GP-29「大翔ヲトメロ」

 ヘルガイユ宮殿にヨゴシュタインが帰って来た。喜ぶケガレシアとキタネイダスだったが、ヨゴシュタインは2人の協力を拒み、自分の力のみを信じると言い放つ。そして、害地目のすべてを注ぎこんだ蛮機獣・ハンマーバンキを作り出した。

 その頃、須塔兄妹の別荘は凄まじい地響きに襲われ、美羽は料理の途中を邪魔される。大翔は焦げ付いた「パワーソウル」を手に、「不完全だったか...」と呟いた。地響きの原因は大翔にあるらしい。ジャン・ボエールと大翔は何かの実用化に向けて実験を繰り返していたのだ。だが、その試みは何度も失敗していた。動かしたが最後、制御不能。しかも、形も不完全ときている。大翔は「危険すぎる」としてしばらく実験を中止することにした。

 一方、早輝は朝から並んで買った「スクレ」の1日20個限定・烏骨鶏ハイパークリームプリンを大事そうに眺めていた。それを食べようと開けた瞬間、ボンパーはガイアーク反応を伝える。街では、ハンマーバンキが高層ビルを次々と倒壊させていた。一瞬にして瓦礫と化す建造物。やがて街一つが砂漠と化して消滅してしまった。驚く走輔達の前にヨゴシュタインとハンマーバンキが現れ、人間の世界の徹底的な破壊を宣言する。「ヨゴシュタインの雰囲気が違う」と困惑する早輝。ゴーオンジャー5人と到着したゴーオンウイングスはハンマーバンキに挑むが、絶大な戦闘力に翻弄される。そして大翔が絶体絶命の危機に陥った時、美羽が身を呈して庇った。メットが外れ、倒れこむ美羽を、ハンマーバンキは容赦なく痛めつけていく。ヨゴシュタインに捕らわれた大翔は、次第に意識を失っていく美羽の姿に絶叫する。いよいよ最後の一撃が加えられんとしたその時、走輔達が態勢を立て直して反撃を開始。ハンマーバンキはオーバーヒートによって動きが鈍くなり、ヨゴシュタインはひとまず退却した。美羽は間一髪助かったのだが...。

 ヘルガイユ宮殿に戻って来たヨゴシュタインは、キタネイダスの「あんな戦い方ではオーバーヒートするのも当然ゾヨ」という助言に耳を貸すこともなく、すぐさまハンマーバンキの修理を始めた。困惑するケガレシアとキタネイダス。ヨゴシュタインは作戦など立てることなく、力のみでゴーオンジャーを叩き潰すとして、再び出撃して行った。

 美羽の容体は予断を許さない状態が続く。大翔は「たとえ未完成でも...」と呟き、美羽の傍に付いていてやることもなく、走輔を突き飛ばして飛び出していった。その拍子に早輝のプリンはダメになってしまう。その表情はあまりにも険しく、走輔達は呆然となる。

 大翔は一人、崖の上の巨岩を撃ち落としては下でそれを受け止めるという不可解な特訓を行っていた。その特訓を見た連は、ハンマーバンキの攻撃に耐える為だと推測する。だが、大翔の目的はそうではなかった。大翔はハンマーバンキに対抗する為の新たな力を手に入れると答えたものの、それ以上を語ろうとしない。走輔は強引に美羽の元へ連れ帰ろうとするが、みぞおちにパンチを入れられてしまった。連は大翔に「一番大切なことを忘れている」と辛辣な言葉を投げかける。だが、大翔は耳を貸さずに特訓を再開した。ギンジロー号に帰って来た走輔達が大翔の行動についてあれこれと話し出すと、美羽が目を覚まし「アニにゴローダーGTを使わせないで!」と言い出す。突如ジャン・ボエールのソウルも現れ、走輔達はゴローダーGTがジャン・ボエールの作りだした新兵器であることを知らされる。そして大翔の特訓は、未完成のパワーソウルで暴走するゴローダーGTを制御する為のものだという。自らの身体を犠牲にしてゴローダーGT を止めるつもりなのだ。走輔達は大翔の思惑を阻止すべく出動し、連は残ってパワーソウルの調整に協力することとなった。

 だが、逸早く気配を感じた大翔は先んじてハンマーバンキの元へやって来た。「1人で戦う気持ちが分かる」と言って大翔を同一視するヨゴシュタインに対し、怒りを燃やす大翔はゴローダーGTを機動させる。ゴローダーGTのホイールモードでハンマーバンキを吹き飛ばすことには成功したが、やはり暴走を免れることはできなかった。大翔はゴーオンゴールドに変身し、暴走するゴローダーGTを受け止める。だが、ゴローダーGTの暴走を止めることはできず、街を蹂躙していく。大翔が半ば諦めかけたその時、ゴローダーGTの動きが止まった。走輔達が力を合わせて止めていたのだ。大翔はゴローダーGTの動きが止まっている隙に側面より体当たりを喰らわせて機能を停止させる。そして、大翔は忘れていた「大切な事」を思い出した。

 一方で、ヨゴシュタインもハンマーバンキの暴走を止められなくなっていた。命令を無視して巨大化するハンマーバンキは、ゴーオンジャーはおろかヨゴシュタインをも潰そうとその鉄鎚を振るう。そこにバスオンとジェットラスを駆る連と、動けるまでに回復した美羽が合流。エンジンオーG9を完成させて迎撃を開始した。連は改良を終えたパワーソウルである「トーコンソウル」を取り出し、大翔に託す。大翔は「武器が力になるわけじゃない。人と炎神、仲間との絆こそが、本当の力にとなるということを」忘れていたと詫びた。今こそゴローダーGTに人と炎神の魂を注ぎ込む時だ。

 トーコンソウルをセットされたゴローダーGTは、アクションモードに変形。動きの鈍いハンマーバンキを素早い動きで翻弄し、戦闘意欲を奪ってしまった。戦況の優位に立ったゴーオンジャーは、ゴローダーGTをホイールモードに変形させてハンマーバンキにぶつけ、これを粉砕した。

 ハンマーバンキの敗北を見て意気消沈するヨゴシュタインに、ケガレシアとキタネイダスが再度の協力体制を申し入れる。自分を許してくれた二大臣の手を取り、ヨゴシュタインは歓喜にむせび泣くのだった。

 大翔と美羽は迷惑をかけたお詫びとして、走輔達を食事に招待した。早輝の為に、大翔自ら並んで買ったというスクレのプリンも用意された。大翔はゴローダーGTを走輔達に預けたいと申し出るが、素直じゃない彼は、自分の特訓に耐えたらという条件付きとするのだった...。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 ガンパード!

監督・脚本
監督
竹本昇
脚本
會川昇
解説

 初の大翔単独メイン編。ゴローダーGT登場編も兼ねる一編である。「ゴーオンジャー」中盤はメンバー一人一人にスポットを当てるエピソードが目白押しとなっており、それぞれが異色作としても成立するバラエティ豊かな粒揃いの作品群であるが、今回の大翔編も「ゴーオンジャー」的に異色な空気感を放っていて興味深いものとなっている。

 今回最大のポイントは、正義側のチームワークや人間の力の素晴らしさを見せると同時に、悪側もチームワークの大切さにも気付くという点だ。新兵器の持つ絶大な威力が必ずしも勝利には繋がらないという、このテのドラマにおける普遍的なテーマを、大翔というストイックなキャラクターを通すことで、硬質感に富む雰囲気で描き出す一方、ヒラメキメデスの喪失感を破壊衝動で霧散させんとするヨゴシュタインが、ケガレシアとキタネイダスの友愛(?)によってその遺恨を浄化されるという、可笑しくもホロリとさせる展開が用意されたのである。大翔にしても、ヨゴシュタインにしても、この一編で仲間の大切さに改めて気付かされたという構図だ。気付けば、正義側も悪側も等価なテーマ性を与えられている。

 だが、本エピソードの真の驚きは、そこにあるわけではない。本エピソードは全体でみれば「ゴーオンジャー」の一部であるが、冒頭からリアルタイムで視聴すれば、ある特徴に気付くだろう。それは、シリアスなヒーロードラマを「ゴーオンジャー」にどう引き寄せるか、という実験的なテーマだ。

 まず、ガイアーク側より動きを追ってみる。ヨゴシュタインはここ数話において殆ど出番を与えられておらず、それがヒラメキメデスの喪失感の深さを物語っていたのだが、帰還してすぐに、これまでのガイアークの「仲良しな」雰囲気を文字通り破壊するハンマーバンキを作り出し、その喪失感が癒えていないことを表現する。それだけでも悪側の感情を充分に描き出していて衝撃的だが、その後に繰り返されるケガレシアとキタネイダスの心配そうな様子が、いつものようなコメディ調でないことによって妙な緊張感を増幅させている。ハンマーバンキも「セコいギャグは不要」とされ、破壊衝動にとり憑かれた純粋な恐怖の対象として存在し、破壊の描写も今までになく凄まじいものとなっている。ハンマーによる地響きで次々と倒壊する高層建造物、後に残った砂塵吹き荒ぶ荒野、有り得ない程痛めつけられる美羽、それぞれが「面白い蛮機獣」とは一線を画しているのだ。この殺伐とした演出により、本エピソードはグッとシリアスな様相を呈し始める。

 ヨゴシュタインの変容は、オチを知らなければ視聴者にとって妙な危機感を抱かせるものとして映ったであろう。ガイアークにおける「仲良し三人組」の雰囲気を支持する派は多数を占めていると推測されるが、それは「ゴーオンジャー」というシリーズの陽性の雰囲気作りに必要不可欠なものだからだ。実際、三大臣が悪の権化たる要素しか持ち合わせていなかったとすれば、成立しなかったエピソードも数多く存在すると思われ、何しろ蛮機獣のお笑い路線は生まれなかった。そのこと自体に対する評価はともかく、既にその雰囲気を破壊することは作品そのものを破壊してしまうことになると言っても過言ではない。今回ヨゴシュタインが見せた態度は、その「破壊」を体現しており、蛮機獣からもギャグを奪い、文字通り「破壊」に徹するという「単純な悪役」への変質を思わせ、ヒラメキメデスに見せた慈悲深さ等、ヨゴシュタイン、ひいてはガイアークの奥の深さを霧消させてしまう危険性を帯びていた。だが、番組の「良心」はその路線への変容を拒否したのだ。

 ヨゴシュタインとハンマーバンキに対する大翔の反応も、正義のヒーローらしからぬ方法論にて描写される。冒頭、ゴローダーGTの実験の失敗と美羽の料理の失敗がコミカルに描かれるシーンは、「ゴーオンジャー」らしいシーンであるが、そのゴローダーGTが暴走する新兵器であると暴露されるや、一転してシリアスになっていく。ハンマーバンキに対抗するには、暴走前提でゴローダーGTを使うしかないという短絡的な結論に至る大翔は、明らかに美羽の負傷にショックを受けており、心中の殆どが美羽の復讐であろうと思わせる表情を、常に見せるのである。また、ゴローダーGTがもたらす「破壊」を止める為に、自らを犠牲とするような、これまた短絡的な方法論に行き着いている。これら大翔の心情描写は実に殺伐としているのだ。

 大翔は元々「ゴーオンジャー」の中にあって異質な存在だ(「だった」と言う方が適当かも知れないが)。登場当初は徹底的に走輔達ゴーオンジャーを見下す存在であり、仲間になってからも貴重な批判者としてのポジションを獲得している。つまり、大翔をクローズアップすることで「ゴーオンジャー」は本来の面白可笑しい雰囲気のベクトルを曲げられてしまう危険性があるのだ。今回は試しにそれをやってしまっているという感覚が感じられる。大翔の、とても正義感に突き動かされているとは思えない様は、私怨に突き動かされ苦悩するヒーロー像という、「ゴーオンジャー」ではおよそ見られないスタイルであり、70年代から80年代にかけて散見された骨太な特撮TVドラマの主人公に似る。スーパー戦隊シリーズが最も避けてきたヒーロー像でもあり、現代でも例外こそあれ、スーパー戦隊シリーズと平成仮面ライダーシリーズを隔てる壁として機能している。

 本話においては、大翔とゴローダーGT、そしてヨゴシュタインとハンマーバンキが互いにシンメトリーであることが分かる。ゴローダーGTとハンマーバンキは同種である上に同じパワーを有した存在として描かれ、それぞれを使う大翔とヨゴシュタインも、その「パワー」を制御できないという立場に立たされる。両者の差を決定付けたのは、仲間の必要性に気付くまでの時間だ。完成作品から分かるように、大翔は走輔達が力をあわせてゴローダーGTを止める姿を見て、仲間の大切さに気付く。一方のヨゴシュタインは、オーバーヒートするまで酷使されたハンマーバンキを心配するケガレシアとキタネイダスを一蹴してしまう。極論すれば、このタイミングの違いだけが、勝者と敗者を分けたと言えよう。しかも、この場合「正義は必ず勝つ」とは軽々しく言えないシチュエーションにある。それはガイアーク側も本来チームワークの良さを美点(ガイアーク流に言えば汚点か)としているからだ。タイミングの違いは、単にヨゴシュタインの意地がハンマーバンキの敗れる姿を見ることでしか瓦解しない性質だったからに他ならない。登場当初の大翔ならば、ヨゴシュタインに匹敵するほどの頑なさだったろうと想像でき、その意味で、ゴーオンジャーの持つ「心」に感化されて態度を軟化させた大翔に軍配が上がったという結果は、非常に感慨深いものである。

 そして、ラストに至り、急激に「ゴーオンジャー」の日常に戻っていく。

 前半で大翔が落としてダメにしてしまった、早輝の「高級なプリン」を、大翔はお詫びとばかりに沢山振舞う。大翔と美羽の住む別荘では、走輔達のいつものような食事風景が見られ、そこには美羽が重傷の床に伏せっていたという事実が断片すら感じられない。しかも、その後は大翔と共にジョギングまでしている。ゴーオンウイングスのスーツが頑丈だからといったエクスキューズはもはや意味を成さず、「ゴーオンジャー」の日常にそういった悲壮感は必要ないということなのだろう。そして、ガイアーク側にも日常が訪れる。一人暴走したヨゴシュタインを、ケガレシアとキタネイダスが「温かく」迎えるのだ。失礼ながら正義側よりも悪側に軍配を挙げたくなる名シーンであり、三大臣の「絆」の深さは大翔が語るところの「絆」に比べてずっと深い印象すらある。図らずも、古き良き悪の組織が見せた「美しい忠誠心」の典型を、三大臣の中に見出すこととなったのである。それは同格な者達が織り成す「友情」へと形を変え、我々に迫ってきたのだ。特撮TVドラマの宿命として、悪の組織は何らかの滅びを迎えなければならない運命にあるのだが、もしかしたら、「恐竜戦隊ジュウレンジャー」や「轟轟戦隊ボウケンジャー」のような、楽観的な結末が待っているのかも知れない。

 結局、シリアスな物語を「ゴーオンジャー」に引き寄せるという実験の結果は、シリアスな描写に針を振りつつも、その揺り戻しによっていつもの「ゴーオンジャー」に戻ってくるという構図となって示された。つまり、この実験は「ゴーオンジャー」というシリーズが持つ雰囲気を軸にしつつも振り幅は大きくとっておくという、安定路線の地平を広げるという結果を導き出したことになる。

 その構図を最も体現したのは、実は大翔である。冒頭、美羽に「あ~ん」されるというシーンは、「ゴーオンジャー」の日常に既に迎合した結果であり、例え普段からあのように仲の良い兄妹だったとしても、大翔の登場当初には有り得なかったシーンだ。エピローグで笑顔を浮かべつつジョギングしたり、急に止まっておどけて見せたりと、お茶目な面を見せるのも同様である。それだけに、「仮面ライダーカブト」の矢車を彷彿させる中盤の表情とのコントラストが抜群に効いており、今回の振り幅の広さをより分かりやすく示したのだ。

 最後に、新兵器であるゴローダーGTについて言及しておきたい。

 ゴローダーGTは、スピード重視の中型ロボ、未完成ならば暴走する兵器、新ガジェット、追加メンバーの代替、自律型ロボットと、実に様々な側面を具有する。つまり、ゴローダーGTはスーパー戦隊シリーズで試みられてきた数々の実験的キャラクターの集大成であり、更にはマーチャンダイジング主義批判の格好の材料とされてきたキャラクター群の正統後継者でもある。それ故、炎神達で構成されてきた数々の巨大ロボット群に、異質なものとして混じることとなったゴローダーGTには、数々の批判があるのもやむなしといったところだろう。しかしながら、ゴローダーGTには強みもある。一つは、過去のスーパー戦隊シリーズに対するオマージュと受け止められる要素を多分に持つこと。これは前述のような実験的キャラクターの集大成であることと無縁ではない。もう一つは、炎神ソウル等をセットして起動させるという、「ゴーオンジャー」世界における共通項に支配されていること。無論これは前述のマーチャンダイジング主導と無縁ではないが、戦略の巧さにより、全体的な統一感をこれまでになく保っている。この二つの強みにより、これまで「世界観にそぐわない」「付け足し感が強い」と揶揄されてきた(中には手放しで歓迎されるような例外もあるが)この種のキャラクターに、光を投げかけることが出来るのではと期待される。

 ゴローダーGTの描写は、さすがにCGでの描写が精錬されてきたこともあって、バンクシーンとは別に自然な変形シーンも用意されており、完成度が高い。また、巨大化アクションモード時のアクションは、ボーイ系中型ロボットのスピーディなアクションの後継にあたり、さらに高層ビルを垂直に駆け上がる等の発展描写も見られる。ここでもカット割りの巧さが存分に発揮されており、素直にカッコいいと思えるロボットアクションを展開していた。エンジンオーG9のように重量過多にシフトしていくメインロボットをよそに、縦横無尽に動き回る様子はなかなかの爽快感だ。