第二十三幕「暴走外道衆」

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 「シンケンジャー」はもとより、戦隊シリーズの基本フォーマットを崩して注意深く表現された、転機となるエピソード。基本フォーマット崩しは、いきなりの巨大戦や、次々と倒れるシンケンジャー達、そして今回のアヤカシであるゴズナグモが、シンケンジャーではなく血祭ドウコクに倒される(?)といった辺りに見る事が出来ます。


 今回最大のトピックとしては、浄寛役に高橋元太郎さん(言わずと知れた「うっかり八兵衛」)がキャスティングされたことにありますが、高橋さんの基本的なイメージである、明るくユーモラスなキャラクターは鳴りを潜めており、却ってシリアスな雰囲気を醸し出すキャラクターとして演じられ、その存在感を見せつけています。しかも、ユーモラスな面を抑制することは、全編に緊張感が漲りという効果をもたらし、転機となるに相応しい完成度となっています。

 志葉家の菩提寺を舞台とすることで、清涼な雰囲気と悲壮な雰囲気とが同居し、丈瑠の表情にも爽やかさと翳りの両面が発露。このことで、丈瑠のキャラクターに深みが生まれており、また寺院という、外道衆が嫌いそうな場所であるということで、わずかな油断も見せています。あらゆる要素が物語にドライヴをかけていくテンポは、正に圧巻です。


 最近、血祭ドウコクが一切登場しなかったのは、夏になって力が増大するのを懸命に抑え込んでいたからだということも判明。血祭ドウコクがこのような状態に置かれる事で、アヤカシ達が好き勝手に行動し始めていたという流れも見事です。骨のシタリの幹部らしい強力な様子も描写され、敵側の描写も非常に満足度が高くなっています。十臓の動きも気になるところ。


 では、「印籠」なんていう素晴らしいアイテムも登場した今回の見所を、ご覧下さい。

 なお、志葉家の菩提寺の名称は、今回時間がなくて字幕を確認できませんでしたので、「テンゲン寺」と表記します。

 いきなり三途の川から物語は始まります。最近、血祭ドウコクの力は増大の一途をたどっているようです。

血祭ドウコク

 ただ、薄皮太夫は、


「これ以上にはなるまい。ドウコクも何とか力を抑えている」


と、血祭ドウコクの様子を説明してくれます。血祭ドウコクが封印される前は、普通に毎年夏が来ていた筈ですから、恐らく毎年こんな調子になり、薄皮太夫達も慣れているのかも知れません。しかし、骨のシタリは、


「ただね、ドウコクの気が逸れてる今、隙を狙って妙な気を起こすヤツが出るかもしれない。あたしゃそれが心配さ」


と、別の心配をしていました。これもかつては毎年のことだったかも知れませんが、現在はシンケンジャーとの激戦真っ只中であり、今年は特に心配しているのかも知れません。


 血祭ドウコクが力の抑制に気を取られている間、十臓はしばらく、血祭ドウコクの縛りを気にせず動けます。十臓、本格的始動です。

十臓

 一方で、三途の川が荒れることで大量発生した大ナナシ連中が、街に溢れかえります。

大ナナシ連中

 実景との合成が圧巻。いきなりの巨大戦突入を盛り上げています。

 ただちに出陣したシンケンジャーは、テンクウシンケンオーとイカダイカイオーで迎撃を開始します。その足元で、アスファルトのひび割れから三途の川の水が溢れ始めるという事態が。その現象を黒子からの報告で知った彦馬は、


「そろそろ外道週の力が増す時期と思っていたが...やはり...例の物、本格的に考えてみるべきか」


と古い書物を取り出して眺め始めました。そこには、多数の折神の真ん中に印籠が置かれるという絵図が。


 さて、シンケンジャーが、イカダイカイオーの「槍烏賊突貫」と、テンクウシンケンオーの「天空唐竹割り」で巨大戦を制し、源太が一本締めもそこそこに仕入れに出掛けていた頃、薄皮太夫の三味線で、血祭ドウコクも落ち着いて来ました。

 ところが、骨のシタリの安堵も束の間、昔、血祭ドウコクに逆らって六門船への出入りを禁じられていた、ゴズナグモが出現します。


「我らアヤカシの動きを縛るうるさい存在、御大将・血祭ドウコクの抹殺。それに力をお貸し頂けるか否か...」


と骨のシタリに鋭い爪を突きつけて脅すゴズナグモ。

骨のシタリとゴズナグモ

 しかし、骨のシタリは鼻で笑い、力で血祭ドウコクに勝てるはずもないと答えます。ゴズナグモは、この隙に封印の文字を知ることは可能だと言い、骨のシタリを巻き込もうとするのですが...。


 その頃、彦馬は古い記録を元に、全ての折神の力を一つに集め、さらなる力を産みだす印籠の存在を示唆していました。かつて、その印籠の完成が試みられたのですが、当時はモヂカラが足りず、完成には至らなかったのです。

 しかし、源太が居る今ならばと、彦馬は完成への期待を口にします。源太の類稀なるモヂカラの才能を認める千明とことはは、その意見に深く同意します。

彦馬、ことは、千明

 話題は、三途の川の活発化に関するものへ。茉子は、お盆にご先祖様が帰って来るという慣習は、この時期三途の川が活発になることからきていると説明します。恐らく後付け設定かと思われますが、実に見事な結び付けで、思わず納得してしまいます。

 完成途中の印籠は、志葉家の菩提寺であるテンゲン寺に保管されているといい、丈瑠は先祖の墓参りを兼ねて、久々に自ら訪れることにしました。流ノ介達も同行します。


 丈瑠達がテンゲン寺に到着すると、出迎えたのは住職の浄寛。高橋元太郎さんの登場です。

浄寛

 齢相当の貫禄はありますが、相変わらず若々しい笑顔ですね。残念ながら「うっかりだ」等といった台詞はありません(笑)。


 丈瑠は久々に訪れたテンゲン寺の境内を浄寛と共に歩き、まず歴代シンケンレッドの墓を訪れます。勿論、丈瑠の父もここに眠っているはずです。神妙な面持ちで手を合わせる丈瑠。このようなシーンは最近のヒーロー物では見かけなくなりましたが、典型的な(トータルイメージ的な)「日本の心」を表現したシーンとして印象に残ります。そこに突如、初代シンケンレッド・志葉烈堂のイメージが挿入されます。

志葉烈堂

 これは勿論、近日公開の劇場版に合わせた仕掛。合田雅吏さんのキャスティングが鮮烈です。合田さんは、「オーレンジャー」のオーブルーとして戦隊の大先輩格にあたり、そして現在、「水戸黄門」では格さんを演じています。格さんと言えば、彦馬役の伊吹さんも格さん役がつとに有名ですね。印籠といい高橋元太郎さんといい、「水戸黄門」がかなり意識されているのは間違いありません。


 寺の本堂に入ると、その空気の清涼感に、千明はややはしゃぎ気味。流ノ介がそれを制止する様が笑いを誘います。

 4人が本堂に入っていた頃、丈瑠はまだ浄寛和尚と境内を回っており、ふと、小さい墓石を見て何か思いつめたような表情を浮かべていました。

丈瑠

 この小さい墓に関しては、今回は一切明かされませんが、丈瑠の過去に深く関わる何かがあると思わせます。

 そして、本堂へと向かう際、丈瑠は別の墓石を見つけます。この墓は、元々は人目に付かないように建てられていましたが、境内の整理をした為に目立つようになったというものらしく、その墓に眠っているのは、200年の昔に亡くなった武士の一族だといいます。浄寛和尚によると、どこの寺も埋葬を嫌がった為、テンゲン寺の住職が憐れんで引き受けたのだとされています。埋葬を避けられた理由は、一族の中に外道に落ちた者が居たからで、その一家は悲惨な最期を遂げたと言い伝えられています。


「外道に落ちた...」


 丈瑠の脳裏に十臓の姿が浮かびます。十臓は現代の人間ではないようです。はぐれ外道として、数百年の時を生き永らえてきた、文字通り人にあらざる者なのです。

 それがそのまま現在の十臓の行動へとオーバーラップしていき、やがて十臓は屋台を引く源太に出会います。十臓のインパクトを忘れていなかった源太は、一目十臓を見るや、「ミシュラン!」と叫び、是非寿司の評価を聞かせて欲しいと頼み込みます。


「本気で面白い男だな」


と十臓。源太は早速握り始めます。


 丈瑠が本堂へと入ると、浄寛和尚は早速「完成途中」とされている印籠を見せます。

印籠

「完成すれば、ご先祖への何よりのご供養です」


と浄寛和尚。しばしの団欒へと推移していきます。

 浄寛和尚はもてなしのお茶を僧の一人に用意させていましたが、骨のシタリによって丈瑠の分に毒を仕込まれてしまいます。

お茶に骨のシタリが

 そうとは知らぬ丈瑠達の団欒は続いており、話題は彦馬の事へ。志葉家の菩提寺だけあって浄寛和尚と彦馬は親しい仲ですが、しばらく会ってはいない様子。ここは勿論「水戸黄門」のパロディとしての効果を狙っているわけですね。流ノ介達が、彦馬が腰の調子が悪いにも関わらず、養生を疎かにしていると伝えると、


「では一度、お説教に参りますか」


と浄寛和尚。和やかな談笑が続きます。

 ところが、お茶に仕込まれた毒を口にした丈瑠は、突如倒れ苦悶の表情を浮かべます。

倒れる丈瑠

 この一連のシーンの凄さは、実は骨のシタリの仕掛にあります。よく見ると、お茶が注がれ並べられたお盆の、真ん中に手をかざしています。つまり、丈瑠に真ん中のお茶が渡されると読んでいるわけです。「しきたり」や「作法」といった要素が、さり気なく散りばめられていて、悪辣な仕掛シーンながら清涼感たっぷりなのです。


 丈瑠が毒に苦しんでいる隙に、寺に外道衆の大群が襲来します。志葉家の菩提寺であっても、外道衆達が簡単に踏み入って来て、僧たちが次々と襲われる様子はかなり戦慄的です。志葉家の菩提寺にも関わらず、結界等の対策が一切講じられていないのでしょうか、それとも、寺といえど踏み込めるだけの力が、夏の外道衆にはあるということでしょうか。

 丈瑠はこの危機に、自分を置いて行けと命じます。後ろ髪をひかれつつも、流ノ介達は、4人で外道衆を迎撃!

一筆奏上!

 源太も連絡を受け、十臓を屋台に残したまま現場に向かいます。「テンゲン寺」というワードを耳にした十臓は何かを想起し、寿司を一口頬張ると、すぐに屋台を後にします。が、ハッとした表情になり、寿司をもう一つ持ち去るでした。

十臓

 十臓のこの行動が妙に可愛らしく、ギャグとしても効いていますが、源太の寿司が十臓の口に合うという事実こそが、後でシンケンゴールドとしての正体が露わになるシーンにおける「引っ掛かり」として効いていくわけです。


 ナナシ連中と大立ち回りを繰り広げるシンケンジャー。冒頭の巨大戦に続き、等身大戦ならではのスピード感溢れるアクションが見物です。

 ナナシ連中は順調に掃討していったシンケンジャーの4人でしたが、強力な力を発揮するゴズナグモには、大苦戦を強いられます。

シンケンピンク、シンケンイエロー VS ゴズナグモ


 一方、浄寛和尚による丈瑠の看病が続いていました。薬草を取り寄せ、いざ調合しようとしたその時、骨のシタリが出現。骨のシタリは、自身の特製痺れ薬に対して、いかなる手段も効果はないと自信を覗かせます。さらに、丈瑠を奪取すべく、浄寛和尚を初めとする僧達に襲いかかるのでした。

骨のシタリ

 丈瑠の元にも外道衆が現れたという僧の報告を聞き、焦る流ノ介達。その機に乗じ、ゴズナグモの猛攻が開始されます。

 その結果、茉子と千明の変身解除という事態に!

千明、茉子

 そこにやっと源太が到着。流ノ介とことはがゴズナグモを抑えている間に、源太は丈瑠の救助に向かいます。ところが、流ノ介とことはもゴズナグモの猛攻により、変身解除に陥ってしまいます。

ことは、流ノ介

 丈瑠の傍では、浄寛和尚も昏倒していました。次々とキャラクター達が倒れていく様子は、非常にテンションが高く、思わずドラマに引き込まれていきます。

浄寛

 骨のシタリは意気揚々と、


「さあ、さっさと教えてもらおうじゃないか、封印の文字を。のんびりしてると、心臓まで痺れて止まってしまうよ。封印の文字を教えたら、解毒薬をあげよう。さあ!」


と丈瑠を責め立てます。

丈瑠

 これまで、丈瑠の危機らしい危機ははっきりと描かれませんでしたから、この苦悶の表情は絶大なインパクト充分です。

 その様子を物陰からみていた十臓は、たまらず飛び出していこうとするのですが、そこに現れたのは源太。すぐさまシンケンゴールドに変身して骨のシタリに立ち向かいます。

源太

 十臓は全てを悟り、


「寿司屋?そういうことだったか」


と呟きます。「面白い男」と評しつつも、只者ではない何かを感じていたようです。


 その頃、薄皮太夫は骨のシタリを探していました。しばらくすると、血祭ドウコクの声も静まりました。このちょっとしたシーンが、直後の血祭ドウコクの激怒シーンに繋がります。

 身動き出来ない程のダメージを負った流ノ介達に、引導を渡そうとするゴズナグモでしたが、


「ゴズナグモぉ!」


と響き渡る血祭ドウコクの声!


「ドウコク!?まさか!」


 戦慄するゴズナグモ。


「勝手するのもそこまでだ!」


と血祭ドウコクはスキマから鎖状の触手を伸ばし、ゴズナグモを引き摺り込みます。間一髪、流ノ介達は助かったのですが、そのまま昏倒してしまいます。

 絶体絶命の危機を、敵の事情で回避するというパターンは、結構過去のシリーズでも散見され、それは一流の予定調和だったりするのですが、ここまで危機感が最高潮に達しての展開はなかなかありません。


 一方で、源太と骨のシタリの壮絶な斬り合いが展開されていました。骨のシタリのアクションというのはピンと来ませんでしたが、実際に見せられると感心しきり。あのスーツであの動き、感嘆です。スピード重視の源太との、合成を駆使した立体的なアクションも特筆モノ。これぞキャラクターの制限を逆手に取ったアクションと言えるでしょう。

 そして、そこに十臓が現れます。

シンケンゴールド VS 骨のシタリ 十臓

「十臓!」

「え?あんた!」


 骨のシタリも源太も驚きを隠せない中、十臓は丈瑠を抱えてどこかへ連れ去ってしまいました。慌てて追いかける源太でしたが、十臓の凄まじい跳躍に付いていくことが出来ず、苛立ちを覚えたまま流ノ介達のところへ。そこには昏倒した4人が...。ヒーローが昏倒しているシーンは、それこそ過去のシリーズでも頻繁に見られたわけですが、「シンケンジャー」では、基本的に直後に立ち直る展開を旨としている感があるので、より衝撃的に映ります。


 一方、


「ゴズナグモよ、残念だったな。もうちょっと早く動いてりゃ、俺の寝首かけたかも知れねぇが、この通りよ!」


と完全復活の血祭ドウコクに、薄皮太夫は、


「まさかこんなに早く力を抑え込めるとはな」


とやや驚いている様子。


「抑え込んだし蓄えもしたぜ。ゴズナグモ、お前ぇにもちっとばっかし分けてやろうじゃねぇか」


 ゴズナグモに力を注ぎこむ血祭ドウコク!

ゴズナグモ

 スーツに表情はない筈なのに、この血祭ドウコク、自信たっぷりにせせら笑っているように見えます。血祭ドウコクは、これまでボスキャラとしてはやや小物な感じに映っていましたが、こいつは只者ではありませんでした。

血祭ドウコク

 造形美と演出がなせる技ですね。


 そして、丈瑠を抱えた十臓はどこへ...。

十臓と丈瑠

 ここで大きな「引き」を残したまま次回へ続いていきます。十臓のシーンに、薄皮太夫のシーンが対比的に重ねられているのも、何かの仕掛けのようで気になりますね。


 ちなみに、エンディングは主役キャスト陣参加の2番が採用され、映像は劇場版のダイジェストになっています。