ブレイブ32「ビクトリー!スポーツしょうぶだ」

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 「ビクトリー獣電池」登場編。同時にスポーツパロディ編、秘石探索編を兼ねるというゴージャス構成。

 一旦ピンチに陥って、それを克服するという、文字通り「スポ根」な展開は王道中の王道を示していますが、クライマックスで正々堂々と勝負をするのではなく、異種球技戦の様相を呈する等、笑いを誘うヒネリもあって満足度が高い。ビクトリー獣電池の特性から逆算して、5人による競技であるバスケとフットサルを選択し、空蝉丸をとりあえずメンバーから除外する段取りの良さも光ります。

 バスケとあって、バスケの世界では聖典漫画扱いされて久しい「スラムダンク」のネタが盛り込まれているのも特徴。アニメ版で主演を努めた草尾毅さんが、デーボ・スポコーンの声を担当する念の入れようです(笑)。

 スポーツパロディの様相を呈するエピソードは、「ゴレンジャー」の時代から定期的に制作されています。

 「ゴレンジャー」で有名なのは、近年の劇場版でも取り上げられた野球仮面。永井一郎さんの名調子で憎めない仮面怪人として仕上がり、今回のように戦闘員をスポーツチームの一員に見立てて勝負を挑む辺り、今回の趣とよく似ています。ただし、野球仮面のエピソードは爆発物を巡る駆け引きという、割と物騒でハードなストーリーが縦糸になっている為、今回のような陽動作戦をメインとするものとは多少構造が異なります。

 もう一人「ゴレンジャー」における同種の仮面怪人は、牛靴仮面でしょう。こちらは、戦闘員を訓練してゴレンジャーハリケーンに対抗する黒十字ハリケーンを繰り出すという話で、どちらかと言うと必殺技対抗戦の様相ですが、この時期のゴレンジャーハリケーン自体がアメフト(ラグビー)を意識したスポーティなものだったので、対する牛靴仮面の特訓も完全にスポ根風味でした。

 面白いのは、「ゴレンジャー」におけるこれらのエピソードの主眼が、敵側の特訓に置かれている点で、今回のようなヒーロー側の特訓は特に描かれていません。

 後続作品でも、特に野球モチーフの怪人は多く登場し、スポーツ対決というコミカルなバトルへと収斂していくエピソードが制作されています。それらの作品の中には、今回のように逆転を狙うヒーロー側の特訓譚も多く見られます。また初期の戦隊では、幻惑効果を狙って唐突なコスプレバトルが展開される事もままありましたが、その一環としてスポーツのユニフォームで対決するといったシーンも多く、「デンジマン」や「バイオマン」でのそれはコミカルでありながらも、秀逸なアクション演出等でスピーディに仕上げられた名場面として数えられると思います。

 初期で言えば、「バトルフィーバー」におけるスポーツ怪人、「デンジマン」のデッドボーラー、「サンバルカン」のヤキュウモンガーといったスポーツ(野球)系怪人のエピソードは、ストーリー自体、子供に精神的・肉体的被害が及ぶ等ハードなものが多く、アクションで突如野球の要素が入り込んでコミカルになるというパターンとなっており、子供に身近なスポーツが悪の付け入りやすい領域である一方で、バトルと球技系スポーツの間に厳然として存在する「違和感」がコミカルな味を生み出しているものと分析出来ます。つまり、スポーツ系の怪人が登場するエピソードは、意外に重いテーマのものが多く、そしてバトルは華やかでコミカルになるという特徴を指摘出来るというわけです。

 さて、その文脈で捉えてみると、今回のエピソードはこの特徴に添いつつも、意外と異色作に仕上がっている事が分かります。

 冒頭で手痛い敗北を喫するキョウリュウジャー。逆転の為にスポーツ特訓をするも、相手は卑怯にも競技を変えてくる。しかも、その「試合」自体は陽動作戦であり、裏では「スポーツに関連する秘石」の奪取計画が動いている。こうして今回の特徴を並べてみると、面白くする為の多層構造が見えてきます。

 まず、敗北から特訓を経て勝利へという流れ自体は、至極オーソドックス。キョウリュウジャー側の爽やかさを振りまきながら展開する、過酷ながらもスポーティな特訓と比べて、敵側は体罰的なニュアンスを含んだ過酷な特訓を積んでおり、このコントラストが笑いを誘います。

 オーソドックスながらも、特訓の最中に彼等が得たのは、「技術」や「体力」ではなく「気付き」だったという点が新味。それぞれの得意分野に基づいて適材適所に配置するという、「戦隊」ならではのポジショニングが有効な成果を生むという定石を敢えて外し、別の効果に気付く展開が用意されていました。ここではさらに、「ポジションずらし」が各人の能力の意外性の気付きとして働くという要素が追加されており、特にノブハルのスピード、ソウジのパワーといった、相反するキャラクターの相互のアビリティ交換といった感覚は、ビジュアルに頼らない戦隊のパワーアップを如実に表現するものとして、特筆すべき点だと思います。

 このバスケ特訓シーン、通常の立ち回りアクションとは全く異なるアクションセンスが要求されますが、全員見事にアクロバティックでテクニカルなプレーを見せていましたね。バスケに限らず、球技に関しては「見せ方」も勿論「技術」も特殊な為、簡単に「化けの皮が剥がれる」危険性があるのですが、今回は「見せ方」と「技術」が双方で難点をカバーしており、実に見事だったと思います。

 そして、バスケの特訓シーンのコミカルな要素を一手に握っていたのは、空蝉丸。冒頭に述べた通り、ビクトリー獣電池が5人の力を結集するものなので、今回は空蝉丸が特訓メンバーから外れています。で、彼が何をするかというと、何とマネジャー! しかも、出で立ちはほぼ女子マネという凄さ(笑)。実はここでも「女子力の高さ」という空蝉丸の意外性が発揮されているわけで、コミカルながらテーマ的な一貫性が緩く保たれている処が面白いですね。

 続いて、デーボ・スポコーンがキョウリュウジャーのバスケ特訓を偵察し、密かにフットサル対決に変更していたという、何だかよく分からないが笑いを誘う展開。今回の冒頭でのスポコーンの印象は、正々堂々、卑怯な振る舞いを嫌悪するタイプなのですが、それを見事に裏切ってくるのがいいですね。我々視聴者を含めて騙してくる辺りが鮮やかです。

 しかも、思いっきりバスケ対決をメインに据えておいて、それが陽動作戦であり、裏でドゴルドは秘石を狙っていたという「ずらし」の巧さ。東京オリンピックの時事性を少しだけ導入したかのように、ギリシャの話題を盛り込む辺りも良いです。その上で、「陽動に加わらなかった」弥生を動かして企みを阻止するという展開。キャラクターの有機的な動きが爽快です。

 クライマックスとなる「バスケ VS フットサル」では、双方がケイオティックに入り乱れるのではなく、バスケは足を使わず、フットサルは手を使わないという、整然とした構成で組み立てられており、スポーツ対決の体裁を保ったものになりました。卑怯者には勝利はないというヒーロー番組の王道展開に則るが如く、バスケ側の攻勢をあくまで格好良くヒロイックに描いていきます。ここでのアクションは、特訓シーンにおけるアクションの総仕上げといった趣でまとめられ、非常に完成度が高いです。

 ちなみに、草尾毅さん由来の「スラムダンク」ネタとしては、「左手は添えるだけ」というセリフがありました。他にも、ダイゴの「諦めたらそこで試合終了」とか、空蝉丸の「バスケがしたいです」といったセリフが。私自身は「スラムダンク」直撃世代に近いのですが、あまり好きな漫画ではなかった(笑)ので、他のネタには気付きませんでした。まぁ、○○大好き芸人の有名ネタ程度が散りばめられていると考えれば、こんなものだとは思いますけど...。

 巨大戦は、久々にバイオレットを含めた総力戦。デーボ・スポコーンのキャラクターから行くと、総力戦の相手としては思いっきり不足しているのですが、「特訓したから」という理由で(笑)、ゾーリ魔とカンブリ魔も巨大化してバランスを取っています。ここで総力戦を出してきたのは、やっぱりブラギガス関連の盛り上がり前の段取りでしょうか。とすれば、これ以上の壮麗な巨大戦が見られる可能性が高いわけでして...楽しみですね。

 話は前後しますが、ビクトリー獣電池によって、ようやくカーニバル単独戦の匂いが薄れてきたように思います。やはり、5人の力を合わせてこそ最強の力が発揮されるというのは、嬉しいものです。技自体は必殺バズーカ系に程近い印象の画作りでしたが、ここでバズーカ系の新武器を乱発しないのは良心的であり、「キョウリュウジャー」らしさが出ていますね。あくまでメインは獣電池と獣電竜だという潔さが良いです。

 次回は、イアンと空蝉丸の関係にスポットが当たるようですが、面白い事になりそうですね。