第二十七幕「入替人生」

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 予告編での滑稽な映像の連発から、息抜き的なバラエティ編かと思いきや、千明とことはのコンビに活躍させるというシチュエーションで展開し、二人の成長振りと名コンビ振りを活写するという、正に一筋縄ではいかない素晴らしさを見せてくれます。

 やっぱり「シンケンジャー」は油断出来ません。中身自体はバラエティ編として成立しており、実際コミカルな描写は満載なのですが、それでも異様な緊張感を漂わせたり、千明の知恵の深さを見せたりと、笑いだけでない要素を存分に提示。一歩間違えれば「おふざけ」になる「無機物と入れ替わる」というパターンを、しっかりとシリアスに振っていく手腕は見事です。


 見所は勿論、千明とことはの頑張りであり、殆ど全編にわたって二人の活躍がフィーチュアされているのですが、そこは本編の解説に譲るとして、ここで隠れた見所として触れておきたいのは、外道衆関連。意外に骨のシタリが穏健派であるということ、薄皮太夫がなおも人間界を彷徨っていること、血祭ドウコクの目の届かないアヤカシが存在すること、それに関連する新キャラのチラ見せ。シーン数は圧倒的に少ないですが、重要な要素が多数盛り込まれています。折り返し点を過ぎ、外道衆側の描写も強化していくことによって、物語のテンポアップが図られているようでもあります。


 それでは、「年下コンビ」の熱く爽やかな奮闘をまとめてみましたので、ご覧下さい。

 冒頭は外道衆のシーンから。血祭ドウコクは、早く三途の川を増水させろと、骨のシタリを焚きつけています。骨のシタリは、ここのところ続いた「血祭ドウコクの夏」や十臓、薄皮太夫といったはぐれ外道達の行動の収拾に追われ、やや疲れ気味。血祭ドウコクが煽っても、愚痴をこぼすばかりです。

 そこに、今回のアヤカシであるアベコンベが登場。アベコンベは自分が三途の川増水の役割を担おうと進言しますが、このアベコンベ、血祭ドウコクの預かり知らないアヤカシでした。


「さるお方の元に長くお仕えしておりやしたから、お目にかかるのはこれが初めて」


 アベコンベはその「さるお方」登場の前の露払いとして、ひと働きすると言います。

 アベコンベ役は檜山修之さん。テンションが高くも何か企んでいそうな独特の雰囲気はさすがです。ヒロイックな声なのですが、こういった悪役も爽やかに光らせることが出来る稀有な声優さんですね。ところで、「アベコンベ」という名前を聞いて「ドラえもん」を連想してしまう方は、私とかなり近い世界に住んでいらっしゃるものと想像します(笑)。ちなみに、今回登場したアベコンベの技と、「ドラえもん」に登場した「アベコンベ」はよく似ています。


 ゴールド寿司に、千明とことはが訪れます。志葉家での食事として源太の寿司を注文したらしく、特盛の寿司を嬉しそうに受け取っています。

ことは、千明、源太

 源太は丈瑠の具合を心配していましたが、本調子ではないものの回復しつつあるという報告を聞いてひと安心の様子。こういったさり気ない心遣いの描写が、キャラクターに深みを与えますね。


 千明とことはが帰ろうとすると、源太は突如コンパクトに固まってしまいます。

源太

 アベコンベの暗躍が始まり、街に悲鳴が溢れ、街の人々はことごとく固まってしまいます。アヤカシの存在に気付いた千明とことはは、迎撃開始。

シンケングリーン、シンケンイエロー VS アベコンベ

 しかし、ここでは千明とことはも精彩を欠き、かなり苦戦を強いられます。ここでの苦戦の様子や連係の悪さ(といってもそれほど悪いわけではないのですが)は、後半の戦いとの良い対比になっていますから、重要です。

 そんな中、丈瑠達も合流。丈瑠は傷が癒えておらず、隙を突かれて術をかけられてしまいます。

シンケンレッド VS アベコンベ

 丈瑠と招き猫に槍状の触手を触れるアベコンベ。すると、丈瑠の変身が解けて固まってしまいました。


「こうなれば、シンケンレッドを倒すのは簡単だ!」


と、招き猫を破壊しようとするアベコンベ。その前に千明が立ちはだかります。


「お前、何で!?」


と問う千明に、


「勘のいい奴!」


とアベコンベ。実はこの時、千明は事の真相に気付いていません。が、千明の鋭い勘が、招き猫を守るという行動に移らせたのでした。千明を払い退け、アベコンベは茉子、流ノ介を手にかけます。なおも勢いづくアベコンベでしたが、結局水切れで退散を余儀なくされます。何度も言及していますが、この水切れの設定は、物語の段落を無理なくはっきりさせていて非常に効果的です。

 アベコンベが去った後、街には不思議な光景が広がります。茉子は魂が抜けたようになり、ゆっくりと首を左右に振っています。丈瑠は招き猫のポーズで固まり、街の人々も各々ポーズをとって固まっています。

 ここでようやく千明は丈瑠と招き猫が入れ替わってしまったことに気付きます。流ノ介は...ご開陳?


 さて、一同は志葉家の屋敷に入れ替えられた物体と一緒に戻って来ました。黒子が戸惑いつつ運んで来た様子を想像出来て、思わず笑ってしまいます。が、これはこれで結構な危機感が漂っています。

 この招き猫化した丈瑠の表情が、普段と違って実に可愛らしいのが印象的。

丈瑠

 彦馬は招き猫を抱き締めて心配していますが、招き猫の中の丈瑠は、


「おい!こらジイ!やめろ!」


と嫌がっているのが可笑しい。一方、茉子は扇風機と入れ替えられています。

茉子、ことは

 源太は寿司に。

源太

 流ノ介は何と小便小僧に...。

流ノ介

「この私が、何という屈辱!」


と流ノ介。


「良かったぁ、扇風機で」


と流ノ介の様子を見て茉子は安堵しています。

 やり取りはコミカルですが、千明は重大なことに気付きます。それは、入れ替わった物が壊れると、その人が死んでしまうのではということ。その為に、アベコンベは招き猫を破壊しようとしたのです。ここで急激に「死」というキーワードがクローズアップされてきます。命に関する重さの描写は「シンケンジャー」の美点であり特徴でもあります。


 千明は、アベコンベから直接元に戻す方法を聞き出すしかないと結論付けます。ことはは納得しつつも、物凄い緊張感にとらわれてしまいました。

ことは、千明

 ここで、ことはの緊張に気付いたか、千明は丈瑠にいたずらをし始めます。この波のテンポが、今回の躍動感にも繋がっています。

丈瑠、千明

 それを見て思わず笑うことはが可愛らしい。

ことは

 そして、密かに激怒する丈瑠も可愛らしいです。

丈瑠


 さて、再び三途の川にシーンは戻ります。

 アベコンベの真の目的は、無機物となった者の嘆きによって三途の川を増水させるのではありませんでした。これまでのアヤカシならばここで満足、というより、このあたりまでしか目的意識を持っていないのですが、


「我が主、さるお方の狙いは、そんなちっぽけなもんじゃねぇ」


とアベコンベは語り始めます。物に入れ替えられた人間は、他人に物としてしか扱われなくなり、知らないうちに人の命を奪ってしまうことになるというのです。


「知ってても知らなくても、人殺しは人殺し。この世を、人が人の命を奪う地獄にしてみようってんで!」


と意気揚々のアベコンベ。骨のシタリは、


「そいつはまた...」


と半分戦慄、半分呆れにとらわれていましたが、血祭ドウコクは、


「気に入ったぜ!手前ぇの言う地獄、楽しみにしてるぜ」


と笑い飛ばすのでした。どことなく、その方針を心から気に入ったというよりは、笑って静観しようという感じを与えますが。


 一方、人間界を彷徨っている薄皮太夫の元に、血祭ドウコクに放り投げられたススコダマが流れ着きます。

薄皮太夫

 この場面の関連性が心地良いですね。なお、三味線からは未だ呻き声が漏れ聞こえてきており、薄皮太夫の底知れぬ空しさと嫉妬の情念が、短いシーンながらも印象的に描かれます。


 さて、ことはは、精神統一をするかのように竹刀を振っていました。千明はだらっとした感じで座り込み、捕まえるより倒す方が楽かもと言いつつも、色々と考えを巡らせていました。

千明、ことは


 ここで、源太寿司が傷みかけており、彦馬の指示で、冷蔵庫へ入れられることになったというくだりが挿入されます。「寒い~!」という源太の悲鳴が聞こえるというギャグかなと想像していましたが、実際はさらに衝撃的でした。


 再び千明とことはのシーンに。


「何か考えなあかんわ。今戦えるん、うちらだけやし」

「あくま力み過ぎんなよ。体、動かなくなるぞ」

「うん、大丈夫。千明のおかげ」

「え?」

「うち、責任重大やってめっちゃ緊張しててん。ほら、ほんまにうちらだけって初めてやん。年下組っていうか」

「実力もな」

「せやけど、さっき殿様いじって笑かしてくれたやろ?それで、力抜けた。ありがとう」

「別に」

「絶対皆助けよな」

「おう」

千明、ことは

 彦馬はそんな二人を静かに見守っています。


 千明とことはの会話、シンプルながら素晴らしいですね。互いに互いのことを思いやりつつ、互いを認めて励まし合っているのが良く分かります。「いい雰囲気」でもあるのですが、何となく部活の部員同士っぽい感じがして爽やかですね。志葉家の庭で繰り広げられる静かな会話のシーンには、秀逸なものが多く、色んな名場面を生んでいます。


 そこにスキマセンサーの反応が。そして、先程チラリと出てきた源太の状況は、ここで一転します。源太にラップをかけて冷蔵庫に入れようとしていた黒子は、慌てて手を置き、出陣に備えて立ち去ってしまうのです。哀れ、無造作に置き去りにされてしまった源太寿司。


「おい!このままかよ!おいっ!」


と力の限り叫ぶ源太ですが、発声器官のない寿司では、その叫びを届けることは出来ません。


 そんな源太の危機が知られることはないものの、彦馬は状況の切迫を感じ取っており、


「千明、ことは。お前達も戦いを積み重ねてきたのだ。お前達なりの戦いを、思いっきりとってくれ!...そこに、活路がある」


と千明にインロウマルを渡します。

彦馬

 この構え!水戸黄門の格さんが印籠を構えるポーズと一寸たりとも違いませんよ!ちょっと興奮してしまいました(笑)。


 彦馬からインロウマルを受け取った千明。それは即ち丈瑠の頼みを受け取ったことをも意味します。千明は既に、自分達なりの「ちょっと無茶な」戦いを思い付いていました。そんな「ちょっと無茶な」方法でも、ことははきっと成功すると確信していました。千明への信頼の深さを物語ります。こういう無条件の信頼は、妄信ではなく、戦いの中から生まれた信頼として、強く印象に残ります。しかも、千明とことはだから実に爽やかなのです。


 千明とことはの出陣。


「シンケンジャーの残り物か」


と侮蔑するアベコンベ。アベコンベの中では、人も物も等価だということが露呈します。

 そんな侮蔑を軽くあしらい、二人は変身!

一筆奏上!

 千明の軽妙な言い回しと、ことはのちょっと力の入った台詞が、両者のキャラクターの違いを感じさせると共に、勝利への確信を持った出陣であることを印象付けます。


 その間にも、無機物に変えられた人々に命の危機が迫ります。特に、空き缶と入れ替えられた女の子が、缶を潰されてしまうまで後わずか!というカットが壮絶です。そして、源太寿司も猫に狙われています。

迫る猫

 この猫、実に可愛いですけど、源太には巨大な怪物にも等しいでしょう。


 千明とことはの挑戦が開始されます。まずは普通にアベコンベを翻弄するかのようなコンビネーション攻撃を見せ、やがて、千明がわざとアベコンベの入れ替え攻撃を受け、ことはが一方の触手を捕まえてアベコンベ自身に刺すというトリッキーなプレイを見せます。これで、千明とアベコンベが入れ替わってしまいました。

シンケングリーン、シンケンイエロー VS アベコンベ

 怪人がヒーローと入れ替わる話はよくあるパターンですが、自発的に入れ替わって見せたのは非常に珍しく、しかも、その上でもうひとひねりの展開が待っているのは、凄いの一言に尽きます。


 アベコンベとなった千明は、全員をいっぺんに戻す方法を聞き出そうとします。この状態では、互いが互いの命を握っている状態なので、脅しとしてはあまり効果ないなあ、と私等は考えてしまったのですが、何と千明とことはは一歩先を行ってくれました。アベコンベの能力を使い、シンケングリーンとなったアベコンベとサッカーボールとを入れ替え、サッカーボールを痛めつけて脅すという行動に出たのです。ヒーローらしからぬ行動でもあるなあ、とまたもや危惧する私でしたが、さらにさらに上を行ってくれます。


「遊ぶんじゃねぇよ、坊主共!」


と凄むアベコンベに、ことはは、


「遊びなんかと違う!」


と真剣さを示し、千明も、


「皆の命賭けてんだ!自分がどうなろうと覚悟の上だよ!」


と侍としての志を示すのでした。脅しではなく、駆け引きを伴う説得へとシフトさせたのは巧いところです。

 シンケングリーン姿のアベコンベは、二人の気迫に負けて、遂に観念。シンケンマルでアベコンベ姿の千明の頭を斬り付けます。

シンケングリーン、シンケンイエロー VS アベコンベ

 シンケングリーンとして生きていくことを選び、自分の肉体を捨てて千明を亡きものとしたのか...という凄まじい緊張感が高じた時、一気に黄色い光が飛散し、人々は元に戻るのでした。今回はこういった緩急が実に巧く描写されています。

 源太も、猫に食べられる寸前に元に戻り、大絶叫の末、熱を出して卒倒してしまいます。

源太

 首に血管を浮かび上がらせながらの絶叫演技は素晴らしいものがあります。しかし、源太は最近ついてないようですね(笑)。


 ここで満を持してスーパーシンケングリーンとなる千明!

スーパーシンケングリーン

 緑の閃光を伴う太刀が華麗に決まっていきます。そして、「真・木枯らしの舞」でアベコンベを粉砕!

スーパーシンケングリーン VS アベコンベ

 とどめを刺した後、シンケンマルを一振りすると木の葉が散る描写がカッコいいです。


 一の目を撃破されたアベコンベは二の目で巨大化。千明とことははインロウマルの力でダイカイシンケンオーを出して迎撃します。戦いの途中、


「やっぱ二人だとキツいな」

「うん、さっさと決めな」


という会話が挿入され、ダイカイシンケンオーのパワー維持に相当なモヂカラが必要であることを、ちゃんと振り返っています。

 「二天一流乱れ斬り」でアベコンベを倒すと、一件落着でホッとして、座り込む二人。

スーパーシンケングリーン、シンケンイエロー

 こんなところに「らしさ」が現れていますね。巨大戦でも全く手抜かりはありません。


 いつの間にか一人前になった千明とことはに、満足げな彦馬と丈瑠。

 茉子は、


「手とか、ちゃんと洗った?」


と流ノ介を露骨に避けます。


「シャワーまで浴びたんだぞ!」


と不満を爆発させる流ノ介。千明とことはが仲良く談笑しているのに対し、こちらは妙に険悪ムードなのがとても笑えます。

 なお、千明は密かに招き猫の丈瑠をショドウフォンで撮影しており、ことははそれを見て笑っていたのでした。


「猫殿」


と称して画像を眺める千明。

猫殿

 ふと、丈瑠はそれに気付き、激怒して画像消去を訴えます。こうして志葉家の屋敷は大騒ぎとなり、大団円となります。が。


 アベコンベの言っていた「さるお方」が三途の川より登場し、次回への不安な引きを作ります。

さるお方


 次なる転換一歩手前のバラエティ編という視点で捉えるまでもなく、完成度の高いエピソードでした。大きな流れも見ごたえがありますが、こういった単発モノも非常に見ごたえがあるのも、「シンケンジャー」の魅力です。しかも、バラエティ編でしっかり各キャラクターの深化を促しているのはさすが。こうした積み重ねにより、次なる転換が更に重厚なものになることを期待させます。