#12 教義の果てに

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 出ました。政治色が濃いお話。

 しかし、セリフで説明される要素が殆どで、ビジュアルでは状況が伝わり難いという欠点が、かなり露見してしまいましたな。


 ちょっと流れを整理してみます。


 まず、アザディスタン共和国の成り立ちがようやく明確に。


 この時代の中東は、太陽光発電システムの建設計画により、国連が大幅な石油輸出制限を採択。中東諸国が反発して武力を行使するが徐々に疲弊、世界から見放されたという設定。なお、この20年続いた武力紛争を「太陽光発電紛争」と呼びます。


 「カスピ海とペルシャ湾に挟まれた」というと、アザディスタンはどうもイラン辺りを意識しているようです。

 内政の悪化した隣国・クルジス共和国を6年前に吸収、新興国家として王政を復活させましたが、国教の解釈の違いにより、大きく二つの教派に分かれ、国政は不安定な状態が続いているとのこと。

 刹那の故郷であるクルジスは、アザディスタンではあるが、その精神的なアイデンティティは異なるものであるということが分かります。


 アザディスタンの国家元首(ただし象徴的存在という解釈でぼかされている)マリナが、エネルギー問題を解決すべく、国連に働きかけて太陽光発電システム導入の技術支援を取り付けたのは、先日のこと。

 宗教的な色の濃いアザディスタンにおいて、異教徒であるユニオンの技術者を迎え入れてまで国政を何とかしようとするマリナは、いわゆる「改革派」の代表と見られています。


 対して、変化をよしとしない勢力が当然のように存在し、それらは「保守派」と呼ばれます。

 保守派の思想を受け止める存在としての、宗教的指導者がマスード・ラフマディー(ラサー)。

 このラフマディーは、改革派のマリナが即位することで保守派がくすぶり、紛争の火種になることを予見して、あえて自らマリナと対極の立場に立つことを選択した「聖者」です。


 このラフマディーが、武装勢力によって拉致されるところから、今回の話が始まります。

 この武装勢力は劇中で「超保守派」だろうとされています。

 何故なら、超保守派がラフマディー拉致を口実に、太陽光発電アンテナの建設現場を急襲するからです。

 この急襲は、アンテナ警備で配置されたモビルスーツ隊に紛れ込んでいるということからも、事前の綿密な計画が必要なものであり、ラフマディー拉致を予測していなければ、クーデターに繋げられるほどの民衆の同意を得られないのです。


 ユニオンはこの情勢を鑑みて、すぐに軍事支援を申し入れます。

 勿論、国連の思惑もあるのですが、超兵問題で世論がくすぶっている人革連を引き離すチャンスだからです。しかも、きな臭い場所には必ずソレスタルビーイングがやって来ると予想されるので、わざわざ「対ガンダム調査隊」を派遣しています。国際的評価を上げようと躍起になっていますね。


 そして「超保守派」に口添えをしたと思われるのがサーシェス。軍事需要を掘り起こすべく、この一連の動きを画策したと考えても、あながち外れではないでしょう。


 保守派は議会をボイコット、改革派はユニオンの軍事支援を受け入れ、超保守派は蜂起。

 これで一気に軍事需要が高まるはずでしたが、サーシェスがガンダムを仕留められなかった上、グラハムが介入してきたという誤算もあってか、ソレスタルビーイングが半歩先を行ってクーデターが沈静化する状況となります。


 …と、ここまでが今回のストーリー。



 ここに、国家元首としてはあまりに懐柔主義者のマリナと、それを叱咤しまくるシーリンのシーンをプラス。これは、ヒロインをトラジックに描こうとする意図を感じさせます。

 さらに、ルイスの母と沙慈の漫才をプラス。一見ムダなシーンですが「平和ボケした日本」という痛烈な皮肉が、若干クサいレベルで描かれているとみるのが妥当でしょう。何しろ、沙慈はバス爆破テロに遭遇したときに、他人事じゃないと感じているにも関わらず、ですからね。



 そして今回のメインは、あえて言わせてもらおう。グラハム・エーカーであると!


 久々に登場場面の多いグラハム。

 またガンダムの実力を見せつけられ、苦汁をなめるのかと思いきや、なかなかのご活躍。

 カスタム・フラッグもやっとライバル機の中の一つとしての実力を見せ始め、魅せてくれます。

 しかも、「やってくれました」なセリフのオンパレード!


 グラハム、アクロバティックに急襲し、

「人呼んで、グラハム・スペシャル!」


 ロックオン、射撃を外し驚いて、

「なんだ? このパイロット!?」


 グラハム、強烈なGに垂涎しつつ笑みを浮かべ、独り言なのにロックオンに答えるように、

「あえて言わせてもらおう! グラハム・エーカーであると!」


 ロックオン、フラッグに押されてビームサーベルを抜き、

「オレに剣を使わせるとは!」


 グラハム、ビームサーベルを受け止めて、

「身持ちが固いな! ガンダム!」


 ロックオン、執拗に攻撃してくるフラッグに対し、

「このしつこさ尋常じゃないぞ!」


 いやぁ、堪能しました。

 ロックオンは「なんだこの人」「意外に強いぞ」「しかもしつこい」という感想をストレートに表現してますが、グラハムは相変わらずポエティック。相手に聞こえていないのに、言い回しのクドさは一流です。実に素晴らしい。


 そして、クーデター勃発の緊急通信を受け、

「口惜しさは残るが、私とて人の子だ!」


と見事に締めてくれました。ガンダムに執着する変人ではなく、ちゃんと常識人な面も持っているところがいいですね。


 グラハムの電波が飛び火したのか、サーシェスも


「ところが、ぎっちょん!」


なんていう珍妙なセリフを発しています。すぐに野原ヒロシさんが脳裏をかすめました。



 やっと刹那メイン回が訪れた感のある今回。

 アザディスタンの民に白い目で見られているところをみると、クルジスとアザディスタンでは身体的特徴が異なるようです。

 分かりやすいところでは、クルジス人は瞳が橙でアザディスタン人は瞳が青というところ。同じ教義でありながら、クルジスとアザディスタンは派閥が異なるようで、互いの地に踏み入ることを忌んでいます。



 クライマックスはエクシアの活躍ですが、少年時の体験と戦場が重なるという、少々鬱な展開に。

 武器を取る少年達の危機に自分の過去を重ね、さらにはOガンダムと自分を重ねるが、結局少年達は絶命してしまいます。


「俺は、ガンダムになれない」


という名言を刹那は残していますが、これはOガンダムが少年であった自分を救ったように、刹那がエクシアで少年達を救えなかったことに対する悔恨ですね。

 刹那が目指すのは、あの時神にも等しく見えた「Oガンダム」になること、のようです。



 そういえば、今回はアレルヤとティエリアがクレジットにすら登場しませんでしたな。