第34駅「恋は大騒ぎ」

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 愛すべき不器用娘・ミオと超不器用男・明、そして面倒臭い不器用男・トカッチの模様を描く一大コメディ。

 とにかくミオの魅力にどっぷり浸れる名編だと(個人的に)断言出来ます。

 また、周辺の人物も活き活きと描かれているのが、コメディとして合格点以上ですね。「トッキュウジャー」のコメディ編は、空回りしていたり演者が無理をしているように見えたりと、なかなか乗り切れない感も否めなかった(中には傑作もあった)のですが、ようやく板に付いて来た感じがしますね~。

 実の処、今回は戦隊シリーズのフォーマットを借りつつも「不思議コメディシリーズ」そのものの構造になっていて、語法等を正しく(?)踏襲しています。

 まず、ミオに一目惚れする表参道義雄なる人物。この造形は「中華魔女」とか「ポワトリン」にそのまま出て来てもおかしくないものです。そもそも、そのネーミング自体がいかにもな感じで、ファーストネームなんかは不思議コメディのメインライターとして著名な浦沢義雄さんから採ったとしか思えないのです(ちなみに今回脚本担当の大和屋暁さんは浦沢さんの弟子)。

 この表参道、演ずる坂本真さんの怪演が光りまくっており、寄りアングル多用も相俟って、単純に視聴者へ嫌悪感をもたらす凄まじさ。ミオの恋愛沙汰としては、かつてゲキチョッパーこと聡太郎さんが出演した回もありましたが、そちらはミオの感情の機微にやきもきさせられる構成でした。なので、今回のようにミオと嫌悪感を共有してしまうという構成は新鮮に映ります。不思議コメディでは、このようなキャラクターの良い処を見つけて微妙な感情に陥ってしまうパターンも散見されましたが、今回は徹頭徹尾「キモキャラ」が貫かれていたように思います(笑)。

 そして今回は、トカッチがミオに対する恋愛感情を露呈した後の話ですから、当然トカッチ絡みが異様に活き活きしてくるわけでして、正直ミオを見ているよりトカッチを見ている方が面白さの点では上だという...。怒りに任せて巨大戦まで単独で突っ走ってしまう辺り、トカッチのキャラも行き着く処まで行き着いたのかも知れません。メインキャラの暴走も不思議コメディの常套句ですよね。

 巨大戦のこういったパターン破りは、年一回は挿入されているように思いますが、やはりコメディの上で繰り広げられた方が爽快感がありますよね。個人的に印象深いのは、「ジェットマン」での、怒りが頂点に達した小田切長官による単独巨大戦で、「恐ろしいキャリアウーマン」という、いかにもバブルな時代を反映させたものとして強いインパクトを放っていました。巨大戦ではありませんが、長官繋がりでは、「バトルフィーバー」の鉄山将軍が単独で怪人や幹部を斬り倒したり、「サンバルカン」でも黒幕をいきなり爆殺するのが嵐山長官だったり、「チェンジマン」では藤巻長官がとうとう変身してしまったりと、大物俳優が演じる長官キャラは、戦隊シリーズでそれぞれ絶大なインパクトを放っていた事が忘れられません。関根さんもモノマネ空手でクローズをバッタバッタと倒してくれないかなぁ...(笑)。

 続いては、表参道から逃れる為にミオが明との恋人関係を偽装するというくだり。

 よりにもよって明を選ぶ辺りが可笑しい。しかしながら、ライトだとヒカリが言う以上に面倒臭そうだし、ヒカリはトカッチの事を知っている唯一の人物だけに端から除外。トカッチは当然の如く有り得ない。ワゴンから聞いていた(のを大幅に端折った)「ガッチリした背中で語る」というイメージに最も合致するか否かを度外視しても、既に明しか適任がいないというのが本当に可笑しいのでした。

 このキャラクターの自然な転がり方が素晴らしく、今回のコメディの屋台骨をガッチリと形成しているように思います。コメディになればなるほど、リアリティも足下もしっかりしていないとダメで、今回はこの辺りが本当に素晴らしいと思いますね。

 そして、長い尺を割かれている偽装デートが、これまた手本のような見事さ。二人の不器用さが正反対に出ていて、これが巧い具合に笑いを生み続けるのです。

 ミオは、恥ずかしい気持ちが最優先されてしまい、器用に恋人を演じる事が出来ない一方、明は不器用すぎて愚直なまでに指示に従う以外、手が回らないという構造。ここでのミオの反応が、いちいち可愛いのは反則染みていて良いです(笑)。演技プランとしては、まだ子供であるという部分がかなり意識されているように思いますが、それを「可憐な大人」という雰囲気を持つビジュアルで見せてくるものですから、何だか異様なくすぐったさを醸し出しているんですよね。これは実にマズいです。良い意味で。

 恐らくですが、ミオ的には明のビジュアルが自分の好みから外れていないのだと思います。そう考えると、ジーッと接近してガッと反発するという反応が繰り返されても、全く違和感がありません。ある意味、明は、トカッチとは高身長以外共通点を見出せない真逆のワイルドキャラで売っているので、そういう点でもトカッチ暴走に至る流れを巧く作っているのではないでしょうか。

 明は、人間の男女関係に関する知識も、そもそもそういった本能すらも持ち合わせていない特殊なキャラクターである事が存分に活かされています。その代わり、妙に「お茶」に関する造詣が深かったりといった部分が、笑いを誘うわけで。

 ミオの手を全く躊躇なく取ったり、肩を抱いたり密着したり。終始険しい表情で行われる「指示通りの行動」の数々は、演技とはいえ普通はドキッとする何かがあるものですが、明の場合はそれを全く、本当に全く感じさせない。最高ですよね。

 そして、明にそういった感情がそもそもないという事がはっきり分かる、衝撃のクライマックス(笑)。結局、表参道は明に惚れてしまうという、コメディの常套句においても、何ら違和感がない辺り、抜群の構成力でした。いやぁ、凄い回でしたね...。

 なお、嫉妬に狂って失神までしてしまうトカッチのオーバーアクションっぷりは鉄板でしたが、一方で完全に興味本位なライトをそっと抑止するヒカリが素敵な存在感。ワゴンが車外に出て外ロケをやっているのも新鮮で、この「異質な存在が日常風景に溶け込んでいる」という感覚こそが、正に不思議コメディの雰囲気なんですよね。

 カグラは、さり気なく「なりきり」を披露していて楽しい。セクレタリー風の女スパイというか、設定は何だかよく分かりませんが、とにかく背伸びした感が可愛い。いちいち言動やポージングも決まっていて楽しい限りです。何気にカグラが活躍するカットは多めで、興味本位とミオへの気遣いの丁度中間に居る事を、存分に表現していたと思います。ニュートラルな分、状況説明を担当するシーンも多く、実は重要なキャラクターだったりするんですよね。本当、今回はキャラクターの配置が抜群だと思います。

 最後に、ビリヤードシャドーについて。「付き合う」を「突き合う」とシャレてしまう辺りは、正に浦沢脚本のセンス。デザインもかなりモチーフを強調していて、コメディ要員である事を伺わせます。闇を集める為にやっている事はかなり凄惨ですが、描写がそのまんまなので、これも不思議コメディのセンス(笑)。シュシュトリアンが出て来てもおかしくない雰囲気が横溢してました。

 次週は放送休止。次回はゼットに何らかの動きがありそうですね。一週程、ゼットに備えてゆっくりさせて頂く事に致します。