第11話 母の奇跡

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ストーリー

 銀十字軍隊長・ウルトラの母の異空間で、ウルトラマンメビウスはツルギの命を案ずる。奇跡を起こすことが出来るとするウルトラの母に、「その必要はない」と拒むツルギ。ツルギは、ボガールを滅ぼすと同時に生きる意味を失ったと言う。しかしウルトラの母は、ツルギの死を望まない者がいることを示唆した。それはセリザワであった。

 数日後。リュウはセリザワが帰還しない辛さを誤魔化しつつ、トレーニングを主導している。そこへ、ディノゾールの群れが地球に向かっているという連絡が入る。司令室に入ったCREW GUYSの面々は、モニターに映る無数のディノゾールを見て戦慄した。その場をリムエレキングが和ませる。粒子加速器の修復は完了していたが、トリヤマ補佐官の計らいで、マスコット化されたのだった。続いて、モニターより轟音が響いた。GUYSスペーシーが敷設した宇宙機雷・ライトンR30マインにより、ディノゾールが次々に爆発を起こしたのだ。コノミはその凄惨な様子に同情をはさむが、リュウは「怪獣を野放しにすると、それだけで誰かが死ぬ。一つでも多くの悲しみを減らす為に、GUYSがあるんだ」と語調を強めた。

 一体のディノゾールが機雷網を抜け、日本に飛来した。CREW GUYSは直ちに出動し、メテオールを発動して見事な連携攻撃でディノゾールの頭部を粉砕した。自分たちの成長を、心中でセリザワに誇示するリュウの顔は穏やかだった。ところが、ディノゾールは極性を反転させ、ディノゾールリバースとして甦る。頭部を二つ備えたディノゾールリバースは、二つの不可視の舌・断層スクープテイザーを振るうようになった。ディノゾールリバースは熊谷ダムに進行を開始。冷静に作戦を立てようとするマリナとジョージをよそに、リュウはダムの破壊を厭わない旨の発言をする。ミライは「ボガールに対する憎しみに心を支配されていた、ツルギと同じです!」と反論し、リュウを諌めた。ディノゾールリバース対策として、GUYS総本部は、遠距離からの攻撃が可能なマケット怪獣ウィンダムの投入を決定した。

 作戦開始直前、リュウは、自らの誤りを指摘してくれたミライに礼を言う。そして作戦は開始された。ミライはウィンダムを放つ。ウィンダムがレーザーを放って陽動、リュウはその間にスペシウム弾頭弾を発射するものの、断層スクープテイザーの威力は予想を遥かに超えており、作戦は失敗に終わった。万策尽きたと見たミライは、メビウスに変身する。

 双頭と化して基礎的な攻撃力がアップしたディノゾールリバースに、防戦一方となるメビウス。援護しようとしたリュウとジョージの乗るガンウインガーは、ディノゾールリバースの攻撃によって墜落の危機に。その時、セリザワが現れ、青いウルトラマンに変身、ガンウインガーを救う。

 メビウスと青いウルトラマンは、互いの能力を生かして攻撃を放つ。強力な連携プレーの前になす術もなくなったディノゾールリバースは、メビウスと青いウルトラマンの必殺光線の前に潰え去った。

 「ウルトラの母の奇跡は起きたんですね」 ミライはそうセリザワに問う。

 ツルギはウルトラの母の奇跡によってアーブギアを解き放ち、セリザワは自らの意思を取り戻した。「生きるのです。ウルトラマンとして」というウルトラの母の言葉を受け、ツルギはセリザワと同化して地球に再来したのだ。

 「俺の中にウルトラマンがいる」というセリザワ。リュウの元へ、共に帰ることを提案するミライだったが、セリザワは「リュウの側には君がいる」と言って、その場から去った。

 リュウは青いウルトラマンがセリザワだと確信していた。「ウルトラマンヒカリ」という名前を提案するリュウ。他の隊員は全員反対するが、ミライはその名前に賛成した。

解説

 ウルトラマンヒカリ本格登場編。タイトルに示されるように、ウルトラの母の本格初登場編でもある。

 実際、今回はその2つ以外の何物でもない。CREW GUYSにも別段新しいドラマがあるわけでもなく、怪獣は既に「お疲れ様」とも言われそうなディノゾール。ツルギがウルトラの母によって、どのようにウルトラマンヒカリとして甦るのか、さらにはウルトラマンヒカリが登場するために、どのような舞台を膳立てるのかという部分に、すべてが収斂するように構成されている。

 ただしディノゾールに関しては、一度CREW GUYSに倒させておき、CREW GUYSの実力が確実にアップしているという様子を垣間見せる。その上で、ディノゾールリバースという、見た目などすべてが目新しくなるように構築された怪獣を登場させ、ラストのメビウス&ヒカリの共闘が必須となるよう、双頭を持った強力な敵とするあたりは、なかなか見事である。

 ディノゾールリバースが双頭になっていることで、メビウスとヒカリの共闘がシンメトリカルなアクションとなり、徹底した赤と青のカラーリングも相まって、前回に続いて美しいバトルシーンが形成されている。ここでのヒカリは、新ヒーローにありがちな「初登場時の異様な強さ」を発揮することがなく、メビウスと実力が拮抗するように配慮されているように見える。この点は、ウルトラシリーズにおける多くの客演ヒーローにも共通して言えることで、特に「ウルトラマンレオ」に登場したアストラに近似した雰囲気だ。レオとアストラの共闘は、両者の格闘パターンの差別化が意図的に抑えられていることもあり、今回のメビウスとヒカリの共闘に雰囲気がよく似ている。

 今回、少々驚いた部分がある。それは、ウルトラの母の前で、ツルギが生命を放棄しようとする点だ。ここでは、「復讐を果たした」という、換言するならば「生きる目的の消滅」という部分が強調されている。惑星アーブの生命体の代わりに、復讐を果たしたことで、アーブギアの呪縛が解かれて当然であるのに、何故ツルギはアーブギアを纏ったまま、命を放棄しようと考えたのか。

 この態度に関するヒントは、ウルトラマン・第39話「さらばウルトラマン」にある。ここでは、ウルトラマンが地球に留まっていた最たる理由が、「ハヤタの命を保つ為」だったかのような発言を見ることができる。ゾフィーはそれに対し、「そんなに地球人を好きになったのか」と驚く。

 つまり、ツルギの態度は「そんなに惑星アーブの生命体を好きになったのか」という言葉で解釈を助けることができる。既にアーブの生命体は宇宙に存在しない。それ故、ツルギは生かす対象がいない。ウルトラマンヒカリとして甦るには、今度は地球人へと視点を移さなければならない。そのキーとなったのが、セリザワだ。ツルギはセリザワによって、行動の制約を受けつつ影響されてきた。メビウスやCREW GUYSの存在を認識することで、セリザワという一人の地球人の存在を、アーブの生命体に匹敵する一つの個として認識するに至ったと解釈できる。

 ウルトラの母は、実はそれに気付かせただけである。恐らく、ウルトラの母が行う「奇跡」は本当に奇跡的なことであり、本来、命を自由にすることは困難なのではないだろうか。ウルトラマンは地球人など、他の平和を願う種族と接触することにより、ウルトラの母の奇跡を実現することが出来る。そのようなメッセージが根底に流れているようだ。

 ところで、ウルトラマン関係の描写から離れると、ドラマ的にはかなり破綻していることに気付く。当初のリュウの態度は、特にその傾向が強い。ダム決壊を厭わないなど、既に崇敬するセリザワの主義主張からは遠く乖離しており、単なる支離滅裂キャラクターに堕している。それをミライが諌めるだけで、すぐに思いを変えてしまうあたり、その傾向をさらに強めている感がある。

 さらに、ウィンダムの登場。ウィンダムの登場自体は、旧来ファンにとっては嬉しいものだが、登場理由が薄く、ミクラスに比べて扱いも実に軽い。冷静に見れば、ウィンダムの登場意義は、全く無いに等しいのが分かる。

 ただし、ラストでセリザワが人間・セリザワの言葉で、ミライに「俺の中にウルトラマンがいる」と告げるシーンは、突出して秀逸である。CREW GUYSに当然戻ってくると考えるミライに対し、「リュウの側には、君がいる」と答えるあたり、シリーズものの醍醐味を見事に体現していると言えよう。なお、この時点でこの人物がセリザワ自身であることを強調するかのように、ミライが敬語を使っているのも芸コマである(ツルギに対してはタメ口をきいていた)。

 ラストで、リュウがウルトラマンヒカリと名付けるのだが、ウルトラシリーズで、明確にウルトラマン以外の人物が名付けるのは、これが初ではないだろうか。「ヒカリ」という名前自体は、タイアップの都合だと推測されるが、ワザと(センスに乏しそうなキャラの)リュウに名付けさせ、他の隊員達にブーイングを浴びせられるシーンを作るなど、少々スタッフ側の悪意が感じられてしまうはいかがなものか…。

 最後に蛇足中の蛇足ポイントを一つ。宇宙機雷「ライトンR30マイン」の名にグッと来た。「ライトンR30」とは、かつてキングジョーを粉砕すべく、ドロシー博士によって開発され、ウルトラ警備隊によって発射された強力爆弾だ。

データ


監督

鈴木健二

特技監督

鈴木健二

脚本

赤星政尚