忍びの35「キンジ、妖怪への迷路!」

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 お祭り開けでググッとシリアスに展開するキンジ編前編。

 十六夜九衛門に注入されかけた妖力と、オオカミオトコに負わされた傷。それらが忘れられた頃にキンジに影響を及ぼすという展開。加えてオオカミオトコ撃破の理由までも語られるロジカルな部分が、最近の挿話群の中では異彩を放っていました。

 そして、キンジの危機を縦糸としつつも、メインアクターは凪。ここぞという時に格好良く成長振りをアピールする凪は、やはり良いですね。

オオムカデ

 電源タップがモチーフの上級妖怪。電撃攻撃は電源タップというモチーフ由来で分かり易く、見た目の恐ろしさも手伝って、上級妖怪としての地位が納得出来るキャラクターでした。

 オリジンたる大百足自体は、とにかく巨大なムカデという以外はさしたる特徴が聞こえてこない妖怪なので、今回は電源タップに関する能力描写に終始していたようです。前述の電撃とは別に、今回のテーマへ誘導する為の能力として「コンセントを利用して迷路を支配する」という設定がありましたが、この辺り劇中からはやや分かり難い設定でした。単に迷路を作り出すという能力がクローズアップされたので、電源タップ含めてコード類はよくもつれるという解釈の方がしっくり来てしまうのではないかと思います(笑)。

 この迷路、心に迷いがあると分岐が増えるという特徴があり、キャラクターの心の迷いを端的に示す描写としては「発明」レベルの分かり易さだったと思います。わざわざモノローグで語らせたりする必要もなく、迷いが吹っ切れた際のカタルシスがよりダイレクトに見られる見事な仕掛けでした。

 ちなみに、ムカデの怪人といえば個人的に「仮面ライダーX」のムカデヨウキヒを推したいですね(笑)。ギャグと紙一重(失礼!)のGOD悪人軍団の中にあって、このムカデヨウキヒはタイガーネロと並ぶ、ビジュアルの格好良さと恐ろしさを兼ね備えた怪人だと思います。話もスパイものでスリリングでしたしね。

十六夜九衛門とキンジ

 やはり、と言うか当然の如く十六夜九衛門は生きていました。しかし、意外にも面に傷を負い、その回復も万全ではない様子での登場。自身の死を偽装して暗躍する程のタフネスを有している印象すらあったのですが、そうではなかった事で予想を良い意味で裏切られました。

 牙鬼のお庭番だった忍者団を勝手に使役し、無断でカラクリを製作したわけですから、牙鬼軍団の中での立場もすっかり危うくなり、彼自身はクールを装いつつも内心焦っている様がさり気なく出ていました。キンジを利用して危うい立場からの逆転を狙おうとする彼の行動は、ごく自然な流れの中にあると言えるでしょう。

 そんな十六夜九衛門がご執心のキンジは、「迷い」という面では既に克服していると考えて良いでしょう。しかしながら今回、「妖怪に変わってしまうかも知れない」という「恐れ」が生じた事により、一気に忍者から遠ざかってしまうわけです。十六夜九衛門がご執心なのは、やはりキンジが伊賀崎の血縁ではない「よそ者」だからでしょう。キンジ自身が「よそ者が弟子にしてもらっている」という意識を持っているかどうかで言えば、それは否でしょうが、今回のように誰にも相談できないという立場に簡単に追い込まれてしまう辺り、彼がまだ伊賀崎の一員に成り切れていない事が分かるというものです。

 十六夜九衛門にとって、そんなキンジは揺さぶり甲斐のある人物。結果的にはその目論見が図に当たり、今回ラストにおいてキンジはオオカミオトコになってしまいました。

妖刀浦鮫

 妖刀と呼ばれる刀はいくつか伝承があり、この浦鮫の元になったのは恐らく「村正」でしょうね。ただ、「南総里見八犬伝」には「村雨」なる刀が登場し、こちらも有名なので、語感からするとこちらがモチーフなのかも知れません。

 この浦鮫、妖力を食って切れ味に変換する「機能」があり、妖力を吸わせればキンジの妖怪化を食い止められるとする十六夜九衛門の教唆に、まんまと乗せられるキンジの姿が描かれるわけです。それにしても、オフィスビルの一室にゴルフクラブと一緒に無造作に置いてあるというのはいかがなものかと...(笑)。完全に錆び付いていたのでゴミ扱いだったのかも知れませんが、それでも銃刀法ではマズいような...(切れない事が分かれば登録不要でしたっけ?)。

 ちなみに浦鮫自体の造形物は、特に派手な装飾でアピールする事もなく、普通の日本刀っぽくて好感触でした。こういった面でのリアリティが担保されていると、「伝説」の説得力が増しますね。

 凪の「周囲に気配り出来る性格」は、シリーズ後半を迎えて益々クローズアップの機会が増えており、今回はとうとう超絶への道を拓く事につながりました。キンジの異変に気付きつつ、それでもキンジの内面をよく承知している凪は、キンジの妙な行動に先にあるもの自体が予想出来なくとも、彼を信じるに値すると判断しており、凪の人間観察力と、自身のそれに信念を持っている事が明確に示された事になります。勿論、天晴も凪の長所を良く分かっており、凪を手放しで信頼する等爽快な筋運びを見せてくれます。

 一方で、好奇心やマニュアル好きの面もちゃんと忘れられる事なく描写されており、変化球的な技の開発にも余念が無かったり、忍術書を読んで勉強したりといった描写がちゃんと盛り込まれていて満足度を上げていました。キンジの指摘として、「変化球より直球の方が良いのでは」という言がありましたが、結局は変化球から生まれた技によってオオムカデを撃破しているので、凪の勉強好きな体質が生きたものと見なせるでしょう。ここでの「直球」は、やはり迷路を打ち破る信念の強さの方にスポットを当てたものであり、戦力に関するものではない、という印象ですね。

 超絶に関しては、例外的な風花超絶を除けば三人目の栄誉。凪の持ち味として紹介されている素早さが存分にアピールされ、アカニンジャー超絶とは異なる超絶アクションを見せてくれました。高速バトルは画面の派手さとうるささが紙一重となりますが、今回は実に巧くまとまっていたと思います。素直に格好良いです。

後編は...

 私としては、キャラクターの問題を一話で片付けてしまうスピード感と軽快さが、善し悪しは別として「ニンニンジャー」の特徴だと思っていましたので、今回のようにキンジの問題を引っ張るとは思っていませんでした。しかしながら、次回でほぼ解決してしまいそうなので、やはり苦悩といった語句とはおよそ無縁なのかも知れません。

 一週休止を挟むので、引きとしては余計に強くなっている辺り、シリーズ構成の巧さを感じる処でもあります。なかなかあざといです(笑)。勿論、楽しみですけどね!