GP-16「名誉バンカイ」

 炎神とゴーオンジャー達はトリプターとジェットラスのことで興奮しきり。しかし、「おいしいところを持って行かれた」早輝とベアールVは面白くない。空を飛ぶ炎神については何も知らないスピードル達だったが、キャリゲーターはトリプターとジェットラスの2体を「ウイング族」と呼んだ。

 その頃、ヘルガイユ宮殿ではヒラメキメデスの死に落胆するヨゴシュタインの姿が。と、そこへヒラメキメデスが帰還する。ヒラメキメデスは無事だったのだ。ヒラメキメデスはトリプターとジェットラスにまつわる因縁を三大臣に語り始める。三大臣がマシンワールドを追われる直前、ヒラメキメデスはトリプターとジェットラスの追跡にさらされ、異世界に逃げ込んだのだという。その後、トリプターとジェットラスを振り切ったつもりだったが、結局ヒューマンワールドまで追ってきたのだ。ケガレシアとキタネイダスは「厄介なヤツをヒューマンワールドに連れてきたものだ」とヒラメキメデスをなじる。ヨゴシュタインの部下であるヒラメキメデスの失敗に気を良くしたケガレシアは、「害水目の切り札」と呼ぶオイルバンキを誕生させた。

 オイルバンキはいきなり巨大化して登場。ゴーオンジャーは意気揚揚とエンジンオーG6で応戦する。ところが、オイルバンキは地面に摩擦力をゼロにするオイルを撒き散らし、エンジンオーG6の自由を奪った上で攻撃、合体解除に追い込んでしまった。そこにトリプターとジェットラスが登場。スピードル達の苦戦ぶりを一笑すると、オイルバンキに猛攻撃を加える。トリプターはスピードル達を「ヘナチョコ」呼ばわりし、マシンワールドにおける炎神の勝利は、自分たちがヒラメキメデスを追い出したおかげだと言う。オイルバンキは背中に火をつけられて撤退、トリプターとジェットラスも何処かへ飛び去って行った。

 走輔達はトリプターとジェットラスを「イヤなヤツ」だと思い始めていた。5人の心は決まった。それはオイルバンキを自分たちで倒して名誉を挽回するということである。その為には、有効な手段を考案しなければならない。

 まず、走輔はうなぎの掴み取りで摩擦ゼロを克服しようとするが、勿論ダメ。続いて範人が蝿の足をヒントに、靴底に接着剤を塗るという手段を思い付くが、身動きが全く取れなくなり、当然×。次に、軍平がこいのぼりや丸太に見えるUMA系の動物の絵を提示する。その絵がペンギンだと主張する軍平は、ペンギンのように氷の上をソリで滑走し、敵に体当たりする作戦をスケートリンクで試みるが、大失敗となる。他にも連が「滑る」を「受験に失敗する」に例えたり、走輔が気合で滑り台を上ったりと、的を射ない試みが続く。

 一方、ヒラメキメデスは「無策では勝てない」とし、オイルバンキを改造することにした。完成した「オイルバンキ改」の外見は以前と全く相違点がないようだが...。

 袋小路に入り込んだ走輔達。早輝は状況打開の為、ケーキを作ってふるまう。そんな中、走輔はサラダ油を誤ってこぼしてしまう。早輝が「拭いて拭いて」と叫ぶと、それを聞いた走輔はふと何かを思いついた。

 オイルバンキは再び巨大化して出現した。すぐさま迎撃するトリプターとジェットラス。ヒラメキメデスはオイルバンキに「第二次産業革命」を起こさせ、翼を展開させた。飛行能力を得たオイルバンキはトリプターとジェットラスを翻弄し、火炎放射で危機に追い込む。到着したゴーオンジャーは、エンジンオーとガンバルオーを完成させ、オイルバンキに挑む。オイルバンキは再びオイルを噴射し、地面にまき散らした。ゴーオンジャーが採った秘策は、何と巨大なモップ「ゴーオンモップ」でオイルを拭き取ることだった! オイルを拭き取ったエンジンオーとガンバルオーは、ゴーオンモップでオイルの噴射口を塞ぎ、空からオイルバンキを引きずり下ろし、トリプターとジェットラスに攻撃させた。地に落ちたオイルバンキにゴーオングランプリとガンバルグランプリを決め、ゴーオンジャーは見事勝利を収める。

 トリプターとジェットラスはゴーオンジャーとスピードル達の実力を認めた。そのコクピットには、黄金と白銀に輝くパイロットが乗っていたが...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 バスオン!

今回の連の知識

 他力本願とは「自分で努力しないで、他人の力を頼りにすること」(管理人注:本来の仏教用語的意義は全く異なります)。

 摩擦力とは「2つの物体の接触面にかかる力のこと」。

監督・脚本
監督
中澤祥次郎
脚本
武上純希
解説

 敢えて言えば、トリプターとジェットラス、そしてヒラメキメデスの設定編ということになろうか。実質は、終始善悪共に緊張感に欠けるドタバタ劇であるが、前半はゴーオンジャーがウイング族に危機を救われ、後半は逆にゴーオンジャーがウイング族の危機を救うというのが基本的な展開だ。

 コミカルな描写の連発に隠れて気付きにくいが、今回のゴーオンジャー達のモチベーションは「ウイング族においしいところを持っていかれ、バカにされたから見返してやる」という、妙にネガティヴで個人的なものである。無論ゴーオンジャーは、トリプターとジェットラスを「イヤなヤツ」と思いこそすれ、別段排除に値するほど嫌っているわけではない。故にストーリーの落とし処としては和解の方向性を見せるのだが、その為か行動原理は「喧嘩」に一層近いものになっている。これの善し悪しを論ずるつもりはないが、大別して「面白いからいいじゃない」との意見と「正義側のイデオロギーとしてどうか」との意見に割れるのではなかろうか。私個人としての感想は「正義側のイデオロギーとしてどうか」に寄っている。というのも、本エピソードに限って言えば、コミカルな描写を除いた部分に、特段面白さを感じられなかったからだ。対立によるギャップが可笑しさを生んでいるのではなく、単に作戦考案の描写が可笑しいに過ぎない。シチュエーションコメディではなく、ギミック主体のコメディだろう。

 正義側が「喧嘩」を演じている為、ガイアーク陣営は完全に狂言回し、あるいは道化を演じている。ただしこれは今に始まったことではなく、ガイアークそのものがそういう役回りだと言っても過言ではない。しかしながら、今回の展開自体に、新キャラであるヒラメキメデスが必ずしも必要でないように見えるのはちょっと寂しい。これまで三大臣は間が抜けていつつも知性はかなりの水準であろうことが描写されてきており、何もオイルバンキに翼をつける程度のことをヒラメキメデスにさせる必要はないように思えたからだ。一応、ガイアークとしても、ケガレシアとヒラメキメデスが「喧嘩」の様相を呈してはいるが、ケガレシアが感情を昂らせて派手に振舞っているのに対し、ヒラメキメデスは終始冷静な態度を崩さない。その為、「喧嘩」の深度ははるかに浅いものとなっている。ただその「浅さ」が幸いしてか、こちらもギミック主体のコメディとしては高水準の描写を連発している。

 少々手厳しい感想になってしまったが、逆に「ゴーオンジャー」というシリーズが、キャラクターのパワーバランスに物凄く気を使っていることも読み取れて興味深い。ウイング族のトリプターとジェットラスの、前回の後半と今回の前半における華々しい活躍に比して、後半はオイルバンキが飛行能力を得ただけで苦戦に追い込まれたのを見るに付け、飛行能力以外にアドバンテージがないよう設定されているように見受けられるのだ。この注意深さにより、「ゴーオンジャー」ではパワーインフレが起こらないようになってはいるが、ある意味パワーインフレによる高揚感はスポイルされているとも言えるだろう。拮抗による地味な逆転が繰り返される構成は退屈になりかねない。それ故に、今回のような過剰なコメディを導入しなければならなかったのは大いに理解できるところだ。

 しかしながら、このパワーインフレ防止の方針自体に私は好感を持っている。パワーの際限無い上昇をソリューションとするのではなく、各人がその状況を打開すべく知恵を出すという構図は、まだマーチャンダイジングとの連携が不鮮明だった頃の特撮TVドラマでは当たり前だった。近年では、商業主義的でなければならないという大命題は厳然と存在しているが、それに歩調を合わせる上での手法如何によっては、そのシリーズの雰囲気は随分異なってくる。「ゴーオンジャー」では、新アイテム又は新キャラクター登場に際して、必ず「新しいモノに向き合い、人智を尽くしてその力を手にする」というパターンをとる。それはガイアーク側も同じことで、正義側に何か新しい力が登場した際には、必ずそれを上回るべく策を巡らす。この「知能戦」的様相が実に懐かしく気持ちいいのだ。そういった意味では、前述とはブレるが、ヒラメキメデスの存在はしっかり生きているのかも知れない。

 さて、トリプターとジェットラス登場時の特撮描写は、前回に劣らず手の込んだものとなっている。半分リアルで半分漫画的な雰囲気を幾分重視し、実景との合成の巧いバランスが際立つ。特に「オイルバンキ改」となってからの空中戦は見応えがあり、その後に続く「ゴーオンモップ」の荒唐無稽さに引きずられることのないパワーを保っていた。飛行物体は、陸上の対比物と同一画面に収まる機会が少ない為、スケール感が乏しくなりがちだが、トリプターとジェットラスに関しては、他の炎神達との対比が感覚的に可能であることに加え、ミニチュアをクローズアップするカメラアングルやスモーク等の由緒正しいミニチュア特撮のテクニックが冴え、スケール感の確保に成功している。特にスモークによる空気感が、ハイビジョン制作であっても通用するということを示してくれるのは嬉しい。また、今回は地面にオイルを撒くという作戦である為、ミニチュアセットでは必然的に道路周辺を作りこむ必要があったのだが、モップで拭き取るという行為にまで配慮された精細なミニチュアには全く以って感嘆。「ゴーオンモップ」が至って普通の掃除用具の流用であるにも関わらず、スケール感を損なっていないのは、このような作りこみの成果だろう。久々のエンジンオーとガンバルオーのタッグも嬉しいものがある。

 話は逸れるが「ゴーオンモップ」には既視感がある。「ウルトラマンT」第48話「怪獣ひなまつり」にて、ウルトラマンタロウがポリバケツを使って怪獣ベロンに水をかけるというシーンが、その既視感の元だ。日用品を巨大戦で用いるギャップから生まれるユーモアは、結構伝統的なのだ。

 その「ゴーオンモップ」こそが本エピソード最大のギャグだったわけだが、ギミック主体のコメディたる仕上がりは、他にも数々のギャグによって支えられている。

 目立ったギャグは、勿論、摩擦力ゼロへの対抗策を思案する過程だ。走輔がうなぎの掴み取りをし始めるのは、軽いジャブ。範人が接着剤で動けなくなるのも、まだまだウォーミングアップだろう。この中での白眉は、やはり軍平だ。軍平は既に相当なイジられキャラとして成立したようで、まず珍妙な絵で見る者を驚かす。一見してペンギンには見えないその絵により、軍平が絵を苦手としていることが判明。そして、摩擦力ゼロを利用して逆に体当たり攻撃を仕掛けるというアイデアを披露するが、このアイデアは意外に理にかなったものであり、各人が考案したものの中で最もまともだと思う。それだけに、ターゲットを逸れてフェンスに激突する様子がたまらなく可笑しい。「ゴーオン!」という勇ましい掛け声、ソリの上に正座気味で乗って微動だにしない軍平、緊張感のかけらもないターゲットとなる書割、そのどれもがギャグとして高水準だ。その後、連が「滑る」と「受験に失敗する」を混同するというらしくないアイデアを披露(これは間に合わせのような気がしてならない)したり、走輔が滑り台を駆け上がる様を他の4人が冷ややかに見つめるという、既にシチュエーション自体を茶化してしまったりと、なかなかの暴走振り。これらギャグ描写だけを見ても、最近のスーパー戦隊シリーズにはない弾けぶりだろう。

 その他、細かいところでは前回に続いて走輔のパンツ姿が登場。どうも走輔は赤パンキャラとして成立したようである。こんなレッドは初めてだ(笑)。さらに、ガイアーク側ではケガレシアがギャグに孤軍奮闘。怒りのあまり沸騰するのはお約束だが、今回はヨゴシュタインとキタネイダスが懸命に栓を閉めるという描写がこの上なく可笑しい。また「オイルバンキ改」の活躍を見て、これまでヒラメキメデスを非難してきたケガレシアが、一転してヒラメキメデスを賞賛するシーンでは、わざわざケガレシアが実際に掌を返すというカットが挿入される。その意図するところが分かる「大人」にはセンスの良いユーモアとして映ったのは確かなところ。ギャグ戦隊として大成して欲しいとは思わないが、硬軟取り混ぜたバラエティ感溢れる戦隊としての成立点に近いポジションを、「ゴーオンジャー」は確保しているのではないだろうか。