第35話 M32星雲のアダムとイブ

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ストーリー

 ガーディアンが、M32星雲の中に超新星を発見した。230万光年の彼方の、230万年前の出来事が今モニターに映し出される。その時、M32星雲の方向より飛来する物体が、エリアJT134に落下した。それは生物であり、音声信号を発していた。飛来する物体が、2つに分かれて落下する様子を見ていた幼い男の子・生田宇宙は、小さい方の落下した場所で、小さい「怪獣の子供」を発見する。姉の希望はDASHに届けなければダメだと言うが、宇宙のDASHに届けたら殺されてしまうという言葉を受けて匿うことに。

 一方エリアJT134に落下した生物は、ヨシナガ教授によってUDFサテライト・ラボに保護され、ホップホップと呼ばれることになった。ヨシナガ教授はホップホップを危険視するマスコミに対し、安全か危険かを慎重に判断すると答えるが、追求は厳しい。その様子をテレビで見ていた宇宙は、「きっとあの子たちのお母さんだよ」と呟く。そして希望と宇宙は、幼い怪獣が目覚めたときのエサは何がいいかを相談するが、結局DASHに訊いてみようという結論に達した。テレビを見て、ホップホップに興味を持ったフリをすれば大丈夫だという作戦だが…。

 そのDASHでは、ホップホップの発するメッセージから、滅び行く惑星より脱出してきたということが分かったが、同時に「幼い命」も脱出してきたということも判明した。捜索を開始したDASHは、小さい落下物の痕跡を発見。そこにポン酢のビンを見つける。ポン酢は宇宙が落としたものだ…。その頃、ヨシナガ教授はホップホップの分析により、金星のような高温の環境に適した生物だという結論を得ていた。一応、「幼い命」を求めて暴れだす可能性を考えて、コバとショーンがサテライト・ラボへ配置されることになった。

 そこへ、苦情ではなく「怪獣の食べ物について」の質問が入る。宇宙だ。カイトは必死に答えるが、結局うまく答えることが出来ず「何も分かってないんだ」と一蹴されてしまう。エリーはその電話から、発信者を特定した。

 希望と宇宙が家に帰ってみると、家の前にダッシュアルファが止まっていた。何故怪獣の食べ物を知りたかったのかと質問するミズキに、ヨシナガ教授に憧れていると答える希望。宇宙はカイトにポン酢を見せられて目が点になるが、何とか白を切りとおす。

 サテライト・ラボでは、ホップホップが覚醒。さらに巨大化してサテライト・ラボを破壊してしまった。コバが銃を向けるが、ヨシナガ教授はそれを止める。連絡を受けたカイトとミズキは直ちに現場へ向かった。それを見ていた希望と宇宙は家に戻り、覚醒した幼い怪獣が寒がっているのを見る。幼い怪獣は希望と宇宙の乗る自転車で、ホップホップの方向へ向かった。エリアJT306方面に移動するホップホップを足止めすべく、ダッシュバードで迎撃するコバとショーンだったが、ホップホップの固い表皮に阻まれ、その高温で周囲の木々が燃え始めた。カイトは周辺で希望と宇宙を発見。幼い怪獣をホップホップに会わせて、金星に連れて行ってもらうという姉弟に、マックスが願いをかなえてくれると告げるカイト。

 カイトはウルトラマンマックスに変身。ホップホップを大人しくさせるべく奮闘するが、意外にもホップホップの戦闘力は高く、つい本気を出してしまいそうになる。宇宙が「約束を守ってよ!」と叫び、我に返ったマックスは、ホップホップと幼い怪獣を引き合わせ、ホップホップを金星へと運んだ。

 「あの2匹はアダムとイブだったのね」というミズキ。カイトは優しい姉弟を見つめた。希望と宇宙は、宵の明星を見て、アダムとイブに思いを馳せるのだった。

解説

 実にウルトラセブン以来の、藤川桂介氏の手による脚本。参考までに藤川氏の作品を挙げて置くと、ウルトラマンでは第5話「ミロガンダの秘密」、第17話「無限へのパスポート」など、ウルトラセブンでは第30話「栄光は誰れのために」第39・40話「セブン暗殺計画 前後編」などがある。ウルトラ以外を挙げれば、これはもうキリがないくらい多く、まさにアニメ・特撮界の巨匠の一人と言えよう。

 一方で、今回は久々の金子監督作品でもある。マン、セブンでの藤川氏の作品を見渡すと、どれもがSF的または怪奇・サスペンス色の強いエピソードで占められているが、今回はどちらかというと牧歌的な、ある意味飯島監督の作品に近い雰囲気が感じられる。藤川氏の関わった「快獣ブースカ」の雰囲気が、時代を超えて踏襲されたのかも知れない。金子監督のカラーにも見事にマッチしている。

 さて本エピソードは、前回のバルタン星人登場編のある種華やかな雰囲気の後を受け、些か地味な印象はあるものの、総じて完成度やテーマ性の高いエピソードとして仕上がっている。今回繰り返し語られるのは、「優しさ」だ。宇宙と希望の姉弟の優しさは勿論、ヨシナガ教授の優しさ、それに追随するDASHの優しさ。全編に優しい雰囲気が漂っている。ウルトラならではの優しさと言い換えてもいいかも知れない。

 その優しさを体現すべく用意されたのは、アダムとイブ、そしてホップホップという怪獣。愛嬌のある姿は、一目見て可愛いという印象を見る者に抱かさせる。こういったストーリーの中心に据えるにしても、あまりにテーマと迎合した姿をしているとの批判もあろうが、実は作劇をする上で「見た目」というのは感情移入を促すものであり、今回ホップホップやアダムとイブの見た目が可愛いものでなければ、このようなストーリーをスムーズに描きにくいであろうことは、想像に難くない。

 それはそのまま、ヨシナガ教授や子供達の行動における動機へと繋がる。こう書いてしまうと極端な話になってしまうが、例えばホップホップがゼットンのような姿をしていたら、ヨシナガ教授は保護の姿勢を頑なに守っただろうか。あるいは子供達が保護した小さな怪獣が同様なら、子供達は拾って匿うまでしただろうか。見た目で判断しないというのは、無論理想としては素晴らしいことだろう。しかし、人の本質とはこのような感覚的なところに現れる。たまに、その部分を批判するエピソードがウルトラには出現する。しかし今回のように、形状的に受容できるものは性質的にも善良であろうという、人間の性善説に則したエピソードもまた、ウルトラシリーズには見られる。奇跡的なことにマックスでは両方が見られ、マックスが大変贅沢なシリーズであることを今回は思い知ることになるのだ。

 ではここで、ドラマ部分の見所を挙げていきたい。まずは冒頭、超新星爆発を司令室で見つめるDASH隊員とヨシナガ教授の図。リラックスムードで、大宇宙の神秘をうまく伝えるいいシーンである。続いてヨシナガ教授に詰め寄るレポーターの図。「処分する」「危険」という物騒な単語の連発に、ヨシナガ教授らしい温和な応対をしつつも少し苛立ち辟易してしまう様子が秀逸だ。さらに、コバがホップホップに発砲しようとするのを見て、ヨシナガ教授が慌ててコバの腕を掴むシーンなど、気が付けばヨシナガ教授がらみの名シーンが続出である。ヨシナガ教授以外で言えば、カイトが怪獣のエサについての質問に慌ててしまうシーンがいい。周りの隊員に茶化されて、本気で困った顔をするカイトが実にいいのだ。それとやはり、宵の明星を見上げる宇宙の肩に、希望がそっと手を置くラストシーン。最後の最後で、希望の優しさがバッチリ描かれることで、今回はテーマを貫徹した。

 特撮面を見てみよう。眠っている間のホップホップはサテライト・ラボ内では10~20m大になっている設定だが、ラボ内で眠っている様子が演技、合成双方の効果によってリアルに描き出されており、実在感たっぷり。ラボを突き破って巨大化するシーンも、実景とミニチュアの的確な合成画によって、大変リアルなシーンに仕上がっていた。巨大化後は、瞼によって感情を表すというアニメ的な表現で微笑ましさを感じさせてくれた。一方、アダムとイブの造形物も素晴らしく、ケージ内の姿はリアルそのものであった。あの大きさで、ちゃんと「演技」してしまうのが良い。

 もはや老舗とも言うべき巨匠・藤川氏と、新進気鋭の巨匠・金子氏の見事なコラボレーションが光る名作である。

オマケ

 今回はショーンのセリフに、久々に字幕がついた。実際のセリフは「Here we go」という簡単なものだったが、思い起こせば、ショーンのセリフに字幕という措置は、金子監督の回でしか見られない。出来れば字幕は、全てのエピソードで登場願いたかったが、突然出てくることで雰囲気を壊すようなエピソードがあっても困るので、「監督の色」としての演出に留まっているのも正解だろう。

 色々と面白いシーンが散見される今回だが、ミズキがアダムとイブを見て、思わず「カワイイ!」と言うシーンを注目ポイントとしてあげておきたい。非常に自然な感じで好感が持てる隠れた名シーンだ。