GP-17「正義ノツバサ」

 海辺にある豪邸。そこにはトリプターとジェットラスと会話する兄妹がいた。話題はゴーオンジャーについてではあるが、彼らを「自分たちを助けたと勘違いしている」と評している。

 一方、ギンジロー号はいつもの朝の光景。走輔だけが朝食にありつけない。

 そして、ヘルガイユ宮殿。ヒラメキメデスはケガレシアへの皮肉たっぷりに、前回の戦いを分析する。ヨゴシュタインは害地目の誇りに賭け、害地目一番の暴れん坊と目されるハッパバンキを送り出すこととした。ハッパバンキは早速ダイナマイトで町を破壊し始める。反応をキャッチしたゴーオンジャーはすぐに駆け付けるが、いきなりダイナマイトを目前で爆発させられてしまい、戦意を完全に殺がれてしまう。そこに、男女2人が颯爽と登場。彼らはダイナマイトを投げ返し、ゴーオンゴールドとゴーオンシルバーに変身した。ゴーオンウイングスと名乗る2人は、卓抜した戦闘能力でたちまちウガッツの集団を粉砕し、ハッパバンキを退ける。走輔達はゴーオンウイングスの戦いぶりに感心するが、ゴーオンゴールド・須塔大翔とゴーオンシルバー・須塔美羽の2人は、ゴーオンジャーの情けなさを皮肉った上で、戦い方を改めるよう忠告した。憤る走輔をよそに、2人はトリプターとジェットラスに乗って飛び去って行ってしまう。須塔兄妹の態度が気に入らないゴーオンジャーは、それぞれが思いを巡らすが...。

 ウイング族に相棒がいるという理由をヒラメキメデスに問いただす、ケガレシアとキタネイダス。ヒラメキメデスによれば、三大臣がヒューマンワールドに来る以前、一度ウイング族をヒューマンワールドに誘い込んだことがあるという。そこでウイング族は行動不能に陥ったが、いつの間にか復活してまたヒラメキメデスを追ってきた。即ち、その時に相棒を獲得したと思しいのだ。ヒラメキメデスは妙案を思い付き、ヨゴシュタイン、ヒラメキメデス、ハッパバンキの3人で行動を開始した。

 その頃、大翔と美羽は「邪悪な意思の矛先が変わった」と何かを察知していた。2人はギンジロー号を訪れ、ゴーオンジャーにガイアーク襲来の予知を伝える。そして、手を出さない方がいいと忠告した。信用できないゴーオンジャーの5人は、まずどうやってゴーオンウイングスになったのかを問う。トリプターが話し始めたのは、ヒラメキメデスにヒューマンワールドに誘い込まれた際の話だった。ヒューマンワールドで炎神キャストと炎神ソウルに分離してしまい、行動不能となったトリプターとジェットラスの呼びかけを心で受け止めたのが、大翔と美羽だったのだという。2人はトリプターとジェットラスの炎神キャストに炎神ソウルをセットした。その鋭さと能力に関心したトリプターとジェットラスは、須塔兄妹を相棒にスカウトし、マシンワールドでゴーオンウイングスになる為の厳しい訓練を受けてもらったという。

 その時、クロガネ山にガイアーク反応が出たとボンパーが警告を発する。ゴーオンウイングスの忠告を無視し、ゴーオンジャーは登山者救出に向かう。登山者の発見と救出は順調に見えたが、登山道の至る頃にダイナマイトが仕掛けられており、ゴーオンジャーは逃げ場を失う。実は無策のゴーオンジャーを誘き出して一気に壊滅させるというヒラメキメデスの策略であり、ヨゴシュタイン、ヒラメキメデス、ハッパバンキの害地目トリオが待ち受けていた。害地目トリオの強力な攻撃により絶体絶命の危機に陥るゴーオンジャー。ヒラメキメデス登場とあっては行くしかないと、須塔兄妹はゴーオンウイングスに変身して現場に向かう。

 降り立ったゴーオンウイングスはウガッツ達を一瞬で全滅させ、ヒラメキメデスも退けた。ヨゴシュタインはハッパバンキに後を任せて退散する。ハッパバンキは張り切って戦いに挑むも、ゴーオンウイングスの華麗な空中殺法の前に脆くも破れ去る。しかも、隙を見てビックリウムエナジーを大翔が抜き取っていた為、巨大化も出来ず、そのまま爆発四散してしまった。

 ゴーオンジャーに助けられたと感謝する登山者達。だが、ゴーオンジャーは何も出来ず、ただゴーオンウイングスの活躍を見守っていたに過ぎない。ゴーオンジャーの心は虚しさで満たされていた。須塔兄妹は強烈な皮肉を投げかけて去っていく。「おめぇら、覚えてろよ!」走輔の叫びが響く。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 今年も到来の新戦士登場編。しかも一気に二人、その上兄妹ときた。その名はゴーオンゴールドとゴーオンシルバー。人呼んでゴーオンウイングス。初お披露目は前回のエピローグだったが(ただし徳山氏と杉本氏のクレジットは「パイロットの声」となっている)、素顔含めての本格的登場は今回ということになろう。

 スーパー戦隊シリーズのディープなファンには無用の説明ではあるが、一応「追加戦士」の歴史について少し言及しておく。「追加戦士」の登場は、単体ヒーロー然とした「ジャッカー電撃隊」のビッグワンを除けば「超獣戦隊ライブマン」におけるブラックバイソンとグリーンサイが初である。その後、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」のドラゴンレンジャーがセンセーショナルに登場、これを以って戦隊が5人以内であるという不文律が破られることとなる。以降、追加戦士は単純に戦隊チームの一員であったり全く別の生命体であったりとバリエーションを変え、現在に至る。勿論、追加戦士は中盤のテコ入れ策という大命題の上に成り立つものだ。その為、新たな巨大メカを伴ったり、新武器を形成したりといった商品展開用のイベントをも内包している。ここをいかにストーリーに取り込んで魅力的に描くかで、その後のシリーズの明暗(というほど大袈裟な振り幅はスーパー戦隊シリーズにはないが)を分けると言っても過言ではない。

 そういった観点で今回のゴーオンウイングス登場編を眺めると、例年にも増して周到な仕掛を用意してきたように見える。まず、本シリーズが炎神ありきだという点を生かしてか、トリプターとジェットラスは実に2話前から登場させており、しかも炎神同士だけを見れば、幾分互いを認め合うような構図にまでまとめている。ここでウイング族が敵対者ではないことを強く印象付けているのだ。続いて、新しい炎神が登場したことで、その相棒となる人物も当然想定されるという流れが周知されていることを生かし、いきなり本エピソードの冒頭から須塔兄妹を登場させ、またトリプターにナレーションを務めさせるという演出により、この兄妹が前話に登場したトリプターとジェットラスのパイロットであることを瞬時に分からせるという方法をとっている。わざわざ説明せずともシチュエーションで分かるという組み立て方のお手本のような構成だ。

 また、須塔兄妹は途中からの登場ということになるが、ゴーオンジャーの後続組になるのではなく、走輔たちより前に炎神の相棒となっているという設定が付加され、後続組の新戦士にありがちな特殊能力による強さといった要素が希薄なのも巧い。画面からは、予知能力という特殊能力こそあるが、連のあまりに膨大で豊富な知識という能力と比べても突出するものではなく、むしろ炎神の相棒である期間が長いことと、マシンワールドにおいて正式な(?)訓練を受けたという部分でのアドバンテージがあるに過ぎない印象さえ受ける。武装に関してもゴーオンジャーの持つものの方が強力であろうと推測されるものもある。即ち、戦い慣れしているか否かが戦力の差に繋がっているということなのだ。さらには、その出自をヒラメキメデス側にも語らせることで、多面的にゴーオンウイングス誕生秘話をとらえており、一方がベラベラ喋って説明するという現象を抑えているのも特筆に価する。

 ただ、気になる点もないことはない。というのも、ゴーオンウイングスの持つ意識は、初期編における軍平と同種だからだ。軍平も当初は走輔達をアマチュアだと言い、かなりの皮肉を込めて接した。今回のゴーオンウイングスは、その軍平も含めてアマチュア視しているが、スタンスとしてはそっくり同じだと言える。軍平がその天然振りを発揮することで違和感なくゴーオンジャーに溶け込み、いつの間にかその賑やかな集団の一員になっていることで、幾分既視感は和らげられている。しかし、努力と知力で困難を乗り越えてきたゴーオンジャーの成長振りを、またもアマチュア呼ばわりされるのは少々寂しい。寂しい以前に、同パターンを繰り返していることも痛いマンネリになっているのではないか。

 しかしながら、その問題は須塔兄妹のキャラクター的な魅力によって払拭されているようでもある。というのも、大翔を演ずる徳山氏は「仮面ライダーカブト」で強烈なキャラクターである矢車想(仮面ライダーザビー、仮面ライダーキックホッパーに変身)を演じた経験があり、斜に構えた変身ヒーローを演ずるに当たって既に高い評価を得ている。徳山氏を起用することで、ゴーオンゴールドをクールな「アニキ(「仮面ライダーカブト」でもこう呼ばれていた)」の存在感際立つヒーローとして完成させているのだ。これにより、戦況分析能力を含めた戦闘能力が一段階高いという印象付けに成功している。一方の美羽を演ずる杉本氏は、数多くの雑誌の専属モデルをこなし、グラビアアイドルとして高い評価を得ているという実績があり、カメラの前にどう立つかを心得ているものと思しきポージングがクールな印象を与える。ヒロインが増員となったことで、男性諸氏の楽しみもまた増えたわけだが、少女的な可愛らしさが魅力の早輝、妖しい色気が魅力のケガレシア、健康美溢れるスタイルが魅力の美羽と、バリエーション豊かなのが嬉しいところだ。まだ登場して1話のみだが、キャスティングは概ね成功の方向を示しているのではないだろうか。

 今回はゴーオンウイングスを徹底的に紹介するという構造故か、ゴーオンジャー勢は出番をかなり削減された上に何度も失態を演じるという役回りに甘んじている。それでも変身シーンや必殺技等のお約束はちゃんと盛り込まれ、決しておざなりとは言えない。むしろギンジロー号周囲での描写は工夫されて濃密であり、バックに軽飛行機を模した遊具を配してゴーオンウイングスを暗に印象付けるシーン作りなど、ロケーションの巧みさには舌を巻く。緊張感のある須塔兄妹に対し、走輔達が呑気な日常を演じているのもコントラストを出す意味で高い効果を生んでいる。特に、連の作った朝食にありつく為に4人が整列し、何故か一番後ろに回された走輔が朝食を食べ損なうというシーンがほのぼのしていて良い。逆に、ラストで自分たちが何もしていないにも関わらず、登山者に礼を言われるというシーンでは、その無力感が存分に表現されていた。ここだけに限らず、今回ゴーオンジャーは須塔兄妹には散々イヤミを言われるのだが、意外にも須塔兄妹が「本当に嫌なヤツ」に見えないのは、走輔達の反応が豊かな感情を乗せているからだろう。

 一方、ゴーオンウイングスにはたっぷりと見せ場が用意されている。素面でのアクションはあまりないが、変身後のアクションは非常に充実。新戦士へのご祝儀と言わんばかりのウガッツの集団、それをバタバタとなぎ倒していくアクションでまずはウォーミングアップ。大翔=ゴーオンゴールドのアクションはボクシングスタイルが強調され、ゴーオンジャー勢の統一感のあるヒーローアクションとは一線を画すワイルドな戦い振りが魅力だ。美羽=ゴーオンシルバーのアクションは柔軟性を強調した新体操っぽいスタイルが特徴。いかにも戦い慣れしたような「舞い」は伝統的なJAEアクションの真骨頂であり、戦術的に荒唐無稽でありつつもリアルに見えるという、虚構と現実の狭間を縫うような華麗さが素晴らしい。後半戦ではロケットダガーを使用した空中戦を展開。ワイヤーアクションというよりは伝統的な「吊り」を思わせる演出法が懐かしく、派手なロケット噴射の合成も相俟って説得力のあるシーンに仕上がっている。必殺技や変身シーンなどのバンクシーンを初めとするスタジオ撮影では、通常のアクション仕様とは異なるメッキ仕様のスーツが使用され、往年のメタルヒーローの雰囲気を感じさせた(「轟轟戦隊ボウケンジャー」のボウケンシルバーも同趣向だった)。余談だが、「宇宙刑事ギャバン」当時の制作秘話によれば、オープンでのメッキスーツ使用による撮影は、照明等の関係で非常に難しく、その為スタジオ撮影用に「魔空空間」なる設定を作ったという。現在でもその事情はあまり変わっていないものと思われる。

 最後に、悪ノリが進化し続けるガイアーク側に言及しておきたい。ハッパバンキにはベテランの佐藤正治氏を起用。ヨゴシュタインやヒラメキメデスとの掛け合い漫才(?)を演じる前提の配役と想像できるが、害地目一の暴れん坊という強力な蛮機獣ならではの迫力ある声はさすがだ。今回の悪ノリはヨゴシュタイン、ヒラメキメデス、ハッパバンキが害地目でトリオを組むという趣向。わざわざ個々人の名乗り(何故かヨゴシュタインは以前と名乗り口上が変わっている)を入れ、戦隊っぽいポーズで締めるなど、パロディ傾向をより強めて笑わせてくれる。また、ヒラメキメデスは腹黒いキャラクターとは程遠い忠実な部下を演じており、害地目という属性での結びつきは予想を超えて強いものと思われる。既にヒラメキメデスもパロディキャラクターの一員と化してしまっているようで、その傾向は使う技(円周率や直角二等辺三角形など)に色濃く現れていた。トリオはゴーオンジャーを苦しめるが、ゴーオンウイングス登場で形勢逆転となり、幹部 2人が早々に退散してしまうのは何とも可笑しい。残されたハッパバンキは、いい処を見せることなく、果ては巨大化も果たせずに敗退してしまったが、巨大戦が不可能であること(トリプターとジェットラスだけでは巨大ロボになれない。また尺の関係もあるだろう)を、大翔の卓抜した戦術(隙を見てビックリウムエナジーを抜き取るというもの)をエクスキューズに用いて解決するところなど実に鮮やかだ。

 次回は早々に双方のチームが歩み寄りを見せそうだが、丁寧な描き分けを期待したい。勿論、ゴーオンジャー勢の何ともいえない雰囲気に巻き込まれて欲しいという気もしないでもないが。