イエス (Yes) ヒストリー

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 「モザイクの海上を飛ぶ、精密機械に彩られた音楽ジェット機」


 同じプログレでも、クリムゾンの対極に位置するのが、このイエスである。

 「対極」と位置づけたのは、クリムゾンが内省的エネルギーの爆発を、外へ発散させているのに対し、イエスが常に開放的なエネルギーを、複雑なアレンジに乗せて聴き手に送り出しているからだ。

 さらにイエスはプログレッシヴ・ロックというジャンルに自らを置きつつも、高い完成度を誇るポップスを産出し、80年代のナンバーワン・ディスコ・ヒット・ナンバーをも送り出すそのポジティヴ・パワーに魅力がある。「イエス」という「肯定」が音楽性にも端的に現れ、グループ内部にゴタゴタが起きようとも、成立したアルバムが常に前向きな光を発している稀有な存在なのだ。

 クリムゾン同様、メンバーチェンジが多いのも確かだが、何となく離散したメンバーが帰ってきたり、最新ラインナップが「黄金期」メンバーの現在形(つまり全員還暦前後)であることなど、微笑ましい一面もあって、とにかく物凄く魅力的なグループなのだ。

第1期 ゴージャスなポップロック・バンド~プログレへの発芽

 イエスのデビュー作、「ファースト・アルバム」から、スティーヴ・ハウ加入期の「サード・アルバム」を第1期とする。

 1969年にデビュー、当初はテクニカルな演奏とリッチなコーラスを特徴とするポップロック・バンドの様相を呈していたが、オーケストラとの競演を経て、職人ギタリスト、スティーヴ・ハウの加入でプログレ・バンドとしての下地は十分なものとなった。

 作品は、「ファースト・アルバム」、「時間と言葉」、「サード・アルバム」。この時期は、「サード・アルバム」でギタリストがスティーヴ・ハウに交代したこと以外、パーソネルは同一。

第2期 炸裂するプログレッシヴ構築美

 イエスの黄金期とされる、「こわれもの」から、超弩級ライヴ盤「イエスソングス」を第2期とする。

 「サード・アルバム」でプログレッシヴ・ロックへの前進を垣間見せたイエス。天才シンセ奏者のリック・ウェイクマンを加え、その勢いは最高潮に達する。

 いわゆる「黄金期」を迎えたイエスは、緻密に構築された大曲を聴衆に突き付けることになる。

 作品は、「こわれもの」、「危機」、「イエスソングス」。「危機」レコーディング後のツアー中に、ドラマーのビル・ブラッフォードがクリムゾン参加の為脱退。急遽アラン・ホワイトが代役を務めることになるが、その後ホワイトはイエスのパーマネント・メンバーとして活躍する。

第3期 拡大するコンセプチュアル・ロック

 黄金期を経たイエスは、そのコンセプトを拡大しさらなる飛躍を狙ったが...。

 「危機」のようなコンセプチュアルなアルバムの成功は、アンダーソンに大きな自信を与えることになった。グループは、更なるコンセプチュアル・ロックを模索していく。

 作品は、「海洋地形学の物語」、「リレイヤー」、「イエスタデイズ」。「イエスタデイズ」はオムニバス盤。「リレイヤー」にて、キーボーディストがパトリック・モラーツに交代している。

第4期 次世代プログレッシヴ・ロックの模索

 リック・ウェイクマン復帰、バグルスとの合併。激動の時期が生み出したイエス・ミュージックとは?

 拡大しきったイエス・ミュージックに一旦ピリオドを打ち、よりコンパクトに、よりハードに展開されたアルバムを制作。メンバーは激動し、安定しているとは言えないが、ダイナミックな魅力を追求していく。

 「ドラマ」時期のイエスは、後に新世代のプログレッシヴ・グループ、エイジアを生み出すきっかけとなる。

 作品は、「究極」、「トーマト」、「ドラマ」、「イエスショウズ」、「クラシック・イエス」。「イエスショウズ」はライヴ盤、「クラシック・イエス」はベスト盤である。「究極」にてリック・ウェイクマンが復帰、「トーマト」まで参加するが、直後にアンダーソン(!)とともに脱退、「ドラマ」ではバグルス(トレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズ)を吸収合併。

第5期 ソリッドなハード・ロックへの華麗なる転換

 「異質な存在」トレヴァー・ラビンの加入。パワー・ポップとイエス・ミュージックの合体技とは?

 ポスト・アンダーソンの重圧に耐えかねてホーンが脱退、ハウとダウンズはエイジア結成へ。残ったスクワイアとホワイトは、新境地を求めて「若き才能」を迎え入れる。

 作品は、「ロンリー・ハート」、「ライヴ」、「ビッグ・ジェネレイター」。これまでのイエスとは全く異なるシンプルなジャケット。「ライヴ」はミニ・アルバムの様相で、正規ライヴ盤とは言えない内容。スタジオ盤2作はラビン色満載。

第6期 離散集合の美学

 アンダーソンによるアンダーソン・ブラッフォード・ウェイクマン・ハウ(ABWH)の結成、本家イエスとの合体、ラビン主導のイエス(いわゆる90125イエス)の残留。目まぐるしい変化と共に、あらゆるイエス・ミュージックが誕生する。

 ラビン体制に難色を示したアンダーソンが旧来の仲間を集めてABWHを結成。イエスの名前をめぐってスクワイアとの訴訟問題にまで発展する。しかし両者は融合して8人体制イエスとなるも、またも離散し結局は90125イエスに落ち着く。

 作品は、「閃光」、「結晶」、「トーク」。「閃光」は厳密にはイエスではなく、ABWH名義。

第7期 過去の資産の美しきリストラクチュア

 再び「海洋地形学」のメンバーに戻ったイエスは、精力的にライヴ活動を行い、その成果を纏め上げる。その後ウェイクマン以外のコア・メンバーは不変となり、若手を迎え入れて野心作を発表していく。

 ライヴ録音とスタジオ録音を混ぜるという変則的なアルバムでスタートしたイエスは、ビリー・シャーウッドやイゴール・コロシェフを迎え、ポジティヴなパワーに満ちた快作を発表、「マグニフィケイション」ではオーケストラとの競演をロック史上最も美しい形で果たす。

 作品は、「キーズ・トゥ・アセンション」、「オープン・ユア・アイズ」、「ラダー」、「ハウス・オブ・イエス」、「マグニフィケイション」。全体的に同一のトーンを感じさせるものの、作品ごとの新メンバーによってそれぞれがキャラクターを変化させている。