GP-20「兄妹バトル!?」

 ノコギリバンキはパワーアップを果たし、チェーンソーバンキとして復活した。ヒラメキメデスは「繊細かつ大胆な作戦」の開始を告げる。

 美羽は「世界一キラキラの兄」大翔の服を物色中。その大翔は、ジェーンというブロンドの女性と何やら話していた。そこへ大翔が「教官」と呼ぶジャン・ボエールから連絡が入る。話を中断されたジェーンは大翔に詰め寄るが躓いてしまい、大翔に抱きつくような格好になってしまった。早輝はそれを目撃し、慌ててギンジロー号に帰る。

 早輝は走輔達に大翔のことを報告したが、実は皆も同じような光景を目撃していた。その話題が盛り上がる間もなく、チェーンソーバンキの反応が伝えられ、出動するゴーオンジャー。チェーンソーバンキの巻き起こした粉塵の中、視界が効かずに混乱するゴーオンジャー。そこへゴーオンウイングスが登場し、すぐさまチェーンソーバンキの奇襲を阻止する。「突っ込むだけなら、猿でも出来るぞ」と言う大翔に、「女ったらしのナンパ野郎が偉そうに言うな」と逆襲する走輔達。混乱に乗じたチェーンソーバンキは攻撃を開始し、意気揚揚と迫るが、ヒラメキメデスは退却を命じた。驚くガイアーク三大臣。ヒラメキメデスはゴーオンジャーとゴーオンウイングスの行動データを確認したと不敵に笑う。

 美羽は、大翔の何を見たのかとゴーオンジャー達に詰問するが、その所為でチェーンソーバンキの退却を許してしまい、機嫌を損ねた大翔は早々にその場を立ち去る。美羽の質問にゴーオンジャーそれぞれが答えるのだが、軍平はインド人女性と手を繋いでいたと言い、連はチャイナドレスの女性と抱き合っていたと言う。美羽は混乱し、居た堪れなくなって走り去ってしまった。

 美羽が家に帰ると、大翔がジェーン達女性に囲まれているのを見てしまう。大翔は「しつこい」と言いジェーン達を縄で縛りつけて立ち去った。美羽は縛られた女性を解放するが、ジェーン達から「あなたの所為で...」と詰め寄られる。ジェーンは大翔をハリウッドの映画スターにしようと近付いていたらしいのだ。他にも、チャイナドレスの女性からはカンフーチャンピオン、インド人の女性からはカレーキング、和服の女性からは芸の道を究める等、大翔の才能を聞かされる美羽。彼女達は何度となく大翔をスカウトし続けてきたのだという。大翔が女たらしじゃなかったと知って安心する美羽だが、ジェーンは、大翔が全部断ったのは美羽とヒーローになる為だったと告げる。ジェーンから「妹が大翔の未来をつぶした」と聞き、美羽は「自分は一人でも全然平気」なのに、とふてくされ、ジャン・ボエールからのコールも無視する始末。ジャン・ボエールは大翔に「気を付けないとズギュボォォンって行っちゃうよ」と警告した。

 一方、チェーンソーバンキはヒラメキメデスの作戦に従い、狭い倉庫内で木材を片っぱしから切断していた。燃えやすい木屑を大量に発生させ、ゴーオンジャーの火器で大爆発させる算段なのだ。狙い通りゴーオンジャーが登場するものの、「マッハで倒してやるんだから」と美羽が割って入る。頭に血が上っている美羽の勢いに圧倒される走輔達。その間にもチェーンソーバンキは木屑を多量に発生させるべく木材切断に勤しむ。そしてチェーンソーバンキの挑発に乗った美羽は、遂にウイングブースターを構えた。合流した大翔は粉塵爆発の罠に気づき、すぐに美羽を止めに入るが、ウイングブースターは火を噴いてしまう。大爆発する倉庫。拍手喝采のガイアーク。事態を察したジャン・ボエールは、空港の格納庫から出現し飛び立った。

 爆発に巻き込まれたものの、走輔達は無事だった。美羽は「アニの夢を邪魔したくなくて」と大翔に言う。大翔は「勘違いするな。前の為にヒーローになったわけじゃない。俺自身、それを一番望んだからだ」と答えた。ゴーオンゴールドになり、トリプターを乗りこなし、ジャン・ボエールと共に闘うということが、大翔の一番の望み「オンリーワンになること」を叶えることなのだ。美羽は「アニにそんな趣味があったなんて」と笑顔を浮かべ、何か勘違いをしている。

 ジャン・ボエールは、現場に到着し「家事も喧嘩も鎮火完了」と一瞬で消火活動を終えた。群がってくる蛮ドーマも次々と撃ち落としていく。大翔と美羽は自分たちの教官であるジャン・ボエールの勇姿に勢い付き、瞬く間にチェーンソーバンキを打倒した。しかしいつもの如くチェーンソーバンキは巨大化して反撃してくる。ジャン・ボエールはウイングスチームの結束を宣言、トリプター、ジェットラスと炎神合体し、セイクエオーを完成させた。セイクウオーは空へ地上へと縦横無尽に戦術を展開し、チェーンソーバンキを粉砕する。美羽は戦闘中、何故か「もっと燃えまくって!」と大翔を鼓舞していたのだが...?

 戦いが終わり、大翔と美羽はジャン・ボエールとの再会を祝して祝杯を酌み交わしていた。美羽は「知らなかったなぁ、アニが合体好きだったなんて」と突如言いだす。大翔は思わずむせるが、美羽の勘違いは止まらない。トリプターすらも勘違いしてしまい、弁解の余地を失った大翔は「何でもいい...」と諦めてケーキを頬張った。美羽は、大翔の意外に可愛い一面を見つけたと勘違いしたまま、「これからもガンガン炎神合体させてあげるね!」と喜ぶのだった。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ベアールV!

監督・脚本
監督
諸田敏
脚本
香村純子、荒川稔久
解説

 徹底的に須塔兄妹メイン編。ゴーオンジャーは変身後の姿こそ披露するが、まともに敵と戦う描写もなく、レギュラーの炎神に至っては、ウイング族以外はスピードルしかセリフが存在しないなど、真に徹底している。

 前回は辛口評価に過ぎてしまったが、残念ながら今回もそれほど褒められた面白さではない。ここまでの印象からすると、どうもゴーオンウイングスはヒーロー/ヒロインとしての完成度が高すぎるのか、「ゴーオンジャー」というコミカルなシリーズの中ではキャラクターを崩したり動かしたりするのが難しいようだ。ゴーオンジャーの面々は、それこそ劇中の設定は別にして「アマチュア」という印象を広げていくことで、キャラクターは早くから転がっていったのだが、ゴーオンウイングスに関しては、まだキャラクターが勝手に転がっていく感覚には到達していない。本エピソードを見る限り、美羽に関しては妄想癖がプラスされることで、ちょっとアブない妹キャラを確立できる可能性を見せてくれたが、如何せん大翔には隙が無さ過ぎる。隙の無さ故にじっくりとキャラクターを崩して成功した「轟轟戦隊ボウケンジャー」のボウケンレッド・明石暁という例はあるものの、大翔は中途参入という制約もある為、明石ほどの手間暇をかけることは出来ない。本エピソードで美羽の勘違いに振り回されるという可愛らしい一面を覗かせたが、キャラクター設定的に更なる飛躍は当面困難であると思われる。

 前回もそうだが、今回も少々窮屈な印象は拭えない。ゴーオンジャーとの対立構造の継続が少々引っ張られ気味という状況もさることながら、ゴーオンウイングスの「空」「飛行」といったイメージとは裏腹に、「暗い」「硬い」というイメージが先行しているからだろう。美羽は幾分隙を見せて可愛らしさを垣間見せているが、やはり大翔の形成する「閉じられた世界」の中に居ることを良しとしているのは変わらない。逆に言えば、大翔役の徳山氏のオーラやイメージ作りがそこまで徹底的にクールに仕上がっていることの証明でもあるわけで、その点では高い評価に値する。もっと言えば、徳山氏の演技プランに、まだ制作側のテンションが追いついていないとも推測できる。この大翔の徹底したイメージに、どれだけ切り込んでいくかが、これからのゴーオンウイングス、ひいては「ゴーオンジャー」というシリーズの評価に繋がっていくと言っても過言ではないだろう。

 というわけで、今回のメインは美羽である。好奇心旺盛という設定に加え、今回は勘違いが暴走するという、ある意味走輔に似た性格が登場。その意味では、「マッハで倒す」という走輔のセリフを引用するシーンが象徴的だ。変身後との一体感も増しており、演技プランもこなれてきたのか、戦隊ヒロインとして完成されてきた印象すらある。タクティクスに優れたゴーオンウイングスでありながら、兄・大翔のこととなると感情に走ってしまい、冷静な判断力を失うという弱点もイイ。兄妹ならではの愛憎劇という程深いものではないが(むしろ深いと「戦隊」として成立し難い)、微妙な感情の表現はなかなか堂に入っていたように思う。ゴーオンジャーに詰め寄る強気な面、大翔をうまく批判できない控えめな面、夕暮れの海岸で膝を抱えて悩む姿、大翔の真意を勘違いして笑顔を弾けさせる場面など、美羽のあらゆるバリエーションを描いて見せたのは一つの収穫だろう。「妹」である前に「女性」であることを強調しているようにも見える(逆に大翔が肉体美を披露している為、余計にコントラストが際立っているようだ)。このように、美羽がゴーオンウイングスの抱える閉塞感打開のきっかけとなるポテンシャルを見せてくれたのは、素直に喜べる部分だろう。

 美羽の勘違い暴走という着目点は良かったが、残念ながら大翔が美羽に音声として伝えたタームからは、「合体」という答えが導き出せないのではないか、という疑問が沸く。大翔が口に出した言葉は、「ゴーオンゴールドになること」「トリプターを駆ること」「ジャン・ボエールと共に戦えること」くらいであり、ここから「合体」を連想するのは飛躍が過ぎる。セイクウオーへの「炎神合体」が、本エピソードの一つの重要なテーマだったことは火を見るより明らかであるが、勘違いのくだりはあまりにも弱すぎた。「こじつけ」「予定調和」を掲げられても仕方ないだろう。大人のイヤな見方を図らずも誘発してしまうのも問題で、意図とはまるで外れているのを承知の上で、「合体」というタームが「近親相姦」を連想させてしまう(この連想が私だけではないであろうことに自信がある・笑)。大翔が思わずむせてしまうシーンは、徳山氏が大人っぽい雰囲気を醸し出しているだけに、余計に連想を強くしてしまっている。ジャン・ボエールが登場したことで「ウイングスの結束」は充分アピールできるのだから、何も「合体」にこだわらずとも、例えばトリプターの姿に「萌える」などとした方が、より大翔の強固なキャラクターに切り込んで行けたのではないかと思える。本エピソードの閉塞感は、この連想の中途半端さにも原因がありそうだ。

 ゴーオンウイングスとは反対に、ガイアーク側では、既にヒラメキメデスのキャラクター崩しがかなり進行していることが分かる。優秀な策士ではあるが、意外に小粒な作戦を立てては喜んでいる節が見られ、徐々にユーモラスな面が強調されてきた。小粒な作戦は今回ばかりでなく、以前にもおびき出して害地目トリオで倒すという地味なものが登場しており、かなり狙っているものと思われる。三大臣の雰囲気にもすっかり呑まれてしまい、バーカウンターで気取って見せたり、そのカウンターで頭をぶつけたり、クールキャラを返上して悔しがったり、果ては躓いてズッコケるという失態まで見せる。不利になると蛮機獣に後を任せて退散するなど、幹部としての伝統的な性格も備わり、ガイアークに共通する「悪い奴等だが何となく憎めない」キャラクターに仕上がってきている。個人的には、ヒラメキメデスはガイアークに不穏な空気をもたらして場を引き締めるキャラクターであると思っていたのだが、どうも三大臣のキャラクターが強烈過ぎたようだ(まだ本心は分からないとしておくが)。三大臣の雰囲気に呑まれて、私としては正解だと感じているが、いかがだろうか。

 ガイアークと言えば、チェーンソーバンキも特異だ。ノコギリバンキを新造形でバッチリパワーアップさせ、五代高之氏を単独クレジット扱いで気合充分に迎えた割に、冴えないキャラクターになっているというギャップが実に秀逸である。この気合充分でギャグを作り上げていくところが「ゴーオンジャー」の良さだ。蛮機獣の断末魔のダジャレはすっかり定番となったが、今回は「夜霧よ今夜もありがとう (石原裕次郎)」がネタにされた。個人的には昭和歌謡曲に詳しい(半田健人氏ほどではないが・笑)為、存分に笑わせて頂いたが、ややもするとメインターゲットとなる子供の親の世代ですらネタ元が分からない可能性もあったわけで、スタッフのいい意味での暴走振りが光る。

 さて、今回最大のトピックは、炎神ジャン・ボエールだ。大翔が「教官」と呼んで恐縮するほどの大物でありながら、かなりマイペースで飄々とした感覚なのがいい。まだその姿すら満足に見せていないにも関わらず、いきなりナレーションも担当して存在感をアピールしているのはさすがだ。「ゴーオンジャー」演出のパターンが生きた好例だろう。大翔との会話では、前作「獣拳戦隊ゲキレンジャー」のマスター達を思わせる性格設定が垣間見え、炎神ソウルのアニメーションでの「船長(機長?)スタイル」になるほどと膝を打つ。巨大感を演出するジャンボジェット実機との合成や、離陸の際の空気感の演出、巨大な影を落とす合成も一級である。また、炎神初登場時には半ば恒例化した蛮ドーマ軍との空中戦も充実度抜群で描かれ(ジャン・ボエールと蛮ドーマの量感の違いに注目)、満足度の高いものに仕上がっている。何しろ、後半の殆どがこのジャン・ボエール中心の活躍シーンに費やされているのだ。

 ジャン・ボエール登場と共に、ウイング族のみで構成される新ロボも登場。セイクウオーなる新ロボは、これまでの陸上系ビークルの合体系とは大きく異なるスマートなスタイルが異彩を放つ。空中に静止して戦闘を繰り広げるという、妥協の無いシーン作りも嬉しい。必殺技はエンジンオージェットリプターとあまり変化がないものの、弓を引くという動作はセイクウオーの方がスタイル的に合致しているように思う。いつも抑え気味でのセリフが印象的な大翔の、技プロセスにおける少し高揚したセリフ回しも新鮮だ。