ブレイブ36「ギガガブリンチョ!きせきのシルバー」

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 キョウリュウシルバー誕生編。そして、「森川祭り」でもあります。トリンとマッドトリンの二役を演じた森川智之さんの芸達者振りを、これでもかと堪能できる一編です。

 前回の最終話的展開とは異なり、今回は新戦士登場編として順当な作り。その上で、初回から登場しているキャラクターを新戦士として生まれ変わらせるという命題に挑んだ今回は、オーソドックスでありながら盛り上がるポイントを的確に押さえた好編となりました。

 初回から登場しているキャラクターが新戦士として登場するパターンは、「アバレンジャー」のアバレブラックという超変則キャラクターを嚆矢として、「デカレンジャー」で一気に開花し、そして前作まで空前絶後でした。

 「デカレンジャー」におけるそれは、ドギーの変身するデカマスターと、スワンの変身するデカスワン。前者は、司令官的キャラクターの変身とあって、今回のトリン=キョウリュウシルバーと非常に近い存在と言えるでしょう。後者は、「デカレンジャー」制作のノリの良さの果てに待っていたキャラクターといったニュアンスが強く、宇宙警察のスケール感を醸し出す効果もありました。

 デカマスターは、そのネーミングが示すとおり、デカレンジャーの師といった趣があり、単なる追加戦力というより「変身可能な導き手」という側面が非常に強く、ドギーのポリシー(部下の成長を考えてなるべく変身しない)と相俟って奥深いキャラクターとなりました。

 デカマスター最大の特徴は、変身後に長いマズル(犬の鼻)がどうやってあのマスクに入るのか、全く謎だという事です(笑)。これが、今回のトリンの変身と非常に近似した印象で、キョウリュウシルバーの既視感の元としてデカマスターという存在がある事の要因となっているように思います。

 しかしながら、デカマスターは「察して下さい」的な処理であるのに対し、今回のキョウリュウシルバーの変身に関しては、実は意外とロジカルなのではないかと思うのです。とは言え、トリンのあの嘴や長い首、そして巨大な羽がどのようにスーツに収納、あるいは縮小されるかといった点について、逐一納得のいく説明がなされるわけではありません。「キョウリュウジャー」はハードSFではないですし、むしろファンタジー寄りの戦隊なので、そのようなロジックはむしろ必要ないと思います。

 ここでのロジックは、これまでの積み重ねがもたらす納得感の事で、特に大きいのはラミレスの存在です。

 キョウリュウシアンの変身を思い出してみてください。ファットなラミレスが、変身と共に著しくスリムになる、あの衝撃の変身シーンを!

 つまり、ラミレスが(スピリットであるという点をエクスキューズから除外して)スリムになるのならば、トリンの様々な突出箇所も全部面倒を見てくれるものと、納得出来るではありませんか(笑)。変身シーンもよく観察してみると、ちゃんとトリンの「形状」からキョウリュウシルバーの「形状」へと「変化」するプロセスが盛り込まれており、ラミレスほどあからさまではないものの、きちんと描写されている事が分かります。

 また、変身前後の同一性を大事にした「キョウリュウジャー」の美点は、トリンにも完璧に踏襲。踏襲どころか、トリンのスーツアクターである岡元次郎さんが、スタイルからして恐らくキョウリュウシルバーも担当している筈で、正に同一人物らしい動きの統一感。トリンの剣術やフィンガースナップといった特徴的な動きをキョウリュウシルバーでも披露し、変身前後の同一性を完璧に担保していました。キョウリュウシルバーに輝く羽が出現する演出も凄まじい格好良さでケレン味に溢れており、これで、トリンのブレイブな変身に疑問を挟む余地がなくなってしまいました。

 ちなみに、劇中でトリンの「迷い」を討ち払ったのは弥生の一言でしたが、これはダイゴの精神性が巡り巡ってトリンに届いたという解釈が成り立ちます。つまり、最初はダイゴの導き手として出現したトリンが、今度はダイゴに導かれてブラギガスの真のパートナーとなったわけです。弥生を経由させたのがニクい処で、ダイゴを浅薄な饒舌家にしないバランスの良さが光ります。

 さて、次に「森川祭り」について触れてみようと思います。

 こちらはキョウリュウシルバーとは違って、同一人物が演じながらも異なるアイデンティティを表現した、トリンとマッドトリンの組み合わせ。「魔剣神官」という素敵な肩書きも秀逸で、同じ森川さんの声でありながら、全く別の人物に思える演技の確かさに驚きを隠せません。そのデザインは、トリンをベースにしつつ、よりプリミティヴな古代生物を思わせるものとなっており、恐竜との出会いで獲得した理性や正義感といった、ブレイブと呼ぶに相応しいそれらの精神性を取り除いた禍々しさの表現は素晴らしいの一言でした。今回限り(?)の登場が残念なキャラクターです。

 勿論、「森川祭り」の真骨頂は、対決シーンにあります。恐らく、トリンとマッドトリンそれぞれで別録りが行われているものと思いますが、一人二役で両者のテンションを高め合うという離れ業には感嘆せざるを得ません。アクションも両者が相似形を見せつつ、所々でトリンの迷いを表現したり、マッドトリンの残虐さを見せたりといった細かい要素が盛り込まれ、「芝居」としての完成度が非常に高かったのは誰もが認める処でしょう。

 ところで、地獄の穴から再生怪人が大量に現れるという今回のシチュエーションですが、「仮面ライダー」から踏襲されている伝統は、オリジナルよりも再生怪人の方が弱いという事。バルカンジャンプを再披露してくれたゼツメイツですら瞬殺扱いでしたから、その弱さは徹底されていました(笑)。

 一方で、完全な再生を果たすべく、再生モンスター達があらゆる物体を吸収し、それが街に被害をもたらすという新味のある設定も。また、殲滅ではなく、あくまで封印という解決法も「完結感」が薄く、今回をもってシリーズのテンションが途切れるのを防止している辺り、巧いと思います。

 私自身は正直な処、キョウリュウシルバーの正体がダンテツだと予想していたので、トリンの変身は意外でした。しかし、デーボス出身でありながら地球の生命体を深く愛し、史上最強のブレイブチームを実現に導いたトリンこそがキョウリュウジャーとなるに相応しい人物だと納得出来る作劇でした。ここでもなお、10人の揃い踏みはおあずけとなり、次回以降に引きを作っているのもニクい処。まだまだシリーズ完結までパワーを持続していくのは間違いないでしょう。