GP-23「暴走ヒラメキ」

 ゴーオンジャーとゴーオンウイングスに敗れたヒラメキメデスは、計算力をフルに働かせて打倒策を思案していた。

 時を同じくして、高級ブランドスーツを買いに来ていた大翔の前に走輔が突如現れる。「相互理解というか親睦を深めるというか」と言いつつ、走輔は大翔に付きまとい始めたのだ。大翔がよく立ち寄るカフェにも走輔はついて来たのだが、そこで大翔はガイアークの気配を察知する。その直後、走輔のゴーフォンにもガイアーク反応の連絡が入った。

 ゴーオンジャーとゴーオンウイングスはヒラメキメデスと対峙。走輔はいきなり飛び込んでまた痛い目を見るが、大翔は戦況を冷静に判断してヒラメキメデスを追い詰める。ヒラメキメデスは大翔に対する呪いの言葉を吐いて一時退散した。キタネイダスとケガレシアはヒラメキメデスを「恥さらし」と称すが、ヨゴシュタインは「あいつはやれば出来る子ナリ」と憤慨する。

 このままではヨゴシュタインの顔に泥を塗ることになってしまうと苦悩するヒラメキメデス。彼はマシンワールドにおける反乱前の決起の日を思い出していた。一介の発明家に過ぎず、功を認められないヒラメキメデスは、ヨゴシュタインを倒して害地大臣の座に就こうとさえ考え始めていた。ところが、ヨゴシュタインはそんな彼の頭脳を見込んで害地副大臣に任命したのだった。副大臣の証としてヨゴシュタイン自らがしつらえた剣・ハカリバーを授けられたヒラメキメデスは、それ以来ヨゴシュタインに絶対の忠義を誓ったのだ。ヒラメキメデスはヨゴシュタインの恩義に報いる為、再び激しく計算し始めた。そして、遂に答えを導き出す。

 その頃、大翔の別荘で大翔のトレーニングを観察していた走輔は、自分にもやらせてくれと言う。サンドバッグに「走輔様のマッハ百烈拳」を見舞った走輔だが、勢いよく戻って来たサンドバッグにぶつかって跳ね飛ばされ、プールに落下。「相手の動きを予測することだ」と大翔は走輔にアドバイスを与えた。トリプターは大翔が他人にアドバイスを与えたことに驚く。髪の乾燥に勤しむ走輔に、美羽は「ヒラメキメデスはゴーオンウイングスに任せて欲しい」と言った。ヒラメキメデスをずっと追い続けてきたこと、そして自分を罠にはめたことから、大翔は自分の手でヒラメキメデスを倒したいと考えており、美羽はそんな大翔の思いを感じ取っていたのだ。

 ヘルガイユ宮殿では、ヨゴシュタインの機嫌を直すべく、ケガレシアとキタネイダスが酒を勧める。だが、ヘルガイユ宮殿の電力が突如落ちてしまった。異変を察した三大臣がビックリウムエナジーの充填マシンの前にやって来ると、そこにはヒラメキメデスの姿があった。ヒラメキメデスは、それまで自分が計算ばかりしていたことこそ敗因だとし、自らに蛮機獣100体分のビックリウムエナジーを充填して力ずくで叩きのめす策に出たのだ。その反応を察知したゴーオンジャーとゴーオンウイングスは、巨大化し変貌したヒラメキメデス改めデタラメデスの姿を見る。

 大翔と美羽はセイクウオーを完成させてデタラメデスに挑む。ところが、デタラメデスの攻撃は文字通りデタラメすぎて全く読めず、敗れてしまった。エンジンオーG6も参戦するが、デタラメかつ強力な攻撃に大苦戦。ゴーオンジャーとゴーオンウイングスはエンジンオーG9を完成させて挑んだ。しかし、圧倒的なパワーに加え、予測できない動きに直面して手も足も出ないという事態に陥ってしまう。だが、その事態を打開したのは走輔だった。デタラメデスにしがみつき、そのままG9グランプリを見舞うという捨て身の攻撃に出たのだ。「黙ってやられるよりはマシだ!」という走輔の気合と共に発射されたG9グランプリにより、デタラメデスは等身大に戻り、炎神達も炎神キャストに戻ってしまった。ゴーオンジャー達も大きなダメージを負った。

 まだ戦う力が十分残っているデタラメデスを討つべく大翔は立ち向かうが、デタラメな攻撃を先読みすることが出来ず、一敗地に塗れてしまう。そこに飛び出してきたのは走輔。動きを読んでやると意気込む走輔だが、結局動きを読むことは適わず。大翔は先のG9グランプリを思い出し「俺の真似をするな」と助言する。大翔の声を聞き、ロケットブースターを受け取った走輔は、「マッハで前に出るだけ」の自分の戦い方でデタラメデスに挑んだ。ロケットブースターの加速力でロードサーベルを炸裂させる走輔。デタラメデスは爆発四散して果てた。

 早輝は「走輔の戦い方もデタラメだったよね」と手厳しい批評。いいところを持っていかれたと言う美羽に、大翔はまだ倒すべき敵がいると返す。「長くなるかもな。あいつらとの付き合いも」そう言って大翔は微笑んだ。

 後に残ったハカリバーを拾い、ヒラメキメデスの無念を感じ取るヨゴシュタイン。その胸中に去来するものは...?

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
古怒田健志
解説

 ついにヒラメキメデス退場(次回予告に何故か登場していたが...)。ヒラメキメデスの暴走振りが「世界のナベアツ風」ギャグによってユーモラスに描かれるも、対峙するゴーオンジャーとゴーオンウイングス、そしてガイアーク連中はかなり重厚に描かれるという、いつもとは少し異なる試みが光る名編。ドラマの充実度はヒラメキメデス周辺が最高であり、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスはほぼ全編バトルに徹するという潔さも良いが、前回でやや消化不良気味だったゴーオンジャーとゴーオンウイングスの融和が巧く描かれていることも高ポイントと言えるだろう。

 走輔と大翔の関係に重点が置かれてはいるが、何と言っても今回の主役はヒラメキメデスだ。土壇場で描かれるヨゴシュタインとの思い出、計算しすぎて極端な解答に辿り着くという感覚的に納得できる可笑しさ、余韻なく華々しく散るもヨゴシュタインの哀しみを誘うなど、オイシイ場面が盛り沢山。特にヨゴシュタインに忠誠を誓うきっかけとなる回想場面は、全くと言って良いほどキャラクターの過去が描かれない「ゴーオンジャー」においては珍しく、また、悪の組織にしては妙に高潔な精神が描かれており、実に印象的なシーンとなった。

 その回想では、ガイアークのマシンワールドにおける反乱直前の決起場面が描写される。一介の発明家として蛮ドーマを発明したりと地味な活動を続けていたが、目立たない故に功を上げることも出来ず、その鬱憤からヨゴシュタインを倒して害地大臣の座に就こうという、黒い野心を胸に秘めんとしていたヒラメキメデス。だが、ヨゴシュタインはヒラメキメデスの才覚をちゃんと熟知しており、ヒラメキメデスを害地副大臣に取り立てた上、しかも自らがしつらえた剣(ハカリバー)を授けるのである。ここでのヨゴシュタインは、威厳があり力もあり、また部下への目配せも出来るという最高級の上司として描かれていつつも、普段のユーモラスなヨゴシュタインとちゃんと地続きに見える。最近何度も連発し耳タコになって恐縮だが、まさにキャラクターが「自転」しているのだ。それにしても、ヨゴシュタインをここまで「素晴らしいお方」にしてしまう制作側の「暴走」振りには驚いてしまう。スーパー戦隊シリーズは悪側のドラマを重厚にすることで、クライマックスを盛り上げるという手法が黎明期を中心に度々採用されてきたが、それは主に内部抗争劇や、大幹部の他の介在を許さない私情によって展開される悲劇が主体であり、今回のように上司と部下の強固な信頼関係をテーマにするというのは非常に珍しい。

 この「ゴーオンジャー」開始当初は、絶対的ボスの不在、ゴテゴテとした着ぐるみ幹部2人+1人の顔出し女性幹部ということで、私としては一抹の不安を覚えたことを正直に告白しておかなければなるまい。だが、その不安は今回に至るまでに過剰なギャグ描写を織り交ぜることで解消されてきた。そして、単なるギャグに塗れた悪の組織に堕すこともなく、適度に威厳と力を見せて魅力的なキャラクターを作り上げてきたのだ。それを受けて、制作側が確信犯的にヨゴシュタインの高潔さを描いたとしても何ら違和感のあるものではなく、むしろよくぞやってくれたと手放しで喜びたいところである。さらに、ガイアーク三大臣の「イイ人」振りは、ヒラメキメデスがデタラメデスになってしまったことへの責任の一端を感じてしまうという、キタネイダスとケガレシアにも現れている。何と清々しく愉快な悪の組織であることか。勿論、清々しいなどという言葉はガイアークにとって最大の侮辱となるものではあろうが...。

 ヒラメキメデスがデタラメデスになるまでの一連のシーンは、幹部が怪人化する王道パターンをそのまま踏襲している。まず、幹部が自らを怪人化するきっかけが、万策尽きて後が無いという状況であるという点。ただこの点に関してはヒラメキメデスはまだ恵まれている方で、上官達(三大臣)は一様にヒラメキメデスの暴走を慮っている。これに近いのは「電子戦隊デンジマン」のクライマックスにおけるヘドラー将軍の巨大化(姿はそのままで巨大化)だろう。他にも「恵まれた幹部」は散見されるが、その殆ど全てが強い信頼関係で結ばれた上官と部下というシチュエーションとなっている。続いて怪人化するプロセス。これについては、デタラメデスが蛮機獣であると明言されているわけではないが、ビックリウムエナジーという常々蛮機獣に与えられているものをチャージするという行為が、そのまま「怪人化」に該当すると言っていいだろう。スーパー戦隊シリーズにおいて、一定の怪人誕生プロセスを経て幹部が怪人化するのは「バトルフィーバーJ」のヘッダー怪人が嚆矢であるが、このパターンには何となく不気味でかつ哀愁が漂う。デタラメデスに関してはその感覚が当てはまらないかも知れないが、やはり幹部が一介の怪人と化してしまう様は、いくら強力怪人であるとは言え、ある種の物悲しさを感じさせる。そして、これが一番重要であるが、一度怪人化したら元には戻れないという「後の無さ」だ。前述のヘッダー怪人はヘッダー指揮官の死後、怪人となって蘇るというもので、限定的ながらも元の姿に戻ることができたが、前述のヘドラー将軍は死を覚悟して出撃する武人の姿が崇高そのもので、視聴者の感動を呼んだ(私がリスペクトして止まない曽我町子御大演ずるヘドリアン女王が、ヘドラー出撃に涙するというシーンはシリーズ屈指の名シーンだ)。ヒラメキメデスに関しても同様で、蛮機獣100体分のビックリウムエナジーをチャージすれば命を失うというリスクを承知の上でヨゴシュタインの恩義に報いる姿は、まさに「泣ける場面」である。その様子を心配そうに(着ぐるみでありながら、本当に心配しているように見える!)見つめる三大臣の姿が輪をかけて涙を誘う。しかし、悲劇一辺倒でないところも美点である。デタラメデスになった際の言動はギャグに彩られており、中井氏の演技も弾けているので、素直に笑える。このように、デタラメデスへの変化は定石を踏襲してはいるものの、「ゴーオンジャー」ならではのユーモラスな味付けにより、また違う印象を醸し出しえているのだ。

 さて、正義側であるが、冒頭はいつものようにギャグ描写で開始される。走輔は前回でのエンジンオーG9完成に気を良くして大翔に近付き、大翔のトレーニングの様子等を観察して互いの理解を深めようとするのだ。主なギャグ描写は3点。1点目は高級ブランドのショップ。高価なスーツを身に着けた走輔はなかなか堂に入っているが、その値段に目を丸くするというギャグ描写が冴える。2点目はカフェ。大翔のおごりであるエスプレッソを「苦い」と評し、大翔の読む哲学の洋書に目を通しつつ、いつもの朝食を簡単な英語で表現するという方法で、大翔と走輔の「格差」を見せる。1点目と2 点目においては、結局いつもの如く走輔のお調子者振りを露呈したに過ぎず、大翔はやや迷惑な様子であることが伺える。この走輔の「鈍感さ」が生み出す温度差はたまらなく可笑しい。3点目は大翔のトレーニングを真似るというもの。サンドバッグを勢いだけで叩いた走輔は戻ってきたサンドバッグにぶつかって、プールに落ちるという憂き目に会うのだが、どうも大翔はそこに至ってようやく走輔に多少の興味を抱いたようだ。この吹っ飛ぶ走輔のシーンではスタントなしで後ろ向きに大ジャンプするという、ギャグシーンには勿体無いくらいのアクションを披露していてポイントが高い。前回、大翔はゴーオンジャーの鈍感力を認める発言をしてはいたものの、積極的にそれを自分たちに取り入れるまで踏み出すことはなかった。今回もその姿勢に関しては同様なのだが、逆に自分の「先を読む戦術」を走輔に教えようとする。つまり、走輔が懸命に伸ばした手を、大翔が掴むという格好になったわけだ。何でもないようなギャグシーンだが、実は結構重要だったりする。このさり気なさが「ゴーオンジャー」の美点だ。

 その後、ヒラメキメデスの猛攻を大翔が阻止することで、デタラメデスへの変化のきっかけとなるのだが、少々残念なのは大翔ばかりがクローズアップされ、あまり美羽にスポットが当たっていないこと。ヒラメキメデスの好敵手はゴーオンウイングスであり、ゴーオンゴールド一人ではないという認識でいたのだが、どうも前回のトリプターとのレースにも見られるようにヒラメキメデスからすれば大翔その人がライバルということになっていたようだ。勿論逆もしかりである。ただ、ヒラメキメデスと大翔の戦いを彩るアクションは凄まじいハイテンポでシーンが繋がれており、そのテンションはすこぶる高い。

 デタラメデスになってからは、巨大戦の後に等身大戦という変則的な構成がとられている。巨大戦ではデタラメデスの強力無比な様が存分に描かれ、しかもそれが中井氏によるギャグボイスによって彩られることで、凄まじいテンションとなった。逆転の契機を掴むべく反射的にステアリングを切る走輔には、常人ならざる天才的な勘を感じさせ、その後の走輔の戦い振りへの伏線となっている。G9グランプリによる「自爆戦法」によって正義側が一様に戦闘不能状態になるという流れも自然だ。

 等身大戦では、先の大翔VSヒラメキメデスの逆シチュエーションが展開される。ここでは、大翔が既に大きなダメージを被っているということが効き、戦況がデタラメデス有利であることに違和感がない。大翔ほどの人物ならば、いかにデタラメデスの行動が読めなくとも、それなりに戦略的な手法を用いて状況を五分にもっていくはずである。その大翔が大苦戦する状況を補強するのが、「自爆戦法」によるダメージなのだ。それを受け、今度は「何故走輔は勝利できたか」という疑問が最大限に生きてくる。大翔と同等のダメージ追っている筈の走輔が勝てたのは、前回から繰り返される「出たとこ勝負」の気質だ。ここでのロードサーベルとロケットブースターを駆使した必殺技は、ビジュアル的にもパワフルかつ「板野サーカス」的で、本エピソードの白眉である。

 本エピソードを見終わると、ある一つの絶妙なバランス感覚に気付く。それは、「出たとこ勝負」が万能ではないということだ。走輔はヒラメキメデスには敗れており、大翔が勝利を手にしている。逆に大翔はデタラメデスに敗れており、走輔が勝利を手にしている。つまり、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスの両リーダーである走輔と大翔は、互いに補完し合う関係にあるということを示している。ともすれば「出たとこ勝負」が最強のように思えてしまう部分こそあるが、実際は結構理性的に作られたエピソードだと言えるだろう。