GP-15「炎神ストール」

 ヒューマンワールドに何者かが向かっている。だがそれに気づく者は誰もいない。

 その頃、ギンジロー号ではある「事件」が。走輔のコイントスが裏を示し、それを珍しがる早輝が誤って範人にぶつかる。慌てて走輔のズボンを掴む範人は、そのまま走輔のズボンを下げてしまい、赤いトランクスが露わに。大慌ての走輔が後ろに下がると、走輔の太股に連の持つ熱いフライパンが当たってしまう。熱さのあまりジャンプする走輔は、軍平が洗濯物を干していたロープに引っ掛かるが、軍平は邪魔だとばかりにそのロープを思いきり引き上げた。哀れ、走輔はギンジロー号のはるか上を越えて向こう側に落下...。

 そこへ、次元を超えて何者かが近付いているのを察知したボンパーが、その旨を伝えに来る。ゴーオンジャーはエンジンオーG6で出撃したが、敵の戦闘機を見たスピードル達炎神はなぜか戦意を喪失する。バスオンは、その戦闘機の主をガイアーク一の策士・ヒラメキメデスと呼んだ。その戦闘機は蛮ドーマの3倍の速度で飛行し、エンジンオーG6を苦しめ、遂には合体解除に追い込んだ。ヒラメキメデスはヨゴシュタインの元へ急ぐべく退散したものの、スピードルは重傷を負ってしまう。連がスピードルの「手術」を担当、スピードルの身体は回復したが、スピードルの様子が変だ...。

 一方、ヘルガイユ宮殿に到着したヒラメキメデスは、上官であるヨゴシュタインの元へ。ヨゴシュタインとヒラメキメデスは再会を喜ぶ。ヒラメキメデスをあまり気に入らない様子のケガレシアは、ゴーオンジャーのしぶとさを忠告するが、ヒラメキメデスは「炎神共の心は真っ二つに折れております」と自信たっぷりの態度を見せる。

 スピードルの様子に疑問を抱く走輔達は、他の炎神達からマシンワールドにおける出来事を聞き出すことにした。炎神達の話によると、ヒラメキメデスの策士振りとその実力の前に、炎神達は連戦連敗を喫したという。だが、ある日突然、ヒラメキメデスはマシンワールドから姿を消してしまい、その理由は今でも謎なのだという。炎神達はヒラメキメデスに苦手意識を抱いているのだ。そこに、またもヒラメキメデスが現れる。走輔達はすぐに変身して迎撃態勢に入るものの、炎神ソウルをセットしたマンタンガンは「無理~!」と叫びつつギンジロー号の中に逃げ込んでしまった。不敵に笑うヒラメキメデス。「俺たちだけで十分だ!」という走輔を筆頭に、戦いを挑むゴーオンジャーだったが、ヒラメキメデスのパワーと、ヒラメキメデスによってパワーアップされたウガッツに苦戦を強いられる。何とかウガッツ達を倒したものの、ヒラメキメデスの戦力の前に、ゴーオンジャーは敗れてしまった。蛮ドーマでとどめを刺さんとするヒラメキメデスから、ギンジロー号で逃げるゴーオンジャー。何とかトンネルに入って逃げ延びることができた。

 走輔は、炎神達を「情けなさすぎだろ」と叱咤。だが、スピードルはすっかり自信を喪失している。ヒラメキメデスを評して「あいつだけは特別だ」と言うスピードルに、走輔は「俺だって特別だ!」と言い返した。「俺だって1番だ。お前だって1番だ!」と、みんなで一緒に頑張って来たことを思い出すよう告げる走輔に、スピードルは勝てないと決めつけていた自分を反省する。今はマシンワールドとは違い、「相棒」がいるのだ。そしてふと、コイントスをした走輔を見て、早輝が何かを思いついた。朝の「事件」を思い出した早輝は、必勝法「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」を考案する。

 夜明けを待って作戦開始。エンジンオーG6で待つゴーオンジャーの元に、ヒラメキメデスが出現。すると炎神達はいきなり分離して走行し始める。

 まず、キャリゲーターの背を利用してスピードル、バルカ、ベアールVが空中にジャンプ。ベアールVがバルカの尾に噛み付き、その痛みに対する反応を利用してバルカが大回転。その回転の威力でスピードルを弾き飛ばした。高空に到達したスピードルを、さらにバスオンとガンパードのエネルギービームが後押しする。ヒラメキメデスの蛮ドーマの3倍のスピードに加速したスピードルは、そのまま蛮ドーマに突進し、それを破壊することに成功した。

 だが、破壊されたと思われた蛮ドーマは何と3機に分離。さらに攻撃を仕掛けようとする。そこへ突如、空を飛ぶ2体の炎神、トリプターとジェットラスが登場、ヒラメキメデスを追跡し始めた。激しい空中戦を展開する両陣。軍配はトリプターとジェットラスに上がった。

 勝利を喜ぶゴーオンジャーだったが、スピードルは、空を飛ぶ炎神など知らないという...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
武上純希
解説

 新キャラ大挙登場編。敵側に害地副大臣ヒラメキメデス、味方側に炎神トリプターと炎神ジェットラスがそれぞれ登場し、一気に賑わいを増した。

 新キャラ大挙登場ということは、即ちゴーオンジャーが危機を迎えるということに直結する。その法則に則り、今回は久々に本格的なピンチが描かれることとなる。ガイアーク三大臣よりも強力な戦力と戦術を有するかに思えるヒラメキメデスにより、ゴーオンジャーの5人と炎神達は危機に陥れられるのだ。

 ところが、前回までのコメディ路線を継承したのか、意外に危機感は薄い。勿論、怯む炎神達の様子や、変身が解除されるほどの危機描写、ギンジロー号で逃走するという緊迫感などが、そのピンチ振りを遺憾なく描き出してはいる。しかし、要所要所にギャグが挿入されていたり、前向きに必勝作戦を検討して実行するなど、「ゴーオンジャー」らしいポジティヴな要素が満載で、危機感よりむしろ爽快感を重視しているようなのだ。これまでのところ「ゴーオンジャー」は、徹底的に一話完結型でまとめてきているが、今回のように危機から新たな戦力登場の過程を追うような構成でも、あえて1話に凝縮してしまうあたり、その姿勢は一貫していると評価できよう。ただ、その為に些か空振りしている箇所もある。

 それは、今回のハイライトが2つ存在することだ。1つは「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」で、もう1つは勿論トリプターとジェットラスの登場である。実は、どちらも物語には欠かすことの出来ない要素。前者は何とか知恵を出して勝機を見出すという「ゴーオンジャー」ならではのポリシーを体現するのに不可欠なもの。後者は今後の展開上、絶対的に必要とされているものだ。つまり、スタンダードな逆転劇と、新キャラ登場によるイベント的な逆転劇が混在しているのである。この2要素は本来相反する者である為、今回は「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」で一度カタルシスを与えておきつつ、それでもまだ...という構成を採用して解決しようとしているようだ。確かにこの構成により、ヒラメキメデスの強さと空飛ぶ炎神達による爽快な活躍が表現されたのは良いのだが、炎神たちの立ち直る過程を熱く描いてきた本編の収束点は、やはり「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」にあると思うのである。この作戦の後にヒラメキメデスが意気揚々と襲い掛かるに至り、もう打つ手がないとばかりに炎神達もゴーオンジャーの5人も呆然としてしまうのを見るに付け、少々の寂寥感を禁じえない。早輝のセリフではないが、正に「おいしいとこを持ってかれた」格好だ。

 もっとも、それは全体のテンポの巻き込まれて見ていれば、些細な欠点に過ぎないのかも知れない。それだけ、今回のギャグ描写、シリアス描写のバランスは良く、特撮も非常に充実、筋運びも非常にスムーズで飽きさせない。

 まずはギャグ描写を分析してみよう。

 今回のギャグ描写で目立つのは走輔がらみ。まず、冒頭からテンポ良いカット割とワイヤーアクションを駆使したドタバタ劇が展開。往年のカートゥーンを見るような懐かしさに溢れている。一つの些細な物事が連鎖して被害を大きくしていくようなシーンは、テンポがダメだと全くつまらないものが出来上がるのだが、このシーンは非常に巧く面白い仕上がりを見せる。しかも、この出来事が後の「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」に繋がるのだから、大したものである。そして、スピードルを心配するあまり、スピードルの昇天を思い浮かべてしまうイメージシーン。わざわざアニメーションや背景を作りこんでいたりと、何故か妙に手が込んでいて笑ってしまう。「エンジェルワールド」なる単語の登場にも要注目だ。

 走輔以外のギャグ描写で頻度が高かったのは、ヒラメキメデスの名を言い間違えるというもの。よく聞くと、それぞれがキャラクターに合った間違え方をしている。連だけが一度聞いただけで正確に発語できるのも良い。こういった細かいところに凝るか凝らないかで、随分とキャラクター描写の印象に差が付いてくるものだ。それぞれの認識度に差異があるという面白さの為か、頻発されてもしつこさを感じないのも良いところだ。

 その他、秀逸なギャグシーンとして挙げられるのは、「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」のイメージトレーニングと証する場面だ。走輔はただ気合を入れているだけで、連と軍平は互いの動きを合わせて妙なポーズをとっている。早輝は椅子をクルクルと回転させ、その椅子に座った範人はその回転を早めるように言っている。本人たちが大真面目にイメージトレーニングしているのは、「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」の実行シーンを見ると明らかになるのだが、このシーン単体だけ見ると実に可笑しい。冒頭とあわせ、このようなギャグを単なる添え物に終わらせない処置が、妙に映えるのも今回の特徴であろう。

 ガイアーク側にもギャグ描写はある。ヒラメキメデスとの再会に喜びを隠し切れない様子のヨゴシュタインが中心だ。ヨゴシュタインの様子は、何故か遠方より息子が帰ってきたかのような感覚であり、相当にヒラメキメデスを気に入っているということが分かる。ケガレシアとキタネイダスにウキウキ感を露にする様子は、とても悪の幹部とは思えず、可愛らしささえ感じられる可笑しなシーンになっている。一方でケガレシアとキタネイダスの2人が不機嫌なところを見ると、害地、害水、害気の属性の間に横たわる溝は、これまでの印象以上に深いものなのかも知れない。これについては後述する。

 さて、ここで炎神達とヒラメキメデスの因縁に触れておきたい。マシンワールドでは、ヒラメキメデスに連戦連敗を喫していたという炎神達。その描写は近年では珍しくイメージ画にて語られた。このイメージ画による描写の手法は、かつての東映特撮TVドラマでは多用されており、野口竜氏や赤坂徹郎氏といった名匠の手によるものが印象深い。今回のイメージ画登場は、明らかにオールドファンへのサービスだと思うがいかがだろうか。話を元に戻すと、その強力無比なヒラメキメデスが「副大臣」の地位に甘んじているという点は、今後の波乱を予感させるに充分。ただし、油断ならないのが「ゴーオンジャー」。意外にも忠実な部下のままかも知れない。これについても後述する。そして、このヒラメキメデスが突如姿を消したということで、マシンワールド自体は蹂躙されることがなかったという設定もお見事。勢いだけでドラマを組み立てることなく、ちゃんと矛盾なきよう設定されているところには感心しきりだ。

 炎神達はその敗北によるトラウマから戦意を喪失。それを「相棒」である走輔達の熱いソウルによって蘇らせるというのが、今回のストーリーの骨子であることは周知の通り。その過程では、マンタンガンが飛び跳ねてギンジロー号の中に退散したり、非常に可愛らしい炎神のアニメーションでモジモジする様子を描写したりと、微笑ましいことこの上ないが、走輔の容赦ない叱咤によってまずスピードルが立ち直り、続いて他の炎神達も戦う意志を取り戻す様は一転して熱い。このギャップにより、我々は楽しさと共に感動をも味わうこともできる。可愛くてカッコいいという、炎神のデザイン上の方法論は、本編にも確実に波及しているようだ。なお、自信を取り戻した炎神達とゴーオンジャーが繰り広げる「スマイル早輝ちゃんの、ニコニコ大作戦」は、ミニチュアとCGを高次元で組み合わせて成立させた特撮シーンが素晴らしく、非常に高い水準を誇る。主にミニチュアによる描写で炎神達の少々地味な連携を積み重ねていき、最終的に派手なCGで炎の弾丸と化すスピードルに燃えた諸氏は多いことだろう。

 ちなみに、「赤は3倍速い」というニュアンスのセリフが2回も登場。これは勿論「機動戦士ガンダム」のシャア・アズナブルのことだが、ガンダム好きを公言する有名人が増え、ちょっと前ではマニアの範疇だったこのようなセリフが市民権を得てきたことに驚きを覚える。

 一方のヒラメキメデスは、トリプターとジェットラスに関して別の因縁があるようで、トリプターとジェットラス出現に際しては冷静な語り口が一気に崩れていく。このトリプターとジェットラスの登場は、ハリウッド映画を意識したような質感の画面作りが凄まじい完成度だ。トリプターがローターを回転させつつ出現するシーンやジェットラスが自在に飛び回って蛮ドーマを撹乱していくシーンなどは、さながら戦争映画の1シーンのようだし、贅沢なミニチュアセットを使用した市街地での追跡は、実景との合成等が非常に効果的に用いられ、炎神という荒唐無稽な存在にリアリティすら与えている。このような特撮シーンがスーパー戦隊シリーズで当たり前のように見られるようになるとは、ファンで良かったと思う次第なのだ。トリプターとジェットラスの、一見してクセのありそうな性格設定も、今後の一波乱を予感させ、一層期待させてくれる。

 最後に、ヒラメキメデスのポジションに関して言及しておきたい。ヒラメキメデスの項でも述べたが、ヒラメキメデスは既存の大幹部の忠実かつ強力な部下という希少種である。「バトルフィーバーJ」のサロメや「太陽戦隊サンバルカン」のアマゾンキラーがこれにあたり、特にアマゾンキラーは終盤に部下としての悲哀を存分に描写され、完全に主役を食ってしまった印象的な女幹部だ。ただ、ヒラメキメデスがヨゴシュタインの本当に忠実なる部下かどうかは、まだ明確ではない。言動を拾い上げてみると、まず最初にゴーオンジャーと相見えた際には「ヨゴシュタイン様の元へ急ぐ」との発言が見られ、さらにヨゴシュタインを前にして、恭しく敬意を表したりしている。後者の態度は本人の前だから虚偽の可能性があるとしても、前者の態度は虚偽と見做すと不自然である。もう一つ気になる言動は、ヨゴシュタインの指示に「言われなくとも」と呟いていることだ。これは自信の表れとも、ヨゴシュタインをナメているともとれる発言であり、ここで「忠実なる部下」というキャラクター性に一抹の疑念を抱かせることとなった。また、ヨゴシュタインにとっては可愛い部下だが、ケガレシアとキタネイダスにとっては邪魔な存在に見えるところも押さえておかなければならない。前述のように、害地、害水、害気それぞれの属性は、本来相容れないものだということなのか。三大臣だけならばうまくチームワークを保ってこれたものの、ヨゴシュタインにプラスされたパワーによって均衡が崩れ、何か引き起こされるということも充分考え得る。これからの動向に注目だ。