第16話 わたしはだあれ?

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ストーリー

 物忘れに悩む住民が続発。犬もお手を忘れ、九官鳥も喋らなくなった…。

 DASHでは、記憶に関して医師に相談した人の統計を元に、記憶に何らかの影響をもたらす存在を推測。さらにその移動の軌跡を遡ると、1ヶ月前に落下した隕石にたどり着いた。当時の調査では何の異常も見られず、隕石自体の存在も確認できなかったのだが…。

 現地調査に赴いたカイトは、何の異常もみられないことに不審を抱く。そこへミケが登場、DASHはただちにスタンバイするが、操縦方法を完全に忘れてしまう。カイトもマックスへの変身方法を忘れてしまう。まともにダッシュマザーを動かせないDASHは大パニックに!

 エリーは「化猫」ミケを分析し、有機生命体の脳だけに影響するエネルギー波を発していると結論付けた。その頃、コバが何とかダッシュバード2号で発進。メチャクチャな操縦ながら何とか姿勢を立て直し、ミサイル攻撃を加えようとしたが、誤って脱出レバーを引いてしまう。ダッシュバードはミケに刺さり、怒ったミケはダッシュバードを強力な光線で破壊。その爆発に驚いたカイトは偶然ウルトラマンマックスへと変身を遂げる。

 しかし、マックスは戦い方を忘れていた。マクシウムカノンの発射方法もことごとく間違え、失敗する。エリーはウルトラマンに戦い方を指示しようとするが、パニック度が増して行くDASH内部では思うように指示できない。エリーは遂にキレてしまう!

 マックスのパワータイマーが点滅し始めたその時、ミケに続いてタマとクロも出現。3体は連携してマックスを攻撃し始める。万策尽きたエリーは戦い方の指示をやめ、地球を守る仲間としてマックスに訴えかけた。マックスは見事それに答え、新たな必殺技で3体の化猫を打破したのだった。その勇姿を見たエリーは涙を流した…。

 「仲間を守りたいという心を大切に…」ヒジカタ隊長が微笑む。そこへ存在を忘れられていたコバが帰還。「俺は仲間じゃないんですかッ」。

解説

 前回の衝撃的な内容と演出で好評を得た、三池崇史監督作品第2弾。前作とはガラリと変わり、徹底したコメディ路線を貫いた爽快な爆笑編だ。

 乱暴に言いのけてしまえば、良質なコメディとはこのようなエピソードを指すのだろう! 内容こそまるで異なるが、前作と同程度の衝撃を受けた。スラップスティック、ホロリとさせる一場面、胸のすくようなカタルシス。これらが見事に絡み合って矢継ぎ早に迫る構成は圧巻だ。単なるマニアックな笑いを提供するだけに終始することは簡単だが、ウルトラマンを視聴するであろう幅広い年層全てに笑いを提供するのは、非常に難しい。

 笑いのシーンは主にスラップスティックな描写になっているが、根拠ある「ハデなボケ」が説得力を有し、唐突な印象もなくストーリー的な破綻も見られない。どのように笑えるかは実際に見ていただくしかないのだが、稚拙ながら楽しむにあたってのポイントをご紹介したい。

 まず、冒頭の主婦たちの会話。隣のおじいちゃんの九官鳥が、いかにもな作り物で笑いを誘う。「パソコンとか携帯とかから悪い汁が出てる」という仰天セリフも飛び出す。TVのアナウンサーが字を忘れてしまう場面では、リアルな誤魔化し笑いを堪能できる。

 そして、発進にあたっててんやわんやになるDASHの面々。ベース・タイタン内で誤射(!)してしまい半泣き状態のコバ、それを小学生のように茶化すショーンが凄い。続いて、操縦を忘れた隊長がエリーの指示に対し、素直に「ハイ」とイイ返事。上昇はしたものの、操縦ミスで高速回転! この一連のシーンでは、勇壮なDASH発進のテーマ音楽が突如スローダウンしたりファストアップしたりと演出面でも凝っている。フラフラで司令室に戻った面々の足のもつれが強烈で、誤ってダッシュマザーに戻ってしまったショーンがまた高速回転…。ここは特撮やスタジオワークのタイミングやカット割りが絶妙で、流れが全く途切れない素晴らしいシーンである。

 コバの発進シーンも、豪華な特撮でそのスラップスティックなシーンを彩っている。特に脱出シーンでは、ミニチュア、スタジオワーク、CGのカットが連続した1シーンを作り上げるという贅沢さ。コバが何故かカメラ目線で「ダッシュ!」とVサインをかますという意味不明カットも相まってそのドタバタ振りは最高潮だ。その顛末がちゃんとカイトの変身へと繋がっていく構成も見事。

 DASHのみならず、マックスのヘンな行動も凄まじいものがある。かつて、ここまでヘンな演技をさせられたウルトラヒーローはいないだろう。マクシウムカノンの発射に試行錯誤し、頭をさすってマクシウムソードを落としてしまうシーンは、ウルトラマンを笑いの対象にする手法として的を射たものだと感じられる。

 一方、トミオカ長官とヨシナガ教授のボケっぷりにも注目。トミオカ長官がカレーを食べているのは、勿論ウルトラマン「空の贈り物」からの拝借である。しかも、スプーンを頭上に掲げるのかと思いきや、何とカレー皿の方を掲げるという掟破りな行動に。このお2人、非常に楽しそうな演技が印象的だ。

 実際に見ていただけると分かるのだが、笑えるだけでなく、このエピソード自体、非常に恐ろしい不気味な雰囲気を漂わせているのにお気付きになるだろう。次々と地球防衛の要が物事を忘れていく。機能が完全にマヒしつつあるベース・タイタンは、パニックのシミュレーションをしているかのように奈落の底へと落ちていく。コメディを徹底しているからこそ笑って見られるが、本当は恐ろしいエピソードだ。

オマケ

 今回はカイトが変身すべく四苦八苦する様に大注目。身体に装着するアイテムならではのボケが満載で、ウルトラマンでハヤタがスプーンを掲げたのと同等かそれ以上のインパクトで笑わせてくれた。いくら何でも足の裏はないだろ! と軽くツっこめるノリが楽しい。

 もう一つ、興味深いシーンがある。エリーがマックスに対し「お茶碗を持つ方の手」と指示した場面である。どう考えても純正ウルトラマンが茶碗飯を食べるとは考えられない(笑)。よって、カイトとの意志の融合度は非常に高いことが伺われる。これはウルトラファンにとっても非常に興味をそそられるところだ。

 さらに、是非とも言及しておきたいシーンがあと一つ。それは、マックスがふと思い出す「光の国」らしきビジョンである。詳細は語られないが、M78星雲とだけ設定されたマックスも、昭和のウルトラヒーローと同じ「光の国」出身なのかも知れない…。