GP-32「秘宝ヲサガセ」

 新たな害地目蛮機獣ドリルバンキが誕生した。腕試しを買って出たキタネイダスを瞬時に追い詰めてみせる程の実力を持つドリルバンキに、ヨゴシュタインは使命を授ける。それはまず、ある人間から地図を奪い取ることであった。ドリルバンキは張り切って出撃して行く。

 その反応をキャッチしたゴーオンジャーは、山の奥へと入って行った。そこに現れたのはガイアークではなく、「山に入るな」と警告するヒロシとミユキの兄妹だった。幼い兄妹を家まで送った走輔達は、その家を見て驚く。ヒロシとミユキは、さつまいもをご飯と称して頬張り、窮屈なあばら家で自給自足の生活を営む父と暮らしていたのだ。範人はふと、何かの地図を見つける。父の黒岩六郎は、途端に目の色を変えてその地図を奪い返すと、走輔達を家から追い出してしまった。幼い子供には酷に見える暮らしの理由は、あの地図は何か、そしてヒロシとミユキが山に入るのを邪魔しようとしたのは何故なのか。走輔達の疑問は募る。

 連と早輝、軍平は、食料調達の為に川釣りをするヒロシとミユキに、何故山奥に住んでいるのかを尋ねる。兄妹の話によれば、ある宝を探すために、半年前に東京から父と共に山へとやって来たという。連は現実から目をそらした行為だと呟く。だが、二人の兄妹は父の夢を全面的に信望していた。六郎は妻も会社も失い、望みを宝に賭けているという。そんな六郎の頑張る姿が、子供達は好きなのである。

 走輔と範人は宝探しに興味を持ち、六郎に協力を申し出る。六郎は分け前目当てだろうと勘繰るが、走輔と範人はただ面白そうだという興味を抱いただけだった。六郎はとりあえず走輔達を信用し、この地方に伝わる伝説を話し始める。伝説によると、この山の地底に「黄金の龍」が眠っているという。六郎はそれを黄金で出来た宝だと睨んだのだ。

 一方、ヨゴシュタインがドリルバンキに奪わせんと画策する地図は、6500万年前、ヒューマンワールドの前身であるダイナワールドに跋扈する恐竜たちを滅ぼした、伝説の蛮機族ホロンデルタールが眠る地を示したものだという。ホロンデルタールを蘇らせ、恐竜たちの如くヒューマンワールドから人間を一掃するのがヨゴシュタインの狙いだ。

 走輔達が発掘現場の洞窟にやってくると、そこにドリルバンキは先回りしていた。すぐさま変身して立ち向かう走輔と範人だったが、あらゆる技が弾き返され、ドリルバンキの一撃をくらうことに。そして六郎は殴り飛ばされて負傷し、地図を奪われてしまった。ドリルバンキの狙っていた地図とは、六郎の持つ地図だったのだ。そこに気配を察知した大翔と美羽が合流するが、地図を手に入れたドリルバンキは既に洞窟を掘り進んでしまっていた。

 脳震盪で倒れた六郎は、気がつくや否や、ヒロシとミユキに「黄金の龍」を見つけ出すことが出来なくなってしまったと詫びる。六郎の深い悔恨の念を感じ取った走輔は、ドリルバンキから宝の地図を奪回し、「黄金の龍」を見つけ出すことを約束。六郎から、洞窟の近くに江戸時代に掘られた古い入口があることを聞いた走輔達は、早速宝探しに出発するのだった。

 ドリルバンキが地底空洞に辿り着いた直後、ゴーオンジャーとゴーオンウイングスもその地底空洞に到達した。対峙する両者。スーパーハイウェイバスターとウイングブースターの同時攻撃で一気に片を付けようとするゴーオンジャー&ゴーオンウイングスだったが、ドリルバンキは簡単に弾いてしまい、その衝撃で岩盤が崩壊する。その奥からは、黄金色に輝く龍の像が。伝説は本当だったのだ。ドリルバンキはすぐさま巨大化してゴーオンジャー&ゴーオンウイングスの殲滅を図る。ゴーオンジャー&ゴーオンウイングスもエンジンオーG9を完成させ、ゴローダーGTを擁して迎撃するが、ドリルバンキの強さは並ではない。その時、「黄金の龍」が目覚め、両者の戦いを妨害した。炎神らしきエンブレムを持つ「黄金の龍」は、スピードルに酷い傷を負わせてなおも虚空を疾走。ガイアークはそれを見てホロンデルタールの復活だと喜ぶ。ところが、「黄金の龍」は咆哮を上げつつドリルバンキに体当たりした。戦意を喪失したドリルバンキは一時退散する。

 その「黄金の龍」が飛び去る様を、黒岩親子も見ていた。夢をかなえたと大喜びするヒロシとミユキ。戻って来た走輔は、黄金の龍を逃がしてしまったと詫びる。だが、六郎の腹は決まっていた。黄金の宝の夢は消えたが、本当の宝である子供達と一緒に、東京に戻って一から出直すことにしたのだ。

 果たして「黄金の龍」は炎神なのだろうか。それとも...?


※文中の黒岩兄妹は、当サイトのシステムの関係でカタカナ表記とさせて頂きました。ヒロシの本来の表記は「大」、ミユキの本来の表記は「幸」です。

今回のアイキャッチ・レースのGRAND PRIX

 スピードル!

監督・脚本
監督
渡辺勝也
脚本
武上純希
解説

 新展開に向けての序章的なエピソード。予告編では新炎神の一大登場編に見えるが、実際はその正体を次回へ引っ張っており、前回のG3プリンセスの「お祭り」に酔ったまま見ると、非常に地味に感じてしまうので注意。とは言え普段の「ゴーオンジャー」としてはちょっと路線を異にした、正統派の東映ヒーロー的雰囲気を湛える回として温かい印象を残している。

 その温かい印象の中心にあるのは、勿論黒岩六郎を演じた志水正義氏。ベテランならではの心情描写が光り、今回の主役は彼だと言っても過言ではない。頑固者な雰囲気を漂わせつつ、子供への愛情の深さが強く感じられる見事なキャラクター設計が為されており、「ゴーオンジャー」においては冨士東次郎に続く「大人」のキャラクターだ。ヒロシ、ミユキといった子供達の明るさも素晴らしく、ある意味道楽稼業の父親を一点の曇りもなく信じている様子が、一片の懸念すら感じさせないのは、ストーリーの進行上有効に機能している。

 物語の骨子は、ガイアークが伝説の蛮機族「ホロンデルタール」を探すという行為と、六郎が「黄金の龍」を探すという行為とがクロスして、新しい炎神(物語上、炎神であると確認されたわけではないが、どう見ても炎神なので、ここでは新炎神とさせていただく)の顔見世に繋がるというものである。プロットとしては非常にシンプルだ。六郎が普通の生活に戻っていくという印象深いくだりは、実は物語とはあまり関係なく、これからも宝を探し続けると結んでも、完成作品のように結んでも物語としての落とし処は全く揺らがない。ただ、このエピローグがあることで、六郎から「憑きモノが落ちた」感覚はあり、逆に新炎神達を少しばかり神秘的な存在に押し上げることに成功したようだ。

 最近にしては珍しくゴーオンジャーも二派に意見が分かれている。走輔と範人はその性格から六郎を全面的に応援する姿勢をとり、連、早輝、軍平は子供の生活状態から六郎の行動に批判的なのだ。結果として、ヒロシとミユキは父である六郎から注がれる愛情を充分に感じ取っており、連達3人の批判は的外れとされたが、本当は連達の反応こそがリアルだと言える。ただし、それよりも走輔の感性が優先されることこそ「ゴーオンジャー」であり、ターニングポイントでは必ず走輔の感性でコーナリングを果たしているのを忘れてはならない。チームのリーダーであるかと言えば、それは否だが、物語を常にリードする「レッド」であるかと言えば、走輔は紛れもなく「レッド」なのである。ゴーオンジャーの中でも物語の上でも決して特別ではないが、要所要所でさりげなく物語の舵取り役をとるという、珍しいタイプのレッドだと言えるだろう。

 さて、このエピソードをどのような側面で捉えると良いのかと、しばらく悩んでしまったが、それ程オーソドックスで地味なエピソードだったということか。殆どの笑いの要素がドリルバンキに集約されてしまい(しかも言っていることがいちいちレトロ)、正義側のギャグといえば、美羽が一番細いのは自分だと胸を張り、大翔がボケるというシーンくらいしか印象がない。かと言って、つまらないかと問われればそういうわけでもない。冒頭に述べたように、前回のG3プリンセスのインパクトがあまりにも強すぎ、今回が新炎神の登場という重要な要素を擁するにも関わらず、地味な印象を抱かせるのだろう。ということで、今回は重要なファクターであるその新炎神を中心に捉えてみることにする。

 まず、ヨゴシュタインが重要な歴史について言及している。ヒューマンワールドはかつてダイナワールドと呼ばれ、恐竜が支配する世界であったが、6500万年前にホロンデルタールが現れてこれを滅ぼしたという(要するに「滅んでるタール」)。「~ワールド」が状態によって名を変遷させるというトピックにまず驚かされるが、なるほど、確かに「~ワールド」はその世界を支配しているものを名に据えていることに気付く。恐竜滅亡については諸説あり、色々な設定を持ち込む隙がある為、諸々の物語が好んで世界観の構築に役立ててきた。今回も、蛮機獣を絡ませることで、蛮機族の歴史の古さとヒューマンワールドの黎明を描き、そして新炎神に古代の匂いを纏わせている。6500万年前という一点に、これらの要素を集約させているところなどはなかなか小気味良い。

 続いて、新炎神を今回画面に登場した部分から検証してみたい。私自身、新炎神が何であるかを既にネタバレとして承知しているが、努めて白紙の状態で言及していこうと思う。

 新炎神は、マンモスと恐竜がモチーフになっているものと思われる。つまり、ダイナワールドだった時代を強く意識している。マンモスが6500万年前に存在したかというツッコミは、この際無いものとしておこう。6500万年前の世界は恐竜とマンモスが同居するダイナワールドだったのだから。「恐竜戦隊ジュウレンジャー」のように、マンモスやサーベルタイガーが1億数千万年前に存在したという設定も許容されるのは、スーパー戦隊シリーズの「良い所」だ。さらに、汽車と客車がイメージされていることも分かる。この連結状態を「黄金の龍」に形容するあたりのセンスが素晴らしく、当初「黄金の龍」というキーワードが出てきた時点では、この新炎神の連結状態を指すものとは、私など全く想像できなかった。果たして画面に登場した、黄金の粒子を発しつつ虚空の軌道を疾走する新炎神は、ちゃんと「黄金の龍」になっていた。私が特撮TVドラマやTVアニメにて常々気になっていることに「形容の相違」がある。例えば、あまり白くないのに「白いモビルスーツ」と称したり、あまり銀色の占める割合が多くないのに「銀色の巨人」と称したりするアレである。ここに挙げた例は、そのオリジンがそれぞれ紛れも無く「白いモビルスーツ」であり、紛れも無く「銀色の巨人」であった為のオマージュ的手法を採ったが故の措置であるが、私はどうにも冷めてしまうのだ。勿論、そこに目をつぶることで、常々それぞれの作品を心底楽しめているのだが。それはとりあえずとして、今回は、それがマンモス汽車の牽引する列車であっても、ちゃんと黄金の龍に見えるようビジュアライズされているのが素晴らしい。その疾走描写は「仮面ライダー電王」のデンライナー等の各列車群の描写によく似ており、それらの経験が最大限に生かされているものと思われる。進行方向に一時的な軌道を生成しつつ疾走するというイメージは秀逸で、汽笛のサウンドエフェクトと相俟って「電王」の近未来的イメージと大きく印象を異にしている。

 「黄金の龍」でない状態もチラッと登場する。象ではなくマンモスと分かる面構えを捉えたフロントのショットにより、それが古代からの存在であることを強く印象付ける。また、炎神のエンブレムを見せることで劇中人物にも炎神だと認識させるあたり、小道具の使い道として実に気が利いている。その上、数字をデザイン化した炎神固有のマーキングをスポット的に映すことで、視聴者にも新しくナンバリングされた炎神だと認識させている。「黄金の龍」「ホロンデルタール」といった別称が登場しつつも、しっかり炎神だと分からせる演出には、「謎」をストーリーの牽引力としない、ある種の余裕が感じられて面白い。ちなみにこのナンバリング、設定的な誕生順等は一切関係なく、単に劇中の登場順に付番されている。要するに、これは炎神にとって数字ではないということになる。実に蛇足的なことではあるが。

 最後に、一応「ゴーオンジャー」らしくギャグ面について言及を。

  G3プリンセス編によってかなり解体されてしまった大翔が、今回もインパクトをバッチリ残してくれた。洞穴で先行する人間は細い方がいいだろうという話になり、まず連が立候補し、続いて美羽が立候補するというくだりにおいてである。美羽は自分が一番細いと自信たっぷりに言ってのけるが、このシーンはちょっと意地悪な感触である。多くは語らないが(いや勿論、バランス的に充分過ぎるほど細いと思いますけどね)、私としては(というより多くの視聴者諸氏が)早輝の方を推薦するのではないかと思うのである(笑)。大翔のツッコミボケも絶妙のタイミングで発せられ、美羽は完全に「犠牲者」となってしまった...。その後、頭を撫でて誘導する大翔は実に可愛らしい。

 ドリルバンキは、「ドリ」が付く言葉を連発するというギャグを披露。そのギャグの数々は、ちょっと子供では理解できないものが多数であった。例えば、「よりドリみどり、うつみ宮土理は、キンキンの奥さんドリ~」「かしこまドリ姉妹~」「先ドリ!丸ドリ!ドリー・ファンク!」といったネタ。「うつみ宮土理は、キンキンの奥さん」とは、キンキンこと愛川欽也氏の奥さんがうつみ宮土理氏であることを言っている。こまどり姉妹は昭和の歌謡界に君臨した双子デュオ、ドリー・ファンクはアメリカの著名なプロレスラーである。あまりに「ドリドリ」を連発する為、日頃「ドルドル」を連発しているスピードルが「こいつ、喋り方が被っていて気に入らん!」と言うのも可笑しすぎる。

 そのドリルバンキ、珍しく逃げ延びて次回にも登場することとなった。特に前後編という雰囲気ではないにも関わらずに、だ。ドリルバンキは非常に強力な蛮機獣として描かれ、ケガレシアをして「自分探しの旅から帰ってきたヨゴシュタインの作る蛮機獣は一味違う」と言わしめた。それなりに強敵として据えることにより、新炎神の活躍を際立たせる目的があるものと思われる。六郎の件が一件落着した為か、次回への引きとしては弱くなってしまったが、逆に新炎神がスピードルにも襲い掛かったという行動の謎を、メインの引きとする狙いもあったのだろう。


※文中の黒岩兄妹は、当サイトのシステムの関係でカタカナ表記とさせて頂きました。ヒロシの本来の表記は「大」、ミユキの本来の表記は「幸」です。