている軍平だが、秘めた熱い思いを隠し切れないという秀逸な流れで展開される。普段仲間への思いを口にすることのない軍平故に、このシーンの感動は増幅されている。しかも、その熱いセリフから判明する他の4人に対する軍平の評価は、どれも的確でキャラクターに合致したものばかりであり、軍平の眼力をも垣間見せるのだ。チームであるスーパー戦隊ならではのシチュエーションだ。

 再集結したゴーオンジャー。ここから先は、アンテナバンキに軍平が痛めつけられ続けるという凄絶なシーンから一転、怒涛の連続攻撃による逆転劇となる。ウガッツが一体も出てこないのは尺の問題もあるが、このスピーディな逆転劇のカタルシス増幅にはプラスに影響している。ゴーオンジャーでは初のゴーオンレッドがセンターでない名乗りも披露。ゴーオンブラックから名乗りが開始されるばかりでなく、5人で見得を切るカットに至っても、ゴーオンブラックをセンターにフィーチュアしている。最近では(というよりスーパー戦隊シリーズ全体でも)意外にこうした措置が少なく、非常に新鮮だった。

 巨大戦は、エンジンオーG6対策の為に作られたアンテナバンキを、わざわざエンジンオーG6に合体せずとも倒してしまうという皮肉で締めくくられる。エンジンオーG6という現時点最強の合体形態をデフォルトにするのではなく、エンジンオーやガンバルオーそれぞれの見せ場を作ろうという戦略が感じられ、先の変則的名乗りも含め、通り一遍にならない工夫を凝らされているのが分かる。オーソドックス故に、随所でパターン破りをすることで、シリーズを活性化させているのだ。