第四幕「夜話情涙川」

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 何か、サブタイトルのセンスが凄いんですけど。

 「夜話」「世は情け」「涙川」と、本編の要素をちゃんと紹介しています。


 「夜話」は、勿論、例の流ノ介と茉子の夜を徹しての張り込み。

 「世は情け」は、流ノ介が良太に、茉子が流ノ介に情けを持って接する様子。

 「涙川」は、今回の外道衆の作戦テーマが「涙」であることを表します。お見事。


 今回のメインは流ノ介と茉子。


 侍であることに対し、微塵の疑問も持たないと思われていた流ノ介が、歌舞伎を放ってきたことを気に病んでいたり、熱くもならず、かといって冷淡でもない、ちょっとクールなイメージの茉子の夢が「普通のお嫁さん」だったり。

 この2人をペアにして、ちょっと意外な面を引っ張り出し、キャラクター像を掘り下げていくという手法がとられています。

 前回の千明が直球だったのに対し、今回はやや変化球なのです。


 勿論、初期話にしてみれば、流ノ介と茉子の魅力の描出は充分高水準に達しています。


 そして、本編を見て「巧い!」と思わず膝を叩いた要素が一つ。


 それは、「百人の人間の涙より、たった一人が流す深~い悲しみの涙一滴の方が重い」という骨のシタリのセリフ。


 これによって、ゲストの子供少数が敵の被害に遭うという、「変身ヒーローモノ」におけるある種の矛盾が解決することになります。

 外道衆の目的はあくまで三途の川の増水にあり、目的達成の為には、被害者が1人であろうが大勢であろうが関係ない。

 この前提があることで、話のバラエティさを、リアリティを損なうことなく(シンケンジャー自体ファンタジーですが)広げることが出来るようになったわけです。

 設定が足枷になるのではなく、裾野を広げるのに役立つこともあるという、素晴らしい見本ですね。


 では、今回も見所を中心に追ってみます。

 千明は順調にモヂカラを上げており、「葉」の文字を木の葉に変ずるという技を会得していました。

 傍についていることはがイイ感じに可愛い。


 そんな中、流ノ介は皆に悩みがないか訊きまくっています。

 千明に、ことはに。さすがに丈瑠には訊きません(笑)。

 終いには、茉子に「ウザい」と言われる始末。

 千明が茉子を評して「さすが姐さん」と言っており、何となく茉子と千明のポジションを表現しています。


 なお、この茉子の「ウザい」は、重要なポイントになるので押さえておきましょう。


 流ノ介の行動はエスカレートし、遂には黒子にまで悩みを訊くように。

 「黒子の人格」が少しだけ垣間見られた瞬間です。というのも、悩みの有無を尋ねるということは、悩みを持つ可能性があるということなので。

 黒子さん達は志葉家で働いている人々という感覚なんですかね。


 一方、外道衆は今回の悪巧みを思案中。

 骨のシタリはナミアヤシを呼び出しました。


 ナミアヤシは「気色の悪い野郎だ」とドウコクに評されており、薄皮太夫には「こんな変態」と揶揄される気持ち悪いヤツ。

 デザインを観察すると、虎と波が半身ずつ大胆に配置されており、顔の造形もなかなか不気味です。


「百人の人間の涙より、たった一人が流す深~い悲しみの涙一滴の方が重い。つまりは涙や悲鳴の質さね」


と骨のシタリ。

骨のシタリと薄皮太夫

 今後に踏襲されていくかどうかは分かりませんが、これで「ゲストキャラ個人狙い」も目的から逸脱しないことが約束されました。この点については、冒頭に述べたとおりです。


 人間界に出てきたナミアヤシは、野球少年の良太に近付いて「約束だ」と話しかけていました。

ナミアヤシ

 その衝撃的な「約束」の内容は、後半で描かれます。


 そこにシンケンジャーが参上。

 丈瑠を中心に攻撃を繰り出していきますが、ナミアヤシは結構強く、「これからがお楽しみだ」と言って姿を消してしまいます。

 ナミアヤシの本分が戦闘ではないことが端的に示されています。

シンケンジャー

 一同は、とりあえず警戒態勢をとることに。このあたりは王道の展開です。


 流ノ介と茉子はまず良太に接触し、何を話していたのか聞き出そうとするのですが、良太は何も語りません。

流ノ介と茉子

 不審に思った流ノ介と茉子は、良太を徹底的にマークすることに。

 被害者が1人だけという展開が、ここで充分効いてきます。


 この流れを見て、何となく「宇宙刑事シャイダー」を思い出しました。

 昔の変身ヒーローモノは、戦隊も含めて「子供レギュラー」というポジションが必ずと言っていいほど存在し、彼らが毎回必ず事件に関わったりしたものですが、最近はこういう「視聴者である子供に近い」ポジションのキャラクターっていなくなりましたね。

 その分、子役ゲストは多くなりましたが。


 さて、良太の家まで尾行してきた2人。


 野球の練習をしてきたばかりなのに、帰宅してからも素振りをしている良太を、茉子は不思議に思うのですが、流ノ介は、そんな良太に共感していました。

 「練習せずにはいられない」という気持ちがよく分かるというのです。

 流ノ介も歌舞伎の舞台の本番前日は、緊張の為一晩中練習していたのだといいます。

幼い頃の流ノ介

 後から考えると、ここで一心不乱に素振りをしていたのは、ナミアヤシとの「約束」に対する葛藤だったんですけど。


 当時の自分が、急に重なって見えた流ノ介は思わず泣いてしまいます。泣き虫キャラの本領発揮ですね。

 流ノ介の泣き方は、初回より一貫して、掌で鼻と口を覆ってしまうという、分かり易いオーバーアクション。それ故にギャグとして成立しており、流ノ介が泣く場面は、感情移入よりむしろ笑っていただくといった側面が強いです。

 この演出は辛気臭くなくて正解ですね。


 茉子は、涙もろい流ノ介に冷淡な態度をとり、


「ああ、ホームシックか」


と一言。

 流ノ介がマンガチックな泣き虫キャラなら、茉子はそんな態度を見ると引いてしまうタイプ。

 それだけに、ここから後の茉子の行動が可愛く強調されて映る。いわゆる流行りの、一種の「ツンデレ」ってやつです(笑)。


 なお、ホームシックを流ノ介は必死で否定するのですが、茉子の分析通り、流ノ介は自分がヘコむと逆の行動に出てしまう典型であり、それ故に皆に悩みを訊いていたのでした。

 ただ、本質的には「ホームシック」というより、歌舞伎を捨てきれなかったという面が強調されています。

 つまり、丈瑠に仕えることや、侍としての自覚に関しては随一だと思われていた流ノ介は、実は最も元の生活に未練を抱いていたということ。

 それを必死に隠蔽してきたにも関わらず、ここに来て噴出したようです。


「茉子はきっぱり夢を捨ててきたと言ったな。それに比べて私は...何て未練がましい...」


と流ノ介は益々イジケていきます。すると、茉子の様子が...。


「やだ、やめてよ。あたし、そういう弱ってるヤツ、ダメなのよ」

「分かってる!思いっきり罵ってくれ!いや、殴ってくれ!」


 流ノ介、その発言は誤解されるぞ(笑)。


「だから...バカ、そういうの、助けたくなっちゃうじゃない」

流ノ介と茉子

流ノ介と茉子

 これぞ、今回の問題シーンその1。

 公式サイトによると、男性スタッフの羨望の眼差しを浴びたと言う、問題のシーンです。

 世の男性諸氏もきっと...(笑)。かく言う私もですが(笑)。


 茉子は第二幕でもことはを抱きしめていましたが、どうやら母性本能をくすぐられると変貌してしまうキャラのようです。


 結局、流ノ介と茉子は良太の張り込みを行うことになったらしく、茉子はホームシックで元気のない流ノ介の為に夜食を作るのですが...。

 厨房で何か事件が起こったのではないかと誤解した丈瑠と、真相を知る千明とことはが覗きに来ます。

千明、丈瑠、ことは

 ここでの丈瑠はコミカルに描かれており、早くも第四幕で「仏頂面のクールキャラ」という特徴崩しにかかっています。

 少しずつ努力して腕を上げつつある千明とも、何となく仲良い感じになっており、こういったプライベート寄りのシーンでは、同年代の仲間同士といった趣になっています。

 キャラクターが徹底されていないのではなく、ちゃんと丈瑠というキャラクターのベースを崩さずに、コミカルさを滲ませようとしているところは、さすがです。


 そして、肝心の茉子の料理は...。


 鮭を焼くのに凄まじい黒煙!

 黒子が消火器を構えている!

 シンケンマルでかぼちゃをぶった切る!


という凄まじいもの。

茉子

 この表情、今回のベストショット。


 ことはによれば、茉子の夢は「普通のお嫁さんになること」だそうで、家庭的な事が好きな女の子ということらしい。

 丈瑠と千明の半端じゃない驚きようが可笑しいです。


ことは「凄いなぁ。料理できる人って、いいなぁ」

丈瑠「あれ、食うのか?流ノ介、死なないだろうな?」

千明「さぁ?」


 この会話も面白い。

 丈瑠と千明は、こういう会話では充分共通認識を抱けることが示されています。

 そして、ことはが茉子の料理に感心するという事は、ことはの料理の腕は...。


 さて、完成した夜食を携え、茉子は流ノ介の元へやってきます。

 が、流ノ介は夜食を見て唖然。口にした物を吐き出したり、慌てて飲んだお茶が熱すぎて噴出したりと、コミカルキャラ全開になります。


 夜食に対して懸命になる流ノ介に茉子は、


「あのさ、言葉が足りなかったんだけど、夢を捨てたって言っても、諦めたんじゃないから。今は捨てても、後でまた拾う。外道衆倒したらね。歌舞伎だって、待っててくれるんじゃないの?」


と告げます。

 夢を諦めないというテーゼは、昨今のドラマやアニメ等では殆ど当たり前になっているだけに、「シンケンジャー」開始当初の「夢を捨てる」というテーマはなかなか衝撃的だったのですが、茉子の言葉でかなり緩和されました。

 茉子はきちんと物事の優先順位を立てられる人物であり、ロマンチストの面と現実派の面を巧く折衷していると言えるでしょう。

 ことはとはまた違う、別の意味で「強い女の子」ということですね。


 そして一夜明け、問題シーンその2。

流ノ介と茉子

 2人の野宿はいい雰囲気(と流ノ介だけが思っている)。

 しかしまぁ、これじゃ流ノ介でなくても勘違いしますな。

 その流ノ介の勘違いっぷりは、このシーンでも見事に発揮されています。


 このシーンのスチルが某ホビー誌でクローズアップされており、思わせ振りな文言が添えられていたのですが、まぁ、いわゆるフェイクだったわけですね。


 良太は突如神社に向かい、そこで野球の道具を捨ててしまいます。

 そして、ナミアヤシとの「約束を果たす」と言って高所へ!


 ナミアヤシが現れ、


「友達同士の約束だ。小僧、決めたんだろ?早くやれ」


と言うと、覚悟を決めた良太は飛び降り、足を痛めて野球が出来ないようにするのでした。

良太

 このシーンの飛び降りでは本当に怖そうな表情をしていますが、安全管理を徹底した上で、実際に高所からの飛び降りを敢行したのかも知れません。

 飛び降り後にはズボンに血が滲むというカットが挿入され、イヤな話ですが出血を伴う骨折(つまりは、かなりの重傷)だということが示されます。


 ナミアヤシは、


「よ~くやったな小僧。けどな、あれはウソ。ウソだ」


と嘲笑。良太には「大切なものを捨てれば、もっと大切なものが戻ってくる」と吹いており、それを信じた良太は、「野球を捨てれば、去年死んだおじいちゃんが戻ってくる」と考え、野球が出来なくなるよう、怪我をしたわけです。

 ウソだと知った良太は、おじいちゃんの喪失感に加えて野球も失ってしまい、その絶望感から深い悲しみの涙を流します。

良太

 ナミアヤシは、この涙を流させる為に暗躍したのです。

 凄く狭い世界での話なのに、凄く悪いヤツに見えるという仕掛けが見事という他ありません。


 流ノ介と茉子は怒りに燃えて変身!

流ノ介と茉子

 他のメンバーも合流します。

 ここからは、ナナシ連中と大チャンバラが繰り広げられますが、今回は個人武器を全面的にフィーチュア。前回はシンケンマル中心でしたから、巧く露出のバランスをとっているようです。

 神社付近の杜というロケーションは、チャンバラによく似合います。


 ナミアヤシに立ち向かうは、流ノ介と茉子。ナミアヤシは虎津波を繰り出し、一時は苦戦を強いられます。

虎津波

 虎と赤い津波が2人に襲い掛かるという、何だかよく分からない攻撃ですけど、迫力はあります。


 茉子は、


「二人で同時に攻撃するのよ」


と流ノ介をリード。すっかり勘違いモードの流ノ介は、多分この時点でも茉子と自分がベストコンビだと思っていたに違いない(笑)。

 2人はウォーターアローとヘブンファンの同時攻撃で、ナミアヤシを倒します。

シンケンブルーとシンケンピンク

 なるほど、ビジュアル上はちゃんとベストコンビネーションになってますね。


 そして恒例の二の目によって、ナミアヤシは巨大化を果たします。


 流ノ介と茉子は、龍折神と亀折神の連携攻撃で牽制します。

龍折神と亀折神

 今年は折神のコンビネーションに色々な工夫が見られて面白いですね。

 「エンブレムモードなんて使えねぇよ」と現場サイドは思ったのではないかと邪推しますが、この形態を逆手に取った演出が実に効果的です。


 勿論、このまま勝利するのは掟破りなので、シンケンオーに侍合体。

 何と、挿入歌が串田アキラさんではないですか。

 今回はシンケンオーのアクションと歌詞の内容が巧くシンクロしていて、往年の「宇宙刑事」を思い出しましたよ。


 右手に噛み付かれ、ダイシンケンを落とされたシンケンオーは、龍昇り脚で高空へ!

龍昇り脚

 龍折神の機構を生かした秀逸な演出です。

 さらに、亀天空拳で遠隔攻撃!

亀天空拳

 実写ではあまり描かれないセパレート攻撃を見せてくれます。


 エピローグ。


 良太は野球の試合をベンチからサポートしていました。「回復したらレギュラーに戻れるよう頑張れ」と監督に言われた良太は力強く頷きます。往年のヒーローモノを思わせる理想的な構図です。

 ところが、ここで終われば普通のヒーローモノなのですが、驚きのシーンが待っていました。


 何と、丈瑠が「思」のモヂカラで良太の思いを一瞬だけイメージにし、良太のおじいちゃんを登場させたのです。

良太とおじいちゃん

 ここで何の前触れもなく、おじいちゃんの魂が良太の前に現れたなら、ちょっと興醒めだったかも知れません。

 しかし、モヂカラという特殊な「小道具」で、しかも良太のイメージが投影されただけというエクスキューズにより、実際のおじいちゃんが良太を見守っているか否かは、一切描かれません。

 安易に「霊魂」を匂わせる存在を描写しなかったことで、三途の川との整合性や、あくまでリアルな世界に繋がっている物語だという雰囲気は確保され、その上でちょっと感動的なシーンを演出して見せたあたり、高く評価していいと思います。

 死に対する観点もはっきりしており、この点も評価に値すると思います。

 丈瑠の内に秘めた優しさの発露としても、いい具合でした。


 良太の様子を見た流ノ介は、


「茉子、大切なものを捨てるのは、私達だけで十分だ。必ず、外道衆を倒そう」


と、ちょっと不気味な笑みを浮かべながら茉子に近付くのですが、

流ノ介と茉子

「そういうの、ウザいから」


と言われ、盛大にコケてしまいました。

 元に戻っちゃったわけですね。


 丈瑠はあきれ顔。余計な事は語らずという雰囲気がいい。


「立ち直った男には、興味ないんじゃない」


と千明。さすが、鋭いね。


「茉子ちゃんは、困った人の天使なんやわ」


とことは。可愛い分析です。


 そして、


「勘違いしかけた流ノ介の思いは風に吹き飛び」


というナレーションが(笑)。


 流ノ介が多分に世間知らず的キャラクターであるからして、茉子の態度に免疫がなくても納得できますが、まぁ、大体は勘違いしますわな。

茉子

 この笑顔に次に騙される(?)のは、果たして誰か(笑)。